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第5話 ココナッツが直撃した王子様を拾った私

王城の一室で、密かな会話が交わされていた。

「カーサイス兄上の支持者だったホルンブルグ公爵が、兄上の復帰を狙って色々手を回しているようだ。情報と証拠が上がってきている。が、まだ決定的なものがない」

そう告げるのはフェルディナント。

「ポポイポラの領主は、フェルディナント兄上派だが、ホルンブルグのタヌキ爺に弱みを握られてたようだ」

アルレリウスも手持ちの情報を開示してみせた。

第二王子と第三王子を争わせて不安定な状況を続かせ、やはり第一王子こそ相応しいとカーサイスを王太子に復帰させる。

互いに分かっていることを照らし合わせると、ホルンブルグ公爵がカーサイスの王太子復帰を目論んで、暗躍しているのだろうと推測された。その一つの工作として、ミケラート当主を唆し、アルレリウスの婚約者にマルグレーテをというものも含まれていた。

「婚約者といえば、おまえが女性を連れてきたと大騒ぎになっているぞ?実際のところどうなんだ」

今まで浮ついた話もなかった弟の、突然の恋愛話にフェルディナントは興味津々といった様子である。

「それについては近いうちに、父上と兄上にお話したいと思っています」

「決めたのなら早く動けよ。侍女たちが、腕によりをかけて磨き上げると、それはもう張り切っているようだぞ?美しさが知れ渡ればあっという間に狙われるぞ」

兄の忠告に、アルレリウスはわずかに眉を寄せて、彼女の姿を思い浮かべた。

そのままでも充分美しいのに、手入れをされたらどれほどになるのだろうか。

だが彼女はただ守られるだけの、深窓の令嬢ではない。

自ら立ち上がり力強く咲く花だ。それを手折るような真似はしたくない。

「ホルンブルグ公爵に関しては、兄上に任せる、でよいですか?私はミケラート家が今後ヘカーディアに手を出せないように対処します。ポポイポラに関しては、先ほど報告した通り」

「ああ、この兄に任せるがいい。おまえはおまえのなすべきことをやれ」




朝食後、私は殿下に誘われて、美しく整えられた庭園に来ていた。

その一角は、白い花だけが咲き誇り、どこか神聖な空気さえ漂わせている。

「すごい…美しいです」

「気に入ってもらえたようでよかった。ここは、普段王族のみが立ち入ることができる庭園なんだ」

それを聞いて私は慌てる。

だから周りに人が少ないのか。

護衛の人たちもいるはずだが、視界には姿が見えない。

「そんな高貴な場所に私がいたらまずいのでは」

「君だからこそだよ、ヘカーディア」

そう言ってアルレリウス殿下は跪き、私の手にうやうやしくふれた。

「父上と兄上は必ず説得する。ミケラート家からも私が護る。だからヘカーディア、この手を取って私の隣で生きてくれないか」

ティールグリーンの殿下の瞳が、唯一無二の宝石のような輝きをたたえて私を見つめた。

「私は、ずっと平民として生きてきました。貴族らしい教育もほとんど受けておりません」

「そんなものは必要ないよ。君自身の強さと美しさに私は惹かれているんだ」

殿下の目に迷いはなかった。

私も、覚悟を決めないと。

「私も、アルレリウス殿下をお慕いしております」

殿下は立ち上がると、優しく私を抱き寄せた。

「これからは殿下ではなく、名前で呼んでくれないか?ああ、アルでも良いな」

いきなりそれは難易度高くないですか殿下。

「アルと、呼んでみて?」

そんな眼差しと甘い声でお願いされて誰が断れると言うんですか眩しすぎます殿下!

「あ、あううう…アル、さま」

しどろもどろになりながら小さく名を呼ぶと、それはそれはもう嬉しそうに、アル様は、笑った。


真白の花に包まれたここは、『誓いの花園』と呼ばれる場所。

王家の者がプロポーズする定番の場所なのだと、あとから聞いた。




その後すぐさま父である国王の自室にて、アルレリウスは父とフェルディナントの前に立った。

人払いされ、三人の会話を聞く者はいない。

「アルレリウスよ、改まって話とはなんだ」

「父上、いえ陛下。フェルディナント兄上を王太子に指名してください。私は臣籍に下り、兄上を支えたいと思っています」

王は、顔つきも凛々しくなったアルレリウスに問う。

「ほう、突然そのようなことを言い出したのは何故だ」

「真実の愛を見つけました」

ブフォッ!

王が吹いた。


フェルディナントは笑いをこらえている。

アルレリウスだけが真顔で、言葉を続けた。

「私は、国より彼女への愛を選びます。彼女の名はヘカーディア。ミケラート家の次女です。私は彼女を娶り、南の領地、ポポイポラを賜りたいと考えております。どうか、彼女との婚姻をお許しください」

そこで一旦区切り、書類の束を手に取る。

「こちらがポポイポラを治める伯爵に関する調査と、ヘカーディア嬢の調査書になります」

用意した書類を国王に渡し、王がそれに目を通す間、二人は黙って待つ。

やがて王が問うた。

「フェルディナント、おまえはそれで良いのか」

「国を治める覚悟なら既に。私は個人の情より、この国の安寧を優先します」

重々しく頷いた後、国王は少しばかり人の悪い笑みを浮かべて言った。

「諦めの悪い貴族に好き勝手させておくのも、そろそろ終わりにするべきではあるな」




それからのアル様は早かった。

私の実家に乗り込んで、婚約の了承と、今後私に関わらないという署名までもぎ取ってきた!

私が同席しなかったのはアル様の配慮だ。

「話し合いではなく通告だからね。君が同席してわざわざ嫌な目に遭う必要はない」

絶縁もこちらの条件をそのまま飲ませたそうだ。

「ポポイポラでの誘拐事件の指示をした証言があるからね。これを公にするか君との接触を断つか、選ばせてあげたんだよ」

体裁を何よりも気にするあの人たちなら、賊とつながりがあったなんて噂を流されるだけでも大打撃だろう。

「それと、上から助けは来ないことも教えてあげたからね。」

誘拐事件以外のことでも圧をかけられ、父はあっさり折れたらしかった。

5年も離れて暮らしてきた。

私にとってはもうどうでもいい人たちだ。

もう関わらなくて済むと聞いてホッとした。



世間では社交シーズンが始まっていた。

近いうちに大きな舞踏会が王城で開かれるので、その時に私とアル様の婚約を含む重要な発表を行うことになった。

そう、舞踏会に私も出席するのだ。

人生で初めての舞踏会が王子様との婚約発表とか、難易度高すぎませんか神様!

それはもうハードスケジュールで、みっちりと詰め込まれた。

最優先はアル様とのダンス。

その日もダンスの先生にしごかれたあとの、わずかな息抜きの時間にそれは起きた。


「どうしてあんたが!」

庭園でお茶をしていた私の前で、ヒステリックに声を荒らげているのはマルグレーテ。

同じことしか言えないのかしら。

私への接触は禁止になったはずなのに。

急いで人が呼ばれ、アル様にまで伝わってしまったようだった。

「何をしている!」

マルグレーテから私をかばおうとしたアル様を制して、私は一歩前へ出た。

「できそこないのくせにッ」

「ええ、そのできそこないの能力が何か覚えているかしら?」

そう言って私は軽く握り拳を作ると、庭園に据えられていた岩に突きを繰り出した。


パァーンッ!


牛ほどの大きさがあった岩が、木っ端微塵に砕け散った。

「ヒィッ」

衝撃波でマルグレーテは尻もちをついていた。

侍女さんたちも吹っ飛んでしまったのは申し訳ない。

そしてマルグレーテの前に立つと、その目をしっかりと見ながら言った。

「その気になればね、あなたをこの岩と同じようにするなんて簡単なのよ」

マルグレーテは真っ青な顔で震えたまま、声も出せないようだった。

「もういいです」

私が告げると、アル様は衛兵たちにマルグレーテを連れて行くよう命令した。

「すまない、もう関わらなくていいと言ったところなのに」

「いいえ、破ったのはあの人です。アル様は何も悪くありません」

それより、と粉々になった岩だったものを見た。

「お城の物を勝手に壊してごめんなさい!」


あとで騒ぎを聞いたフェルディナント殿下が現場を見に来たそうだ。

「兄上もあんな顔をするんだと初めて知ったよ」

と、アル様は笑っていた。

よほど驚かれたらしいが、どんなお顔をされていたのか、想像するのも恐ろしい。

一方マルグレーテは、当主が王家と交わした約束を破ったのだ。

当然お咎めなしとはいかず、王城への今後の立ち入りを禁止されたという。

期限はいつまでかわからないが、これで今後彼女にまともな縁談は来ないだろう。

恵まれた魔法の才と周囲からの愛情をたっぷりと受けて、何不自由なく幸せに育ったはずなのに。

でもそれも、私にとってはもう、どうでもいい他人事に過ぎなかった。

私は私の幸せをつかみ取るのに忙しいんだ。



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