第二十三話 王冠と土埃
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第23話投稿しました。
「あれは一体なにをしているんですか? 王宮の庭にあのような下賤なものを並べて。マクシミリアンに何かあったら、一体どうするおつもり。まったく、本来なら口をきくことすら許されない者たちでしょう。近衛だけならまだ良いものを、庭師や農夫までいるではありませんか!」
「ほんとうですわね。あのようなエルフを教育係にするから、このような教えになってしまうんです。はっきり身分の違いがあるというのに、一緒に遊ぶような真似を。あの者は何を考えているのでしょうか。下劣なエルフの考えは全くわかりませんわ」
「ですが、皆様とてもとても楽しそうにしておられますよ。少しでも庶民の暮らしを知っていただけるよい機会ではございませんか。そろそろ終わりとなりますので、皆様こちらに戻ってこられますよ」
「あ! 母様たちだ!」
庭から戻ってきたマクシミリアンとヘレナが、バルコニーに立つ二人を見つけて駆け寄ってくる。
「母様、見てください! 魔法射的でとったんですよ!」
「私もこれを……」
二人の頬は上気し、目は輝いている。庭を駆け回った土埃が裾に薄くついているのもお構いなしに、今日一番の宝物を見せようと、二人はまっすぐに二人の母を見上げていた。
だが、マティルデとエルヴィラは、その景品を一瞥しただけで、冷ややかに目を背けた。
「……まあ。一体、何を見せられているのかしら」
エルヴィラが冷ややかな声を漏らす。
「庭師や農夫といった下賤な者どもと一緒になって、あんな野蛮な遊びに興じて……。あんな無知なエルフを教育係に据えたせいで、あなたたちの品性まですっかり毒されてしまいましたわね。土埃で服を汚して、本当にはしたない」
隣でマティルデも、冷ややかな視線を子どもたちに突き刺した。
「マクシミリアン。あなたは何のつもりです? 私たちは王侯貴族の血を引く者です。平民と同じ目線に立ち、卑しい労働者どもと馴れ合い、お情けで手に入れたような玩具にはしゃぐなど……我が家の恥ですわ」
「ぼくは、ただ、自分で考えてお金を使って……」
「言い訳はいりません」
マティルデの冷淡な一言が、マクシミリアンの言葉を完璧に遮断した。
「身分の違う者たちと戯れ、頭を下げて物を買うなど、貴族の誇りをドブに捨てるようなものです。王侯貴族としてどうあるべきか、あなたにはまだその教育が足りていなかったようですね」
「エルヴィラ、行きましょうか。あのような下劣な教育、これ以上見ていて気分のよいものではありませんわ」
「ええ、そうですわね」
二人の母親は子どもたちを一瞥することもなく、冷然と踵を返した。
◇
残されたマクシミリアンは、掲げていた景品を、力なく胸元まで下ろした。
「……母様、忙しいのかな」
誰に言うでもなく、そう呟く声はわずかに震えていた。
隣でヘレナが、巾着の紐を小さな指でぎゅっと握りしめている。
「……ミリアン兄ちゃん」
「ん?」
「……ううん、なんでもないの。お兄ちゃんの射的、とってもかっこよかったよ」
「……うん。ありがとな、ヘレナ。よし、シャル姉さんとソフィーのところに戻ろうか」
「うん!」
二人は小さな手をしっかりと繋ぎ、来た道を戻っていった。その足取りは、庭に向かう時より、ほんの少しだけ重かった。
「どうしたの、二人とも。そんな顔をして……」
シャルロッテが心配そうにしゃがみ込んだ。
「シャル……おねいちゃん……」
「うん、どうしたの?」
「こ……れ……お母……さんに……」
差し出された小さな花の髪飾りと、空っぽの巾着。その様子だけで、何があったのかを察したシャルロッテは、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
「そっか……。二人とも、すごく頑張ってお買い物して、いっぱいお土産をとってきたんだもんね。……よく頑張ったね」
シャルロッテが優しく二人の頭を撫でると、張り詰めていた糸が切れたように、ヘレナの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
シャルロッテは少し離れたところで控えていたイウローネの侍女・マリーに視線を投げた。
「マリー。さっき何があったの? なんとなく想像はつくけれど……詳しく教えてもらえる?」
マリーは辛そうに眉をひそめ、少し躊躇うように小さく息を吐いてから答えた。
「はい……先ほど、マティルデ様とエルヴィラ様が、あちらのバルコニーからマクシミリアン様とヘレナ様をご覧になっておりました。お二人がお持ちになった景品や、このお祭りの遊びについて……『下賤なものに興じている』『我が家の恥だ』と、非常に厳しいお言葉でお叱りになり、冷たく突き放して去っていかれたのです……」
「そんな言い方しなくてもいいのに……お母様たちなんでしょ……?」
シャルロッテは唇を噛み締め、怒りと悲しみが入り混じった瞳を揺らした。
「私のお母様も、ベゼラ様も、絶対にそんなことは言わないわ。お父様だって……。それなのに、どうしてそんなひどいことを……」
幼い胸にはあまりにも残酷すぎる拒絶。
ふと、何かを感じたように、シャルロッテはふと周りを見渡した。
「ねえ……ベゼラ様とヴィルくんは? さっきまですぐ後ろを歩かれていたはずよね……」
「……!?……」
「ソフィー! ソフィー!」
「ソフィー様! ソフィー様!」
噴水の陰に、ソフィーはいた。微動だにせず、ただ一点を見つめている。
「ソフィー……? ソフィー、どうしたの!?」
シャルロッテが肩に触れても、反応がない。焦点の合わない瞳が、噴水の向こうを見つめたまま固まっている。
「ソフィー……?」
もう一度、強く呼びかけ抱きしめた。ソフィーの瞳にようやく光が戻った。
「――っ、しゃ……シャル、おねいぢゃん……! うあぁぁん!!」
固まっていたソフィーの瞳からどっと涙が溢れ出し、大きな泣き声が庭に響き渡った。シャルロッテの服にしがみつき、小さな体を激しく震わせて泣きじゃくる。
「どうしたのソフィー!? 大丈夫よ……お母様とヴィルくんはどこ?」
「おか……お母さまが……ヴィルくんと……っ、き、消えちゃったぁぁ!!」
「え……!? 消えた……!?」
声が出た瞬間、堰を切ったように大粒の涙がこぼれ、しゃくり上げる泣き声に変わっていく。
「うわあああっ……!」
「大丈夫、大丈夫よ。私がいるからね」
わけもわからないまま泣きじゃくる妹を精一杯抱きしめながら、シャルロッテはその視線の先――噴水の向こうを見た。
「マリー、周りを確認して!」
「は、はいっ!」
しかし、侍女たちが庭の隅々まで探すが、その姿はどこにも見当たらない。
「……!? お、おられません!」
マリーが完全に青ざめた顔で振り返る。先ほどまでそこにいたはずのベゼラとヴィルヘルムの姿は、まるで最初からいなかったかのように、綺麗に消え失せていたのだった。
ほのぼのパートは終わりかな??




