第三十ニ話 帰還の王宮、愛しい者たち
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第32話投稿しました。
騎士団の厳重な警護のもと、ベゼラたちを乗せた馬車が静かに王宮の門をくぐった。
大門が開くと、そこには今か今かと到着を待ちわびていた国王と正室のイウローネ、そして侍女たちが勢揃いしていた。無事な姿を認めると、張り詰めていた空気が一瞬で解け、歓声と安堵の息漏れが広がる。
「ベゼラ様、賢者様、爺や、おかえりなさい。皆様、無事で何よりです」
「よくぞ、無事で戻ってきてくれた。賢者、執事長、礼を言うぞ」
「王たるもの、このような場所で一介の執事に頭を下げてはなりません。私のいたしましたことは、すべてお嬢様のためでございます」
「聖女と姫のためだからね」
そんな大人たちのやり取りの最中、腕の中に包まれていた小さな赤ん坊が、もぞもぞと動き出した。
「おお! ヴィル〜!」
「ふぎゃ〜……ふぎゃ〜……」
「よしよし、今はいくら泣いても良いぞ! わしが抱っこしてやるからな」
「まあ、ヴィル様。ヴェル様は怖くないですからね……あなた、あんまり泣かせましたら、また魔力が暴走しますよ?」
「ははは! その時はイウローネ、そなたがおるではないか」
「まあ……仕方ありませんわね」
呆れつつも愛おしそうに微笑むイウローネ。
そこへ執事長が静かに一礼し、場の空気を促した。
「ここでは周りの皆様も落ち着きませんでしょうから、移動いたしましょう」
◇ ◇ ◇
場所を移動し、ベゼラとヴィルヘルムを別室で休ませた後、改めて重大な報告の場が設けられた。
「改めて、賢者様、爺や、ありがとうございます」
「問題ないよ。教え子と同胞のためだからね」
「もったいないお言葉です。して……陛下、こちら側には何か問題はございませんでしたか?」
「まあ、問題としては貴族からの突き上げだな。侯爵家、魔導筆頭家を中心としたグループだが」
「……なら、私は聞かない方が良いね。政争には関与しないのが教会の掟だからね。子供たちのところへ行ってくるとするよ」
賢者はひらひらと手を振ると、深追いすることなくあっさりと部屋を後にした。その背中を見送りながら、執事長がフッと口元を緩める。
「流石は賢者様、知らぬ存ぜぬを通すおつもりでございます。……実はあちらで、ノックス家当主の分身体と戦闘になりましたが、向こうも公には言えるはずがございません」
「なに……!? 向こうで戦闘だと!?」
思いもよらぬ言葉に、国王が目を見開く。
「はい。私たちが辿り着いた時には、姫様は傭兵どもに襲われておりまして……その時にヴィル様の魔力が暴走し、傭兵を吹き飛ばし、結界すら破壊いたしました。結界を破壊されてノックス家当主の分身体がやってきて、賢者様との戦闘となりました。それが我々の見た事態の顛末でございます」
「……なるほど。それが本当なら、確かにノックス家は言えるはずがないな」
「ベゼラ様は大丈夫だったのですか?」
心配そうに尋ねるイウローネに、執事長は静かに首を振った。
「姫様は大丈夫でございます。ただ、三日間食べられずにヴィル様のお世話をしつつ、ノックスの分身体に絶えず監視されていた疲労が激しいようです」
「わかった。もう良い」
国王は大きく息を吐き出すと、静かに目を閉じた。
無事に戻った我が子の安らぐ部屋の方角を見つめながら、イウローネが優しく微笑む。
「無事戻ってきてくれて良かったですわね」
「ああ、本当に……」
しばらくの静寂の後、国王は思案するようにポツリと漏らした。
「しかし……ノックス魔導家は、何を考えておるんだろうか」
「あの家は基本的には魔術の研究に没頭しております。ただし彼らには『禁忌』という概念が存在いたしません」
「……ちょっと待て。禁忌がないとは、どういう意味だ?」
国王の眉間に深い皺が寄る。イウローネも口を挟まず、じっと執事長の言葉を待っていた。
「言葉通りでございます。本来、魔術を学ぶ者は禁忌というものも同時に学びます。それゆえ、普通はその領域へは踏み込みません。ですが彼らは……禁忌という概念がないというよりは、そこにこそ魔術の深淵があると考えている節がございます。ですので、自ら進んで禁忌の魔術を学び、使おうとするのです」
「……そういうことなら、何となくは理解できる。で、エルフに執着とは?」
「執着というよりは、執念と表現するほうが正しいかもしれません。私も詳しく存じておりませんが、ここ何代かのノックス家当主を見る限り、皆が同じようなものでございます」
「エルフとノックス家の間に、確執があるということか。……なら、ベゼラとソフィー、賢者様や爺やたちも気をつけてくれ」
「無理無茶を言っているのは分かっているわ。でも……どうか気をつけてくださいね」
「もったいなきお言葉」
「ソフィーも、半分はエルフだからな……」
「そうでございます。ソフィー様は数百年ぶりのハーフエルフ……狙われる可能性は、十分にございます」
「数百年ぶりとはな……そんなに長い間、交流が無かったのか」
「はい。それは歴史が証明しております」
「そうか……」
深く息を吐いた国王の隣で、イウローネがそっと手を取り、優しく力強い眼差しを向けた。
「では、なおさら同じように愛情を持って育まなくてはいけませんわね、ヴェル様」
「そうなるな。イウローネ、忙しいとは思うが頼んだぞ」
「喜んで承ります。ふふ、それでは、その愛しい子供たちのところへ行きましょうか」
やっと活躍できました!主人公のヴィルヘルム君!




