第十四話 王家の一日 小さな手と大きな贈り物
いつもお読みいただきありがとうございます。
第十四話 投稿いたしました。
「皆さま、おはようございます。今日は、お外でお勉強となりますよ。……マリー、皆を着替えさせてあげてちょうだい」
シャルロッテが意識を取り戻した数日後の朝。王妃イウローネは子供たちの元を訪れ、そう告げた。
向かった先は、王家が所有する広大な農地。かつて行き場を失っていたスラムの人々にイウローネが土地を与え、開拓させた場所である。
「うわ! 何ここ、土だらけだ!!」
「あ! ミリアンお兄ちゃん、助けて!!」
「大丈夫か? ほら、手を出して!」
「ハイハイ! 皆さま大丈夫ですか?」
案内するマリーが笑顔で声をかける。
「ここでは、皆さまが召し上がるお野菜を作っています。今日はそのお手伝いをしていただきますよ。今日採ったお野菜が、今日の晩御飯になりますからね~。しっかり頑張ってくださいね!」
農地へ足を踏み入れると、そこで働く平民たちが気さくに声をかけてきた。
「坊っちゃま! 大丈夫ですか?」
「お嬢様も大丈夫ですか!?」
「坊っちゃま、無理に引っ張ると野菜まで折れますぞ!」
「え? こう?」
「そうそう、そのまま!」
「よし、とれた!!」
「私もー!」
「ソフィー大丈夫かい? お兄ちゃんと一緒にやろう!」
泥だらけになりながら、3人は仲良く畑仕事——というよりは、半分「畑遊び」に夢中になっている。
それを離れた場所から微笑ましく眺めるイウローネ。その腕の中では、まだ幼いヴィルヘルムがすやすやと心地よさそうに眠っていた。
「イウローネ様、採れましたよ!!」
採れたてのお野菜を自慢げに見せに駆け寄ってくる子供たち。眠っているヴィルヘルムの頬をツンツンとつついたりして、楽しそうにちょっかいを出している。
その時、農地の入口から一人の男が歩いてきた。ヴェルナード国王である。
ここは王室直轄地であるため立ち寄ること自体は不思議ではないが、滅多に姿を見せない人物だ。驚いた農夫たちが、慌ててその場にひれ伏す。
「よいよい。そのまま作業を続けてくれ」
ヴェルナードは手をかざして制すると、妻の元へと歩み寄った。
「イウローネや。ヴィルはどうじゃ?」
「急にいらっしゃったら、皆さまが困ってしまいますよ。ヴィルはこうして気持ちよさそうに寝ております」
「そうかそうか、寝ておるのか。なら……少し儂にも抱かせてもらおうか」
「……わかりました。では、ヴィルをお願いいたしますね」
イウローネがそっと腕の中の赤ん坊を夫に託した——次の瞬間。
「うわぁぁぁぁん!!!」
割れんばかりの泣き声が、青空の下に響き渡った。
「がはは! 坊っちゃんは元気なお子様だぁ~」
「ああ、今までで一番元気だなあ!」
「しかし王様は、いつまでたっても抱くのが下手くそだなあ~」
「あと何人抱いたら上手くなるんだろうなぁ~」
「笑うでない……儂も真剣なんじゃ」
平民たちはすっかり慣れた様子で、その光景を大口を開けて笑いながら見守っている。
しかし、抱いている当の本人は大慌てだ。戦場でも議会でも見せたことのないような狼狽ぶりで、冷や汗を流しながら赤ん坊をあやそうとしている。
「もう……あなた、いつも力が入りすぎなんですよ」
「儂も気をつけておるんじゃが……どうして儂が抱くと皆泣いてしまうんじゃ……」
「とうさま、また泣かれてる!」
「あはは!」
「ヴィル、父様は怖くないぞ」
マクシミリアンはそっと弟を抱き上げた。
「父様、ヴィルは僕が抱っこしますよ。……ようし、ようし、いい子だ、ヴィル」
「あらあら。あなた、マクシミリアンの方が上手ですよ」
「「いいなぁ、お兄ちゃん」」
困り果てる国王と、得意満面で赤ん坊をあやす長男、そして苦笑する王妃。
そんな温かい笑い声に包まれた後、イウローネが優しく子供たちに声をかけた。
「さあ、獲ったお野菜をみんなで運びますよ」
イウローネの指示のもと、子供たちも農夫たちと一緒にテキパキと野菜を集めていく。
「では皆さま、お城へ帰りましょう。帰ったら自分たちで料理人のところまで運ぶのですよ」
「はーい!」
泥で汚れた小さな手で、採れたての大きな野菜を誇らしげに抱える子供たち。
無事、子供たちは収穫した野菜を料理人へ届けた。
「今日は皆さまが収穫したお野菜でサラダをお作りしましたよ」
料理人から受け取った大きな皿を囲みながら、一行は最後の目的地であるシャルロッテの部屋へ向かう。
「みんな、シャル姉さんは体がだるくて辛いんだから、静かにしていい子にしてないとダメだよ」
「「はーい!」」
「お姉ちゃん、これ食べたら元気になってくれるかな……?」
「うん、絶対すぐ元気になるよ!」
部屋の前に着くと、付き添いのマリーが子供たちを見つめ、静かにドアへ手をかける。
「皆さま、準備はよろしいですか? それでは扉を開けますね……お嬢様、失礼いたします」
「「おねえちゃん!!」」
扉が開いた瞬間、待ちきれなかったソフィーとヘレナがたたたっと部屋の中へ駆けだしていった。
「まあ、ふたりとも今日はどうしたの? 服に泥がついているわよ」
ベッドの上で体をゆっくり起こしたシャルロッテは、飛び込んできた幼い二人をいとおしそうに優しく抱きしめた。
「シャル姉さん、今日はみんなで畑に行ってきたんだよ! 二人とも泥だらけになるのは初めてだったから、とっても大変だったんだ」
後から入ってきたマクシミリアンが、少し誇らしげに胸を張って教えてあげる。
「そうなのね。……じゃあ、今日の夜のご飯のお野菜は、みんなが頑張って採ってきてくれたの?」
「うん! みんなで一生懸命採ったんだよ!」
「ふふ、ありがとう。こんなに美味しそうなお野菜を食べたら、私、すぐに元気になれちゃうわ」
幼い妹や弟たちが差し出す温かい贈り物に、シャルロッテの顔には今日一番の晴れやかな笑顔が咲き誇っていた。
◇
「マリー、今日はご苦労さま。助かったわ」
「いえ、とんでもありません。イウローネ様こそ、お身体にご不調はございませんか?」
「大丈夫よ。あの子たちの笑顔を見ているだけでも、疲れなんてどこかへいってしまうもの」
嬉しそうにサラダを頬張る子どもたちを見つめながら、イウローネは胸の中で静かに微笑む。
(――この子たちは、みんな優しい子に育っている。だから、大丈夫――)
かなり可愛いほのぼの回となりました。




