第十話 祝宴の幕開け
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暑かった夏が過ぎ、過ごしやすい秋を迎えた。雲一つない晴天の日——
公爵邸では、第五王子ヴィルヘルムのお披露目と、第一王女シャルロッテの聖女襲名を祝う盛大な式典が執り行われていた。
二つの慶事を祝うため、国内はもちろん国外からも多くの諸侯や貴族が、豪華な献上品を携えて次々と公爵邸へ姿を見せていた。
しかし、それほどの大規模な催しにもかかわらず、邸内に一切の混乱はなかった。エルフの執事長と侍女長が的確に指示を飛ばし、使用人たちが淀みなく客人を定められた席へと案内していた。
そんな諸侯や貴族たちの中でも、ひときわ異彩を放つ一団があった。
第一側室派閥を率いるグランベルム侯爵家――そして、その傍らに静かに佇むノックス魔導家であった。
「ほう、これほどのものになるとはな。腐っても公爵家ということか」
忌々しそうに邸内を見渡しながら吐き捨てたのは、第一側室マティルデの父であるグランベルム侯爵だった。
その言葉に、隣を歩くマティルデが扇子で口元を隠しながら、不満げに鼻を鳴らした。
「何を仰っているのですか、お父様。この程度のこと、慶事を二つも重ねているのですから、できて当然ですわ。……マクシミリアンの時には、絶対にこれ以上の規模にしてみせますけれど」
「全くでございますな。豪華には見えますが、所詮はハリボテ。見せかけだけは超一流と言ったところですな。すぐにでも叩き潰したいところではありますが」
同調するように冷笑を浮かべたのは、ノックス魔導家の当主であった。
「お父様方はすぐに潰そうとなさるのですから。どうして、じわじわとすり潰す面白さが分かりませんの? これからゆっくりと、その翼を削いでいくのが良いのではありませんか」
「あなたはいつもそんな悠長なことを……。まったく、この忌々しい公爵邸にいるだけで苛立たしいというのに。早く姿を現さないかしら。わざわざ、ポンコツと出来損ないの顔を見に来てあげたというのに」
エルヴィラの愉しげな言葉にマティルデは苛立ちを隠そうともせず鼻を鳴らした。
「まあ待て。他の貴族への挨拶回りもある。奴らは今日の主役だ、出てくるのは最後だろう」
「そのようですな。……砂上の楼閣たる王家が崩れ去る様を見られると思えば、これくらいの退屈、良い余興というものですよ」
ノックス当主は片方の口角をゆっくりとつり上げた。
「仕方ありませんわね。ではお父様、私達は私達で回ってまいります。行きましょう、エルヴィラ」
「かしこまりました。では、行ってまいります」
マティルデとエルヴィラは、誰もが感嘆するような完璧な貴婦人の仮面を貼り付け、その場を後にした。
「ああ、また後でな。では、私達も行くとしよう」
男達もまた不敵な笑みを交わすと、華やかな祝宴の喧騒の中へと姿を消していった。
◇
公爵邸の一角にある控え室では、子供たちの楽しげな笑い声が響いていた。
元気いっぱいにはしゃぎ回っているのは、ヴェルナード国王の幼い子供たちである。
式典を前に、子供たちは母親たちと別れて衣装へ着替えることになっていたが――侍女たちの気苦労は、始まったばかりだった。
室内には、今日のために仕立てられた豪華なドレスや、小さな燕尾服など、これまで手に取ったこともないような衣装が所狭しと並べられている。そんな夢のような空間で、子供たちが興奮しないはずもなかった。
ひとしきり遊ばせて満足したところで着付けに取りかかろうとしたものの、気づけばすでに一時間が経過していた。
まだ時間に余裕があるとはいえ、式典に遅れさせるわけにはいかない侍女たちの心境は、とても穏やかではいられない。
そんな侍女たちの苦労など露知らず、「あっちのティアラのほうが可愛い!」「そっちのドレスがいい!」と口々におねだりをしては、思い思いの我儘で侍女たちを振り回すのだった。
◇
「お母様、お待たせいたしました」
国王ヴェルナードと正妃イウローネが待つ控え室に、第一王女シャルロッテを先頭にして、マクシミリアン、ヘレナ、ソフィーが後に続いて入ってきた。
無事に着替えを終えた子供たちの晴れ姿に、ヴェルナードは満足げに目を細める。
「おお、ようやくのお出ましだな。皆、実によく似合っておるぞ」
「本当に。みんな、とても立派ですよ」
部屋に入った瞬間はどこか緊張した面持ちだった子供たちも、二人からの温かい言葉に一斉に表情をほころばせた。
「お母様、ヴィルはどこですか?」
「ふふ、ヴィルもここにいますよ。ほら、この子もあなたたちとお揃いの特別な礼服を着ていますよ」
イウローネが優しく腕の中を示せば、子供たちが一斉に覗き込む。
「「「「可愛い……!!」」」」
四人の歓声が見事に重なった。
小さな小さな赤ん坊を前に、マクシミリアンが目を輝かせながら尋ねる。
「イウローネ様、この子が僕たちの弟ですか?」
「そうですよ、あなたの弟です。まだとても小さな赤ん坊ですから、しっかり見守ってあげてくださいね、マクシミリアン」
「弟か……! 大きくなったら一緒に何ができるかな。ヘレナやソフィーじゃできない遊びもできるよな。剣術の稽古だってできるぞ!」
嬉しそうに胸を張るマクシミリアンに、すぐさま妹たちの抗議の声が一斉にあがった。
「えーっ、ダメです! お兄様、ひとり占めはズルい!」
「私も……私も一緒に遊びたいです……!」
「はいはい、みんな。すぐに取り合わないの。まだヴィルは赤ちゃんなのだから、今はみんなで仲良く見守るって約束したでしょう?」
すぐに始まる兄妹喧嘩を、シャルロッテがお姉さんらしくたしなめる。それでも、ヘレナもちょこんと腰に手を当て、言い返した。
「したけど……それは今の話でしょ? 大きくなってからの話だもん!」
「ふふ、その時はその時で、ヴィル本人の意見も聞いてから遊ばないとダメじゃないかしら?」
「「「はーい……」」」
シャルロッテに優しく諭され、三人は揃って返事をした。
今までの賑やかなやり取りを微笑ましく見守っていたイウローネが、みんなに優しく声をかける。
「少しだけなら、優しく触れても良いですよ。みんながヴィルにご挨拶し終えたら、いよいよお披露目に出発しましょう」
やっと主人公が出てきました〜
まだ何も出来ません。




