第二十六話 完璧な茶番!? そんな事よりヴィル様です!
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第26話投稿しました。
庭園での出来事の後、ヴェルナード王は重い足取りで聖女イウローネの私室を訪れていた。
信頼する騎士団長と魔導師団長の口から語られた「絶望」と「僅かな希望」。その報告を悲痛な面持ちで語る王の言葉を、イウローネは静かに聞き終えた。
「王様……あれは嘘です」
凛とした、しかし冷ややかな声が室内に響く。ヴェルナードは弾かれたように顔を上げた。
「なっ……嘘、だと?」
「ええ。私も窓からあの『茶番』を見ておりました。魔法陣に残っていた魔力と、あの魔物の魔力は全く性質が違っています。私とて、聖女です。魔力の流れは、はっきりと読み取れます」
イウローネの淡々とした、しかし確信に満ちた言葉に、ヴェルナードは息を呑んだ。
二人の重臣が身を挺して戦った魔物は、転移陣の残滓などではなく、彼ら自身が持ち込んだ別の魔力だったというのか。
「では、あの魔物は……それに、転移先が北の立ち入り禁止区域の『付近』というのも……?」
「でたらめです。真の場所は、北の立ち入り禁止区域のさらに奥深く――『元処刑場』の内部かと思われます」
「元処刑場だと……!?」
ヴェルナードは目を見開き、わななきながら数歩後ずさった。
そんな禍々しい場所へ飛ばされたという事実。そして何より、最も信頼すべき臣下たちが、息を吐くように自分を騙したという事実。
「ま、まさか……あの二人が、儂を謀ったというのか……!?」
信じたくない。そう葛藤する王に、イウローネはさらに残酷な事実を突きつける。
「ヴェル様だけではありません。あの場にいた全員です」
思いもよらぬ重臣の裏切りへの憤りと、未知の危険な場所へ放り込まれた息子への心配が入り混じり、ヴェルナードは苦々しく顔をしかめた。
「ヴィルヘルムたちは無事なのか……。しかし、ならどう動けば……」
「爺や!」
焦燥に駆られる王の言葉を遮るように、イウローネが鋭く声を飛ばした。
「かしこまりました。一度、賢者様と連絡を取りながら向かいます」
「婆やは、子供たちを見ててほしいの。お願いね」
「はい、お嬢様」
すぐさま密命を帯びて動き出そうとする二人を前に、ヴェルナードは縋るように声を絞り出した。
「イウローネよ、しかし、儂は……」
一国の王として、裏切り者たちを今すぐ捕らえ、尋問にかけるべきではないのか。そう迷いを見せる王の心を察し、イウローネは静かに、しかし断固たる意志を込めて告げた。
「今は、相手の策に乗ったままいきます」
「そうか……わかった。……なら、行くぞ」
聖女の瞳に宿る静かな怒りと決意の光を見て、ヴェルナードは固く拳を握りしめた。
◆◆◆
一方その頃。王宮の庭園から強制的に転移させられた者たちは、冷たく湿った石造りの空間に放り出されていた。
「いったいここはどこなんでしょ。いきなり足元光ったら転移してましたし」
暗闇の中で身を起こした国王の第三側室――エルフのベゼラが、ぱたぱたとドレスの埃を払いながらぼやいた。彼女の腕の中では、同じく転移に巻き込まれた第5王子ヴィルヘルム――まだ生後半年にも満たないい0歳の赤子が、おくるみに包まれたまま不安そうに身じろぎしている。
「まさかヴィル様もご一緒にきてしまわれるとは。戻ったら聖女イウローネ様と……賢者様にも……怒られる……」
自身の不運に頭を抱えそうになりながらも、ベゼラはエルフ特有の高い感知能力で周囲の空間を探った。光の届かない地下牢のような場所だが、ただの地下室ではない。
「それにしても、ここはかなり古い感じがします。それにうっすらと血の臭いと魔力痕……ここは……」
『――くさってもエルフですか。よく気が付きましたね』
突如、暗闇の空間に声が響き、空中にぼんやりとした光の像が浮かび上がった。
それは魔力によってあらかじめ仕掛けられていた幻影。現れたのは、見知った魔導師団長の下劣な笑みだった。
「……ノックス……」
ベゼラが鋭い視線を向けてその名を絞り出すが、幻影のノックスは一方的に言葉を紡ぎ続けた。
『ここは……もう使われなくなった処刑場ですよ。禁止区域内のね』
「処刑場……!?」
『ここでは、魔力も使えませんし、外にも届きませんよ。あなたたちエルフのように魔力に長けたものを処刑するための場所なのですから。……まあ、こちらも準備がありますので、暫くは生きられますよ。ここでですが。ではでは』
一方的な嘲笑を残し、ノックスの幻影はふっと掻き消えた。後には再び、重苦しい静寂と暗闇が残される。
立ち入り禁止区域の、魔法も通信も封じられた凄惨な処刑場跡。普通であれば絶望に泣き崩れてもおかしくない状況だが――ベゼラは、ぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。
「使われなくなったエルフの処刑場……あ、王都北側の禁止区域!!」
ポンッと手を打って納得しかけたものの、彼女はすぐに首を横に振った。
「……って言われても、そんな古い話はわかんないですね」
あっさりと事実を横に置き、ベゼラは腕の中のおくるみを優しく抱き直す。
「少しは生きていられるみたいですし、それよりもヴィル様です!」
「お腹は空いてませんか? おむつは……大丈夫そうですね」
彼女はすぐさまノックスの脅しを思考から締め出し、愛らしい赤子のご機嫌を確かめ始めるのだった。
「何日かは生きていられる……ですか……」




