第三話 シャルロッテ宣託の儀①
お読みいただきありがとうございます。
第二話前編です。
話数の変更しました。
「身体の調子はどうだ、イウローネ?」
「ああ、ヴェル様、ありがとうございます。大分身体の調子は良くなってきています。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「何を言うか、そなたは偉業をなしたのだ。その分、しっかり休まねばならん。イウローネよ、そなたの今の仕事は身体の回復に努めることだ」
「ヴェル様、ありがとうございます」
産後の肥立ちが悪く、出産から3カ月経った今でも、床に伏せ、身体を起こすこともままならない状態であった。
「いくら本人が歴代最高の治癒師とは言っても、精神疲労や体力まではなかなか回復せんな」
「そのようです。怪我の治療や魔力の回復とは根本的に全く違いますから」
「医師と侍女の言うとおり、今は食べて寝て回復に努めますわ」
「そうだな。なら、愛しい妻の寝顔が見られないのは寂しいが、戻るとするよ。また来る」
ヴェル国王が心配そうに尋ねるのに対し、イウローネは微笑みを絶やさずに軽くこたえる。
執務室に戻ると、ヴェルナードは宰相と執事に低い声で命じた。
「イウローネの身辺警護を、これまで以上に厳重にしろ。ただし、周囲に悟られてはならん」
「かしこまりました、王よ」
「イウローネの力は、儂が一番よく知っておる。その彼女をもってしてなお、あの状態なのだ。……必ず、裏で何かがあるはずだ」
「ご懸念の通りかと。何か不可解な力が働いていると見るべきでしょう」
「うむ、執事、宮殿全体の警戒をより一層強めてくれ」
「御意に」
二人の重い声が、静かな執務室に響く。
――それから時は流れ、半年後。
「おはようございます、お母様。今日はお加減は大丈夫ですか? あまり無理はなさらないでほしいのですが……」
第一王女のシャルロッテは、部屋に入るなり、いつもと同じ気遣わしげな言葉をかける。
「もう、シャルは本当に毎日同じこと言うんだから。大丈夫よ。少しずつ動けるようにはなっているし、もう少ししたらちゃんと歩けるようになるわ」
ヴィルヘルムを生んでから半年もの間、原因不明の体力低下と体調不良に悩まされ床に伏せていたが、最近になってようやく自力で起き上がれるようになっていた。
「あなたを生んだ後も寝込んでいたけれど、今回はそれ以上ね……。すっかり体力が落ちてしまったわ。私も歳をとったということかしらね」
「お母様!! そんな弱気なことを言わないでください! 早く元気になって、ヴェル君の相手をしてあげてください。あの下の子、最近本当に手がかかって大変なんですから」
シャルロッテが少し頬を膨らませて愚痴をこぼすと、イウローネはクスクスと柔らかく笑った。
「そういえばシャルの宣託の儀はもうすぐだったわね」
「はい! 来週に行われると聞いています」
「貴女は私に似て魔力も高いし、同じ聖女の道を歩むのかしらね」
「私はお母様のような聖女になれる気がしません……。お母様のように強くありません。まだ自分の魔法も、うまく発現しませんし」
「心配しなくて大丈夫よ。貴女は、私よりも優しく強くなれるわ。ローヴェン国王ヴェルナードと王妃イウローネの子供ですもの」
「それが怖いのです……! 皆の期待に応えられなかったらどうなるんだろうって考えると、すごく、とても怖いのです」
泣きながら、シャルロッテは胸に秘めていた心の叫びを母に吐き出す。
イウローネは優しい微笑みを浮かべたまま、シャルロッテをそばに呼び寄せ、しっかりと、温かく抱きしめた。
「そうだったのね。一人でそんなふうに悩ませてしまってごめんなさいね」
「お母様……」
「でもね、私はずっと貴女を信じているわ。何よりも大切で、誰よりも優しく強い、貴女のその心を」
お母様の腕の中で、シャルロッテはこみ上げる涙を堪えきれず、さらに小さく震えながら声を漏らすのだった。
「お母様、何か食べましょう〜!」
「そうだ! 果物があります、一緒に食べましょう!!」
そう言うと、シャルロッテは返事も待たずに果物を取り、手際よくナイフを使って皮を剥き、切り分けていく。
「いたっ!」
「どうしたの?」
「……少し、指先を切ってしまいました」
「こちらへいらっしゃい。傷口を見せて」
そう言うと、シャルロッテは母に近づき、切った指先を見せる。指先には思いのほか深い傷ができ、赤く染まった血がポタポタと滴って服の裾にまでついていた。
「ヒール、クリーン」
イウローネはシャルロッテに向かい、静かに二言だけ発した。
その瞬間、淡い光が包み込み、あれほど深かった傷はまるで嘘のように綺麗に塞がり、さらに服についていた血の跡までもが跡形もなく消え去っていた。
「お母様、ありがとうございます……! でも、こんなに魔力を使って、本当にもう大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。これくらい、今の私でも問題ないわ。さあ、一緒にいただきましょ」




