第十一話「運命の祝宴」
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第11話 投稿いたしました。
「王様、王妃様、この度は誠におめでとうございます」
式典の会場では、訪れた諸侯や貴族たちが入れ替わり立ち替わり、祝辞を述べていく。誰もが緊張した面持ちで頭を下げる中、式典の終盤、悠然とした足取りで最後にやってきたのは——グランベルム侯爵と、ノックス魔導家の当主であった。
その4名が歩み寄ってきた瞬間、控えていた執事長と侍女長はそっと視線を交わした。誰にも悟られぬよう息を殺し、全身の神経を研ぎ澄ませてすっと戦闘態勢をとる。
「王様、王妃様。この度は誠におめでとうございます」
慇懃無礼としか思えない態度で祝いの言葉を述べると、四名は形ばかりの頭を下げた。
直後、ノックス家の当主が一歩前へと踏み出し、幼いヴィルヘルムへと近づく。その瞬間、弾かれたように執事長がヴィルの前に立ちはだかった。
「これはこれは、執事長。私が何か企んでいるとでもお思いですか?」
ノックス当主は白々しく肩をすくめてみせる。
「ヴィルヘルム様へ、我がノックス家に伝わる祝いの言葉を贈ろうとしただけでございますよ。シャルロッテ様を含め、すべてのご子息に賜ってきた儀でございます。なぜ私めが止められねばならないのですか?」
執事長は毅然とした態度のまま、王へと伺う視線を向けた。だがヴェルナード王は苦々しい表情を浮かべ、仕方がないというように小さく頷く。
「……失礼いたしました。では、よろしくお願いいたします」
執事長が道を開けると、ノックス当主は薄く唇を歪めた。
「ご理解いただければ良いのですよ」
そう言うと、ノックス当主は人族には聞き覚えのない言葉で、祝いの言葉を紡ぎ始めた。その瞬間——ヴィルヘルムの頭上に、光の輪が浮かび上がった。
「……これで終わりでございます」
ノックス当主はなんとも形容しがたい笑みを浮かべていると、そのまま背を向けて去っていった。
◇
ノックス当主が去り、会場には再び祝宴の空気が戻り始めた。もう挨拶も終わりかと思われたその時、ベゼラ妃が静かに歩み寄ってきた。
「王様、王妃様。この度は誠におめでとうござ……」
頭を下げて祝辞を述べかけたベゼラだったが、わずかに語尾を震わせる。しかし、顔を上げた時には何事もなかったかのような美しい微笑みを浮かべていた。
ベゼラがそのまま立ち去ろうとした、その時である。
「ベゼラ姫……?」
静かに声をかけられ足を止めたベゼラの視線の先には、枢機卿と賢者の姿があった。
「賢者様……!?」
「ベゼラ姫、息災であったか?」
「はい。子も授かり、健やかに過ごしております。……ですが、もう姫ではありません」
「そうか。ならば良い」
一瞬だけ二人の視線が交錯する。ベゼラは深く頭を下げると、すぐにその場を後にした。
「王様、王妃様、シャルロッテ様、ヴィルヘルム様。心よりお祝い申し上げます」
枢機卿は深々と頭を下げ、心からの祝辞を述べた。
「おめでとう」
賢者の言葉は短く簡潔であったが、不思議と場にいる者たちの心へ温かく、深く染みわたっていく。
次の瞬間、賢者の眼光が鋭くなった。ヴィルヘルムを見つめると、すぐさま短く呪文を唱える。
刹那、先ほどヴィルヘルムの頭上に現れた光の輪が再び姿を現し——**パリィン!**と、ガラスが砕けるような音を立てて弾け飛んだ。
何が起きたのか、その場にいた者たちが状況を理解する間もなかった。
直後、館の奥から裂けるような悲鳴が響き渡る。
「きゃああああっ!?」
どこからともなく真っ赤な火の手が上がり、黒煙が廊下を包み込む。邸内は一瞬にして狂乱の渦へと叩き落とされた。さらに、数名の者が突如として正気を失ったように暴れだし、周囲の参列者へと刃を振るって負傷者が続出していく。
「ただちに鎮火に向かいます!」
即座に判断した執事長と侍女長が現場へと疾走する。
暴れる者に対してはヴェルナード王と賢者が立ちはだかり、怪我人の救援にはイウローネが急行した。
執事長たちの手によって火は無事に消し止められ、暴れていた者たちも王と賢者によって取り押さえられた。しかし——負傷者たちの傷口からは不気味な魔力が蠢き、なかなか傷が塞がらない。
「このままでは間に合わないわね。シャルロッテ、手伝ってちょうだい」
「はい、お母様」
シャルロッテは迷うことなくイウローネのもとへ駆け出した。
逃げ惑う人々の悲鳴が飛び交い、炎が揺らめく祝宴の会場は、もはや先ほどまでの華やかさなど見る影もない。邸内は一瞬にして狂乱の渦へと叩き落とされていた。
誰もが、この日が王家の運命を大きく変える始まりになるとは、まだ知る由もなかった。




