第十六話 守る者たちの覚悟
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第16話 投稿いたしました。
公爵邸が半壊したため、現在は王家より一時的に譲り受けた仮邸を拠点としている。
夜陰に乗じ、その邸宅へ向けて静かに駆けていく二つの影があった。
「先ほどの襲撃者達は、今までとは少し違っていましたね」
並走しながら、執事長が呟く。
「そうですね。まるで素人のような、単なる物見遊山のような突撃でしたもの。どこかで変な噂でも回っているのでしょうか」
「そのあたりも含めて、お館様にご報告いたしましょう」
◆
仮邸の執務室。灯りの下で書類に向き合っていた当主のもとへ、二人は足音もなく姿を現した。
「ただいま戻りました」
「ご苦労だった。今日も変わりなくか?」
当主が顔を上げると、執事長がわずかに眉をひそめて一歩前へ出た。
「それに関してですが、少しご報告がございます」
「どうしたんだ?」
「今まではプロの暗殺者や傭兵の類ばかりでしたが……本日、最後に来ていたのはまるで賊のような者たちでした」
続いて侍女長が、どこか呆れたようなため息を漏らす。
「ええ。少々下品な格好の者も多く、私どもに対してもあまりに言葉遣いが悪いもので……少々、教育をいたしましたの」
「あのような輩は相手にする分には造作もございませんが、数が多くなってきますとそちらに手が回らなくなります」
報告を聞き、当主は鋭い目を細めた。
「そうか……あそこは現在立入禁止だ。それに騎士団の巡回もある。それでいて、見つからずに来られているとなると、答えは一つか」
「そのように思われます。ただ、今までの者たちも同じ者に雇われていると考えられます。特に暗殺者ギルドなどは、普通のルートでは頼めませんので」
「わかった。それに関しては調べてみる必要はあるな」
そこまで口にして、当主はしばらく考え込んだ。だが、それ以上に二人の沈んだ表情が気に掛かった。
「……で、それ以外に何かあった? 二人とも、かなり顔色が悪いぞ。どうした?」
二人は一瞬だけ視線を交わすと、執事長が重々しい口調で告げた。
「……公爵邸で、賢者様とベゼラ妃とお会いいたしました。お二人から、お話を受けたのです」
「………………」
しばしの静寂の後、当主は絞り出すような声を上げた。
「何だと……!? それは事実なのか?」
思わず立ち上がりかける当主に、執事長は静かに首を縦に振る。
「はい。賢者様のお言葉ですので、間違いはないかと思われます」
侍女長はたまらず胸の前で手を組み、絞り出すような声で頭を下げた。
「お館様……イウローネ様を、どうかお救いください。お願いいたします……」
当主はぎゅっと拳を握りしめ、言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「わかっている。手段があるんだろ。なら、それ以外の方法だって必ず何かあるはずだ。呪術って奴は決まり事の塊だ。だから一つでも道があるなら、他の道も必ずあるはずなんだ。かなり細いがな。……その呪いに関して、詳しいことはわかるか?」
「いえ、詳細までは……」
「そうか。わかった。なら、その呪いから調べていこうか。賢者様にも付き合ってもらおう」
当主は一度言葉を切り、深く息を吐き出した。
「……それと、イウローネには言う必要はない。あいつの事だ、自分の身に起きている事には気づいているはずだ。でないと、あのタイミングでお前たちに来てほしいとは言わんだろうよ」
自分の妹の聡明さを誰よりも知っている当主は、どこか遠い目をする。
そして、覚悟を固めた眼差しで二人の忠臣を見つめた。
「……まあ、聞くだけ野暮だが。どうしようもない時は、その時は頼む」
その問いかけに、執事長と侍女長は寸分の狂いもなく同時に深く一礼した。
「仰せのままに。我ら、公爵家に仕える者でございます。その時には、ご命令を」
「……わかった。一旦下がれ」
「失礼いたします」
二人の影が静かに部屋を退出していき、執務室には再び重厚な沈黙が降り立った。
◆
一方その頃——半壊した公爵邸からの帰り道。
姿を消す魔法を纏いながら、ベゼラ妃は賢者のすぐ後ろをピッタリとくっついて歩いていた。
「な、何なのでしょうか!? 元々立入禁止の公爵邸に、どうしてこんなにも怖い方々が多いのですか!?」
周囲の暗闇を警戒しながら、ベゼラ妃が今にも悲鳴を上げそうな声で囁く。
歩調を緩めない賢者は、振り返りもせずに淡々と返した。
「仕方ないよ。半壊しているんだから『ここに何かあるかも』って来る奴はいるさ」
「ぜ、絶対そんな輩ではありませんわ! 黒いフードを被って毒のついた武器や道具を持っていたり、明らかに凄まじい剣や槍をお持ちでした……! 物取りや賊のレベルではありませんでしたわ!」
「なら、グランベルム侯爵とノックス家が雇った傭兵か、暗殺者ギルドの者でしょうね」
あっさりと物騒な名を挙げる賢者に、ベゼラ妃は絶句する。
「……!? ……っ!? ど、どうしてそんなに冷静にいられるのでしょうか!? 見つかったら死んでしまいます……!」
不安で震えるベゼラ妃に対し、賢者はふっと息を漏らし、静かだが確かな力強さを持った声で言い放った。
「大丈夫よ。死なないわ。私が守るから」
その絶対的な安心感を孕んだ言葉に、ベゼラ妃は思わず息を呑み、怯えていた身体の力を抜いた。
「それより、あの呪いについてもう少し詳しく調べましょう。あなたの部屋へ向かうよ」




