別れた彼女は
駅のホームにあるベンチに腰掛け、健吾は線路を見つめていた。
「ねぇ、何で私達って別れるんだっけ……」
隣に座っている麻美が言った。
健吾はぎゅっと拳を握った。
「だから……遠距離になって会えないのがお互いつらいって話したじゃん」
「つらいけど、好きなの。つらいけど、別れたくない」
麻美が健吾の手を握った。
健吾はその手を振り解かなかった。
「この話何回もしただろ? 好きだけど……もうお互い限界だよなって言ったじゃん。俺は仕事をやめてこっちには帰ってこられない。麻美も仕事辞められないって」
「うん」
鼻をすする音が聞こえた。その音を聞いた健吾も鼻をすすった。
「二番ホームに電車が参ります」とアナウンスが流れ、電車がきた。
二人が鼻をすすっている音はかき消された。
乗るはずの電車を何本も見送って、麻美と健吾は手を繋ぎ続けた。
今日最後の電車がホームに入ってきた。
健吾は手を離した。
「今までありがとう。大好きだった」
健吾は麻美の顔を見ることなく電車に乗った。
一年後、麻美と別れた駅のホームに立っていた。
今でも思い出す。
麻美のことが好きだった。
健吾はふと横を見ると、抱っこ紐で子供を抱っこしている母親が目に入った。
よく見ると、麻美だった。麻美の横には男性がいる。
健吾は気づいたら、「麻美!」と呼んでいた。
健吾の声に反応した麻美は、目を見開いている。
「久しぶり」と健吾が言った。
「ひ、久しぶり」
「旦那さん?」
健吾は麻美の横に立っている男性を見る。
「う、うん」
麻美の旦那が軽く頭を下げる。
「赤ちゃん何ヶ月?」
「あ……今三ヶ月」
健吾は違和感を覚える。
「何月生まれ?」
「十……月?」と言って麻美が目を逸らした。
健吾の頭の中では計算が繰り広げられていた。
健吾は重い口角を思い切り上げ、「そ、そっか。お幸せに」と言ってその場から立ち去った。
健吾はスマホを取り出し、『十月に出産、いつ妊娠』と検索する。
検索結果、一月。
別れる約二ヶ月前。
「ということは?」と健吾はつぶやいた。




