第二十二話 収穫祭と、小さなコイン
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第22話 投稿しました。
「さあ、みなさん! こちらへどうぞ!!」
ベゼラは振り返って、元気よく子供たちを手招きした。庭に足を踏み入れた途端、色とりどりの飾りつけと、香ばしい匂いが漂ってくる。
侍女長はマクシミリアンとヘレナの前でしゃがみ込み、二人の顔を覗き込んだ。
「マクシミリアン様、ヘレナ様、ご気分はいかがですか? まだ気持ち悪いですか?」
「もう大丈夫」
「俺も大丈夫だよ」
「そうですか。安心いたしました。……では、お二人とも皆様とご一緒に」
子供たちが揃ったのを確認すると、ベゼラが両手を広げて庭全体を示した。
「さあ、みなさん。ここは、お城のみなさんが協力して準備してくれました。ここには『屋台』と言われるお店が並んでいます。初めて見るものもあると思いますよ。好きなところに、自分で選んで行っていいですからね」
「わあーっ!」
「ですが、屋台でお買い物をするにはお金がいります」
ベゼラが少しだけ声を張ると、子供たちがぴたりと注目した。
「今日はお金の代わりに、このコインを渡します。これをお金の代わりにお店で使ってくださいね」
「コイン……?」
「はい。一人五十枚ずつあります。何を買うかよく考えて、大事に使いましょうね」
ベゼラは子供たち一人ひとりにコインの入った袋を手渡していく。そして、二歳のソフィーと三歳のヘレナの前でふわりとしゃがみ込んだ。
「ソフィー様とヘレナ様には、五十枚は少し重たいですね。お二人には、この小さな巾着に少しだけ入れてお渡しします」
ベゼラは可愛らしい巾着袋を、二人の小さな肩からポンと斜めがけにしてあげた。
「落とさないように、こうしてかけておきましょうね」
「うん!」
自分だけの特別な巾着に、二人は嬉しそうに目を輝かせた。
「残りのコインは、お付きの侍女が持っておきます。お買い物をするときは、必ず侍女や、お兄様お姉様と一緒に回ってくださいね」
「シャル姉さま……一緒に回って……ね?」
ソフィーが隣のシャルロッテの服の裾を掴むと、シャルロッテは優しく微笑んで妹の頭を撫でた。
「そうね。いいわよ。じゃあ、お姉ちゃんと一緒に見て回りましょ。はい、はぐれないようにね」
「私は……ミリア……」
「よし。ヘレナは俺と回るぞ。何か美味しいものを見つけよう」
「うん!」
ヘレナがちらりとマクシミリアンを見上げると、マクシミリアンは任せろとばかりに胸を張った。
「みなさま、怪我しないように気をつけてくださいね!」
「「「はーい!」」」
「あ! お兄ちゃん、あれ!」
ヘレナが指さした先には、的当ての屋台があった。お城の兵士が、先がぼんやりと光る短い杖を持って笑顔で手招きしている。
「よし、俺がやってやるよ。おじさん、これ一回いくら?」
「一回、コイン五枚です、マクシミリアン様。この『魔法の杖』から出る光の弾で、あそこの的を狙ってください」
「わかった。はい、五枚」
マクシミリアンは自分の袋からチャリンと五枚のコインを渡し、杖を受け取った。真剣な顔で的を狙い――えいっ、と杖を振る。
杖の先からポンッと小さな光の弾が飛び出し、見事に的を弾き飛ばした。
「やったー! お兄ちゃん、すごい!」
ヘレナがぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。景品の小さな花の髪飾りをもらい、マクシミリアンは少し照れくさそうにヘレナの頭にポンと乗せた。
「へへっ、まあな。……ヘレナもするか?」
ヘレナは巾着の中を覗き込み、少し困ったように眉を寄せた。マクシミリアンがすかさず横から覗き込む。
「お前、それで足りるのか?」
「わかんない……」
「じゃあ一緒に数えよう。ほら、コイン出して」
マクシミリアンに促され、ヘレナはたどたどしい手つきでコインを取り出していく。
「いち、に、さん……」
「そうそう、その調子だ」
「し……ご! ごまいある!」
「よし、それだけあれば一回できるな」
ヘレナは嬉しそうに五枚のコインを店主に渡すと、渡された小さな杖を両手でぎゅっと握りしめた。教えられた通り的に向けるが、力の入れ方がわからず、杖の先端はふるふると小さく光るだけで何も飛ばない。
「あーん、でない……」
「大丈夫大丈夫、もう一回やってみろ。……ほら、そんなにギュッと握らなくていいんだ。杖が勝手に集めるから、力入れなくていいよ。こう、じわっと流し込む感じ」
マクシミリアンが自分の杖を軽く持ち、ゆっくりと魔力を流し込んでみせる。
しゃがみこんで手本を見せるマクシミリアンに、ヘレナは真似をするようにもう一度杖を的に向けた。今度は先ほどより大きな光が杖の先からふわりと飛び、かすかに的の端をかすめる。
「あ、あたった……かも!?」
「惜しい! もうちょいだ!」
シャルロッテとソフィーは、甘い匂いのする屋台の前で足を止めていた。
串に刺さった色鮮やかな果物に、キラキラした飴がかけられている。
「シャル姉さま、これ、食べたい……」
「果物の飴がけね。美味しそう。おじさん、これはコイン何枚ですか?」
「一つ、コイン五枚になります」
シャルロッテがソフィーに視線を落とす。
「ソフィー。お買い物をする時は、自分で店員さんにお金を渡すのよ」
ソフィーは斜めがけにした自分の巾着をごそごそと探ったが、小さな手で掴み出したコインは三枚だけだった。
「……たりない?」
首をかしげるソフィーに、後ろに控えていた侍女がふわりとしゃがみ込んだ。
「ソフィー様、残りの二枚はこちらから出しますね。ほら、手を出して」
「うん!」
侍女から追加のコインをもらい、ソフィーは両手でしっかりと五枚のコインを握りしめた。そして、背伸びをして屋台の台にコロン、と置く。
「これ、どうぞ!」
「はい、毎度あり! 落とさないように気をつけてね」
お城の料理人が満面の笑みで飴がけの串を渡すと、ソフィーはパァッと顔を輝かせた。
「ありがとう!」
それを見ていたヘレナも、マクシミリアンの服を引っ張った。
「私も、あっちのお菓子買う!」
ヘレナは自分の侍女の元へトテトテと走り寄った。
「お金、ちょうだい!」
「はい、ヘレナ様。でも、お金をもらって、お店の人に渡す時はなんと言うんでしたっけ?」
侍女が優しく問いかけると、ヘレナはハッとして姿勢を正した。
「……おねがいします。あと、ありがとう!」
「ふふ、よくできました。では、落とさないように」
噴水のベンチで休んでいた四人だったが、ソフィーが少し残ったコインを手に、ふとベゼラの腕の中のヴィルを見上げた。ヴィルは相変わらず、ぽかんと指をくわえている。
「……ねえ、ヴィルくんも、なにかほしいんじゃないかな?」
ソフィーが小首をかしげると、三人は「あ!」と表情を明るくした。
「そうね! ヴィルくんにはまだ何も買ってあげてなかったわ」
四人は近くの雑貨屋台へ向かった。そこには、赤ん坊用の柔らかい布製のおもちゃや、ガラガラが並んでいる。
「あ! あれ!」
ヘレナが指差した先には、ふわふわの布で作られた小さな熊のぬいぐるみ。手足の先には小さな鈴が縫い付けられていて、動かすとちりんと優しい音が鳴る。
「うん、きっと喜ぶ。……買おう?」
「そうね。じゃあ、一緒に払いましょ」
シャルロッテが二枚、あとの三人が一枚ずつ出し合い、合わせて五枚のコインを店主に差し出した。
「これ、ヴィルくんにおねがいします!」
四人が声を揃えると、店主は目を細めてぬいぐるみを包んでくれた。
「はいよ。弟さんへの贈り物なんて、偉いねえ」
ソフィーとヘレナは、両手でしっかりとぬいぐるみを受け取ると、宝物を抱えるようにぎゅっと胸に押し当てた。
「はやく、ヴィルにあげたい」
「うん! きっと喜ぶよ!」
二人は嬉しそうに駆け寄り、ベゼラの腕の中にいるヴィルへぬいぐるみを差し出した。
「ヴィルくん、これあげる!」
「……ばぶ?」
ヴィルが小さな手でぬいぐるみを握ると、チリン、と可愛らしい音が鳴る。その音を聞いたソフィーたちは、自分がおもちゃを買った時よりもずっと嬉しそうな顔で笑いあった。
ベゼラは、腕の中のヴィルをあやしながら、満足そうに深く頷いた。
「……ふふ。みなさん、とっても上手にお買い物ができましたね」
ほのぼの回です。




