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曼珠沙華  作者: 月白柚悸
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6/6

曼珠沙華06

月白です。ご閲覧いただきありがとうございます!

ついに最終回です!宜しくお願いします!

あの男が全てを話し

ケイが黙り込むのを何処か暗澹(あんたん)とした気分で眺めていた


知られてしまった……


知らせるつもりなんて、微塵(みじん)もなかったのに………


一番、知られたくない人に、バレてしまった…


頭が鉛(なまり)のように重くなって、顔を俯(うつむ)かせ眼を瞑(つむ)って


自分の中から何かが崩れる音を聞いた気がした…



そして、同時にこれ以上ないほどはっきりとした感情が浮かんだ。



あの男に対する殺意、憎悪、怒り


その所為なのか、目を開けると


視界は赤に染まっていた



気付くと、自分の目の前にいたガードマンが倒れていて


ソイツからナイフと拳銃を抜き取り


他にも自分を拘束していた奴等を血祭りにした。


恐怖なんて初めからない


感じたとしたら、それは愉悦(ゆえつ)


頭の中が真っ白で、ひたすら憎い男を殺したくて堪らなかった。



呆然としてるケイの手から剣を取って


周囲にずらりと並んだガードマンを一瞥(いちべつ)し


手にしていた銃をホルスターにしまい


剣のみを構えた。



そこからは良く憶えてない。


ただ、視界の色が可笑(おか)しくなったわけでもなく


辺り一面真っ赤に染まって


断末魔がいつまでも響いていた。



少しやりすぎたのか、吏皇(リコウ)は後ろから誰かを連れてきた。


それが気になってよく見ると、吏皇は顔を歪めて言う


「これが、お前の妹だよ。」

「私以外に、まだ……」

「お前はいつか儂に刃向かう事は分かっていた。だから、念のためにな。」

「そう……」


その娘は、昔の自分によく似ていた。


だから何の躊躇(ためら)いもなく、その娘が襲ってきた時


胴体を剣で叩き斬った。


剣に骨と肉が抉れる感覚、耳にはぐちゃっめきっって音が伝わってきたけど


そんなの何度も経験してるからそうでもなくて。


吏皇はそんなに簡単に死ぬなんて思ってなかったのか、驚愕(きょうがく)の表情になっていた。



「そんなに驚いた?私の力が?」

「あぁ……凛蓮、やはりお前は化け物だ。儂の元へ戻ってこい。」

「はっ………冗談じゃない。そんなの、こっちから願い下げ。」

「そうか……ならば、致し方ない…」



吏皇はまだ動いてないケイに向かって銃口をあわせる。


「ッ……」


今のケイは完全に普通の人間以下だ。


きっと避ける事なんて出来るはずがない。


そう思って、残りのガードマンを銃で撃ち殺し


引き金を引く前に、彼の前に行く事が出来た。


でも、あいつが撃ち放った弾は全部身体を貫通して


まるで曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花みたいに血が吹き出た。


絶叫したくなるのを何とか堪えて


残りの力を全部使って


この日の為に用意してた銃の引き金を引く。


その銃には改良した銃弾が込められていて


威力は普通の弾の二倍以上。


狙いを定めて撃ったお蔭で


弾は吏皇の頭部に触れ


次の瞬間爆発したかのように


辺りに脳が飛び散った


それを見届けると、身体に力が入らなくなって


重力に逆らう事が出来なくなって、身体は傾いた……



+ + +



あまりに一瞬の事で螢灼(ケイシャク)は頭が、心が、現状について行けなかった。


ただまともに働かない頭で分かった事は

凛蓮(リンレン)が、自分を庇(かば)って撃たれ

曼珠沙華のように血を流し

力を振り絞って吏皇を殺めたと言う事……



「ッ!レンっ!!」



崩れ落ちるように血を流す彼女を螢灼は抱き留め

凛蓮は、息も絶え絶えになりながらも微笑む


「よ、かった………ケガ…ない……?」

「何で庇ったりしたんだッ!?」

「死ん、で………ほし……なかった……」

「レン……」

「螢、灼……聞、いて………?」


血で真っ赤に染まった手を螢灼の頬に伸ばし

螢灼は力を込めて手を握る


「…父、の……やった…事………全部…私の……部屋に……データ、が…ある、の……」


時折口から鮮血を吐きながら、凛蓮は紡(つむ)ぎ

螢灼が何度制止を言っても首を振って言い続ける


「わた、しが……やり、た…かった、事………ケ、イが…かな、え…て……?

 …りょ、しゃく…さん……きっと…よろ、こ…ぶから……」

「何で……父さんの事……」

「父が…言った、事………全、部…ほんと……だから………ごめ…ね……?」


困ったように笑い、さも自分は苦しくないように見せる凛蓮が痛々しく

同時に絶対に失えないと思い声を張り上げる


「もう喋るなッ!!お前が何だって関係ないっ……レンはレンだろう…?」



螢灼の言葉に凛蓮は瞠目(どうもく)し、とても嬉しそうに笑う


「………あ…り、が……とぅ………ねぇ…………ケ…イ……」

「何だ…?」

「一つ、だけ………言って……良、い………?」


既に喋る事自体が苦痛なのだろう

浅い呼吸を繰り返し、徐々に体温が失われていく凛蓮をこれ以上ないくらい強く抱き締め

螢灼は首を縦に振る



「あ…のね…………                     」



螢灼が目を瞠って凛蓮を見下ろし

凛蓮は綺麗に微笑んで

血が真っ赤な口紅のように引かれた唇を重ね合わせる



「凛、蓮………」



離れた唇を思わず指でなぞり

凛蓮は唇を動かして螢灼に何かを伝えると



眠ってしまったかのように

ゆっくりと瞼を閉じ

その眼は二度と開かれる事はなかった……




「レン……凛蓮……なんの冗談だよ…………なぁ……起きろよ………まだ………ッ!……俺が、言ってないだろ……っ」



凛蓮の身体を揺すり、螢灼は本当に僅かに温もりが残る彼女を起こそうと

起きてくれる事を願って声を掛ける



『あ…のね…………ケイ……大好き、だよ………ごめん…ね……?』



「何で謝るんだよ……レン……」


凛蓮の骸を掻き抱き

氷のように冷たくなってしまった凛蓮に螢灼は口づける



「好きだよ……凛蓮………愛してる……」



幾筋も涙を流しながら螢灼は口付け

もう届かない言葉を繰り返す



『愛してるよ……』



最後に、そう告げた彼女と同じように………





それから数十分後


広間で血溜まりの中

真っ白が深紅に変わってしまったチャイナドレスを纏(まと)い、息絶えた凛蓮を抱き締め

静かに涙を流し続ける螢灼が仲間によって発見される。



螢灼は凛蓮から言われた通り、彼女の部屋を捜し

厳重に隠された場所からマイクロチップを見つけ出し自宅でその中身を確認する


ただ……

彼にとって、自宅は凛蓮と共に過ごした時間で溢れすぎて

止まっていたはずの涙がまた頬を伝う



泣いていても何も代わりはしないのだと、自分に言い聞かせ

螢灼はファイルを開く


存在したファイルの中には夥(おびただ)しい量の情報が詰め込まれていて

凛蓮がこれ程まであの男を憎んでいたのかが伺えた。

だが、憎むべき相手も愛すべき存在も同時に失ってしまった螢灼にとって

それらはただの情報としてしか映らなかった。

以前の自分ならば考えられないほど、心境の変化があった事に螢灼は自嘲的な笑みを浮かべる


「失ってから気付く…か……」


その通りだと思う、と螢灼はベットに横になりながら思考に耽(ふけ)る。

過去を振り返れば凛蓮の顔が次々と浮かんでは消え

こんなにも、愛おしいと、守りたいと思っていた事を思い知らされた。



眠るに眠れなくて、凛蓮が使っていた部屋に入ると

机の上に見慣れない手紙を見つける


「手紙……?」


封を切り、手紙を取り出すと

それは螢灼へ宛てた凛蓮の手紙だと分かる



螢灼は一呼吸置くと、恐る恐る手紙の内容に目を通す



――ケイへ

この手紙を読んでるとしたら、きっともう私は死んでるか重傷だと思う

でも、ケイは悔やむ事なんて無い。

だって凌灼(リョウシャク)さんの事、ずっと苦しかったのに

あの時何も出来なかった私が一番悪いんだから……

あの男を殺してる事を願うけど、一番の願いはね…


ケイに、幸せになって欲しい。


私はケイが好きだけど、その所為で困らせたくない。

私の事が忘れられないんなら、ちょっと嬉しいけど

気にしなくてイイよ。

ケイなら絶対にいい人が見つかるから。

私の事忘れるくらい、いい人を見つけて幸せになって欲しい


ホントはね、凌灼さんからケイと私が恋人同士なら良かったのにって言われた事あるんだ。

私はその時無理だって笑ったけど………本当は、なりたかった。

ずっと……記憶を失う前から、好きだった。

卑怯だよね……死んでからこんな事言うなんて

けど、あの男に私以外のモノを壊されるのは許せないから…

約束だけ守ってくれたら、すぐにでも忘れて?

私だけが覚えていればいい事なんだからさ……


最後に、在り来たりな言葉でしかいえないけど

私は貴方を愛しています


勝手に好きになってゴメンね?

PS:この手紙も読み終わったら燃やして下さい


彗 凛蓮より――




「ほんと……勝手すぎ………俺の事、考え無しかよ…」


文面を読んだら益々涙が止まらなくなり

螢灼は天井を仰ぐ


「ちゃんと、好きだって言えば良かった……」


螢灼の空笑いが、照明の入らない部屋に響き渡る

笑い声に、時折嗚咽を交えながら……





翌日、螢灼は凛蓮との約束通り彼女の遺体を埋葬する事にした

ただしそれは自分の父・凌灼の隣で。


凛蓮を埋めた上に、根ごと取ってきた曼珠沙華を植え

来年にはそこだけ真っ赤な華を咲かせるだろう…と手を合わせる。




数年後、夾 螢灼がどうなったのか知る者はいなかった

ただ、毎日あの死者の華を見に訪れる姿を知っている以外は……



fin

最後までお付き合いいただきありがとうございます!

よければ感想などありましたら是非よろしくお願いします!

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