FILE31・怒りと助け
「今から、お前の入っている箱をある場所に運ぶ。そして、貴様ごと海に沈めてやるさ。
おっと、海に沈む前に箱の中の空気がなくなって窒息かな。
どっちにしたって、楽な死に方は出来ないね」
将捕の含み笑いが聞こえた。
僕はじっとしている。
ただ、一つだけ気に食わないことがあった。
「お前、いつまで少林拳の声使ってんだよ」
僕はボソリといった。
「ん?何だね?命乞いかい?」
「だから、いつまで少林拳の声使ってやがんだよ」
大事な友達・・・少林拳の声。
その声を、こんな奴らに使われたくない。
「しょうがないだろう。声で身元がばれても困るしな。だが、そこまで言うのなら・・・」
不意に将捕の声が消えた。
「こんな声でどうだ?」
そういって笑っているのは、悠の声。
僕の怒りは頂点まで達した。
「大事な仲間の声、使うな!悠を侮辱したら、絶対許さない!」
「クク・・・別に、われわれは君に許されようがどうって事ないのでね・・・われわれは殺される身ではない。殺す身なのだから・・・」
どす黒い悠の声。
止めろ!
僕がそう叫ぼうとしたときだった。
「あんた、よくも本人の前で人の声使えるわね」
「ひ・・・飛来?!」
本心から驚いた将捕の声。
これが本物の声だろうか。
少林拳よりやや低めの、いやらしい声。
「さて、私の仲間、返してもらおうか?」
そういう悠の声も怒っていた。
それは、きっと自分の声を使われたからじゃないだろう。
そうは思ったものの、何故悠がこんなに怒っているのか、僕には分からなかった。
「馬鹿な・・・蛇射が向かったはずなのに・・・」
「は?蛇射?あの握力がちょっと強いおっさん?きっと今頃、手首の痛みでうめいてるわよ」
心底馬鹿にした悠の声。
本当の、悠の声。
僕はすごくうれしかった。
悠の本当の声が聞けて、すごくうれしかった。
「じゃあ、私の仲間、返してもらいましょうか?」
その声が聞こえたとき、なんだかだんだん息が苦しくなってきた。
まだ頭は鈍く痛んでいるが、それとは無関係に・・・
僕ははっとした。
箱の中の酸素が減ってきているんだ。
まだ、この箱に入れられてそこまで立ってはいないだろう。
でも、殴られたこともあって、初め息はかなり荒かったはずだ。
そして、将捕との会話。あいつらは酸素を早く減らす為に、余計なことをやってのけたのだ。
僕はそれにまんまと引っかかり、怒鳴り声を上げてしまった。
酸素が徐々に尽きてきている。
悠・・・早く、助けて・・・




