第二十五話 王への偽り、完璧な茶番
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第25話 投稿しました。
庭園の噴水前、湿った空気に微かな魔力の残滓が漂う。
「さあ、向かいましょう。時間が経てば経つほど痕跡は消えてしまいますから」
ノックスは先導しながら、周囲を警戒するフリをしてヴェルナードに歩み寄った。
「こちらで遊ばれていたんですな。……ふむ、噴水あたりに少し魔力の反応があります。王よ、少し人払いを。何があってはなりません。皆様を建物まで下がらせてください」
ノックスの重々しい口調に、ヴェルナードは青ざめた顔で頷く。
「……わかった。頼んだぞ」
国王の護衛たちが遠ざかり、庭園に静寂が戻る。ノックスはすぐさまグランベルムの方を振り返った。
「グランベルム侯爵、貴殿は私と一緒に。……いえ、ここからは二人で動く必要があります」
二人は噴水の裏、人目につかない場所へ移動する。グランベルムは、ノックスの言動が芝居であることを理解しつつも、あえて鋭く声を潜めた。
「貴様、ここで何をするつもりなんだ?」
「いえ、大した事ではないですよ。……証拠隠滅のための工作です」
問いかけたグランベルムに、ノックスは冷徹な笑みを浮かべ、噴水の土台に残る、転移陣の微かな残滓へと視線を落とした。
「なるほど、ここに転移陣の魔力の残滓がございますな。このままでは魔力痕から足がつきかねない。ですので……」
言うが早いか、ノックスはその微かな残滓に、己の魔力を意図的に流し込み始めた。
「……顕現せよ」
残滓とノックスの魔力が限界まで練り上げられた瞬間、空間が軋んだ。
魔法陣から漆黒の霧が噴き出し、異形の魔物が這い出る。鋼のような外殻を備えたその魔物は、現れるや否や、二人を標的と定めて不快な咆哮を上げた。
「なんだ……これは……!? どこから現れた!? ……魔法陣から……?」
「どうした?」
グランベルムが芝居に合わせるように剣の柄に手をかけ、一歩踏み出す。
「くっ……これは転移陣の残滓が暴走したのか! 調査を阻止せんと魔物が形作られたというのか!」
ノックスはわざとらしく叫び、怯えた表情を浮かべて後ずさる。
「グランベルム侯爵、危ない!」
魔物がグランベルムに肉薄する。一般の騎士ならば数人がかりでも瞬殺されるであろう凶暴な一撃。グランベルムは愛剣を抜き放ち、その凶刃を正面から受け止めた。
ガァァンッ!! と激しい金属音が庭園に響き渡る。
「くっ……! なんという馬鹿力だ……!」
グランベルムは苦悶に顔を歪め、わざとらしく悲痛な声を上げた。魔物の押し込む力に抗いきれないふりをして、石畳にブーツの底を激しく擦りつけながら数歩後ずさる。
さらに魔物が鋭利な爪を連続で振り下ろす。グランベルムはそれを「間一髪で」躱してみせ、あえて自身のマントを浅く引き裂かせた。激しい身のこなしで鎧に土埃を付着させ、肩で大きく息をして見せる。
(ふん、馬鹿馬鹿しい茶番だな。この程度の鈍物相手に)
内心でひっそりと冷笑しつつ、グランベルムは十分に「苦戦」の痕跡を刻み込んだと判断した。
「おおおおおっ!!」
彼は裂帛の気合を張り上げ、まるで一か八かの決死の反撃に出たかのように力強く踏み込む。わざと大振りに見せた剣閃が、魔物の死角から首根っこを正確に切り裂いた。
巨体が断末魔を上げて倒れ伏す。魔物は黒い霧となって霧散し、後には何も残らなかった。
静寂が戻った庭園で、グランベルムは剣を杖代わりに突いて膝をつき、ひどく消耗したように荒い息を吐いてみせた。
「……仕留めたか」
ノックスは安堵の演技で駆け寄ると、完全に魔力を失い、ただの石畳と化した噴水の土台を指差した。
噴水の土台がただの石畳と化した直後、遠巻きに事態を見守っていた国王ヴェルナードが血相を変えて駆け寄ってきた。護衛の騎士たちも慌ただしく周囲を取り囲む。
「二人とも、無事でよかった……! 建物から見ておったが、気が気ではなかったぞ!」
安堵と焦燥の入り混じった王の声に、ノックスは深く頭を下げ、痛恨の極みといった表情を作ってみせた。
「王よ。……申し訳ございません」
「どうしたのだ、ノックス」
「まさか、証拠隠滅のために術式が仕掛けられていようとは。魔物の召喚により、術式も魔力の残滓もすべて焼き切れてしまったようです。これでは何が原因で王族が消えたのか、もはや検証のしようがありません……」
ノックスの沈痛な報告に、ヴェルナードは絶望に肩を落とす。しかし、ノックスはすかさず「希望」という名の嘘を垂らした。
「ですが、完全に消滅する直前、少しだけわかった事がございます」
「本当か!? それはなんだ!」
「残滓の魔力反応の方向から察するに、転移先は王都の北――『立ち入り禁止区域』の付近かと思われます」
「北の立ち入り禁止区域だと……!?」
「ええ。強力な結界があるため、区域の内側に入ったとは考えにくいですが、その近辺に飛ばされた可能性が極めて高いかと。…まさかあのような罠になっていようとは。念のためグランベルム侯爵に居ていただき、本当に助かりました」
ノックスがわざとらしく称賛の視線を向けると、グランベルムは荒い息を整えながら、力強く立ち上がってみせた。
「そういう事であれば、直ちに我が騎士団を率いて北部の捜索にまいります」
「私も魔導師団を率いて一緒にまいりましょう。魔法の痕跡が残っているやもしれませんので」
二人の頼もしい申し出に、ヴェルナードは胸を打たれたように顔を歪めた。
「おお……あのような激しい戦いの後だというのに。すまんが、頼んだぞ!」
「はっ! 必ずや朗報をもってまいります」
王の悲痛な願いを受け、グランベルムとノックスは揃って恭しく跪き、深く頭を垂れる。
地面に向けられた二人の顔には――愛する家族を案じる愚かな王を嘲笑う邪悪な笑みが張り付いていた。
いつ、主人公は出てくるんだろう…




