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『聖母の意志を紡ぐ王太子 〜裏切りと呪いの王宮で、僕は真っ直ぐ生きると誓う〜』  作者:


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第三十一話 交わる刃、安堵の夜空

いつもお読みいただきありがとうございます。

第31話投稿しました。

「そう……いくよ」


 賢者が短く呟くと同時に、処刑場跡の静寂が弾けた。


 黒い霧の刃と光の弾丸が互いに降り注ぐ。二人とも降り注ぐ魔法の隙間が見えているかのように回避しながら間合いを詰め、まるで示し合わせたかのように拳と蹴りが交差した。


 遠距離と近距離の攻防は、激しさを増しながら続いていく。やがて賢者の袖口がわずかに切り裂かれ、ノックスの肩口に刻まれたかすり傷からも、黒い魔力が煙のように立ち上った。


「フッ……」


「くっ……!」


(これが、賢者様の戦いなんですね……ノックスもかなり強い……!)


(まだまだございますよ、姫様。お二人とも小手調べに過ぎません。全く息が上がった様子もございませんから)


 ベゼラと執事長が息を呑んで見守る中、攻防がさらに熱を帯びようとしたその時――ノックスはふっと攻撃の手を止め、自らの傷口を見下ろして不敵に微笑んだ。


「……分身体では、この辺が限界のようですね。賢者の力も知ることができたので、今回は良しとしましょう。次に会う時があなたの最後になるでしょう」


 言い終わるやいなや、ノックスの姿が黒い煙となって霧散し、そのまま夜の闇へと溶けて消えていく。


「……逃げたね」


 賢者は深追いすることなく溜め息をひとつ吐くと、懐かしい気配の残る牢屋の跡地へと足を進めた。そこには、すやすやと眠る赤ん坊を抱きしめたまま、力尽きるように座り込むベゼラの姿があった。


「大丈夫かい? 姫。……ご苦労様」


「ありがとう……ございます……賢者様……」


 安堵の笑みを浮かべたベゼラは、そのままゆっくりと瞳を閉じ、緊張の糸が切れたように倒れ込む。そこへ、手筈通り周りの片付けを終えた執事長が素早く駆け寄ってきた。


「姫様……!」


「大丈夫。魔力の使い過ぎと、疲労だよ」


「かしこまりました。このままお運びいたします」


 執事長がベゼラとヴィルヘルムを優しく抱きかかえ上げようとしたその時、重い足音が近づいてきた。


「凄い物音がしている、こっちだ!」


「大丈夫ですか!?」


 必死の様相で駆け込んでくる騎士たちの声が響く。


「だ、誰かいますか!? あ! 賢者様! ベゼラ様とヴィルヘルム様のお二人はご無事でしょうか!?」


「問題ないよ。二人とも疲れて寝てるだけだよ」


「……っ! わかりました! 直ちに本隊へ、発見と救出の連絡をいたします!」


 報告のため走り去っていく騎士の背中を見送りつつ、賢者は静まり返った夜空を静かに見上げた。


「さあ、私たちも帰ろうか。ここは、あまり人が来ていい場所じゃないからね」


「そうでございますね。お嬢様もお待ちでしょうから、早く帰るといたしましょう」


「ここはまたしばらく封印させてもらうよ。私たちには、いい思い出がないからね」


「騎士団の方々が、あちらにおられますね。ご同行いたしましょう」


 夜風が吹き抜ける中、賢者たちはゆっくりと歩みを進める。


◇ ◇ ◇


 ――ほんの少しだけ、時間を遡る。


 事態が収束する直前、禁足地の境目で捜索を続けていた騎士団の一隊の姿があった。


「さっきのはいったいなんだったんだ……!?」


「隊長、こっちに足跡が!!」


「まだ新しいな。……向こうに進んでる」


「処刑場のほう、ですよね」


「そうだな。ここ二日、周辺を探してもまったく手がかりもなかった。そこへ来てこの足跡だ……行ってみるか」


 隊長は覚悟を決めたように剣の柄に手をかけ、隊員たちを振り返る。


「これから我らの隊は、禁足地に向かう。ついて来れる者だけついて来い! 強制はしない」


「隊長、あなた一人で行かせるわけがないでしょう!」


「お前たち、ついて来てどうなるか判らんぞ。それでもいいんだな?」


「その時は、よろしくお願いします!」


「お前らは……まったく。……よし、急ぐぞ!」


 死地を覚悟し、禁足地へと足を踏み入れた隊長を含めた5人の騎士たち。彼らが命がけで辿り着いた先で目にしたのは――崩壊した処刑場と、無事に保護されたベゼラたちの姿だったのだ。

賢者と、ノックス家当主、、かなりの強者です。

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