曼珠沙華03
月白です。前作までご閲覧いただきありがとうございます!
今回は重要人物が出てきますので、宜しくお願いします!
彗元帥主催の闇オークションの開催が間近に迫り、螢灼は凛蓮にとある話をする
「なぁ、レン。ちょっと警察まで来てくれないか?」
「はぁ?!ちょっ……もしかして逮捕?」
目を瞠って訊ねる凛蓮に、螢灼は額に手をやり溜め息をつく。
「そうじゃない!今回協力して貰うんだ。メンバーに顔合わせくらいしておかないと駄目だろ?」
「あ、そっか……ビックリした…」
「素性は隠しておく。それなら大丈夫だろ?」
「多分………まぁ、警察でもあの人に手出しは中々出来ないんだけどねぇ…」
しみじみとした口調で言われた言葉に、螢灼は難しい表情で凛蓮に訊く
「……どういう事だ…?」
「あの爺、表向きに警察に援助金渡したり、政府官僚に実験の費用出したりして上層部の方は黙ってるってワケ。知らなかったの?」
「………全く知らなかった」
本当に知らなかったのか、螢灼は呆然とした様子で答える。
「最初、爺の捜査中々出来なかったんじゃない?」
「………何でそれを…」
「きっと金で買収されたんでしょ。アイツならやりかねない……」
凛蓮から聞かされる内容に、螢灼はポツリと呟く
「………完全に、思い出せたんだな…」
「でも……一つだけ思い出せない事があるんだよねぇ…」
「思い出せない事?」
「うん………ケイは気にしなくてイイから」
「???」
螢灼が頭に大量の疑問符を浮かべているのに気付かないフリをして、凛蓮は記憶の整理をしていた。
「(それに、絶対にあのことはバレたくない……)」
黙り込んで思考に耽っている凛蓮を見ながら、螢灼は気になっていた事を訊ねる
「なぁ………あの男は闇オークションで何をしてるんだ…?」
その問いに暫し間を開けると、重い口を開いて少しずつ述べていく。
「………人身売買に麻薬取引。武器のオークションに盗品の売りつけ…その他にも色々と。」
「……………。」
「ケイはどうしてあの男を捕まえたいの?」
「………あの男の捜査を父がしていたんだ…。そして……」
「殺された。」
螢灼の代わりに言葉を繋げた凛蓮を一瞥し、螢灼は悔しそうに肯定の言葉を言う
「………あぁ…」
「………ケイのお父さんの名前って何…?」
「夾 凌灼だ。」
「(夾 凌灼…………もしかして……)」
「父の名前がどうかしたのか…?」
「え、あ、いや………何でもないよ……」
螢灼の父の名前を知ってから、凛蓮の顔色は徐々に引いていき
ついには俯いて黙り込んでしまう
「本当に大丈夫か…?具合、悪そうだけど……」
「……ゴメン…今日はベット借りてもイイ……?」
「あぁ。明日、皆に会わせるから。それまでに体調戻しとけよ。」
「うん……」
凛蓮は青い顔のまま寝室へ入り、ドアを閉めるとズルズルと背中を預けた状態で床に座り込む
「……凌灼さん………ごめんなさい……」
+ + +
話は遡り、今から五年ほど前の事になる。
吏皇に引き取られ暗殺術を徹底的に叩き込まれた凛蓮は生きた殺戮人形のように父親の命じるがままに人を殺めていた。
それは警察も例外ではなく、吏皇の事を一番良く調べていた上海警察の一人…夾 凌灼を暗殺するように命令が下る。
「今度闇オークションを開催する。その時に乗じて、きっとアイツも乗り込んでくるはずだ。その時を狙って奴を殺せ。」
「はい……分かりました…」
「お前は儂を裏切らないな?凛蓮…」
「…分かっています、お父様……」
「良い子だ……いっておいで、凛蓮。」
「はい……」
生気の籠もらない瞳で頷き、準備を整える為凛蓮は自室へ戻っていく
「(もう何人殺したのかも分かんないや……)」
自室のベットに身体を投げ、ボンヤリと天上を見上げながら凛蓮は他人事のように思い耽っていた。
そこへ……
「此処が君の部屋?」
「!!?」
普段ならば気付くはずであろう人の気配に気付かなかった自分に驚き
凛蓮は声がした方へ視線を投げかける
「こんな子供がいたのか……」
「……アンタ、誰?」
「夾 凌灼。君のお父さんに用があってね…」
「だったら、私を殺してからにして。」
凛蓮は常備していたSAUER P230の銃口を凌灼に向ける。
「もしかして、君が凛蓮ちゃんかな?」
「そうだけど?私に何か用でもあんの?」
突然現れた男性を睨み付けながら、凛蓮は感情の籠もらない声で言う
「そう邪険にしなくても……僕は君をどうこうする気は無いよ。」
「大人の言う事なんて信じられない。」
「弱ったなぁ………取り敢えず、話しにくいからソレしまってくれないか?」
両手を上げ敵意がない事を示すと、凛蓮は凌灼を凝視したまま銃をしまう。
「人にすぐ銃口を向けるのは条件反射?」
凌灼の問いに素直に頷くと、彼は苦笑を零し凛蓮の頭を撫でる
「僕は君を殺す気はない。」
「じゃあ、なんで父を殺そうとするんだ?」
「あの人が何をしているのか、君は知っているかい?」
凌灼の言葉に、凛蓮は俯き絞り出すような声で言う
「………悪い事だって言うのは知ってる。」
「……君のお母さん。」
「!!?」
急に話題が母親の事になり、凛蓮はバッと顔を上げて凌灼を見る
「あの人は僕の友人でね……どうして彼女が死んだのか教えられた?」
「……知らない………でも、父が私を引き取って…この印を刻んだ……」
淡々とした口調で左肩のタトゥに触れる
「………彼女はね、僕に君の事を頼むといった事があるんだ。」
「……お母さんが…?」
「彼女は自分が利用されただけだと知っていて、君がもし殺しの道具になっているのなら助け出してやって欲しいと……」
「そんなの……聞いた事無い…」
「きっと言っていなかっただろうからね…。彼女に言われなかったか?『父親の事は恨むな』って。」
「………言った…」
「君は自分自身の事を殆ど教えられていないんじゃないか…?」
「………私に、いったい何があるの…?」
「……全て知りたい?」
「知りたい……」
「……決して良い内容ではないよ?」
「それでもイイ。私は、本当は何なのか知りたい。」
「……分かった…」
凌灼はベットに腰掛け、凛蓮に過去で何があったのか語り始める
全てを話し終え、凌灼は息をつき
凛蓮に目をやると彼女は静かに涙を流していた
「凛蓮……大丈夫かい…?」
「………教えてくれて…ありがとう……凌灼さん……」
涙を流していても、その目には光が宿っており
何かを決意したようにも見えた
「僕は、どうしてもあの男を許す事は出来ない。警察官としても、一人の人間としても。」
「………………。」
「君があの男のボディーガードとして、僕を殺すのならそれは仕方ない事になる。」
「……ねぇ………私は…どうすればいい……?」
「……自分の生きたいように生きなさい。」
「私は………もう…人を殺したくない……」
「……一緒に来るかい?」
凌灼は手を差し出し、凛蓮はそれを掴もうとする
その時
部屋に近付く足音が聞こえ、凛蓮はベットの下に凌灼を押し込む。
「なにを…」
「イイから、黙って気配を消して。」
数回ノックがあり、凛蓮が入るよう告げると父親である吏皇が姿を現した。
「凛蓮。後一時間でオークションが始まる。準備を整えておけよ。」
「分かりました、お父様…」
「忘れるな。あの男は必ず始末しろ。いいな?」
「はい……」
部屋を去っていく吏皇の姿を見送ると、凛蓮は凌灼に出てきても良いとシーツを捲る
「突然でゴメンナサイ…」
「いや……助かったよ。」
「凌灼さん。私は……自分で自由を掴みたい。だから………私はあの人を殺す…」
「……出来るのか?」
「私は元々あの人の事を父親だって思ってない。」
「そうか……もし、仮に僕が殺したとしても恨まないな?」
「勿論。でも、大丈夫なの…?」
「大丈夫さ。出来れば、息子を君に会わせてやりたいよ……」
「息子?」
「君より年上だけどね。螢灼って言って、凄く賢いんだよ。」
「へぇ……その人も警官になるの?」
「そう言ってる。螢灼と君が恋人同士になれたらなぁ…」
「会った事もないのに無理だよ、そんなの。」
「仮定の話さ。じゃあ……次はオークション会場で。」
凌灼は入ってきた窓から出て行き、凛蓮もオークションに向けて衣装を着替える。
夜になり、オークションが華々しく開催され凛蓮は常に吏皇の傍に控えていた。
だが、その眼は凌灼を探していて当然のように吏皇はそれに気付いていた。
「どうした、凛蓮。誰か探しているのか?」
「いえ………何でもありません。」
視線を別の方向へ向け平静を装う凛蓮を訝しみつつも、オークションは大いに盛り上がっていく
その会場裏で特別捜査班は突入する機会を窺っていた
「お前達は他の場所で待機していてくれ。此処は僕だけで行く。」
「しかし……」
「大丈夫だ。ヘマはしない。」
「……分かりました。」
「凛蓮…」
「はい。何でしょうか?お父様…」
「会場の裏へ回って人がいないか探ってきなさい。ネズミが入り込んでいたら始末するようにな。」
「はい。分かりました……」
凛蓮が去っていくのを見届けると、吏皇は部下数名に
「凛蓮と接触した者を全て排除しろ」と命じ
自分は笑顔を貼り付けたままオークションの成り行きを見守っていた
自分が監視されているとは知らず、凛蓮は凌灼の姿を捜す
「凛蓮?」
「あ、凌灼さん!」
「此処に来て大丈夫なのか?」
「凌灼さん、早く逃げて。此処に居る限り、貴方は狙われる。私は……貴方を殺したくない…」
「凛蓮……ありがとう…」
凌灼は微笑を浮かべ、凛蓮の頭を撫でる
「凛蓮様、何をなさっておいでですか?」
背後からかかった声に凛蓮は驚愕の表情に変わり
凌灼は警戒態勢を取る
「何故此処に居る?父の護衛はどうした。」
凛蓮に声をかけたのは吏皇のガードマンで、凛蓮は訝しみながらも問う。
「その吏皇様より命を受けました。」
「父から…?」
「はい。貴方様に近付く輩を排除せよと…」
「なっ……彼は関係ない!」
「それを決めるのは凛蓮様のお父上です。」
ガードマンは凌灼に銃口の標準を合わせ
凛蓮は引き金を引かれるよりも早く凌灼の手を引いてその場から逃走する
「凛蓮、こんな事をしたら君の方が危ない!」
「イイから!」
「僕が良くないんだ!彼女になんて言い訳をすればいい。」
「あんな親とも思っていない人より、貴方の方が私の親らしいよ。だから、死んで欲しくない。」
「凛蓮……」
「早く逃げて、凌灼さん。」
「それは出来ない相談だな、凛蓮。」
カチャリと凌灼の後頭部に金属の…銃のハンマーを倒す音が聞こえ、恐る恐る視線を向けると
「お、父様……」
彗 吏皇が冷笑を浮かべて凛蓮を見ていた
「それ程、母親を殺したのが許せなかったのか?」
「………許せない。どうして母さんを殺したの…?」
「使う必要がなくなったからに決まっているだろう。それに…この男も、あの女の知り合いだからな…」
「吏皇……お前は、本当に彼女を愛していたのか?」
「どうだったか……何か言い残す事は?」
「……凛蓮…君に会えて良かったよ……」
凌灼はそう言って微笑み
パァンッ!!
周囲に銃声が響き渡った…
「凌、灼…さん……」
凌灼の鮮血が飛び散り、ストンと凛蓮はその場に崩れるように座り込む
「これで分かっただろう?凛蓮。儂を裏切るとどうなるかが…」
凌灼の亡骸を凛蓮に渡すと、吏皇は冷たく低い声で言い放つ
「お前は儂の最高傑作だ……儂がいなければ生まれなかった事を覚えておけ…」
吏皇はガードマンと共に屋敷へ戻り、凛蓮はその場で亡骸を抱き締めたまま呆然としていた
「凌灼さん………凌、灼さ……ごめ…なさ………ごめん、なさい……」
凛蓮が静かに涙を流していると、元々雲行きが怪しかった空まで泣き出し
大地にザアザアと雫を降らせていく
凌灼の血で服の色が変色しても、降り続ける雨に打たれてもなお、凛蓮は凌灼の遺体を抱き締め
暫くたった後その身体を警察に運び届ける
+ + +
突然の父親の死を告げられた螢灼は、血相を変えて警察署の霊安室へ飛び込んでいった
「父さんッ!!」
「螢灼君……」
凌灼の同僚が彼の死を悼み、涙している時に荒々しくドアを開け螢灼は父の遺体に近付いていく
「……本当に、父が死んだんですか…?」
「はい……つい先程、ご遺体を運んで下さった方が帰られて…」
「その人が出て行ったのはいつ頃ですか?」
「本当につい先程……今からなら会えるかも知れません。」
その言葉に突き動かされ、螢灼は傘も差さずに飛び出していった。
がむしゃらに走っていると、前方にずぶ濡れになって同じように傘を差さないで歩いている女性を見つける
「(もしかして……)あの…ッ!!」
背後から声をかけられ、歩いていた女性…凛蓮は声がした方に視線をやる
「貴女が…父の遺体を運んでくれたんですか……?」
螢灼の問いに凛蓮は頷き、螢灼は凛蓮に歩み寄る
「教えて下さい。貴女は、何処で父を見つけたんですか?」
「………ゴメンナサイ……言えないんです…」
「どうして?」
「……ごめんなさい…」
「ッ……じゃあ、貴女が殺したのかっ!?」
「………私が殺したようなものだから……憎んで楽になるのなら、憎んで恨んで…」
消え入りそうな声で紡がれる言葉に、螢灼は何処に怒りをぶつけて良いのか分からず踵を返す
「おい、レン。こんな所で寝るな。」
凛蓮の様子を見る為寝室へ来ると、ドアの付近で横たわっていて
身体を揺すって起こそうとするが起きる様子は現れず
溜め息をついてベットに横にさせてやる
「……め…なさ………りょ……さ………ごめ……さぃ……」
譫言のように何度も繰り返し言いながら涙を流す凛蓮に疑問を抱きつつも
螢灼は潜入捜査を失敗させない為に、再度仕事を始める
次回は9/14の11時くらいに投稿予定です




