FILE27・二重のスパイ活動
「動くな!」
少林拳さんの大声が響いた。
「え・・・」
絵画を楽しそうに見つめていた雰囲気はもうない。
買い手も支配人も、おびえた表情でこちらを見ている。
「われわれは、貴様らの密売の証拠をつかんでいる。抵抗はするな」
みんな、高級そうなハンドバッグをつかみ落とす。
そして、支配人を見た。
支配人も青ざめた表情で私たちを見ている。
「手荷物検査をさせてもらう」
三人がかりで全員のハンドバッグをくまなく探った。
そして、一人の男のかばんから、白い粉が・・・
「・・・」
私はその粉の入った袋を無言で掴み取り、走って部屋を出た。
「あ、おい!」
錬の演技が聞こえる。
少林拳さんから見えないように、私に向かって錬がウィンクした。
私はにやりと笑って見せる。
「わ・・・私のものだ!」
男が追いかけてくる。
私はでたらめに走り、すぐに男をまくことが出来た。
「さて・・・」
私は、足音を消して密売のあった部屋へと歩を進める。
ダイジョウブ、僕を信じて。
私は錬の言葉を思い出して、目を開けた。
ダイジョウブ、ちゃんとできる。
「あれは、麻薬だったな・・・」
少林拳が演技を続けた。
「貴様ら、あの男がここでひそかに麻薬の取引を行っていたことを知っていただろう!」
真っ青な顔の買い手が、ブルンブルンと音がしそうなほど勢いよく首を振る。
「本当でしょうか、少林警部・・・」
僕は少林拳を見た。
「とりあえず信じるとしよう・・・それより、さっき麻薬を持って逃走した・・・飛来刑事は・・・」
「足音がしません。逃げたのでしょう。でも、ダイジョウブです。別の刑事に取り押さえるよう連絡はついています」
僕は、この場にいる全員とにも声が聞こえるようにわざと声を大きくしてしゃべった。
「声が大きいぞ、椎名!」
「す・・・すみません!」
少林拳が叱ってくれたおかげで、うまくにごまかすことが出来た。
「それよりもだな・・・」
「はい?」
少林拳の表情が、急ににやりと笑った。
「工作員コードR772。椎名錬。お前には・・・これ以上動いてもらうと困るんだよ・・・」
さっきまでおびえていた表情だった支配人が少林拳と同じ表情になる。
「ククク・・・驚いたか?」
その声は、もう少林拳のものではなかった。
「われわれは、こうなることを予想していたんだよ」
「・・・将捕」
「え?」
「それが、お前の名前だろう?」
僕はゆっくりと前を見据えた。
少林・・・将捕は、一瞬驚いたように目を見開き、元の表情に戻った。
「何故分かったのかな?」
「オマエの電話、盗聴させてもらった」
「ククク・・・そこまでされていたとは・・・全く気づかなかったよ」
将捕は、依然として僕を見下している。
かなり腹が立ったが、黙っておいた。
「お前が電話をかけたのが、お前の本当のボス・・・全ての黒幕。違うか?」
「そのとおりだよ。R772。だが・・・少ししゃべりすぎじゃないかな?」
僕ははっとした。
そして、後ろを振り返る前に、背後にいた支配人に後頭部を殴られる。
くそ・・・
悠は・・・悠は、何をしているんだ?
僕は、朦朧としている意識の中で悠の名前を呼んだ。




