第二話 第5王子誕生②
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1話目の後半です。
話数の変更しました。
第5王子誕生により、城中が騒がしくなるなか、国王ヴェルナードは頭を悩ませていた。
「おい、イウローネ。まだ悩んで……いや、儂はまだ悩んでいるんだ」
「ふふ、ヴェル様、まだ悩んでいらっしゃるのですか?」
「そうは言うが、イウローネよ。第5王子、ましてやこの子は将来国王になるかもしれんのだぞ。民から慕われる良き名でなくては……うーん……」
「そんなに悩まれるのでしたら、教会に行ってみてはいかがでしょう。御神託があるかもしれませんし」
「それはそうかもしれんが、神託にて授かった名前となると、今度は神の使徒として奉り上げられてしまう可能性もあるしな……」
「では、ヴェル様のお名前から考えてみるのはいかがですか?」
「そうか……儂の名前からか……ヴェル、ヴェル……ヴィル……ヴィルヘルム!!」
「よし! 第5王子の名前はヴィルヘルムと名付けよう!」
「まあ、ヴィルヘルムですか。響きのいい、素敵な名前です。……ヴィルヘルム、元気に育つのですよ」
ヴィルヘルムと名付けられた赤ん坊を胸に抱き、イウローネは聖母のような優しい微笑みを浮かべる。
第5王子誕生の知らせは、瞬く間に国中へと駆け巡った。
正妃としては10年ぶり、ましてや待望の王子。側室マティルデの息子であるマクシミリアンからしても5年ぶりの男児誕生とあって、国中を巻き込む大お祭り騒ぎとなった。
「ヴィルヘルム第5王子、誕生――!!」
その言葉を合言葉にするかのように、王都は活気に満ち溢れていた。
町中へ繰り出した人々の熱気で、深夜になっても明かりが消えることはなく、一日中途切れない喧騒に包まれている。
「いらっしゃい!」
「これを一つ頼むよ。凄い騒ぎだけど、何かのお祭りかい?」
「あいよ! お客さん、外から来たのかい? 第5王子がお生まれになってね、そのお祝いさ! こりゃあ1週間はこんな感じのお祭り騒ぎだろうね」
「1週間!? それは長いねえ……まあ、めでたいことだからいいのか。はい、代金ね」
「へい、毎度あり! うちらみたいな商売の人間には、ありがたい稼ぎ時さね」
屋台で買い物を終えた男は、周囲に気を配りながら、すっと人目の少ない暗い路地へと足を踏み入れた。
「――町の様子は?」
姿のない影から、感情の一切を削ぎ落とした無機質な声が響く。
「特に問題も起きていません。ただただ、第5王子誕生を祝う浮かれたお祭り騒ぎです」
先ほどの屋台での気さくなやり取りが嘘のように、男の声も冷え切っている。
「第5王子ヴィルヘルムか……たいそうないい名前だな。今のうちに消してしまうか?」
「冗談はやめてください。そんなことをすれば、流石に面倒なことになります。最初の計画通りに、じっくり進めるのが一番です。なにせ、今の王国は平和なんですから」
「まったく、忌々しい連中め。見回りを続けろ」
それきり、声の気配が消え失せる。
「……了解っと。ほんと、上の連中は一体何を考えてるんだか」
誰に聞かせるわけでもなく、やれやれといった調子で呟きながら、男は再び賑やかな町中へと戻っていった。
その頃――。
「赤ちゃんは元気!? まだ会えないの!?」
城の一角に、幼く可愛らしい2つの声が響き渡った。
第二王女ヘレナと、第三王女ソフィーの二人である。
イウローネ付きの近衛騎士に対し、「弟に会わせろ」と必死に詰め寄る彼女たちを、通りかかった侍女が慌ててなだめる。
「ヘレナ様、ソフィー様、お待ちください。……わかりました、一度王妃様とお医者様に確認を取ってまいりますので、そこでお待ちを」
そう言うと、侍女はそっと部屋へと足を踏み入れた。
「王妃様、ヘレナ様とソフィー様がヴィル様に会いたいと外でお待ちですが、いかがなさいますか?」
「ふふ、ええ、知っているわ。先ほどから元気な声が聞こえていたもの。いいわよ、お通ししてちょうだい。ただし、あの子たちに『必ず守る約束』を言い含めてからね」
「かしこまりました。では、お伝えしてまいります」
「お待たせいたしました。お部屋にお入りくださいませ。ただし! ヴィル様の周りを走らないこと、そしてヴィル様にはお手を触れないこと。この2つのお約束、絶対に守れますね?」
おずおずと部屋に入ったヘレナとソフィーは、侍女との約束をしっかりと胸に刻み、生まれたての小さな弟の姿をのぞき込んだ。
「わぁ……ちっちゃい! こんなに小さいの!?」
「……かわいい」
二人がそれぞれに感想をこぼすと、イウローネが優しく微笑みかける。
「そうよ。あなたたちも生まれたときは同じように小さくて、とても可愛かったのよ」
「ふん、私は今でも可愛いもん!」
ヘレナが少し頬を膨らませて言い返すと、ソフィーはじっと赤ん坊を見つめたまま、胸を躍らせた。
「私……お姉ちゃんになったんだ……」
これまで一番下の妹だったソフィーにとって、初めてできた弟の存在はたまらなく眩しいらしかった。
「イウローネ様、私、ヴィルくんのお世話のお手伝いをしていい!?」
「ええ、もちろんよ。シャルロッテと一緒に、ヴィルのお世話をお願いできるかしら」
「やったぁ! シャルお姉さまと一緒にお世話するんだ!」
ソフィーは飛び跳ねそうな勢いで歓声を上げると、「イウローネ様、お母様にお話してくる!」と、勢いよく部屋を飛び出していった。
「あっ、待ってよソフィー!」
ヘレナも慌ててその背中を追いかけていく。
「ふふ、シャルも少し大変になるけれど、頼むことになりそうね」
「もう、お母様ったら。私の意見も聞かずに勝手に決めてしまうんですから。……まあ、いいですけど。ソフィーとヴィルの二人まとめて、私が面倒を見てあげますよ」
呆れたようにため息をつくシャルロッテの言葉に、すかさず侍女がツッコミを入れる。
「そのお世話をするのは、他ならぬ私なんですが、シャルロッテ様?」
イウローネの私室に、温かな笑い声が優しく響いた。




