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曼珠沙華  作者: 月白柚悸
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曼珠沙華05

月白です。前作もご閲覧いただきありがとうございます!

今作では色々と話が進み、次回で最終回となります。

どうぞ宜しくお願いします!

広間の中へ入って行った二人は、赤い絨毯(じゅうたん)の敷かれている先に佇(たたず)んでいる男の姿を視界に納める


「彗(スイ) 吏皇(リコウ)……」


ボソリと凛蓮(リンレン)が呟くのを聞き逃さなかった吏皇は無表情で淡々と言う


「父親に向かって、酷い口の利きようだな…凛蓮」

「私は貴方を父親とは思っていない」

「ほう……お前がいつからかそう思っていた事は薄々分かってはいた」

「分かってたなら……どうなるか、分かってるんでしょ?」


凛蓮が銃に手を伸ばすと、吏皇の前にはガードマンの壁が出来上がる


「……強行突破、か…」


螢灼(ケイシャク)が独語すると、凛蓮は背中合わせでクスリと微笑む


「ケイ、無理しなくても良いけど?」

「馬鹿言うな。俺がこのチームで入ってきた理由、忘れたワケじゃ無いだろ?」


持っていた剣を抜き、構えを取ると


「……じゃ、頑張りますか…っ!」


二人は一気にガードマンに攻め入る





凛蓮は先程の戦闘で強さは明確。

螢灼に至っては、剣の扱いに長けていた事が判明し次々と相手を薙(な)ぎ払っていく


「そんなに強いなんて知らなかった!」

「言ってなかったからな。仕方ないだろ!」


よく言えば勇猛果敢(ゆうもうかかん)に、悪く言えば考え無しに向かってくるガードマンを体術で伸(の)しながら

二人はあまり息が切れた様子もなく会話を続ける



プロとして、職に誇りを持っているであろう人物らにしてみればその態度は馬鹿にしているも同然で。

頭に血が上り向かっていくが、吏皇が手を叩いた事によりガードマンは彼の周りに再び配置する


「凛蓮、お前は如何(どう)して儂を裏切る気になったのだ?」

「……ある人から、本当の事を聞いたから…」


俯き加減になる凛蓮を見逃さず、吏皇は視線を螢灼に移す


「……小僧。名は何という?」

「…夾 螢灼……」

「夾……そうか……ならば、面影があるのも頷ける…」


ニヤリと、吏皇の顔に何かを企てたような笑みが浮かぶ


「…?」

「吏皇ッ!」


声を荒げ銃を吏皇の頭部に狙いを定めると、背後からガードマンに羽交い締めにされ

凛蓮は何とかして抜け出そうと躍起(やっき)になる


「レン!」

「しかし……馬鹿な男だ。二度も生命を救われてなお、儂に向かってくるとは…」

「……どう、いう…事だ…」


吏皇の言っている事が分からないのか、螢灼は視線を逸(そ)らさずに訊く


「聞いていないのか?この娘から、なにも」

「レンから……?」

「ケイっ!!聞かないでッ!!」


声を張り上げて聞くなと訴える凛蓮に、螢灼はいつもとは何かが違うと感じ取る


「レン?」

「其奴(そやつ)を黙らせろ…」

「黙らないッ!放せッ!!」


自分を拘束しているガードマンを退かそうと抵抗し続けるが、吏皇はそれを横目で見ながら螢灼に近付いていく


「愚かな男だ……まるで、父親そのもののようだな…」

「ッ!?…じゃあ………やはり、お前が父を…」

「そうだ。本当はあの時お前も殺せるはずだったんだがな……」

「黙れ吏皇ッ!!ケイ、早く此処から逃げてっ……話を聞いたりしないで!」


凛蓮は悲痛な声で螢灼に告げるが、螢灼は吏皇の言葉が気になってしまい脚が動かずその場に佇(たたず)んでしまう


「貴様は忘れているかも知れないが……この娘は貴様とまともに話した事がある」

「?どういう意味だ…」

「貴様が匿(かくま)う以前…父親を儂が殺めた時に会っていると言ったんだ。夾 螢灼」

「!!?」


螢灼が驚きのあまり硬直しているのを吏皇は面白い玩具を見ているかのような目で眺め

凛蓮は有らん限りの力でガードマン達をどけ、吏皇にナイフを投げつける。

だが、それはいとも簡単に掴まれ、床に落とされる


「凛蓮、危ないだろう?儂に当たりでもすれば大変だ」

「殺すつもりでやってるんだから好都合。今日はもう良いでしょ」

「ほう……では、儂のところへ戻ってくるという事か?」

「馬鹿な事言わないで。日を改めて襲撃してやるって言ってんの」


挑発的な姿勢を崩さない凛蓮に、螢灼は冷静取り戻しはっきりとした口調で言う


「……レン、話を勝手に進めるな」

「だって…」

「それより、元帥(げんすい)が言った事は本当なのか…?」


真摯(しんし)な目で肩を固定されて問われ、凛蓮は苦渋の表情で頷く


「これから話す事に邪魔になるな………凛蓮を別部屋に連れて行け」

「巫山戯(ふざけ)るなッ!!誰がお前の言う事なんかっ…」

「なに、お前の事に関しての秘密を教えてやるだけだ……それとも、自分で言いたいか?凛蓮」


含んだ笑みをこれでもかと言うほど表した表情に、凛蓮の頭に血が上っていく


「この…外道……ッ…」

「聞きたいのなら此処で聞いていると良い…」

「だったら……言えないようにしてやるッ!」


凛蓮は駆け出し、バタフライナイフを吏皇へ向けたが

ガードマン達が一斉に凛蓮の頭部に銃口を向け、一瞬にして膠着(こうちゃく)状態へ一変する


「あまり手を煩わせるな………儂が手元を狂わせて、“わざと”撃ち殺してしまうかもしれんぞ?」

「ッ!!」

「それが嫌なら黙って大人しくしていろ」


そう言うなり、ガードマンは凛蓮の後ろ手を取って押さえつけナイフを取り上げる


「レンっ!」

「小僧、聞こえていなかったのか?儂が手元を狂わせて殺すかもしれんぞ?」


ゾッとするような笑みを浮かべて言う吏皇に、螢灼は凛蓮の元へ行くのを留まり

大人しくその場に佇む


「では、この女の事について教えてやろう」

「ッ……ケイ……お願い…聞かないで………お願い……」


珍しく哀願(あいがん)するような声を出す凛蓮に、螢灼は唖然とする


「レン…?」

「ほぅ……凛蓮よ。お前はそれ程までこの男を慕っているのか?」

「………アンタに関係ない。彼は無関係でしょ?」

「そうはいかん。親子共々儂の事を探っていた事に代わりはない」

「けど、重要な事はあの人しか知ってないっ!!だから……ケイは見逃して……」

「不可能だ。お前が儂の命に背いた時から、既にこの小僧は殺す予定だった」


二人の会話について行けないのか、螢灼は戸惑った様子で声を発する


「………一体、どういう事だ?」

「それすらも話していなかったのか?」

「………言う必要がなかった」


苦虫を噛み潰したような表情で顔を俯かせて言うと、吏皇は愉快(ゆかい)そうに顔を歪めて螢灼を一瞥(いちべつ)する


「いや…お前はそうでも、向こうはあるようだぞ?話してやったらどうだ?」

「あんたの命令で話したくなんか無い」

「そうか……ならば、儂から話してやろう」



ゆっくりと一歩ずつ螢灼に近付き

螢灼は嫌な汗を背中に流しながら後退する事すら出来ずにいた


「まずはこの女が何者なのか、教えてやろう……」


本能で聞きたくない、と

逃げるべきだと思っていても

螢灼の身体は動く様子を見せなかった



「凛蓮は、クローン人間だ」



吏皇が言葉を紡(つむ)いでから、その場に刹那沈黙が漂う


「……クローン…?」

「アレは優秀な人殺しのDNAを組み合わせ作った、人造人間だ」

「レ、ン…が……?」

「そうだ。あの戦闘能力を見ただろう?並大抵の人間に、彼処までの力を引き出せると思うか?」

「………………。」


吏皇の言う事は信じられないが、合点する部分が幾つかあり

螢灼は呆然と黙り込んでしまう


「儂の作った中でも一番の傑作だったというのに……」

「黙れ……」


凛蓮は地を這うような声で吏皇を睨みつけ

その眼には殺意と憎悪のみが宿っていた


「凛蓮…儂を裏切ったらどうなるか……以前の事で分かったと思っていたが…?」

「ッ……」

「…以前の事って……」

「夾(キョウ) 凌灼(リョウシャク)が死に急いだのは、この女の所為だと言っているんだ」

「!!?」


次々と言われる事が、自分の考えを遙かに超えていて

螢灼は何もする事も、喋る事もままならなくなっていた


「あの人の二の舞には絶対にさせたりしないッ!」

「儂に勝てた事すらないのに、か…?」

「っ……クソ爺…」

「口を慎(つつし)め、凛蓮」

「ケイ。もう良いでしょ。早く此処から出て行って」


強い口調で螢灼に言うが、茫然自失(ぼうぜんじしつ)としている螢灼には僅(わず)かに届いてはいなかった


「そう逸るな。まだお前が何故記憶を失ったのか、話していないだろう?」

「話さなくて良いって言ってる!」

「どうだ…?気に掛かるだろう?話している間、貴様には指一本触れん。勿論、他の者にも攻撃はさせん」


一斉にガードマンが武器を降ろしたのを見て、嘘はないと判断でき

確かに気になっていた事だった為、螢灼は


「……分かった…」



+++



それは、凛蓮と螢灼が出逢う一週間ほど前の事…


凛蓮は吏皇から近日中に始末するようにと数枚の書類が入った封筒を受け取る


「この男は厄介でな……儂の過去にしてきた事を洗いざらい調べておるようじゃ。早急に見つけ出し口封じをしろ、凛蓮」

「分かりました、お父様……」

「イイコだ。部屋に戻りなさい」

「はい……」


事務的な返事をし、自室で渡された書類に目を通す

すると……


「……嘘………なんで……」


凛蓮は書類を持ったまま暫し硬直する


その手に握られていた書類には、螢灼の顔写真が貼られてあった…



呆然と頭の中を整理する為、凛蓮は何とか思考を働かせ

自分がどうしなければならないか必死で考える


「(この人、間違いなく凌灼さんの息子だ……確か、螢灼って…)」


もう一度顔写真を見ると、以前会った時よりも大人びてどことなく今は亡き凌灼に雰囲気が近くなっていた

このまま命令に従えば確実に螢灼を殺める事になる。


「(そんなのは嫌だッ!どうすれば……どうすればいい……)」


沈痛な面持ちで書類を握りつぶし

顔を俯かせて凛蓮は沈黙を続ける




不意に視線を自分の机へ向けると、凛蓮はある事を思い出す


「(……もし、この人にアレを渡せたら………あの男をつぶせるかもしれない……)」


皺(しわ)が寄ってしまった書類を伸ばし、凛蓮は再度写真を凝視する


「(その為には……命がけだなぁ……)」


自分で思いついた打開策に、凛蓮は思わず苦笑する

けれど、その表情に迷いはなかった。




その2日後、凛蓮は吏皇の研究所に潜り込みあるサンプルを持ち出し屋敷から抜け出す


「何とか此処までは成功…かな?」


凛蓮が持ち出したのは記憶操作に使う為に開発された物で

実験段階の為、何が起こるか分からない劇薬と紙一重のような薬品だった。


「(もし、捕まりそうになってもコレで記憶が飛べば……あの人は被害を受けない…)」


背後から吏皇と自分のガードマンが追ってきているのを感じながら

凛蓮は路地裏街へ入っていく



「クソッ……やっぱり手強い……」


巧く路地を活用して逃げてはいるが、ギリギリで逃げ切っているだけで

懐から取り出したカプセルを握りしめる


「(……飲むしかない、か…)」


固唾(かたず)を呑むと、凛蓮はカプセルを口に含み飲み下し

そのまま走り続ける



そして、出逢う数分前へと繋がっていく……



次回は9/28の11時くらいに投稿予定です。

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