第十三話 月下の狂宴
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第13話投稿しました。
「お父様、見ましたか? 公爵邸のあの、無様な様子を」
豪奢な調度品で飾られた部屋に、嘲笑を含んだ高い声が響く。グラスに注がれた赤いワインを揺らしながら、女は満足そうに目を細めた。
「使えないポンコツを聖女にするから、あのような事になるんですわ」
「全くだ。あれでは、しばらく何も出来んだろう。今が攻め時だな」
男は深々とソファーに腰掛け、愉快そうに鼻で笑った。公爵邸の惨劇は、彼らにとっては願ってもない好機でしかなかったのだ。
「そうですな。しかし、まだまだこれからでございますよ。貴族連中をまとめていくのは進めていただきたいですが……もう一手欲しいですな」
「ならば近衛騎士達も取り込むといたしましょう。そうすれば王国騎士団、近衛騎士、両方を押さえることになります。これで宮中では何をしても止められません」
「流石はお父様。それは良いですわね」
父親の冷徹で計算しつくされた提案に、女――エルヴィラは手を叩いて称賛した。
だが、父の言葉に賛成の意を示しながらも、どこか浮かない表情で少し顔を曇らせていた。
そのわずかな変化を見逃さず、マティルデが不審そうに尋ねる。
「どうしたの? エルヴィラ」
「……ちょっと、子供達が心配ですので」
とっさに言葉を繕って微笑んでみせたものの、エルヴィラの瞳の奥にある陰りは消えていなかった。あの場で見たヴェルナードの姿。王ではなく一人の夫として妻を支え、娘を抱き締める、その姿が脳裏から離れない。
「そうね、確かに心配よね。でも皆助かったのでしょう? あの子たちなら大丈夫よ。自分の子供を信じなさいよ」
マティルデは妹を元気づけるように少し明るい声で答えたが、その胸の内に生じた小さな違和感までは拭い去れていなかった。
「まあ、心配なのは仕方あるまい。しかし、これからの我らに何一つ問題はない」
部屋の主である男がグラスを高く掲げ、満足げに全員を見渡す。
「今は祝杯をあげようではないか」
高く掲げられたグラスの向こうで、部屋のすべてが赤く染まっていく。
それを眺め、ノックス当主の口元が、ニヤリと歪んだ。
「——もうすぐだ。」
誰に聞かせるでもなく漏らしたその一言は、祝杯とともに喉の奥へと消えていった。
深夜、月光が静かに降り注ぐ月下宮の庭園。涼やかな夜風を受けながら、マティルデとエルヴィラは酔い覚ましを兼ねて佇んでいた。
「ねえ、エルヴィラ……子供が心配……ね??」
マティルデが試すような笑みを浮かべ、隣のエルヴィラに視線を向ける。
「え?? それは……マティルデ様も一緒ですよね……??」
「それは、私もマクシミリアンの事はとても心配よ。でも、あなたのとは違うわ」
「どういう意味です??」
「あら、私に言わせる気なの?? まあ、いいわ。ヴェルナード国王よね。一番心配なのは」
「……ちがい……ます……」
「ホント、あなたは昔から自分の事となると、嘘が下手ね」
呆れたようにクスリと笑うと、マティルデはエルヴィラの耳元へ顔を寄せた。
「そんなに心配なら、行ってあげればいいじゃない。ドロドロに甘やかして、骨抜きにしてしまえば?」
「そんなつもり……は」
「あるんじゃないの。良いタイミングだと思うわよ。色々心配で寝られてないでしょうし、あなたが行けばぐっすり寝かせてあげられるのではなくて?」
「っ……」
「まあ、あなたの好きにしなさいね」
ひらひらと手を振りながら去っていくマティルデの背中を見送り、エルヴィラはぽつりと取り残された。
(マティルデ様は……でも……ヴェルナード様……)
胸に渦巻く思いを抱えたまま、彼女は静かな夜空を見上げるしかなかった。
同じ頃、月下宮の執務室では、あかりを落とした室内で男二人がまだ杯を交わしていた。
「しかし、大丈夫なのか? エルヴィラは??」
「大丈夫でございますよ。あやつの持病のようなものです」
「病気だと?」
問いかけに、男はグラスの酒を揺らしながら平然と頷く。
「ええ。気に入った男と見れば、どんな手を使ってでも自分のものにしようとする。恋という名の病でございます」
「それは、何とも言えんな……」
「ああ見えて、あやつは一途でしてね。ただ、相手が持たないですよ」
「それは相手が気の毒だな」
苦笑交じりの会話とグラスの重なる音は、東の夜空が白ける頃まで途切れることなく続いた。
今回は、ほのぼの??会ですよね??




