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SPY・KIDS  作者: 奏良
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FILE35・クエン酸も使い道による

「悠!悠!」

僕は悠の体を揺さぶった。

貧血状態に陥っているんだ。

そろそろ血が固まってもいい頃のはずなのに、真っ赤な滝のように血は流れ続けている。

「何で・・・?」

僕は泣きたくなって、はっとした。

もし、悠を切りつけたナイフに、クエン酸が塗ってあったら・・・

僕は工作所聞いた、血を流し続ける方法を思い出した。


「いいかい、椎名君」

「何ですか?先生」

「たとえば、先生が椎名君をナイフできりつけたとしよう」

「え?!先生は、僕を切りつけたりするんですか?!」

「例えばの話さ」

「じゃあ、僕じゃなくて少林拳を切りつけたことにしてください」

「・・・じゃあ、先生が小林君を切りつけたとしよう。でも、それだとすぐに血が固まってしまう。痛みがあり、それからの対戦で勝利できる可能性は高くなるだろう。でも、もし、逃げざるを得なくなったときのことを考えるんだ。そうしたら、相手は傷をすぐに消毒して、また元に戻って襲い掛かってくるさ。では、逃げた後もなかなか自分たちを追ってこないようにするには、どうしたらいいか、分かるかい?」

「・・・相手の血が、固まらないようにする・・・?」

「そのとおりだ。では、どうやったら血が固まらなくなるか、分かるかい?」

「分かりません」

「それはね、ナイフにクエン酸を塗りつけておけば良いんだ」

「どうしてですか?」

「血を固めることに関わる蛋白質って物の大体半分くらいはカルシウムイオンか、脂質って物質と結合して、はじめて、下流にあたる酵素前駆体を酵素に変えることができるんだ。クエン酸は、この必須なカルシウムイオンを奪ってしまうから、酵素前駆体を酵素に変えることができないんだよ。

だから、反応が下流に繋がらないので血は固まらないんだ」

「・・・?」

「ははは、ちょっと難しすぎたかな」


今でも、先生の言葉の意味は分からない。

だけど、クエン酸が血を固まらないようにするということだけは、はっきりと思い出した。

「早く・・・傷口を洗って・・・」

僕は悠を運ぼうとして思い出す。

「こんな血まみれで・・・移動なんて出来ない・・・」

工作員のおきての中に、病院に行ってはいけない、というものがあった。

というのも、工作員という身分上、カルテに記録が残ってはいけないのだ。

だから、けがをしたりした場合、近くにあるホテルや空き部屋のアパートなどに急いで入り、本部を呼ぶのが基本となっている。

だが、こんな血まみれの少女を背負って移動すれば、警察を呼ばれるのは目に見えていた。

かといって、このままでは悠が・・・。

僕は部屋を見渡し、スーツケースがあることに気づく。

これだ・・・!

僕は床についている悠の血を痕跡すら残らないようにふき取り、スーツケースを引っ張り出した。

そして、悠の腕の傷を見る。

布で縛ってあるものの、血がしみこみすぎて、役に立たなくなってきていた。

僕は悠のエアーバッグの中に入っていた女装に使った上着を引き千切り、悠の腕を縛り直す。

それから着ていた警察の上着を脱ぎ、ジャージを羽織って、悠を出来るだけ衝撃がこないように布をつめたスーツケースに入れ、急いでデパートを後にした。

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