第二十話 姫様の想い
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第20話 投稿しました。
「少し時間は遅いけど、これから公爵邸の方に向かおうか。さあ、姫、行くよ」
「……こんな時間から宮殿を抜け出したら怒られますよ。また、姿を隠すんですか?」
「全員隠すのは大変だからね。せっかく地下室があるんだし、それを使おうか。さっき張った結界が役に立つね。……さあ、公爵邸へ……飛ぶよ」
「うわっ!? 転移するならするで、もう少しだけでいいですから……説明ください……お願い……します……!」
宮殿の地下室から公爵邸の庭へ飛んだ途端、姫はその場に膝をついて胸を押さえた。
「何をそんなに息を切らせているんだい? 姫の魔力を使ったわけでもないのに」
「何回も言いますが、私を賢者様と一緒にしないで……くださいね……!」
「賢者様、姫様、そろそろよろしいですか?」
執事長の催促に、賢者はニヤリと笑う。
「そうだね、姫は大丈夫だ・よ・ね?」
「……ホントに私のことになったら……。ハァ……ハイ、大丈夫です」
息を大きく吸い込み、乱れた呼吸をすっと整える。
「……時を巡れ、元の姿へ……」
意識を深く研ぎ澄ませた姫が両手を高く掲げて呪文を唱えると、柔らかい光が広がり、夜の庭全体を包み込んだ。
光が収まると、半壊していた公爵邸はまるで時間を巻き戻したかのように綺麗に復元されていた。
「これはこれは、流石は姫様。完全な復元でございます」
「だから言ったんだよ。私より上手だって」
「賢者様もお疲れ様でございます」
「邸の中に転移陣を置いておくから、そこからは任せるよ」
「ありがとうございます。お任せください」
「じゃあ、姫の部屋に戻ろうか」
◇
「無事に終えられまして、お疲れ様でございます、姫様。こちらでお茶をどうぞ。湯浴みの用意ができておりますので、このあと入りましょうね。それと、本日は私はこちらの部屋でお休みさせていただきます」
宮殿に戻り、お茶を出した侍女長が唐突に切り出す。
「え……? それはどうしてですか?」
「姫が一番狙われる可能性があるからだよ」
賢者の言葉に、姫は「……え?? ……えええ!?」と声を上げた。
「当然でございます、姫様。マティルデ様とエルヴィラ様のご実家は、それぞれグランベルム侯爵家とノックス家でございます。イウローネ様にはすでに呪いがかけられているのでしたら……次の標的は姫様だと推察されますわ」
「うん、その通りだよ。だから出来るだけ一人では行動しないようにね。私は今からエルフの里へ行くからね。まだシャルロッテ様の体調も万全ではないから。その間に調べてくるよ。わかったね? ……姫をお願いね」
「かしこまりました」
侍女長と執事長の声が揃って響いた。
賢者は頷くと、気配もなくその場から姿を消した。残された部屋で、侍女長が優しく微笑む。
「じゃあ、後は頼んだよ……って、もういらっしゃいませんね。……姫様、我々がお守りいたしますゆえ、ご安心ください。明日はヴィル様とソフィー様ところへまいりましょう。そのためには、さあ、湯浴みしましょう」
「では、私は失礼いたします」
執事長は深々と一礼すると、部屋の隅の暗がりへと足を進めた。
「では、私はお館様のところへまいりましょう。説明が大変ですが仕方ありませんな。ですが、少し光が見えてきたように思えます。お嬢様とヴィル様は、必ず守ってみせますよ」
影に身を隠した次の瞬間、気配を殺したまま転移で姿を消した。
◇
(私は何かを見落としているような気がする。嫌な予感がするな。あとは、子供たちへのプレゼントも作らないといけないな……)
賢者は夜風をきりながら、エルフの里へ向かっていった。
◇
湯浴みを終えた姫は、部屋に控える侍女長にぽつりと溢した。
「侍女長、今日はありがとうね」
「もったいないお言葉でございます、姫様」
「……怖いですか? 姫様は……?」
「そうですね。怖くないと言えば嘘になります。全員が私の子供ではありませんが、同じように愛情はあります。その子供たちが全員『呪い』だなんて……。しかも、それが王国の貴族なんですよ。怖いですよ」
「そうでございますね。人族ほど残忍で狡猾なものはないかもしれません。ですが逆に、これほど優しく愛情あふれるものもございません。我々よりうんと短いその寿命を、精一杯光らせるのですから。……姫様はソフィー様、ヴィル様のために出来ることをやればいいんですよ」
「……ありがとうございます」
「ゆっくりお休みなさいませ。必ずそばにおりますので」




