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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
5章:遠征編
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56話:実力

またも投稿が遅れてしまいました。

戦闘回ですが、急いで書いたのでいつもより文章が短めです。


 ~人間界〜


 フィリアとリミアを引き連れ、ハイネに続いて訓練所に向かうと、そこには一糸乱れぬ動きで剣を振るう数百の兵士が揃っていた。

 その集団の先頭に在るのは、活気溢れる大声で軍勢を指揮する一人の男――騎士団長ヴェン=ハルバードの姿。


 しかし、接近するハイネの存在に気づくと同時に全体への指揮を止め、対話の隙を作った。

 それでも尚、剣を振るう騎士達の動きは止まらない。

 指揮の中断は休憩の合図では無いからだ。


「おはようございます、騎士団長。彼を連れて来ました」


 その男を前に、ハイネは敬語を使いながらも堅苦しい様子のない自然な笑みで挨拶する。

 並大抵の兵士は簡単な挨拶だけでも緊張してしまうほどの威圧を常に放っている相手だが、彼女の場合は例外と言えるだろう。


 現に、既にフィリアとリミアの二人は緊張した面持ちになっているのだから。


「ご苦労」


 騎士団長は眉一つ動かさず、労いの言葉を短く返した。

 そして俺の方に視線を移すと、ゆっくりと落ち着いた速度で口を開く。


「クロト=ルミナ。お前に話がある」


「ええ、ハイネ上官から伺いました。それで、その内容とは?」


 単刀直入な俺の質問に、騎士団長から戸惑う様子もなく答えが返される。


「逸話の勇者に纏わる文献を漁って得た、幾つかの情報をお前に伝えよう」


「えっ……まさか、あの資料庫の中から探したのですか!?」


 勇者に一番関係しているのは俺だが、真っ先に反応したのはリミアだ。

 因みに彼女が此処に来ているのは、研究の方であまりにも早く仕事を進めすぎて、昨日の時点で役目が無くなってしまったからだという。


 訓練の休暇中に、俺も資料庫に足を運んだことがあったのだが、そこでは無数に並んだ巨大な本棚に大量の書籍や資料が綺麗に櫛比していた。

 あの中から必要な書物を探し出すのは、相当に骨が折れる作業であろう。


「私も研究に関する資料を取りに行ったことはありますが……探すのに時間掛かりましたよ?」


「俺は騎士団に長年勤めているからな。今となっては目的の資料まで自然と足が動いてしまうほどだ」


 確かに騎士団長クラスにもなれば、依頼を受ける時には様々な資料に目を通す必要があるだろう。

 しかし、毎日のように資料庫に訪れたとしても、あれほどの数の文献の位置を把握できるといえる確証はない。

 それを当然かのように言い切ってしまう騎士団長に対して、リミアはただ驚愕して無言のまま呆然としているだけであった。


「少々脱線してしまったな。話を戻して、私が得た勇者についての情報を話すとしよう」


 騎士団長が再び俺の方に視線を戻し、話を続ける。


「まず、勇者は『レイ=エクリプス』という名の女性だ。そして調査の結果、遥か昔に実在する人物であった事が判明した」


 女性である事や実在する人物である事はリミアから聞いたが、名前は初耳だな。

 どうやら、本当に有力な資料から集めた情報のようだ。


 そして、レイという名は『光』を意味し、エクリプスという姓は『日蝕』を意味しているのだろう。

 自分で作ったものとはいえ、黒を連想させる名、そして光を連想させる姓である俺の名前と真逆の関係にあるのは果たして偶然だろうか。


「仲間を作らず、武器は一振りの刀のみだが、たった一人でも(ただ)ならぬ身のこなしと技量で敵を圧倒したという」


 この話もリミアから聞いた情報と一致している。

 元々は古代竜(エンシェントドラゴン)からの実話だという話なので、やはり騎士団長の言う文献というのは信憑性が高いのだろう。


「そして戦歴についてだが、Sランクに相当する瞋焱侯(アモン)は勿論のこと、伝説上の存在とされるSSランクの呑尾蛇(ウロボロス)を討伐し、最終的には暗黒竜(ダークネスドラゴン)の封印までも果たしている」


 聞いたこともない名前が二つ出てきたが、暗黒竜(ダークネスドラゴン)についてはハイネの話で聞いているので、その下位に位置する魔物の討伐は当然の事だろう。

 しかし、Sランク相手にも苦戦していた俺と比べると、その勇者が如何に真の実力者であったかを窺える。


 人間の身体……それも魔王であった前世の記憶を持つ俺とは違い、短い人生の中で圧倒的な強さを身につけるとは、俺以上に規格外の存在だな。


「驚くべきことに、暗黒竜(ダークネスドラゴン)との戦いに挑む時、勇者の歳は十八だが……既にレベルは900を超えていたようだ」


「えっ!? クロト以上の化け物じゃない!」


 その数値に対し、真っ先に反応して声を上げたのはフィリアだった。

 成長を促進させる能力に特化したスキルを所持する俺のレベルすら凌駕しているのだから、当然の反応だろう。


「あぁ、そうか。確かハイネから聞いた話では、昨日の依頼の途中でお前のレベルは700に到達したのだったな。……丁度いい」


 依頼完了の報告とは言っていたが、ハイネはその情報も伝えていたのか。

 それにしても、丁度いいとは何のことだろうか?


「どうだ? 此処に居る兵士のうち、百人と戦ってみるのは。お前にとっては物足りん相手ばかりかもしれんが、中々の経験値が得られる可能性もあるぞ。こいつらの訓練にもなるからな」


「ひゃ……百人組手ってこと!? そんな無茶な……」


 またもフィリアが驚くが、確かに今の俺なら体力的に無理ではないだろう。

 見たところ、Sランクの魔物と比べれば大したことない兵士ばかりだが、この数を相手にすれば中々の経験値を得られる筈だ。


「団長! ならば私が最初に相手を務めます!」


 一番近くで話を聞いていた兵士が、剣の素振りを止めて真っ先に名乗り出る。

 全身鎧のまま、訓練所に来た時から一度も止まることなく剣を振るっていた筈だが、肩で息をしている様子はない。

 どうやら想像以上に、柔な鍛え方はされていないようだ。


「ふむ、良いだろう。だが一筋縄でいく相手ではない。決して油断は――」


「いえ、一人一人が相手では埒が明きません。五人ずつ纏めて相手しますよ」


 名乗り出た兵士に対して、騎士団長が承諾しつつ注意を促すが、俺の言葉が横槍を入れる。

 連携として有効な人数は五人程度までだろうし、何より五対一という不利な状況によって"起死回生(リサスィテーション)"の効果も少しは現れる筈だ。

 しかし舐められているのだと思ったのか、怒気を含んだ兵士たちの視線が一瞬でこちらに殺到する。


「……だそうだ。各自五人で連携を組み、『本気で』戦え」


 冷静な騎士団長の一言を聞き、幾分と兵士たちの怒りは収まったようだ。

 ただ俺に怒りをぶつけるという意識が、必ず俺を倒すという意識に切り替わっただけだとは思うが。


「ああ、それと魔法の使用は禁止だ。剣の訓練にならんからな」


「問題ありません」


 条件が加えられるが、俺は迷いなく即座に返答した。

 元より魔法を使う気は無かったからだ。


「ほ、本当に大丈夫なのかしら……?」


「大丈夫ですよ。クロト様なら」


 流石に百人相手は厳しいと考えているのか、不安を隠せないフィリアと、俺を信じきって安心した様子で見守るリミア。


「早速始めるぞ。準備を済ませろ」


 そんな二人を意にも介さず、騎士団長は続けて場を仕切る。

 俺は"収納"スキルから一本の剣のみを取り出し、それだけで準備を終わらせた。



 ......................................................



 訓練所の中心で、剣を構える俺と五人の兵士が十メートル程の距離を開けて向かい合い、その間に騎士団長を挟んでいる。


 五人の兵士は適当に並んでいる訳ではなく、前後に奥行のある戦術的な陣形を組んでいた。

 どうやら一体一での手合わせだけでなく、実践的な集団行動も想定した訓練を積んでいるらしい。

 息の合わない連携によって、お互いの足を引っ張るような事は恐らく無いだろう。


 俺に向けられた剣の切っ先から挑発的な感情が読み取れるが、そんなものは気にもならない。

 今ここで"威圧"スキルを使えば、尻込みするのは相手の方なのだから。


「両者とも位置に着いたな。勝利条件は相手の戦闘継続不能、或いは降参の宣告だ」


 狭間に立つ騎士団長が簡単に説明を加えるが、入団試験と同じ条件なので即座に理解した。


「以上だ。では両者構えて、試合――」


 そして緊迫する空気の中、静寂を払うかのように、両者の戦いを制する男の声が轟く。


「――始め!」


 その掛け声と共に、兵士たちは前列、後列と時間差をつけて走り出し、俺に接近する。

 誰一人として指示を出していないが、それでも以心伝心の動きで息の合った連携を実現していた。


 研鑽された剣技によって振られ、襲い掛かる五つの刃。

 それを目で完璧に追っていた俺は、冷静に全ての軌道を捌き、対処してゆく。


(思ったよりは速いが……この程度では掠りもしない)


 先の攻防により彼我の実力差を見極めたので、さっさと決着をつけてしまおうと考えたが、騎士団長は兵士の訓練も目的としていたため、その思考は断念した。


 視線を移すと、俺が先ほど全ての攻撃を防ぎきった事に対して、騎士団長の表情は全く変わっていない。

 どうやら、戦う前から既にこうなることを予測していたようだ。


(もう少し付き合ってやる方が、騎士団長も満足するだろうな)


 頭の中でそう結論づけた俺は、スキルすら使わずに相手が疲弊するまで徹底的な防御と、可能な限り手加減した攻撃を続けるのであった。



 ......................................................



 それから暫くして、俺の目の前に居るのは、長い攻防によって息切れを起こした五人の兵士。

 それも最初の五人ではなく、最後となる二十組目の五人である。


「それまで!」


 これ以上の戦闘は無意味だと判断し、騎士団長が終了の合図を出す。

 今までの相手も、このような調子だったのだ。


「うっわ……本当に余裕で勝っちゃった」


 今まで呆然と試合を眺めていたフィリアだったが、ついに驚きも呆れも通り越して引き気味に呟いた。


「流石はクロト様です!」


 最初から俺の圧勝を確信していたのであろうリミアは、純粋に今の結果を喜んでいる。

 しかし単調な試合だからと、彼女が途中で眠っていた事に俺は気づいていたが。


 あまりに疲弊したためか、敗北した兵士たちは周りの傍観者の元へ戻ると、すぐにへたり込んでしまっていた。


 そんな光景を尻目に、俺は涼しい顔でフィリア達の元へ戻ってゆく。


「やはり圧倒的だな。この程度では満足できないか?」


「そうですね。戦った実感すらありませんよ」


 騎士団長に訊ねられ、俺は正直に答える。

 失礼な物言いかもしれないが、あれ程の一方的な試合の後では誰一人として反論しようとする兵士は居ない。


「レベルの方はどうなの? また急上昇してるんじゃない?」


「いや、変化はたったの10です。もう少しは稼げると思ったのですが……」


 ハイネの問い掛けに、俺は不満な表情になりつつ返答した。

 五対一でも不利とは感じなかったので、"起死回生(リサシィテーション)"の効果も全く得られなかったのだ。


  「相手が悪いとはいえ、こいつらは弛んでいるようだな」


 辛辣な騎士団長の一言に、騎士達は文句を言うでもなく項垂れ、自分たちの無力さを悔いている。

 彼らは普通の兵士としての実力は高いので、もう少し大目に見ても良いんじゃなかろうかと考えたが……今の段階で現状維持を望んでいる者は居ない様子だ。

 今回の戦いは、彼らにとって良い刺激になったのかもしれない。


「ああ、そういえば、今日の訓練には『奴ら』も呼んでいるんだったな。もう少しで来るはずだが……」


「ん? 『彼ら』とは?」


 騎士団長の発言に、俺は首を傾げて尋ねる。

 しかし回答が返ってくるよりも早く、新たな人影が訓練所に現れた。


「……ありゃ? 上官から訓練所に向かえと聴いたが、こりゃあどうなってんだ?」


 その男の目に真っ先に写った光景は、珍しくも息切れして地面や壁に身体を預けている百人の兵士の姿。


 聞き覚えのある野太い声で感想を述べたのは、筋骨隆々の大男――グリルであった。


「ふむ、過激な訓練でも受けたのかもしれんな」


 続けて姿を現し、落ち着いた声音で状況整理を行うエドワード。

 気のせいか、以前見た時より一回りほど引き締まった体格になっているように見える。


 更に人影は増えていき、遂には俺とフィリアを除いた、同期メンバー九人全員の姿が訓練所に現れることになった。


「おっ? あそこに居るのはクロトじゃねえか。まさか、この状況はあいつが……」


 俺の姿に気づくなり、素早く状況を把握したグリルの発言によって、九人の視線がこちらに集中する。


「丁度良く集まったか。ならば、今度は『奴ら』に相手をしてもらおう」


 思惑通りに事が運んだのか、騎士団長が薄く笑みを浮かべて告げた。


「なるほど、『奴ら』とは同期の事でしたか。確かに多少は良い相手に――」


「待て、クロト=ルミナ。戦うのはお前ではない」


「……?」


 早速話をつけるべく彼らの元へ近づこうとしたのだが、騎士団長に静止の声を掛けられて俺は再び首を傾げた。


「お前の実力は充分に分かった。強力な魔物と戦わない限り、お前の効率的な成長はもはや望めないだろう。それよりも改めて実力を測りたい者がもう一人居る」


 説明を加えつつ、更に意味深長な言い回しをする騎士団長。

 そして次の瞬間、その口からは意外な言葉が発せられる。


「奴ら同期メンバーと戦うのはお前だ。フィリア=ランベリー」


「……え? 私?」


 突然の指名に、呆然とした表情でフィリアは聞き返すのであった。

あまりにも楽勝で単調となる戦いだったため、戦闘シーンが非常に短くなってしまいました。

スキル無しでの戦闘だと、特に映えるものが無いですね。

次は珍しくフィリア主軸の戦闘シーンになるので、なるべく派手な演出になるように書きたいと思います。


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