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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
5章:遠征編
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57話:竜攘虎搏

クロトの戦闘に続き、今回は珍しくフィリア主体の戦闘回となります。

前回のあとがきに書いたように、新たなスキルも幾つか登場します!

 〜人間界〜


 騎士団長からの指名を受け、双剣を構えつつ訓練所の中心に立つフィリア。

 その正面に居るのは、同じように自身の剣を構えて対峙する二人(・・)の男。


 実技試験で十位の結果を残したシム=フリードと、九位のアダム=ディアン。

 互いに近い実力を持つ二人の存在が双璧となり、彼女の前に立ち塞がる。


(はあ……なんだか面倒な事になったわね)


 数分前に告げられた騎士団長の言葉を再び反芻し、フィリアは脳内で弱音を吐く。

 突然の指名にも驚かされたが、衝撃の言動はそれだけでは終わらなかった。


『戦う相手は一人ではない。お前の成長を見るためにも二人相手で試合を行って貰う』


 冷淡な口調から冗談ではないことを察し、フィリアは辟易する思いで渋々と承諾したのだ。


(こうなったら、以前の私とは一味違うってところを見せてやろうじゃない!)


 いざとなれば火がつく性格であるフィリアは、気を引き締めて再び眼前の相手を見据えた。


 両者の意識が試合に向いた事を察知した騎士団長は、その空気が変わらぬ内に場を仕切る。


「双方とも用意は良いな。では、戦闘――」


 より一層緊張した空気の中で、更に集中力を研ぎ澄ます両者。


「――始め!」


 咆哮と共に剛腕が振り下ろされる刹那、フィリアが一陣の疾風となり、地を駆けた。


「はぁっ!」


 勇ましい叫び声と共に、光線の如く鋭い二つの剣閃が相手の両者へと迫りゆく。

 その先制攻撃を予め読んでいた両者は、反射的に各々のスキルを発動。


 アダムは上位能力(ユニークスキル)の"硬質化"により剣と腕全体を硬化させて防御。

 一方、シムは視覚に入った攻撃を反応可能な範囲で自動回避する通常能力(ノーマルスキル)"瞬避"により攻撃を避けた。


「やるじゃない。これならどうかしら!」


 二人の間を通り抜けたフィリアだが、反撃の隙を与えず、身を翻して再び距離を縮める。


「やああっ!」


 再度二人に襲い掛かる、フィリアの剣閃。

 今度は速度重視の一撃ではなく、手数を重視した"双剣乱舞"による怒涛の猛撃。


 硬化された剣により全ての攻撃に耐えるアダムと、恐るべき反射神経で避け続けるシム。

 以前の二人のスキルであれば、ここまで効果は長く続かなかった。

 何度も繰り返し使用することにより、熟練度を高めたのであろう。


 何度も衝突し合う互いの剣は、辺りに甲高い金属音を響かせる。

 このまま拮抗した状況が続き、体力の勝負になるかと予想する兵士達。


 たが……フィリアもまた、入団試験の時から立ち止まってはいない。

 威力、速度ともに進化を遂げたフィリアの一振りは、筋肉質で体格的に有利な筈のアダムを確実に追い込んでゆく。


「そこよ!」


「ぐあ……っ!」


 無敵にも思える防御力を披露したアダムだが、遂に"硬質化"の限界が訪れた。

 連ねて振られた双剣の一撃により、その手から剣が吹き飛ばされる。


「……無念」


 潔く負けを認めたアダムは、残るシムの戦いを邪魔せぬよう、両者の戦いから身を引く。


「フンッ!」


 そこで、アダムの方に双剣の攻撃が集中したことにより発生した隙を見逃さず、シムが反撃に転じる。


「甘いわ!」


 しかし、その反撃を予測していたフィリア。

 左手の剣でそれを受け流し、右腕の剣を体制を崩したシムの首元へ向けて振るう。



「……っ」



 身体の数センチ手前に迫った刃を見て、シムは自身の敗北を悟る。

 フィリアの一閃は、シムの首元に当たる前に寸止めされた。

 しかし、この状況を見れば、誰の目にも彼女に軍配が上がった事は明白だろう。


「そこまで! 勝者、フィリア=ランベリー!」


 騎士団長の勝利宣言を聞き、初めて歓声が上がる。

 単純に少女の実力に対して驚く兵士達と、フィリアの成長ぶりを賛美する同期によるものだ。


「ふう、何とかなったわね」


 肩の力を抜き、一息つくフィリア。

 その表情には幾分と余裕が感じられ、かなりの体力を温存している様だ。


「どうやら、思いのほか成長しているようだな。では次の試合を行う!」


 その余裕を騎士団長も察したのか、続けて次の対戦に向けた指揮を執る。

 だが、それ以上の言葉を言うまでもなく、既に次の二人は動き始めていた。



 ......................................................



 再びフィリアの前に現れた闘技者は、八位のジェン=アデルと、七位のクリス=センシオの二人。

 先程の試合を見て、油断出来ぬ相手だと再認識したのか、その表情は真剣そのものだ。


「あの……二人とも、殺気が凄いんだけど?」


 二人の表情の(けわ)しさに、フィリアが困惑したように呟く。


「すまんな。だが、お前を相手に気を抜くのは禁物だと心得ている」


 そう答えるのは、既に息を整えて集中力を極限まで高めていたクリス。

 抜剣から構えるまでの戦闘準備を済ませており、今にも戦いを始めてしまいそうな雰囲気だ。


「気合いは充分だな。なら始めるとしよう」


 両者の表情を一瞥し、気合いに満ちたクリスとは対照的に冷静な態度で騎士団長が声を掛けた。


「試合――始め!」


 そして大きく息が吸い込まれ、発せられた爆破音のような宣言が会場全体に轟く。


 電光石火で反応し、同時に動き出す二つの勢力。

 瞬きすらも許さぬ閃光の如きフィリアの疾駆が、脅威の速度で彼我の距離を詰める。


 それを読んでいた二人は、反撃を前提にして集中力を研ぎ澄ませていた。

 先に"軌道予測"で剣筋を予知していたクリスと、寸分の狂いもなく"攻防一体"を発動させていたジェンは、危なげなく双剣を回避。


「後ろは貰ったぞ!」


 フィリアの背後に回ったジェンが、剣を振り翳して叫ぶ。

 回避するだけが"攻防一体"の効果ではなく、相手の死角に回り込む事も可能なのだ。


 一瞬にして二人に挟み込まれ、窮地に立たされたフィリアの表情に驚愕の色が浮かぶ。

 しかし、一瞬の焦燥は、すぐに余裕の笑みに切り替わった。


「"旋撃衝(せんげきしょう)"!」


 辺り一帯に響き渡る、彼女の叫び声。

 それに呼応するかのように、突如発生した青白い無数の光芒が双剣の刃を包み込む。

 そして光剣と化した己の武器を、フィリアは身を捻って独楽(こま)のように旋回しながら遠心力を利用して振り回し、風を切り裂く。


「くっ……!」

「うぉっ!?」


 半瞬後、円の軌跡を描く光線が螺旋状に拡大し、突如発生する強大な暴風と眩き閃光。

 光り輝く嵐の如き風の奔流が猛威を振るい、二人の身体を凄まじい勢いで吹き飛ばす。


 猛烈な勢いで壁に叩きつけられる二人。

 その衝撃は両者から容赦なく意識を奪い取り、一撃で雌雄を決するほど。


「勝者、フィリア=ランベリー!」


 疑いの余地もないフィリアの勝利を、騎士団長が声高に宣言する。


「このスキルの存在は出来るだけ隠しておきたかったんだけど……ま、仕方ないわね」


 当の本人は未だ疲れた様子を見せず、先程の試合についての愚痴を零す。




 ここまで余裕の戦いを見せる彼女の限界は、果たして何処にあるのだろうか。

 この場の誰もがそう考えた時、再び騎士団長が予想外の言葉を口にする。


「ふむ、まだ余裕があるようだな。では順番を飛ばして、次の相手はエドワード=クラウスと、グリル=アルマーニの二名としよう」


 その発言にいち早く反応を示したのは、当然ながら次の試合相手となる筈だった、アルノー、ウィーカー、デニスの三名だ。

 だが、怪訝な表情を見せる彼らの心情を即座に察した騎士団長がその理由を告げる。


「本来ならエドワード=クラウスまでを二人ずつで組ませ、グリル=アルマーニを最後の壁とするつもりだったが……今の彼女の実力を見る限り、それでは甘いようだ」


 確かに彼ら三人の実力は、全員が比較的クリスとジェンに近い。

 しかし、エドワードとグリルの二人は違う。


 幾つもの上位能力(ユニークスキル)を所持しており、万能戦士(オールラウンダー)として高い完成度を誇るエドワード。

 そして、卓越した技術で無敵の防御と一撃必殺の攻撃を実現するグリル。


 今のフィリアに対抗するには、彼ら二人の組み合わせこそが最善と言える。


「それに、お前達のスキルでは不利な相手となる。自身でも分かっているだろう?」


「くっ……」


 毅然とした態度を崩さぬ騎士団長の説明に、アルノーは苦い顔で言葉を漏らす。


 本音を言えば、成長した彼女と戦いたいというのが三人の胸中だ。

 しかし今は、あくまで彼女の実力を測るための試合。

 理路整然と事実を並べられた以上、私情を挟む余地はない。


 そんな葛藤に頭を悩ませる三人の隣を、長い金髪を揺らめかせながら一人の男が通り過ぎる。


「私達が雪辱を果たす。……必ずな」


 その正体は、目を合わせる事もなく呟き、相手となるフィリアをただ真っ直ぐに見つめながら前身するエドワード。

 冷静な振舞いとは裏腹に、その凛とした瞳は見る者に熱き闘志を感じさせる。


 そして彼に続く、もう一人の闘技者。


「辛気臭い顔すんなって。俺達も成長してんだってとこ、見せてやりたいんだろ? やってやろうじゃねえか!」


 剛毅豪胆な態度で、眩しいまでの笑顔を仲間に向けるグリル。

 そして視線がフィリアへと移されるが、エドワードとは裏腹に、余裕のある笑みで足を踏み出す。


 その背中を呆然と見つめる三人の中で、ウィーカーは無意識に口を開く。


「……あいつら、逞しくなったな」


 その一言は、アルノーとデニスの胸中を確かに表現するものであった。



 ......................................................



 試合の場に役者が出揃い、誰もが固唾を呑んでその様子を見守っている。

 これまでの戦いも遂に佳境へと入り、最後の戦いが今、始まろうとしていた。


「悪いけれど……手は抜かないわよ」


 余裕綽々とした笑みを見せるフィリアだが、剣を構える姿に隙は無い。

 目の前の二人は、今までとは明らかに一線を画す相手だと理解しているからだ。


「ああ、寧ろ有難い」


 微塵たりとも揺らぎのない表情で、エドワードが言葉を返す。

 威風堂々たる雰囲気を放つ彼の構えは、自身に満ち溢れたものであった。


「全力のアンタを超えてこそ、意味があるんだぜ!」


 グリルもまた、先程と変わらぬ笑みでフィリアの宣言を肯定する。

 仲間の無念を背負う彼らを相手に、手加減は侮辱なのだ。


 両者のやり取りを窺いながら、騎士団長は静かに息を呑む。


(ふむ……予想以上に、互いから伝わる覇気が拮抗しているな。もしかすれば、面白い結果になるかもしれん)


 彼はそんな思惑を胸中に隠し、意識を切り替えて試合に集中する。


「これが最後の試合となる。必ず全力を尽くせ」


 一言、短くそれだけを両者に告げると、騎士団長は再び腕を高く振り上げた。


「では、試合――始め!」


 遂に最後の戦いの火蓋が切られ、両者が動き出す。




 振り下ろされる騎士団長の腕に反応し、フィリアは即座に目にも止まらぬ速度で距離を詰めてゆく。

 だが、エドワードとグリルを前にして、それは自滅行為に等しい行動だ。


 事前にあらゆる手を予測し対策を講じていた二人の防御態勢は完璧で、向かってくるフィリアを迎撃する心構えまで整っていた。

 研ぎ澄まされた神経は目に映る光景の体感速度を大幅に低下させ、一陣の風となったフィリアの動きを完全に捉える。


 決して焦らず、極限まで引き付けて反撃の機会を窺う二人。

 だが、攻撃の間合いに入るよりも先に、直進していたフィリアが軌道を直角に変更。


「なっ!?」


 自分達の狙いが外されたことに、グリルが驚愕を声に出す。

 しかし彼らの予想外は、これから始まるのだ。


「"空連踏躍(くうれんとうやく)"!」


 それまで足を着けていた大地を離れ、空に飛び上がるフィリア。

 次の瞬間、驚くべきことに虚空を移動する彼女が空間を蹴り、その進行方向を強制的に変更した。

 まるでそこに壁が存在するかのような跳躍は幾度も繰り返され、その予測不能な動きが二人を翻弄する。


「くっ……(はや)い!」


 (かすみ)と化したフィリアの動きを捉えられる筈もなく、エドワードは勘に任せて周りを見廻す。

 しかし、その目に映るのは本物ではなく、全てが残像。


「はぁっ!」


 相手の死角から不意を突き、フィリアは空中で高速回転しながら斬撃を繰り出す。


 吸い込まれるような正確さで、二人の剣へと襲い掛かる双剣の刃。

 グリルとエドワードはその攻撃に反応できておらず、その一撃は勝敗を決することになる――筈だった。


「うおらぁっ!」


 有り得ないことに、グリルが突如として振り向き、見えていない筈の攻撃を巨大な両手剣で防御したのだ。

 それを成した要因は、訓練の中で入手した彼の上位能力(ユニークスキル)"瞬衛身(しゅんえいしん)"によるものである。

 発動してから三秒間、視覚外からの物理攻撃でも必ず一撃のみ自動的に身体を操作して防御する効果で、グリルの戦闘スタイルと相性の良いスキルと言えるだろう。


「う……嘘でしょ!?」


 フィリアにとっても、今の一撃は必殺のつもりであった。

 故に、目の前でそれを防がれたという事実に動揺を隠せない。


「今だっ!」


 双剣を受けながら叫ぶグリルの声を聞き、咄嗟にエドワードが動きだす。


「"閃光斬(せんこうざん)"!」


 紫電一閃。光の如き俊敏な動作で疾駆するエドワードがフィリアとの距離を縮め、その剣で風を薙ぐ。

 だが、その銀閃は彼女の脅威的な動体視力と瞬発力によって紙一重で躱される。


「くっ……!」


 間一髪で躱したフィリアに、反撃の余裕は無い。


「"追刃(ついじん)"!」


 勢いのついた身体に掛かる慣性を一瞬にして制御し、身体を反転させて更なる斬撃を加えるエドワード。

 素早い身のこなしで悉くを回避するフィリアに対して、動きを読んでいるかのような攻撃を繰り出してゆく。

 ……否、相手の動作の規則性から次の行動を予測し、次第に相手を追い詰めてゆくのが"追刃(ついじん)"の効果なのである。


 しかし、こと戦闘において鋭い勘を持つフィリア。

 段々と研ぎ澄まされてゆくエドワードの剣筋を見て体制を立て直すべきだと判断し、"空連踏躍(くうれんとうやく)"を用いて再び距離を取る。


「"旋撃衝(せんげきしょう)"!」


 そして互いに剣の届かぬ距離から、彼女の必殺技とも言うべき上位能力(ユニークスキル)が発動され、荒れ狂う風が二人を猛襲。


 だが――


「グリル! やれえぇぇっ!」


 眼前に迫る猛威に臆することなく、エドワードは驍勇なる咆哮を戦友に向ける。

 彼の身体は容赦なく吹き飛ばされるが、その瞳は勝負を諦めていない。


「"反逆斬(カウンタースラッシュ)"ッ!」


 紅色の閃光を放つ剣を振り翳し、それを地面に叩きつけるグリル。

 大地をも震撼させる衝撃から生じる気体の奔流が、襲い掛かる暴風を相殺した。

 二つの颶風は逃げ場を求め、訓練所の内部に瞬間的な嵐を巻き起こす。


「きゃあああっ!」


 嵐の発生源の近くに居たフィリアの軽い身体は風圧により容易に吹き飛ばされ、まともに受け身も取れずに地を転がる。


 身体への痛みと地面への激突により、彼女はその両手から剣を手放してしまう。

 質量の小さい双剣もまた風に飛ばされ、咄嗟に回収することは不可能。


 嵐が過ぎ去り、周りの者達が視線を試合へと向けた時、その目には真っ先に地に伏せるフィリアの姿が映される。

 その向かい側には、悠然と立ち尽くすグリルと、倒れた身体を少しずつ起こすエドワードの姿。

 誰の目から見ても、既に勝敗は決していた。


 風圧の中でも不動のまま一部始終を捉えていた騎士団長でさえも、試合の判定に僅かな躊躇を覚える程の結末に、その場の誰もが言葉を失う。


「……そこまで! 勝者、グリル=アルマーニ! そしてエドワード=クラウスの二名!」


 暫くの沈黙を経て、静寂の中で騎士団長が判定を叫んだ。

 熾烈な戦いの終わりを告げるその声に、二人の勝者は肩の力を抜く。


「私が……負けた?」


 数秒ほど意識を失っていたのだろう、場の状況を整理できていないフィリアは地に倒れたまま、無意識に呟いていた。


「おうよ。悪いが勝たせて貰ったぜ。でも嬢ちゃん、めちゃくちゃ手強かったぞ?」


「うむ。一人だけでは到底敵わぬ相手だったな」


 二人の台詞はフィリアに対する同情ではなく、正直な感想である。

 絶妙な連携が取れていたからこそ今回の勝利が有り得るのだと、本心で思っているのだ。


「でも……私は……」


 弱々しく呟きながら、観戦側に居る一人の存在に視線を移す。

 その目線の先にあるのは、戦いに敗れてもなおフィリアを見守るクロトの姿。

 本当は最初から、自分の成長を彼に認めて欲しかったのだ。


「心配せずとも、お前の力は俺を含め、この場の全員に認められている。胸を張って誇るべきだ。フィリア=ランベリーよ」


「……はい」


 自身の成長を騎士団長に認められた。

 その事実を、フィリアはゆっくりと身体を起こしながら噛み締める。


(これで、クロトも少しは私を認めて……って、あれ?)


 再び視線を先程クロトが居た位置へと移す彼女だが、何故か姿が見当たらない。


「身体は大丈夫なのか?」

「きゃあ!?」


 少し目を離した隙に、いつの間にか隣へと移動していたクロトに声を掛けられてフィリアは吃驚した。


「おっと、すまない。驚かすつもりはなかったんだ」


 軽く謝るクロトだが、フィリアは彼に怪訝な表情を向けて語りかける。


「……別に。それよりも見ていたでしょう? さっきの試合を」


 それは、自分に対する彼の評価を求める為の台詞だ。

 この敗北は自分の実力による結果であり、言い訳をするつもりは彼女には無かった。


「ああ。良い試合だった」


「……え?」


 意外な評価に対して、フィリアは呆然とした表情を見せる。

 彼女は試合中の失敗を取り上げられ、相応の評価をされる覚悟をしていたのだ。


「どうした? 結果は敗北でも、強敵二人を相手に奮闘できていたじゃないか」


 当然の事だと言わんばかりに、クロトは偽りのない笑顔で告げた。

 そしてフィリアの頭に手を乗せると、更に短く言葉を繋げる。


「予想以上の成長だったよ。フィリア」


「……うん」


 真摯な瞳を向けられ、無自覚に頬を紅く染めてフィリアは頷く。

 彼が結果だけではなく、自分の戦う姿も正当に評価してくれているのだと理解して、喜びを感じたのである。

 しかしフィリアは、そんなやり取りを暖かい目で見ていた周りの視線に気づいた。


「……って、皆が見ている前で頭撫でないでよ」


「ん? ああ、悪い悪い」


 頭に置いていた手を振りほどかれ、クロトもまた周りの目線に気づく。


「フッ、二人とも相変わらずだな」


 微笑ましい光景だと思ったのか、騎士団長が呟く。

 だが、すぐに意識を切り替えると、訓練の方へと話題を逸らす。


「さて、今日はこれからお前達も訓練に混ざって貰おう。兵士達の強化の為にな」


 せっかく同期が集まっているのだから、この状況を有効活用しなければ勿体無いと判断したのだろう。

 その命令に二人は頷き、「了解!」と声を揃えて返答する。


「そういえば、リミアさんはどこかしら?」


「ん? 観戦中は俺の近くに居たぞ」


 ふと思いついた疑問であろうフィリアの質問に、クロトが返答しながら視線をリミアが居た方向へと向けた。


「すぅ……すぅ……」


 その先に居るのは、直立不動のまま眠っているリミア。

 器用なものだが、この空気の中で睡眠を取れるのは彼女だけであろう。


「はぁ、全く……」


 リミアの緊張感の無いマイペースぶりを見て、クロトは溜め息をついた。

入団試験で描写できなかった同期メンバーの強さを描写したかったので、今回のような展開へと持ち込みました。

フィリア無双を期待していた方には、申し訳ない結果になってしまったと思います。

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