51話:次なる依頼へ
遅くなって申し訳ありません。
長期休暇が終わったので、寸暇があれば書くようにしていますが、これからはあまり書く時間が取れないと思われます。
それと、前回は殺伐とした話だったので、今回は日常回にしました。
〜人間界〜
長耳族からの依頼を達成し、王城へと戻ってきた俺とフィリアは、今回の依頼達成と内容を騎士団長へ報告するというハイネと別れ、いつも通りの自室へ帰ってきた。
一つ違うのは、俺達が入った時点で部屋の明かりが点いていたことだ。
「お帰りなさいませ! お二人とも!」
玄関を少し進むと、既に仕事を終えたのか、ベッドの上に腰掛けて、満面の笑みで声を掛けるリミアの姿が目に映った。
「ああ、ただいま。そっちの仕事は終わったのか?」
「はい! 魔法の研究はやり甲斐があって楽しいです!」
リミアが魔導師の一員として働くのは今日が初めてだが、どうやら問題が無いようで何よりだ。
というよりも、魔法に関してリミアが役に立たない訳がないという考えの方が正しいか。
「リミアさんもお疲れ様ね。因みに、今は魔法の研究って何をやっているの?」
ふと思いついたのであろう疑問を、フィリアが椅子に腰掛けてリミアに問い掛ける。
「今の研究では、『数日後の天気を予測できる魔道具』の開発を進めています!」
天気を予測……か。
色々と便利な魔道具を開発しているだけあって、その話も中々に興味深い内容だな。
「えっ……どうやってそんなの予測するの!?」
目を見開いて驚愕するフィリアだが、彼女の反応も納得できる。
というのも、研究の内容そのものが高度というだけでなく、天気を予測できるという結果からは様々な利があるからだ。
「そうですね……今考えているのは気温や湿度、風向きや風速などを計測する魔道具を広域に渡って複数設置して、集めたデータを元に推測するという方法です!」
「なるほど……そこまで具体的な案が出ているということは、その研究もかなり進行しているんだな」
解説を行うリミアに、俺は頷きながら納得を示す。
というか、研究の旨と詳しい理論をここまで理解できる新人が居るのだから、他の魔導師達は、さぞリミアの事を刮目して見ていることだろうな。
「私がこの方法を立案した時、皆さんは驚いた顔をしていましたけど何故でしょう?」
「リミアさんが立案者なの!? そりゃあ驚かれるわよ……」
不思議そうに首を傾げるリミアに、フィリアが突っ込みを入れる。
恐らく、課題だけが決まり、研究自体は難航していた所を、さらりとリミアが解決してしまったということだろう。
他の魔導師に驚いた顔で注目されるのも仕方あるまい。
研究に貢献するのは良いんだが、リミアが魔導工学に力を入れれば、本来は数世代先の技術まで実現してしまいそうで怖いものだ。
と、そこまで考えたところで、不意にリミアの腹が鳴る。
「あぅ……お腹空いてきちゃいました……。お互いの仕事の話はこれまでにして、食事に行きましょう!」
恥ずかしがる様子もなく、リミアは腹を抑えて空腹を訴え、食堂に向かうように催促する。
「そうだな。明日も遠征だから、早く食事を済ませて寝るに越したことは無いだろう」
というよりも、空腹のリミアを放っておくと、いつ倒れるか分かったものではない。
それに、今の時間は食堂に人はあまり居ない筈なので食事を摂るには丁度いい時間だろう。
食堂で腹を満たし、入浴を終えた俺達は、明日に備えて早々に就寝しようとしていた。
当然、今日こそは混浴ではなく、三人とも別々の入浴だ。
「むー、どうして今日は混浴じゃあないんですか?」
「……混浴が当たり前みたいに言うな」
自分のベッドの上に座りながら頬を膨らませて不満を口にするリミアに、俺が呆れ顔で突っ込みを入れた。
そもそも、昨日だって俺は混浴することに反対していたのだが。
「そ、そうよ。昨日はノリでやっただけで、本来なら私だって反対だったんだからね!」
何故かフィリアは顔を赤らめて、向こうを向きながら同意する。
どちらかと言えば、フィリアも昨日は乗り気だったと思うのだが……。
「だったら、せめて添い寝を!」
混浴がダメならと、リミアは別の方法でスキンシップを図りに来た。
なぜ、それほど積極的に俺に近づこうとするのだろうか?
取り敢えず、一人用ベッドに三人入るのは窮屈だったので、適当に理由をつけて断っておこう。
「今朝はハイネさんに勘違いされただろ? 明日もそのような事態になるのはゴメンだ」
「あぁ……そうだったわね。当然、添い寝も却下ね」
今朝の事態を思い出したのか、フィリアは少し赤面して恥ずかしがる様子を見せた。
「はぁ、フィリアちゃんが味方してくれないと少数意見になってしまいますね。じゃあ、今日は諦めますぅ」
意見が通らないと理解して、ようやくリミアが嘆息して諦める。
それより「今日は」というのは、明日は絶対に添い寝するつもりなのだろうか?
「明日以降もお断りだぞ」
「そ……そんなぁ!」
どうやら図星のようだ。
なぜリミアは添い寝……というか、無駄にくっつく事が好きなのだろうか?
「むぅ……じゃあ一人で寝ますぅ」
リミアは思い切り意気消沈し、拗ねた様子で自分のベッドに潜り込む。
と、そこで俺はあることを思い出し、それを二人に告げる。
「悪い。寝る前に試したい事があるんだが、良いか?」
「……添い寝をして頂けるのなら」
掛け布団から顔の上半分だけを見せて、リミアが半目で訴えた。
どれだけ添い寝したいんだ……という突っ込みを心にしまい、俺は話を続ける。
「まぁ、それも考えておこう。すぐに終わるし、面倒だから説明は省くぞ」
なんの説明も無しに何かをされることに疑問を感じているのか、フィリアは疑わしい目で俺を見つめる。
しかし、すぐに終わるような些事ならばと、頷いて賛同を示してくれた。
二人の了承を得たところで、俺は早速、とある一つのスキルを発動させた。
そのスキルとは、ずばりリミアから複製した"魅惑"である。
「どうだ? 何か変わった事は……」
既に発動はしてあるが、二人が無表情かつ無反応のままなので、本当に発動してあるのか確認を取る……次の瞬間。
リミアが被っていたベッドを即座にどけて、いきなり真正面から俺に抱き着く。
「うふふ、クロト様ぁ……もう二度と離れません……」
更に恍惚とした表情で、俺の身体に頬擦りまで始めた。
ふとフィリアの方に目線を配ると、
「ねぇ……クロト。えっと、その……やっぱりアンタがどうしてもって言うなら、今なら添い寝ぐらいしてあげる気分なんだけど?」
落ち着きのない様子でチラチラと視線を断続的にこちらへ向けながら、そんな事を恥ずかしそうに尋ねてきた。
少しばかり上から目線なのは何故だろうか。
それはともかく、効果が現れるまでに少しばかり時間差があったものの、効果は予想以上という結果は得られたので充分だ。
どうやら、あまり安易に使わない方が良さそうなスキルだな。
このままの状態も面倒なので、さっさと効果を切ることにする。
「クロト様……今夜こそは添い寝だけでなく、ぜひ夜伽も!」
「だめよ。クロトと一緒に寝るのは私だもの!」
下らない口論をしながら、リミアは先程よりも腕に力を込め、フィリアは断りも無しに俺のベッドに潜り込む。
既に"魅惑"の効果は切ったのだが……まさか、正常に戻るにも時間差があるのだろうか。
「ん……クロトの身体、温かいわね……」
そうなのか? いや、そんな事はどうでもいい。
このまま二人が俺のベッドに居るのでは窮屈過ぎるので、何とか離れて貰わなければ。
「すぅ……」
そう考えた時、既にフィリアの意識は夢の中に消えていた。
少しばかり寝付きが良すぎないか?
「フィリアちゃんは寝てしまいましたね。でも、これで心置き無く二人っきりで夜伽を愉しめます!」
かなり興奮した様子でリミアは言い、横になっていた俺の上に覆い被さった。
「ふふ……では、まずは服を……あうっ!?」
リミアの手が俺の服に触れた瞬間、身の危険を感じたので、咄嗟の判断で首に手刀を当てて気絶させる。
意識を失った事で、そのままリミアは俺の真横に倒れた。
その後は眠ったままの二人をそれぞれのベッドに運び、窮屈感の無くなった自分のベッドの上で、俺はようやく快適な眠りにつくのであった。
......................................................
翌朝、目を覚ますと、いつの間にか俺のベッドにリミアとフィリアの姿があった。
二人は既に目覚めた様子なので、俺が寝ている間に潜り込んできたのだろうか。
「あ、やっと起きたわね」
「おはようございます! クロト様!」
まるで日常茶飯事だと錯覚させるように、自然な挨拶をする二人。
俺はせっかく確保した空間を詰められて、窮屈感を味わっているというのに。
「なぜ二人とも、わざわざ俺のベッドに入るんだ……」
「もちろん、一人で寝るよりも気持ちが良いからです!」
俺の問い掛けに、間髪入れずにリミアが答える。
こちらとしては、一人で寝るよりも圧倒的に快眠を妨げられているのだが?
「私は、その……アンタとリミアさんが二人が一緒に寝ている横で寝るのは疎外感があったからよ!」
だったら、リミアの方を別のベッドに移動させて欲しかった。
というより、そんな事に対抗心を燃やさなくても良いだろうに。
そんなやり取りをしていると、唐突に玄関の扉が開かれ、予想通りにハイネが入室してきた。
「おはよう! 今日も頑張るわよ!」
相変わらず、朝から元気な挨拶だ。
寝起きから気分が下げられた俺にとっては、眩しい笑顔である。
そんなハイネは俺達の様子を見ると、昨日の気まずそうな反応とは違って、揶揄うような笑みを浮かべた。
「フフッ、相変わらず朝から仲が良いのね」
表情を見た時点で察していたが、やはりそう言うのか……。
昨日と同じく「誤解です」と言おうと思ったが、二度目は通用しないだろう。
もはやハイネもこの状況に動揺が無いようなので、下手に喋らないほうが良さそうだ。
少しの間、俺達が沈黙していると、続けてハイネが新たな話を切り出す。
「さて、二人とも……海に行くわよ!」
「「……え?」」
それは全くもって理解不能な一言であった。
詳しい話を聞くと、どうやら王国の領海たる【フォカロル海】の海底に、とある獰猛な水生魔物が出現したとの事。
その魔物を討伐するのが、今回の依頼の内容となる。
その魔物は大渦を発生させ、近くを航海していた川船を巻き込み大破する災害を起こした様だ。
それによって、乗組員四名が行方不明……恐らくは高確率で死亡したと見られている。
魔物の情報については曖昧な部分が多く、目撃者かつ依頼人である、別の川船に乗っていた水夫の証言では「全長二十メートル以上もある、巨大な蛇のような生物の影が海面に見えた」という。
あくまで目撃情報が正しければの話だが、騎士団の推測ではAランク以上の魔物だとハイネは語っていた。
海に行く、と最初に聞いた時は何の冗談だと思ったが……予想以上にかなり深刻な話だ。
「もともと少人数だから動かしやすいという事もあるけれど、何より昨日の功績を鑑みて、私達の班が依頼遂行に適任だと判断されたわ」
そう告げるハイネの表情は真剣で、この依頼が如何に危険かつ重要であるかを物語っている様であった。
「Aランク以上……流石に厳しいですね」
顔に不安の色を浮かべ、ぼそりとフィリアが呟く。
彼女の戦闘の腕前を見れば、苦戦は強いられるかも知れないが、Aランクの魔物を倒す事は可能だろう。
実際、C〜Bランクとなる屍食植物を難なく討伐していたのだから。
しかし、あくまでAランク以上というのは推測に過ぎず、更に情報が曖昧であるため、運が悪ければSランクをも超える魔物の可能性もあるのだ。
巨大な体躯に加えて、船をも巻き込む大渦を発生させる力となると、有り得ない話ではあるまい。
そして最悪な事に、戦闘の舞台は自由の利かない海中であり、地上戦に比べて苦戦は必須となる。
「ちょっと想像するだけでも恐ろしい話です……。本当に大丈夫でしょうか?」
リミアもフィリアと同様に不安の様子を見せ、弱々しく俺に問い掛ける。
戦闘に参加しない身ではあるが、人一倍に他人を思いやる性格のリミアだ。
自分が傷つくよりも仲間が傷つくことを嫌う彼女にとって、不安要素は多大だろう。
「大丈夫だ。何度も言うが、俺は魔王を討つまでは何者にも負けるつもりは無い」
だからこそ、俺はリミアに対して自信満々に回答した。
勿論、己の言葉を貫き通す責任感もあっての台詞である。
「……そうですね。私はクロト様を信じておりますから」
俺の言葉に安心感を覚えて、リミアは落ち着きを取り戻した笑顔で返した。
流石は優秀な側近で、この場で己の不安を周囲に伝播させるべきではないと気づいたようだ。
「ふふっ、上司としては情けない言葉だけど、本当にクロト君は頼りになるわね」
ハイネは先程の深刻な顔つきを変化させ、柔和な笑みを見せた。
言葉には出していなかったものの、彼女もまた不安を感じていたのかもしれない。
「そうですね。戦う前から諦めるのは言語道断ですから!」
ハイネに続き、フィリアも自信を取り戻して意気込んだ。
俺の一言で、二人が調子を取り戻したのは僥倖である。
「よし! じゃあ早速、食堂で腹拵えして戦いに備えるわよ!」
「「了解!」」
いつもの調子で俺達を牽引するハイネに、俺とフィリアは元気良く言葉を返す。
まあ、何事をするにも、まずは気持ちが重要なのだ。
......................................................
それから俺達四人は食堂へと向かい、何気ない会話を挟みながら英気を養った。
そしてこれから【フォカロル海】に出発しようと食堂の席を立った時、ある問題にハイネが気づく。
「あ、忘れてた! 二人とも、水着は持って……無いわよね。クロト君も居るし、下着というのも少し問題ね……」
確かに、今回の依頼では必然的に海中に潜る事になるのだから、機動性の意味合いでも水着は必須だろう。
だが、海に行く事なんて騎士団に入団した時から想定していなかった俺達は、当然ながら水着を持っている筈はなく、俺とフィリアは頷いて肯定を示す。
「じゃあ行き先変更して、まずは水着を買いに行きましょう! 代金は私が出すわ!」
予想外の出費だからか、今日のハイネは太っ腹だな。
少しばかりの買い物なら支障は出ないだろうし、さっさと終わらせて依頼遂行に戻れば良いか。
そんな訳で、リミアを除いて俺達三人の行き先は急遽変更され、まずは遠征の準備から始める事になるのであった。
二週間掛けて、こんなに短い文章で申し訳ありません。
日常回はどうしても指がすぐに止まってしまうので、これから善処していきたいところです。




