第二十七話 一日八回の監視者と、本来のエルヴィラ
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「うーん……それにしても、ここはホントに何もないですね。何とか水は確保できましたけど、食べ物が……私は良いですが、ヴィル様はねえ。ミルクいりますもんね。まあ、そこは……私がエルフで良かったなーって感じですけど!」
冷え込む処刑場の片隅で、ベゼラは呑気にそんなことを呟いていた。
「それに、ノックスの言っていた『魔法が使えない』っていうのも、あくまで攻撃や防御の魔法の類みたいで助かりましたね。ここは木の根が地下まで伸びていますし、周りは森とのことですし」
ノックスの幻影による監視や脅しはあるものの、ベゼラにとってそれは大したプレッシャーにはなっていなかった。
『――おや、まだ元気なようですねえ。エルフとは意外と頑丈だ。まあいい、まだまだあなたにはそこに居てもらいますよ』
またしてもノックスの嫌味な幻影がふっと現れ、そう言い捨てて消えていく。ベゼラはそれを見送りながら、やれやれと肩をすくめた。
「一日二回は姿を見せて、幻影を見せずに気配だけ探りに来るのが六回……計八回ですか。多いですねえ、暇人ですか。まあ、生後半年未満のヴィル様と二人きりですし、暇つぶしだと思って頑張りましょうか。根比べは、私は得意なんです」
***
一方、魔の森を進む賢者と執事長は――ベゼラたちの救出へ向けて急行していた。
「賢者様、姫様とは連絡が取れましたか?」
「ああ。姫とは無事に連絡が取れるようになったよ。ただ……ノックスの奴、姿を隠しての監視を含めると、一日八回も処刑場を覗き見に来るんだそうだよ」
「八回は多いですな。すっかりお気に入りのようですな。で、お二人の状態は」
「あはは、全くだね。後何日かは大丈夫みたいだよ。生後半年未満とはいえ、母乳の心配も特にはいらないようだ。流石は姫だね」
「それは僥倖でございます。あの処刑場で連絡手段に、食糧まで……流石は姫様です」
「さあ、急ぐよ。ここからならあと一日あればたどり着けるだろうけど、そこから探すのに手間はかかるだろうからね」
「かしこまりました」
***
王宮の執務室では――。
「まだ、報告はないか?」
「恐れながら、王よ。ここから彼の地までまず一日以上かかります。そこからの捜索となりますので、報告が来るまで五日は見ていただきませんと」
グランベルム侯爵の報告に、ヴェルナードは苦渋の表情を浮かべる。
「五日じゃと。ヴィルはまだ生後半年だぞ。そんなに持つものか……」
その日の深夜。王の私室では、ヴェルナードが不安に苛まれていた。
「ヴェル様、少しおやすみになってください」
「しかし、まだ誰からも何の連絡もないんじゃぞ。寝ていられるものか」
「それでしたら、少しでも身体を横にしてくださいませ。みんながヴェル様の心配をしております」
正妃イウローネの静かな言葉に、ヴェルナードは小さくため息をつく。
「……わかった……そなたのいう通りじゃな……横になってくる……」
王がようやく寝所へと向かい、部屋に入ると、そこに人影が見えた。
「誰だ!」
「私です、ヴェルナード様」
「エルヴィラか……」
***
イウローネは密かに部屋を抜け出し、王の寝室に続くバルコニーでエルヴィラと対峙した。
「ごめんなさいね、エルヴィラ」
「何を言っているの、イウローネ。気持ち悪いわ」
「あら、嬉しいわ。二人きりなら、ちゃんと名前を呼んでくれるのね」
「……っ! で、どうして……ここにきたのよ?」
「確認とお礼よ」
「何よ?」
「まず確認ね。ねえ、今回のヴィル達をさらったのはあなたたちなの? 子供まで攫うって、どういうつもりなの?」
「えっ……? ヴィルまで……? ……それは知らない。ちょっと待って、それはどういうことよ? ベゼラがいなくなったのは聞いてるわ、転移魔法陣で攫われたって。増して、ヴィルも一緒なの?」
「そうよ。知らなかったのね。ヴィルを狙ってたのなら、いくら貴女でも許さないわ」
「ちょっと待ってよ。流石に、いくら私でもそんなことしないわ。そこは……わかっているでしょ……」
「ほんと……変わってないみたいで良かったわ」
「……っ」
「知らないなら、それでいいわ。あと、感謝しているわ、ありがとう。あの人はホントに眠れてなかったから、助かったわ。あの人は弱みを私には見せないから。貴女以外に、頼めないもの」
「何よ、それ。あなたからのお礼なんて気持ち悪いわね。明日には槍でも降るんじゃないの。まあ、いいわ。また来ればいいんでしょ。わかっているわよ、私だってあの人が大事だもの」
「ああ、あと、マティルデは元気しているの?最近は特に会えてないから」
「もう。全くあなたはどこまでお人好しなの? 仮にも政敵で第一側室よ。警戒しても、心配することじゃないわ」
「あら、そうかしら。だって、私に何かあれば、あの人のお世話を全て任さないといけないのよ」
「……あなた……まさか……」
「話はおしまいにしましょうね。私も戻るわ。今日はありがとうね」
静かに部屋を去っていくエルヴィラの背中を見送りながら、イウローネは小さく息をつく。
「……あれは、本来のエルヴィラだわ。なぜ、あんなにも性格が変わったようになってしまうのかしら……」
エルヴィラ、マティルデ、イウローネ
実は……




