FILE29・helpの携帯電話
「・・・っ!」
目が覚めると、そこはもうあの部屋ではなかった。
僕はまだ鈍く痛む頭で周りを把握しようとする。
体を持ち上げようとして、気づいた。
手足が動かない。
頑丈と思しい縄で、きつく縛られていた。
「ククク・・・」
あの狂ったような笑い声・・・将捕の声が、何か壁で遮断されたように聞こえる。
「ここがどこか気になるかい?」
今度は支配人の声。
「残念だが、あの怪力少女・・・飛来といったか?あいつは助けには来ない。
今頃、われわれが送った蛇射にやられてるさ。あの、飛来を追いかけた男だよ」
僕は必死で縄を解こうともがくが、箱のようなものに入れられているらしく、すぐに壁に手がぶつかってしまう。
ちくしょう・・・
「一つだけ、聞きたいことがある」
不意に、将捕の声色が変わった。
「何故、俺が偽者だと分かった。普通、仲間だと思っている奴の携帯を盗聴なんてするわけがない」
「・・・お前に、慎重さが足りなかったからだ」
「ほう」
「少林拳は、慎重な男だ。お前みたいな軽い行動、絶対にしない」
「そうか・・・ふむ、新たな変装の課題が見えてきたな。今度からは、そういうところにも気をつけるとしよう。最も、まさか君なんかにばれるわけがないと思っていたからな。今回は、あまり本気でかかっていなかった。
貧弱スパイもなめてかかってはいけない」
ククク、という笑い声が聞こえた。
「だが、お前の命もこれまでだ」
「・・・僕も、一つだけ教えてほしい」
「何だね?」
「ここは、どこだ?」
僕は、悠に言われたとおりの質問を投げかけた。
「そんなことを聞いてどうなる?」
「別に・・・知りたいだけだ」
この台詞は、嘘が下手な僕に、悠はこういえばダイジョウブだと聞かせた言葉だ。
「いい?」
悠は僕が偽少林拳の説明をして、僕の作戦を聞いた後、僕に言った。
「何?」
「あんた、将捕にそんな謎解きしたら、絶対口封じのために殺されちゃう」
僕は悠の言葉にうなずく。
「だから、私が部屋を出たら、錬の携帯から私の携帯に電話して」
「何で?」
「あんたの居場所知る為に決まってるでしょ?
私はマナーモードにして、こっそり受信ボタンを押す。錬は、切った振りして携帯をつなげたままにしておいて。そうすれば、錬がどこに連れて行かれても、錬の居場所が分かる。
だから、どこか連れて行かれてしまったら、今の居場所がどこか、絶対将捕って奴に聞くの。そんなことをたずねる理由を聞かれたら、知りたいだけ、としか言っちゃだめだからね」
「知りたいだけ・・・」
「そう、“別に、知りたいだけ”それしか言っちゃだめだから。そうすれば、相手が勝手に解釈してくれる」
僕はその言葉を心に刻んだ。
「フフ・・・冥土の土産って訳か・・・良いだろう。ここは、倉庫だよ。一階の一番大きな倉庫だ」
「一階の・・・一番大きな倉庫・・・」
僕がつぶやく。
「そう、ここが、貴様の墓場だ・・・」
支配人の含み笑いが聞こえた。
待ってな、錬!
悠の声が聞こえた気がした。
よし。僕は、
悠を信じる。




