第三十話 完璧な誤算、ヴィルヘルムの咆哮
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第30話投稿しました
「おうおう! お頭〜! ホントにいやがりましたよ!」
「ホントか〜。おお! いたな〜、たいそうなべっぴんさんじゃねえか。失礼のないように、しっかりと相手をしねえとなあ」
「お頭、壊しちゃダメですぜ。お頭はすぐ加減忘れるんだから。俺らにも楽しませてくださいよ」
「わかってるよ。まあ、その後は奴隷商か、どこぞの貴族に売り飛ばすかだな〜。まあ、まずは味見だな〜」
古びた牢屋の前にぞろぞろと現れたのは、下品な笑みを浮かべる男たちだった。ベゼラは牢の奥で、抱きかかえるヴィルヘルムを庇うように小さくなる。
「何なんですか、あなたたちは! どこから入ってきたんです!?」
「俺らは雇われの傭兵だよ。あんたとその赤ん坊を好きにしていいって言われてなぁ。しかも報酬ももらえる、美味しい仕事をしに来た傭兵団だよ」
「そういうことだ。あんたには直接恨みはないけど、俺らのおもちゃになってもらおうか」
「……近付かないでください! 赤ちゃんもいるんです!」
「心配すんな。こいつは後でちゃんと殺してやるから、今は自分の心配をしてな! ここじゃ魔法も使えないんだろう? あんたはただの女なんだよ!」
下劣な男が牢の扉に手をかけた瞬間、ベゼラは残された魔力を振り絞った。
ピキピキと音を立てて頑丈な木々が生い茂り、牢屋の柵の隙間を内側から完全に覆い尽くしていく。
「チッ! 魔法使えないんじゃねえのかよ……! おいお前ら、この木を斬るの手伝いな!」
(魔力はあっても、こうして足止めするのが精一杯……攻撃も十分な防御も出来ない。これじゃあ、ヴィル様を守れない!)
ベゼラの瞳に絶望がよぎり、抱きかかえた腕に力がこもる。
「ヴィル様……!!」
「アンギャァーッ! アンギャァーッ!」
その瞬間、牢内に響き渡ったのは、赤ん坊の張り裂けるような大号泣だった。
「何だこの泣き声! やかましい、おい、早く泣き止ませろ!」
「お、お頭……身体が……動かねぇ……!?」
「何を言って……やが……っ!?」
号泣とともに、空間そのものが軋むような恐ろしい圧力が処刑場全体を叩きつけた。大人の男たちが身動き一つ取れず、その場に縫い付けられる。
「アンギャァーッ!!」
号泣が頂点に達した瞬間、ヴィルヘルムの小さな体から溢れ出た規格外の魔力が、凄まじい衝撃波となって炸裂した。
ズドォンッ!!
爆風のごとき魔力の波動が、ベゼラの生やした木もろとも、頑丈な牢屋そのものを内側から爆破するように粉砕する。
柵の破片や木屑が飛び散る中、金縛りにあっていた傭兵たちは抗う術もなく、まとめて吹き飛ばされて壁や地面へ激しく打ちつけられた。
「痛ぇぇッ! な、なんだこの力は……っ!?」
「お頭!……大丈夫……ですか? 牢屋は壊れましたぜ!」
「だったら、てめぇら、さっさといけ!!」
「へいっ!」
壊れた柵の隙間から一斉に躍り出ようとした手下たち。だがその瞬間、赤ん坊を中心に膨れ上がる魔力が、圧倒的な圧力となって空間を重く歪めた。
「ちょ、ちょっと待て! お前ら――」
「何なんだ、このガキは!! うわぁ!」
荒れ狂う魔力の波動が再び炸裂し、立ち上がろうとした傭兵たちもまとめて悲鳴を上げて派手に吹き飛ばされていく。
「ヴィル様……! ヴィル様……!」
「!?……結界が割れた!? もう大丈夫ですよ……よし……ようし……ヴィル様、いい子ですよ……」
「ふぎゃ……ふぎゃ……すぅ……」
ベゼラが必死に抱きしめて背中を撫でると、先ほどまでの激しい泣き声が嘘のように、ヴィルヘルムは落ち着いて小さな息を立て始めた。
「……落ち着いてくれました。良かったです。人避けの結界は、戻しておきましょう」
ベゼラは安堵の息を漏らすと、壊れた結界の残骸へ向けて残された魔力を編み直し、速やかに人避けの結界を再展開してみせる。
「……何ということでしょうか。こんな赤子に、私の結界が破られるとは……」
闇の奥から現れたノックスは、己の完璧な結界をあまりにあっさりと粉砕され、滅多に見せない歪んだ焦燥と驚愕を隠せずに呟いていた。
「……しかし、なぜこれほどの力が……!? あの時に、封印したはず……まさか……」
ノックスはふと瞳を細めると、気配すらない暗がり――梢の上の影へすばやく視線の焦点を合わせ、吐き捨てるように言い放った。
「貴様か……賢者」
「そうだよ。こんな魔力溜めたら身体に悪いからね。取っておいたよ」
闇の中からひょっこりと姿を現した賢者は、不敵な笑みを浮かべながら隣の執事長へと短く指示を出す。
「さあ、少しお話を聞かせてもらうよ。周りはお願いね」
「かしこまりました」
影のように一瞬で動いた執事長が周囲の傭兵たちを押さえにかかる中、ノックスは冷ややかな嘲笑を深めた。
「粋がるのはやめたほうがいいですよ。今代の賢者よ、あなたたちでは私には勝てませんよ」
「よく回る口だ。口は呪文を唱えるものだよ。おしゃべりのためじゃないね」
「貴様は、どこまで私を不機嫌にする気ですか。まあ、いいでしょう。少しお相手してあげますよ」
「そう……いくよ」
やっと主人公初仕事です!
初大泣きとなりました。




