FILE28・きっかけ
「悠、よく聞いてよ?」
錬は、そういって話し始めた。
「あの少林拳は、偽者だ」
「は?」
私は突然の発言に驚きを隠せない。
「な・・・なんで?」
「おかしいな、と思ったのは、本物の少林拳なら、体験工作員を絶対重役になんてしない。
それだけ、あいつは慎重な人間なんだ。体験工作員って、前にすごい失敗して、工作所潰しかけたことある奴がいてね、それから、少林拳はどんな人間であろうと体験工作員は信用していないんだ。それから、偽少林拳の行動を見ていたら、他にもおかしな行動があった」
「・・・」
「あいつは、少林拳って呼ばれると、どんな状況でも名前を訂正する。でも、偽少林拳は、訂正回数が真少林拳より、ありえないぐらい少なかった。
偽少林拳の電話、盗聴したことと、真少林拳に電話をかけたことが、確実な証拠。
偽少林拳の真の名は、将捕だ」
将捕・・・
私はその名前を頭で繰り返しながら、すごく驚いていた。
だだっこ錬も、やっぱり工作員なんだ。
ちゃんと、見るところは見てる。
錬を見る目が変わった瞬間だった。
「だから、部屋をいったん出て、麻薬の所持者まいたら、もう一度部屋に戻ってきてくれ」
私はその言葉にうなずいた。
私はさっき走った階段を駆け下りていた。
もちろん、足音を殺して。
「体験工作員。飛来悠」
不意に呼び止められた。
驚き振り返ると、そこには、まいたはずの男が立っていた。
「俺のことをまけるとでも思っているのか?」
「・・・」
それは、さっきのおびえたような声ではない。
私は、自然体のまま立っていた。
ここで騒ぎを起せば、錬の作戦に支障が出るかもしれない。
そう思ったら、思わず思考停止になってしまった。
「おとなしく、俺に従え」
男の手が伸びてくる。
十分かわせるが、私はいい事を思いつき、そのまま直立していた。
手が首に届く。
すさまじい握力のようで、すぐに息が苦しくなった。
でも、ボクシングの練習と比べれば、全く楽なものだ。
私はその手をつかんで、ねじった。
「ぎゃ!」
男が悲鳴を上げて手首を見る。
「残念でした」
私はそういいきって、手首を握った。
捻挫までは行かないが、少々痛みが続くかもしれない。
そう思いながら、再び歩き出す。
悠・・・
不意に錬の声が聞こえた。
聞こえた、というより、心に響いたというのが正しいだろう。
「・・・錬が危ない」
私はとっさにそう感じ、足音を殺したまま歩を早めた。
待ってな、錬!




