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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
5章:遠征編
55/64

49話:奮闘

ようやく今回の依頼での戦闘に移りました。

宣言通り、戦闘ではハイネとフィリアが活躍します!

新たな恋愛フラグの予感も……?

 〜人間界(長耳族(エルフ)の森)〜


 視界一面を覆い尽くす茫洋たる森の中で、大量に群生する屍食植物(グール・プラント)が俺達を包囲していた。

 見渡す限り、その頭数は百以上。

 鬱蒼と生い茂る木々の圧迫感の中、人間よりも一回り大きい体躯の植物に囲まれているこの状況は、誰もが絶望的な状況だと判断するであろう。


 その内の三体が毒々しい赤紫色をした球体状の花弁を開き、鋭く尖った無数の牙を露出させつつ、茎を伸ばして俺とフィリア、そしてハイネに向かってそれぞれ襲い掛かる。


『ギシャアアアッ!』


 およそ植物が放つものとは思えない、耳を劈く不快な声は威嚇のつもりだろうか。

 しかしその奇声は、俺達を怯ませるには至らなかった。


「全く、うるさい生物ね」


 ハイネは表情一つ変えることなく、眼前に迫った巨大な口を正確に真っ二つに両断する。

 その手に握られた剣の周囲には陽炎が揺らいでおり、『魔装』によって刃が高温状態となっている事が窺えた。

 切られた植物の口にも焦げ跡が残っていた。


「ええ、全くです」


 眉を顰めつつ、ハイネの言葉に賛同するフィリアが既に抜剣された二つの(やいば)を振るう。

 (つるぎ)が腕ごと(かすみ)となって消えた半瞬後、彼女の数センチ手前まで肉迫していた植物の口に十字の切れ込みが刻まれる。

 更に追撃として、先ほどの切創から電撃が発生し、花弁全体を黒く染めるほどの勢いで灼いた。

 彼女の固有能力(オンリースキル)である"纏雷剣(てんらいのつるぎ)"を使った、念入りのとどめである。


「同感ですね」


 俺は短く返答し、固有能力(オンリースキル)の"一刀両断"によって屍食植物(グール・プラント)(つるぎ)の一振りで裂いた。

 ついでに刀身の長さだけ、花弁の後ろに伸びた長い茎も切り裂く。

 別に必ずしも"一刀両断"を使う必要は無かったが、念のため、確実に敵を倒すための保険だ。


 俺達に葬られた三体の姿は魔力の残滓となり散ってゆく。


「す……凄いです! あんなに凶暴な生物をあっさりと……」


 圧倒的な俺達の実力を目の当たりにして、セーラという長耳族(エルフ)の少女が戦況の良さを喜ぶ。


「その賞賛は、こいつらを全滅させてからにして欲しいわね」


 苦戦はしていないものの、まだ決して油断出来ないこの状況に、ハイネが少女の言葉に対して少々冷酷に返答する。

 だが、その顔にはうっすらと笑みが浮かんでおり、この緊張感を愉しんでいるようでもあった。


「さて、今度はこっちから攻めるわよ!」


 力強い指示とともに、ハイネが集団に向かって突撃する。

 俺とフィリアも「了解!」と肯定し、彼女に後続して駆け出した。


 そして、激しい戦いを繰り広げる中で、俺の意識は少し前まで遡ってゆく。




 今からおよそ三十分ほど前、全体での攻撃態勢を整えた長耳族(エルフ)が、ついに計画を実行した。


 各々の集団がそれぞれの屍食植物(グール・プラント)の群れに向かう中、俺達はセーラという少女の案内で東南へと森の中を進んだ。


 森の地形は予想以上に複雑に入り組んでおり、足場の安定しない地面では予想以上に体力が奪われる。

 他の部隊よりも円滑に移動できたのは、彼女の先導が完璧だったことに他ならない。

 驚くべき事に、彼女は遠隔通信の魔法が使える、限られた長耳族(エルフ)の一人らしい。

 道理で族長に優秀だと褒められるわけだ。


 正確な道案内のお陰で、俺達は他の部隊よりもいち早く交戦していたが、すぐに他の長耳族(エルフ)達も屍食植物(グール・プラント)と接触した。


 少女が言う限り、今のところは全体的に問題無いとの事だが……もともと数の上では不利な状況だ。

 杞憂で済めば良いのだが、くれぐれも気を抜かないように用心すべきだろう。




 およそ数秒間の思考を経て、過去へと逆行していた意識が再び現在へと帰還する。


 俺がほぼ無意識に行っていた戦闘は、既に敵の頭数を二割ほど削っていた。

 性懲りも無く迫ってくる屍食植物(グール・プラント)を両断しながら、二人の戦いに視線を向ける。


 視界の先には、紫電と陽炎が交錯する中で、魔力の残滓が次々に発生しては消えてゆく、およそ勝負にすらならない殲滅行為の一端が目に映った。


 あの様子なら二人に問題は無さそうだと判断した俺は、再び自分の戦闘に集中する。


『シャアアアッ!』


 しかしその時、長耳族(エルフ)の少女への警戒が薄くなっていると判断したのか、一体の屍食植物(グール・プラント)が蛇のような鳴き声を放って彼女へ襲い掛かる。


「えっ!? えっと、《原初の(ことわり)よ、我を守――》」


 少女は咄嗟に、恐らく防御魔法の類だと思われる呪文を紡いでゆくが、どう見ても植物の牙が先に到達する。

 手詰まりだと悟った少女は、半瞬後にやってくる痛みに目を瞑って覚悟を決めた。


 その次の瞬間、その覚悟は無意味なものへと変化する。


「《阻害せよ》!」


 短く紡いだ俺の呪文が、一瞬にして少女と屍食植物(グール・プラント)との間に漆黒の障壁を顕現させ、魔物の襲撃を防いだ。

 一見すれば少女の守りが薄くなっているようだが、実は『生命感知』で常に警戒していたのだ。


 敵が魔法の壁に衝突して怯んでいる隙に、俺は『高速移動』で素早く距離を詰め、その口を裂いた。

 屍食植物(グール・プラント)は他の仲間と同様に、その姿を魔力へと変えて霧散する。


 使った魔法は"魔法盾(マジック・シールド)"なのだが、少し離れた仲間の手前に形成しているので難易度は跳ね上がる。

 もっとも、俺からすれば造作もない事だが。


「あ……ありがとうございます。お陰で助かりました」


 恐怖が去った安堵感から、脱力した様子で地面に座り込みながら礼を言う少女。


「当然さ。誰かを護るのが騎士の務めだからな」


 更に安心させるように、俺は笑顔でなるべく優しく返答する。

 思いのほか効果はあったようで、少女は小さく笑顔を作って頷いてくれた。


 二人の様子が気になり視線を向ける。戦闘は制圧寸前の状況まで順調に進行しているようだ。

 あと一息といったところだろうが、俺も一応は加勢に行った方が良いだろう。


 そう考えて一歩踏み出した瞬間、少女の手が俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。


「あ、あの……さっきので怖くなってしまって……我儘だとは分かっていますが、側で護って貰えませんか?」


 どうやら先ほど命の危機を体験して、屍食植物(グール・プラント)が僅かにトラウマとなってしまったようだ。

 この歳の少女なら仕方のない事だと言える。


 本来なら前線で戦う二人への加勢を優先して行うべきだが、今の状況を見る限りは少女の護りを優先しても問題ない筈だ。


「分かった。奴らには君に触れさせないよ」


「……ありがとうございます!」


 恥ずかしそうに礼を言ってから、少女は身を隠すように俺の背中に抱きついた。

 さほど支障はないのだが、戦闘中にこの状態は少しばかり場違いではないだろうか。


 とはいえ、その後も二人の活躍によって屍食植物(グール・プラント)の数は次々に減っていき、俺の護衛にも抜かりはなく、順調に事が運んでいるので問題は無かろう。



 ......................................................



 結局、戦闘は圧倒的勝利を収める事となり、俺達四人は終始無傷の状態だった。


 戦いを終えた二人が、特に息切れした様子を見せることなくこちらに戻ってくる。


「あのねえ……人が戦っている最中に、なんでアンタは女の子とイチャイチャしてんのよ!」


 戻ってきて早々、頬を膨らませるフィリアに叱責された。


「ち、違います! 私がこの人にお願いして護って貰っていたんです!」


 俺が答える前に少女が代わりに事実を告げて弁明する。

 それだけでなく、何故か一瞬の戸惑いを経て頭を下げた。


「すみません……本当なら私がもっと積極的に動くべきだったんです。でも、未熟なばかりに何も出来なくて……皆さんの足を引っ張ってしまいました」


 それは少女の行動とは思えない、精一杯の誠実さが込められた謝罪。

 補佐役として何も出来なかった自分の不甲斐なさを申し訳なく思っていたのだろう。


 しかし、まだ人生経験も浅く、精神的にも幼い少女に対して騎士団の人間の働きを完璧に補佐する事を求め、その責任を背負わせられる者が、一体この世のどこに居ると言うのであろうか?


 そう考えた矢先、ハイネが少女の頭を優しく撫でながら膝を曲げて視線を合わせ、柔和な笑みで語りかける。


「貴方はちゃんと私達を補佐してるわよ。あの料理のお陰で、いつもより調子が良かったわ!」


 それに続いて、フィリアも照れくさそうにフォローを入れる。


「ま、まぁ補助が無くても私達は余裕だったし? でも料理の効果は覿面だったわよ。それと、さっきは勘違いして悪かったわ」


 思いのほか不器用な言葉だ。

 しかし少女の顔には安堵の色が浮かび、二人のフォローが適切だった事を表していた。


「お二人とも……ありがとうございます。励まして頂いて」


 少女が頭を下げ、二人のフォローに対して感謝を伝える。

 本当に、一つ一つの挙措が丁寧で律儀な娘だ。


「お礼なんていらないわよ。ところで、他の部隊はどんな様子なの?」


 フィリアが少女の礼を断りながら、全体の状況を問い掛けた。

 こちらは無事に事が運んだとはいえ、元々は全体的に不利な戦いであり、一から十まで思い通りに物事が完結するとは思えない。

 負傷者や死者が居ないか、確かに気になる。


「では、こちらの戦闘が完了した事を含めて全体に遠隔通信を行いますので、少しお待ちください!」


 そう告げて、少女は目を瞑って通信に集中し始める。

 複雑な魔法を広範囲に使うので、相当の熟練者でない限りはかなりの集中力が必要らしい。

 俺の『思念伝達(テレパシー)』は脳波の周波数さえ合わせれば簡単に通信が可能だから、使い勝手はそちらの方が良いだろう。


 そして数秒間の沈黙の後、少女の表情が一変する。


「……えっ!?」


 どんな会話があったのか、目を見開いて明らかな動揺を表した。

 それを察して、俺は少女に会話の内容を問う。


「どうしたんだ、表情が優れないみたいだが?」


「えっと、西南の集団に向かった部隊が苦戦しているみたいで……負傷者が続出しているらしいんです」


 顔に不安の色を浮かべて、少女が弱々しく凶報を告げる。

 予想していたとはいえ、やはり思い通りには済まないようだ。


「あの……」


 少女は俯きながら弱々しい目でこちらを見つめ、暗い表情で呟いた。

 その様子から、何を言いたいのかは容易に推測できる。

 恐らくは俺達の戦力を鑑みて、苦戦中という部隊への加勢を求めたいのだろう。


 しかし、先ほどの自分の失態を考えると、本来こちらにメリットのない要求をするのは躊躇(ためら)われてしまうと考えているようだ。


 少女が葛藤と逡巡に頭を悩ませていたその時、ハイネが解決策を提案する。


「仲間が困っているんでしょう? なら、それこそ私達の出番ね」


「さっきの数じゃ物足りないと思っていたし、丁度いいわ」


 フィリアも気を使ってその言葉に賛同し、少女を安心させる。


「で、でも……」


 それでも少女の表情は暗いままで、二人の言葉を甘受しようとはしない。

 心から反省しているからこそ、簡単に頷く訳にはいかないと考えているのだろう。


 そこで二人に続いて、更に俺がもう一押し加える。


「さっきも言っただろう? 誰かを護るのが騎士の務めだと。それは人間だけが対象じゃないんだ」


 まぁ、これは俺の勝手な解釈なのだが、ハイネもフィリアも俺の言葉に頷いて賛同を示してくれているので間違ってはいない筈だ。


「……すみません。では、どうか私の仲間を助けてください!」


 しばらく悩んだ末、ようやく決心がついたらしく、少女が頭を下げて味方への応援を懇願する。

 その表情は暗いものではなく、仲間を助けたいという強い意思が込められたものだった。

 自分の失態を悔やむよりも、仲間の無事を優先すべきだと気づいた証拠だろう。


「そんなの当然よ!」


 ハイネは嘘偽りのない柔和な笑みを返して了解を示す。

 その言葉と行動は、少女に安心を齎すのには充分なものであった。


「では、仲間の場所までご案内します! 全速力で向かうので、どうか(はぐ)れないようにお願いします!」


 そう告げてから少女は深い森の中へと駆けてゆき、俺達もその姿を見失わぬよう後を追いかける。


 実は作戦を始める前から"索敵標識(エネミーマーカー)"を彼女に使用しているので、(はぐ)れることはまず無いのだが。



 ......................................................



 広大な森の中を駆けて辿り着いた先では、負傷した仲間を庇いながら周囲の屍食植物(グール・プラント)と応戦する、二十名ほどの長耳族(エルフ)の姿があった。


 弓や短剣に魔法の付与効果を乗せた攻撃で何とか敵の猛攻を凌いでいるが、いつ押し切られるかも分からないギリギリの攻防だ。


 負傷者の中で何名かが諦めの色を顔に浮かべ始めた時、俺達が茂みの中から姿を現す。


「皆さん! 騎士団の方を連れてきました!」


 俺達の先頭に居た少女が、その場の長耳族(エルフ)達に吉報を叫んで伝える。

 騎士団の人間の加勢と聞いて喜ぶ者も居れば、まだ若輩で身体も華奢な俺達の姿を見て苦い顔を見せる者も居るが、それはどうでも良い。


「もう大丈夫よ! 攻撃は私達が務めるから、皆は怪我人の安全を確保しなさい!」


 部下に命令を出すような口調で告げたハイネの言葉に、長耳族(エルフ)達は戸惑いを見せる。

 そんな事に構わず、俺達は前線で戦う長耳族(エルフ)が対峙している屍食植物(グール・プラント)に近づいて剣を振るう。


 俺とフィリア、ハイネによってそれぞれ両断された敵の姿が魔力へと変わり、その間にも俺達は別の屍食植物(グール・プラント)の討伐に移り、次々に葬ってゆく。


 目の前で自分達を苦しめていた生物が、短い間に頭数を減らしてゆく光景を見て、ようやく前線に居た長耳族(エルフ)達が仲間の防衛に赴き始めた。


「セーラ、彼女らは一体なんだ? 我々が苦戦していた魔物を、いとも簡単に討伐してゆくではないか」


 前線から仲間の元へ戻ってきた長耳族(エルフ)の一人が、治癒魔法によって負傷者の手当を務めていた少女に問い掛ける。


「ふふっ、私達を護ってくれる格好いい騎士様ですよ」


 迷いなく答える少女の顔には、大人の背中に憧れる子供のような羨望を感じさせるものがあった。

 おおよそ満足のいく答えでは無かったが、少女の表情を見た長耳族(エルフ)は「……そうか」とだけ返し、それ以上の質問を断念する。


「私も……いつか誰かを護れるぐらいに強くなれるかなぁ」


 少女の呟きは虫の羽音のように小さく、それを聞き取った者は誰一人として居なかった。




 それから数分と経たずに、俺達は全ての屍食植物(グール・プラント)の討伐を完了させた。

 もちろん三人とも無傷の状態で、だ。


 負傷者の状態を確かめようと俺達が長耳族(エルフ)の集団に近づいたとき、盛大な歓声が上がった。


「ありがとう! 助かった!」

「我らの救世主だ!」

「もう万事休すと思ったよ……」


 屍食植物(グール・プラント)の脅威が去った事に対する、欣快(きんかい)の叫びだ。

 どうやら、本当に危機的な状況だったみたいだな。

 もう少し駆けつけるのが遅かったら全滅していたかもしれない。


 そんな雰囲気の中、一人の長耳族(エルフ)が集団の中から出てきて、こちらに近づき頭を下げる。


「礼を告げよう。我々の命を救ってくれて感謝する」


 少しばかり上から目線な口調が気になったが、長年を生きている彼らが人間を軽視するのも頷けるので突っ込まない事に決める。

 更に続いて、この場の長耳族(エルフ)全員が頭を下げて感謝の意を表現した。


「……ちょっと恥ずかしいから、やめて頂戴。私達は騎士としての務めを果たしただけよ。それよりも、他の部隊の状況はどうなのよ?」


 これほどの感謝を向けられるとは思っていなかったのか、ハイネが恥ずかしそうに話題を逸らす。


「は、はい! 先ほど通信しましたが、苦戦しつつも、全部隊が死者を出さずに勝利を収めたみたいです!」


 集団の隙間から顔を覗かせて、少女のセーラが答える。

 その報告はつまり、今回の作戦の成功を意味していた。

 その吉報を聞いて、長耳族(エルフ)達は再び歓喜の叫びをあげ、俺達三人は胸を撫で下ろす。


「あ! それと、総族長様が『騎士団の者に礼がしたい』と仰っていました!」


 戦況報告に続いて、少女が更なる情報を告げた。

 総族長の言う『礼』というのは、今回の作戦に貢献した俺達への感謝の気持ちという事だろうか。


「ですので、お時間があれば是非ともお礼に付き合って欲しいのですが……宜しいでしょうか?」


 少しだけ顔に不安の色を浮かべながら、少女は上目遣いで問い掛ける。

 その瞳は、まるで拾った子猫を家で飼いたいと親におねだりする子供のように純粋なものだった。


 当然、その願いを断る理由など、俺達に存在する筈はない。


「ええ。お言葉に甘えさせて貰うわ」


 悩む動作も見せず、ハイネはいつもの柔和な笑みを浮かべ、即断即決で了解を示す。


「ありがとうございます! では総族長様の居られる中心の集落へ向かいますので、また私の後に続いてください!」


 そう言うと、少女はまた森の中へと向かって歩き出す。

 俺達も先ほどと同じように、それに続いて歩を進める。

 負傷者の看護もあるだろうし、少女を除いた他の長耳族(エルフ)達はそれぞれの集落に戻るつもりだろう。


 そう考えながら長耳族(エルフ)の集団に背を向けて森の中へと入る寸前、背後から「女性三人(・・・・)なのに、我々よりも強かったな」という誰かの感想が聞こえたが、あえて聞かなかったことにする。


 そして俺達を先導する少女は、どこか嬉しそうな表情を浮かべながら、軽快な足取りで案内を務めるのであった。



 ......................................................



 少女に案内された先は、最初に訪れた集落とは建造物や畑の数、面積など、全ての規模が桁違いな集落だった。


 建造物の一部には石や煉瓦が使われており、俺達は集落を流れる川に架けられた石造りの橋の上を渡ってゆく。


 何故か集落には、遥か遠方でも見上げるほどに高い『巨木』が聳えており、それを囲むように建物が円形状に広がっている。

 それはまるで、城の周りに築かれた町のような光景。

 あの『巨木』は、長耳族(エルフ)にとって何か特別な意味でもあるのだろうか。


 そんな事を考えつつ、少女に案内された先は――




「着きました! 総族長様はこの中に居られます!」




 ――まさに、俺が先ほど注目していた、その『巨木』であった。


 一体なぜ、少女が俺達をただただ巨大な木に案内したのか、総族長がこの中にいるという言葉の真意は何か。

 そんな疑問に、俺だけでなくフィリアとハイネも首を傾げる。


「あっ、すみません。ここからでは分かりませんよね。この木の『裏』に回れば、その意味が分かりますよ!」


 疑問を抱きつつも、少女の後に続いて巨木の周囲を辿ってゆく。


 すると巨木の根元には、普通の住居と変わらない木製の『扉』が設けられていた。

 更に上の方を見上げると、幾つかの窓が等間隔に並んで設置されているのが目に映る。


「……まさか、この巨木そのものが『建物』になっているのか?」


「はい! 長耳族(エルフ)にとっての『お城』みたいなものです!」


 お城……か。

 確かにそう考えれば、この木を中心として集落が造られている事にも頷ける。


「へぇ……ここに来た時から気になっていたけれど、まさか建物だったなんてね」


 未だ驚きを隠せない様子のフィリアが、この巨木に対する感想を述べた。

 確かに人間には真似出来ない発想であろう。


「えへへ。実はこの巨木こそが長耳族(エルフ)最大の自慢なんですよ。では、中に案内しますね!」


 少女が扉を開き、俺達をその中へと誘導する。

 人生初体験となる木の建物の内部へ、僅かに期待を胸に抱きながら俺達は足を踏み入れた。




 巨木の内部は予想以上に広く、窓からの風通しのお陰で木の匂いは予想よりも遥かに優しかった。

 壁や床などは暗い色ではなく、木材に使われる(ひのき)のように明るく暖かみのある色合いだ。


 以前見た、天井にぶら下がる発光植物によって周りが照らされており、虫食いの跡などが全く見つからない清潔感溢れる空間がはっきりと目に映る。


 部屋の隅には壁に沿って設けられた階段が見えるが、この階層には俺達の他には誰も居ないようだ。


「総族長様は、もっと上の階に居られます。階段がちょっと大変ですが、私について来て下さい!」


 人が居ないと分かった以上、この階層に用はない。

 更に上の階を目指して、俺達は再び少女の後を追ってゆく。




 巨木を登っている最中、一つの階層ごとに、階段に隣接して扉が設けられているのを幾つか確認した。


 そして少女は、最初の階層から登って五つ目の扉の前で足を止め、小声でこちらに話しかける。


「ここが総族長様の居られるお部屋です。どうか失礼の無いようにお願いします」


 そう断りを入れてから、少女はその扉を三回ノックする。


 中から男性の声で一言、「入れ」と返答され、少女は「失礼します!」と扉を開く。


 部屋に入ると同時、椅子に座りながら執務机の上で手を組んでこちらを見つめる、精悍な顔立ちの若々しい長耳族(エルフ)の姿が目に映る。

 ただ無言でそこに佇んでいるだけだというのに、その姿は(ただ)ならぬ気品を放っていた。


 少女は扉の前で一礼すると、俺達の後ろで静かに扉を閉めた。


 俺達が挨拶をしようと互いの目を合わせた時、先にその長耳族(エルフ)が落ち着いた声音で話しかける。


「……ふむ、其方らが騎士団の者で間違いないようだな。ああ、答える必要は無い」


 先にこちらの確認を取るということは、畏まった挨拶は要らないという意味だ。

 更に続く話に、俺達は耳を傾ける。


「すでに分かっているであろうが、私が長耳族(エルフ)全員を統べる総族長だ」


 表情を変えることなく、総族長は自らの立場を口にした。

 そして短い前振りの後、ようやく本題へと移る。


「まず、今回の依頼……『屍食植物(グール・プラント)の討伐』の受諾と、戦闘に於いて我々長耳族(エルフ)の仲間を救ってくれたことに、大変感謝する」


 総族長は椅子に腰かけ、机の上で手を組んだままで、しかし真摯な態度で深々と頭を下げ、感謝の意を表す。

 再び頭を上げて黄金色の瞳を開くと、総族長は更に話を進める。


長耳族(エルフ)全員が頭を悩ませていた問題を、其方ら三人の加勢で解決してしまった事に、我も驚きを隠せぬ」


 そう言いながらも、総族長は僅かに口角を上げた。

 予想外の俺達の力に対して、『驚き』と共に『喜び』もあるのだろう。


「我々の予想を大きく上回って貢献してくれた其方らに我々の感謝を表して、ささやかな品を用意してある。どうか受け取って頂きたい」


 総族長はそう告げて、予め机の上に置いてあった、小さな黒い箱を差し出し、蓋を開けた。

 その中に入っていたのは、それぞれ異なる色の明光を放つ宝石が嵌め込まれた三つの指輪。

 よく見ると輪の部分に使われているのは金属ではなく、加工された鮮やかな鉱石だ。


「其方らが魔法を使うと聞いたのでな。それは長耳族(エルフ)の間で普及している魔法補助道具だ。天然の魔晶石へ特殊な儀式によって魔法式を組み込む事により、指に嵌めているだけで術者の扱う魔法の安定度と威力を高めてくれる効果を持たせておる」


「……ことごとく、私達の文化とは違ったものを産み出すわね」


 総族長の解説に、ハイネが驚きと呆れが混じった表情で感想を呟く。

 記憶から過去を振り返ると、確かに屍食植物(グール・プラント)と戦っていた長耳族(エルフ)の殆どは指輪を嵌めていた。


「でも、本当に綺麗な宝石ね。アクセサリーとして身につけても普通にお洒落かも」


 品定めをするような目で、箱に入ったままの指輪を見つめてフィリアが言う。

 彼女のいう宝石が、総族長の解説に出てきた魔晶石を指しているのだろう。

 確かに、これほど綺麗な指輪も中々手に入らないだろうし、身につけていれば上品な気分も味わえるかもしれない。

 だが本来は魔法補助道具だと言っており、決してお洒落のために造られた品ではないのだから、そういった事はあまり口に出さない方が良いのでは?


「うむ。実は長耳族(エルフ)の間でも服飾の一部として、見た目の綺麗さに拘って造られた模造品(レプリカ)も存在しておる」


 意外にも、総族長はフィリアの感想を肯定し、更には指輪がお洒落として使われている事も認めた。


 ……なるほど、長耳族(エルフ)の間でも服飾や流行といった概念はあるんだな。


「試しに、指に嵌めてみても良いかしら?」


 服飾として身につけたくなったのか、それとも効果を試してみたくなったのか、ハイネが総族長に質問する。


「構わん」


 短く返答した総族長の了解を得て早速、ハイネは指輪を嵌める。


「あら、私の指にピッタリね。それに、なんだか自分の魔力が強くなった気もするわ!」


 嵌めただけで実感出来ることには驚いたが、本人の感想を聞く限りは、どうやら本当に効果はあるらしい。


 その様子を見て、フィリアが続いて指輪を嵌めたので、俺もそれに倣って残りの指輪を手に取った。


「実際に魔力が強くなっている訳ではない。魔力を感知するための第六感を強化しておるために、そう感じるのだ。なんと言っても強力な聖なる加護を魔水晶に施しておるからな」


 誤解を解消するように、総族長が補足として説明を加える。


 ……ん? 今なんて言った?

 俺の耳が正しければ『聖なる加護』と聞こえたんだが?


 それに気づいたところで、既に遅かった。

 俺が指輪を嵌めた瞬間、その指輪から激しい電撃が発生し、俺の人差し指を刺激する。


()……!」


 人差し指に激痛を感じるのと同時に、ひとりでに俺の指から外れた指輪が床に落ちる音が鳴った。


「クロト君、どうしたの!?」


「な……何が起こったのよ!」


 突然の不祥事に、二人は動揺しながらも俺の身を案じて指の状態を窺う。

 しかし不幸中の幸いか、あれほどの激痛だったにも関わらず、人差し指に外傷や異常は見当たらない。


 そんな俺達の様子を見て、総族長の顔には焦燥はないものの、明らかな驚愕が浮かんでいた。


「これは驚いた……まさか其方は闇属性だったのか?」


 その言動や仕草に嘘は見当たらず、総族長もこの事態を予想していなかったようだ。


 そう、基本的に『聖なる』という言葉が出てきた場合、光属性の効果を齎すものが殆どだ。

 つまり、光属性に相対する属性――闇属性の者にとって、それは本能的に忌避してしまう猛毒のようなものである。


「これは申し訳ない。このような事態は起こったことが無いものだから予想できなかった」


 これまで同じ事が起きなかったという事は、少なくとも現在この指輪を嵌めている長耳族(エルフ)の中に、闇属性の者が存在しないことを表している。

 おそらく総族長にとっても、先程の事態は稀有なものだったであろう。


「まあ、その指輪が世界的に見ても価値のある希少な品であることは確かだ。

 指に嵌められないのなら、売るなり飾るなり好きにすると良い」


 仕方ないと言わんばかりに、指輪の効果を諦めて別の使い道を提案する総族長。

 売るのは問題があるのでは? と思ったが、特殊な儀式やら聖なる加護やら、人間に真似できる技術でも無さそうだから技術の漏洩はありえないな。


「その……ドンマイよ、クロト君」


「そ、そうよ! 聖なる加護もあるみたいだし、部屋に飾ればお守りになるんじゃない!?」


 特に残念に思っている訳ではないのだが、二人は気を使って必死に俺をフォローする。


 指輪の効果が使えないのだから、お守りにするのは無理なのでは? と思ったが、折角のフォローなので言わないでおこう。


「えっと、大切な人へプレゼントするのも良いかもしれませんよ!」


 ずっと扉の前で立っていた少女までもが、自分なりに精一杯励まそうと試みる。

 正直言って、その案が一番まともな使い道かもしれないと思った。


「まあ、使い道についてはゆっくり検討しますよ」


 取り敢えず、傷心してはいない事を二人が分かるように返答しておく。


「うむ。その指輪が、其方等へ大いなる恩恵を齎すことを願う」


 総族長は組んだ両手を顔の前に近づけ、言葉が現実になる事を願って祈りを捧げる。


「……さて、こちらの要件は済んだ。其方等が再びこの森へ訪れた時、我々長耳族(エルフ)一同が手厚く歓迎することを約束しよう」


 それは総族長として、長耳族(エルフ)全員の感謝を代表した言葉であろう。

 必ず約束を守るという、確固たる意志がその瞳に現れていた。


「それは有難いわね」


 ハイネはそれだけ返して総族長に背を向けて部屋を後にしようとすると、それを見た少女が慌てて扉を開く。


 それから再び少女を先頭にして、俺達は帰路を辿り歩いてゆくのであった。



 ......................................................



 少女の案内で森の中を進んでいき、やがて最初に訪れた集落へと辿り着く。


「えっと……皆さん、帰り道は大丈夫でしょうか? 私はこの集落に帰るつもりですが、宜しければ森の出入口までご案内致しますよ」


 ふと疑問が浮かんだように、少女は上目遣いで俺達に問い掛けた。

 有難い申し出だが、俺には完全記憶能力があるので、作戦前に見た【エルフの森】の地図の記憶や森の中を歩いた時の記憶から、出入口の方角は把握している。


「ありがとう。でも、出入口への行き方は分かっているから大丈夫だ」


 自信を持って俺は答えたが、少女は少しだけ、その顔に不満の色を浮かべた。


「そうですか……。あの、クロトさん。少しだけお話を聞いて頂いても宜しいでしょうか?」


「ん? 構わないが……どうした?」


 特に急いでいる訳でも無いし、どの道ここで少女とは別れてしまうのだ。

 最後にお願いごとを聞くぐらいは良いだろうと思って、俺は小さく手招きする彼女に近づき耳を傾ける。


「あの……戦いの時は私を助けてくれて、仲間も守って頂いて有難うございます。

 それで、えっと……魔物に恐れず立ち向かうクロトさんの背中が、私は格好いいと思いました!」


 相当勇気を振り絞って言ったのだとすぐに分かる程に、少女はわかりやすく照れながら言葉を必死に紡いだ。


 それに応えるべく、「騎士として当然の事をしただけさ」と返答しようと考えた時、不意に少女の手は俺の顔を掴んで引き寄せ――




 ――俺の頬に接吻(キス)をした。


 唐突過ぎる少女の行動に、当然ながらフィリアとハイネの二人は過剰な反応を示す。


「な……ななっ……!?」


「あらまぁ、積極的ねえ」


 口をぱくぱくと開閉させ、言葉にならない声を出して驚くフィリアと、口元を抑えて笑みを隠すハイネ。


 かくいう俺も、その出来事に対して処理が追いつかず、呆気に取られた表情のまま固まっていた。


「ふふっ、これは私からのお礼です。それでは、お気をつけてお帰りください!」


 少女はそれだけ言い残し、最後に手を振りながら、風の如く集落の方へと逃げるように駆けてゆく。


 その様子を、俺達三人は暫くの間、ただ呆然と見つめるのみであった。


「……王城に戻りましょうか」


 短い沈黙の末、俺は当初の目的を思い出して二人に声を掛ける。


「そ、そうね。もう長居する必要はないわ」


 俺の声で二人はハッとした表情で意識を戻し、ハイネは俺の言葉に賛同する。


 そうして、帰り道を把握している俺を先頭に、俺達三人は既に歩き慣れた森を進んでいくのであった。




 ......................................................




 予想以上に長居していた【長耳族(エルフ)の森】を抜けて、俺達は現在、魔導駆動車で王城へと向かって進んでいる。


「そういえば、今回はかなりの数の魔物を討伐したから、レベルも結構上がってるんじゃない?」


 ふと思い出した様子で、今まで窓の外を眺めていたフィリアが発言した。

 確かに今日倒した屍食植物(グール・プラント)の数を考えれば、大量の経験値が手に入っている事だろう。


「そうね。どうせ今は暇だし、確認してみましょう!」


 ハイネもそれに賛成し、自身のステータス表を開く動作を見せる。

 そのステータス表自体は本人にしか見えないので、本当に開いているのを確認した訳ではないのだが。


 それに続いて、俺とフィリアも久々に自身のステータス表を開いて確認する。



【ステータス】

 名前:クロト=ルミナ

 種族:人間

 武器:剣(二本)

 属性:闇

 レベル:400

 攻撃力:360

 防御力:240

 俊敏性:380

 魔力:250


通常能力(ノーマルスキル)

 魔力操作(5) 魔力消費量減少(3) 詠唱短縮(5)

 闇属性耐性(5) 無属性耐性(3) 熱耐性(4) 電撃耐性(3) 低温耐性(3) 物理耐性(5)

 魔力感知(5) 電磁波感知(4) 熱源感知(3) 生命感知(4)

 属性強化(5) 身体強化(5) 視力強化(3) 聴力強化(3) 筋力強化(3) 防御力強化(3)

 肉体再生(3) 回復促進(4) 魔力回復(3)

 戦利品増加(5) 魅惑(チャーム)(3) 反逆斬(カウンタースラッシュ)(3) 空破斬(3) 格闘術(3) 鬼人化(3) 空間把握(3) 軟体(3) 器用(3) 不屈(3)

 遠視(3) 暗視(3) 威圧(2) 隠密(4) 隠蔽(3) 鑑定(2) 潜水(3) 高速移動(5) 跳躍(4) 収納(5) 索敵(3) 


固有能力(オンリースキル)

 索敵標識(エネミーマーカー) 第二知能(セカンドブレイン) 万物融合化(マルチフュージョン) 能力複製(スキルコピー) 思念伝達(テレパシー) 虚心坦懐 無病息災 幸運


上位能力(ユニークスキル)

 一刀両断 堅忍不抜 窮鼠嚙猫



 ……自分でも恐ろしい程の成長だ。

 特に通常能力(ノーマルスキル)の量が尋常ではないほどに増加しているな。


 そして、新たに取得した固有能力(ユニークスキル)の"無病息災"と"幸運"の二つ。


 どうやら、前者は状態異常を無効化する効果を持つスキルで、後者は名の通りに強運の持ち主になれるスキル……らしい。

 強運と言っても人生を大きく変化させるほどの影響はなく、あくまで身近に感じる小さな幸せが起こりやすくなる程度のようだ。


 上位能力(ユニークスキル)の方では、"堅忍不抜"と"窮鼠嚙猫"が新しく入手したスキルとなる。


 どちらも窮地に追い込まれた時に発動し、前者は恐慌状態に陥るのを防ぎ、後者は全体的なステータスを一時的に向上させてくれる効果だという。


 レベル400まで達すると、流石に人間離れしてくるものだな。

 と言うより、今まで俺と同じレベルに至った人間は存在するのであろうか?

 俺の"戦利品増加"による経験値補正と同等の恩恵が無い限りは難しいと思うのだが。


 そんな思考をしている間に、二人も自身のステータス表を確認し終わったようだ。


「やったわ! レベルが180まで上がってる! ……って言っても、アンタと比べたら低すぎる数値よね」


 フィリアが自身の成長を喜ぶが、隣に居る俺の存在をすぐに思い出して意気消沈した。

 肯定しても彼女が落ち込むだけなので、俺は沈黙を選択する。


「……なによ、その気まずそうな顔は。アンタも自分のレベルを言ってみなさいよ」


 無表情を装ったつもりだったが、彼女への気遣いが表情に出てしまっていたようだ。

 思いの外、俺は思考が顔に表れやすいタイプなのかもしれない。


「そうね、私も気になるわ。あ、因みに私のレベルは220になったわ!」


 二人とも、屍食植物(グール・プラント)を大量に討伐したことにより、レベルが著しく上昇しているようだ。

 ……それ故に、俺のレベルを公開するのが心苦しくあるのだが。


「やっぱり今回の依頼は良い経験になったわね。それで、アンタのレベルは? 前は確か260って言ってたし、そろそろ300を超えたんじゃない?」


 不味いな……。フィリアの予想が的外れ過ぎて、尚更言いづらくなった。

 まぁ、どんな反応をされてもいいような心構えだけしておいて、さっさと答えてしまおう。


「俺のレベルは……400です」


 予想通り、俺の答えに対して二人が口を大きく開けて驚愕して言葉を失った。

 沈黙の間だけ、気まずい空気が車内に溢れる。


「よ……よんひゃく? 聞き間違いかしら?」


「規格外にも程ってものが……いや、既に手遅れね」


 ハイネは現実逃避に走り、フィリアは諦め顔で嘆息する。


 規格外と言われても、その力を『勇者』には求められているのだから仕方あるまい。

 寧ろ、『勇者』としての義務を果たしているとさえ解釈できるのではないか。


「はあ……。クロト君はこのまま、どこまで成長するのかしらね」


 そう言って嘆息するハイネは、小さく微笑んでいた。

 自身との差をつけられる悲しさの反面、部下の成長に嬉しさも感じているのだろう。


「今でさえ化け物なのに、まだまだ強くなるなんて考えたくないわね……」


 呆れたようにフィリアは告げて、この話題に興味がなくなったように再び窓の外を眺める。


 まぁ、今日は長耳族(エルフ)を救って感謝され、おまけに土産(みやげ)も貰ったので満足だ。

 俺も王城に辿り着くまで外の光景を眺めながら、この指輪の使い道をゆっくり考えるとしよう。




 それから俺達は、充実した今日の日を振り返り、夕焼けに染まった草原を眺めながら王城へと向かってゆくのであった。

炎属性の魔法を使って敵を一網打尽にしなかったのは、単純に森が火事になるからです。

なんだかんだ言って、結局はクロトのチート化が目立つ回でした。

能力複製スキルコピーで複製した新スキルについては割と適当に考えたので、後々になって変更があるかもしれません。

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