48話:休息
今回の投稿も遅れて申し訳ありません。
急いで書いたので、誤字やおかしい文章があるかもしれません。
〜人間界(長耳族の森)〜
族長の案内で、俺達は長耳族の集落の中へと歩を進める。
集落には形や大小様々な木造の住宅が立ち並んでおり、長耳族の文化が形として佇んでいる様に感じられた。
それらの建物の窓からは、何人かの長耳族達が人間である俺達を珍しいものを見る目で眺めている。
そんな長耳族達の視線を浴びながら俺達が案内された先は、比較的大きいサイズの建物だった。
とは言え、決して城のように巨大な建物ではなく、内部は教室一つ分程度の広さだ。
中は会議室の様な造りになっており、並べて三つ置かれた長机の周囲に、椅子が十席ずつ用意されている。
勿論、机も椅子も全て木製だ。
「この集落の建築物は、我々が一から植えて育てた木のみを使っている。それ以外の自然を破壊すると森の精霊達が怒ってしまうのだ」
特に聞いてもいないが、周りの建物を眺める俺達の様子を見て、族長は親切に解説する。
いや、自然と共に生きる長耳族が好き勝手に森林伐採をしていると思われてはイメージが下がってしまうので、予めそれを防止するための話だったのかもしれない。
「多くの人数が来る事を予想して机や椅子を用意したのだが……まぁ、好きな席に座るが良い」
そう案内しつつも、族長はこれ程の用意をした事が取り越し苦労だったと言わんばかりに肩を竦める。
やはり族長も騎士団から三人しか加勢に来ない事は予想していなかった様だ。
掛ける言葉も見つからないので、俺達は取り敢えず中央の机の周囲に並べられた、隣り合わせの席に着席する。
「あら? そういえば、建物の中なのに明るいわね」
フィリアの一言で俺とハイネはハッとした表情で天井を見上げ、照明を探す。
すると、眩い光を放つ幾つかの球形の照明が、その天井にぶら下がって室内を明るく照らしている光景が目に映った。
「あれは……」
「おっと、勘違いするでない。あれは発光植物の一種で、人間の文明によって造られた道具ではないぞ」
俺の呟きを聞いて、族長は咄嗟に天井の照明の説明を行った。
確かによく見ると、天井近くの横架材からは木の枝の様なものが伸びており、その先に先程の光球が生えていた。
なるほど。最初は本気で照明器具をぶら下げているのかと勘違いしてしまったが、【長耳族の森】には、あのような植物も存在するのか。
「へぇ……本当に何から何まで、自然そのもので成り立ってるのね」
感嘆した様子でハイネが周りを一望しつつ、感想を述べた。
「まぁ、流石に必要最低限の鉄器などは使うのだがな。それと……生活する以上は火も使う」
言いにくそうに寂しい表情をしながら、族長が発言した。
自然と共に生きる長耳族でも、文明がある以上は、その様な道具に頼らなければならない問題も出てくる。
族長が哀しそうな表情をしているのは、それでも自然の恩恵を得ている自分達が、恩を仇で返す様な行動をする事に申し訳なさを感じているからだろうか。
「でも鉄器がなければ、建物だってこんなに精巧に造れないわよね」
フィリアがそう発言しながら、納得した様に何度か頷く。
「……おっと、話が脱線してしまったな。では、もてなしの品を持って来てから話を進めるとしよう」
「いえ、お構いなく。依頼の内容の方が大事……あら、行っちゃったわ」
ハイネの静止の声も聞かずに族長は建物を出ていき、内部には俺達三人だけが取り残された。
「……まぁ、仕方ないわね。事を急いても仕方ないし、素直にもてなしを受けるとしましょう」
嘆息しながら告げるハイネの言葉に俺とフィリアは頷き、この成り行きに任せる事にした。
......................................................
それから雑談を交わしながら数分ほど待っていると、不意にギィ……と音を立てながら、建物の扉が開かれる。
先程の発言通り、族長がもてなしの品を持ってきたのかと思い扉の方を向くと、俺達の目に映ったのは――
「お客様、お待たせしました! こちらが、おもてなしの品になります!」
玲瓏な声音で話しながら謹厳実直に頭を下げる、齢十歳を少し越えたであろう程の幼い少女であった。
その少女の白磁の両手には、幼い子供の体には少々似つかわしくない巨大な皿が抱えられている。
その皿に乗せられた料理は、何故かクロッシュによって隠されていた。
言うまでもないが、食器類は全て木製だ。
「失礼します」
こちらに歩み寄った少女は、その皿を丁寧に俺達の眼前の机に置いて一礼し、笑顔を作る。
「これが私たち長耳族のもてなし料理、『果物の盛り合わせ』になります!」
料理の紹介と共に、少女はクロッシュを皿の上から取り除き、料理の全貌を明らかにした。
皿の中央には三角波状に切られたメロンがあり、その周りには綺麗に切り揃えられたイチゴやキウイ、リンゴなどが並べられている。
更にメロンの断面を見ると、その中央にはクレーターの様な巨大な穴が空いており、その穴の中には、ブロック状に切られたスイカやマンゴー、パインやブルーベリー等、名前の通りに数多の果物が姿を見せていた。
果肉の新鮮さや瑞々しさも相まって、中々に食指が動く外見である。
「わぁ……美味しそう!」
「これは凄いわね! 騎士団の食堂でも真似できないかしら!?」
満足そうに両手を合わせて喜ぶフィリアと、目を輝かせて歓喜するハイネ。
二人の目は頭上の照明以上の輝きを見せており、眼前の料理に釘付けであった。
言葉には出さないが、俺も心の中では二人と同じぐらいに興味が湧いていた。
「喜んで頂き幸いです。味の上質さは勿論、我々の森で採れる果物は栄養満点で、疲労回復や血流改善の効能もあります! それと美肌効果もありますね。
魔力も回復してくれるので、我々によっては戦や狩りの時にも欠かせないんです!」
少女の説明を聞きながらも、二人の視線は一瞬たりとも料理から離れなかった。
特に甘いものに目がないハイネは、自然と涎まで垂れる始末である。
「あ……すみません。説明が長くなってしまいましたね。それでは、どうぞお召し上がりください!」
少女の言葉を合図に、フィリアとハイネは「いただきます!」と声を合わせ、すかさず果物に手を伸ばして口に放ってゆく。
「ん〜! 美味しい!」
「本当ね。酸味と甘味が丁度いい具合に絡み合ってるわ!」
各々の感想を述べながら、料理の美味しさに目を見開く二人。
その様子を見て、更に食欲がそそられた俺は二人を真似てメロンの中にある果物を口に運ぶ。
それを噛んだ瞬間、果肉の弾力が顎に伝わると共に酸味の効いた果実の甘みが口の中に広がった。
瑞々しい新鮮な外見に違わず、料理の上質さが窺える味だ。
「なるほど、確かに良い味だな」
頷いて二人の意見に賛同を示しつつ、率直な感想を述べる。
その間にも、俺の手は無意識にも再び眼前の果物に向かって伸ばされていた。
「ふむ、気に入ってくれたようで何よりだ」
少女の背後から族長の長耳族が扉を開けて出現し、こちらの様子を一瞥して言った。
何故か片手には丸まった大きな紙が握られているが、今は突っ込まない事にした。
「ええ、こんなに美味しい果物は初めて食べたわ!」
族長に返答しつつも、ハイネの手は食事を止めない。
言葉の通り、相当にこの料理が気に入ったという事だろう。
「余談だが、その品は全てこの娘が調理したものだ」
族長の言葉を聞いて、二人の手が止まる。
「ええっ! この料理を!? プロの御業じゃない!」
「全て調理って……まさか、この盛り付けも貴方が考案したの!?」
フィリアの驚愕と賞賛が混ざった言葉と、ハイネの質問を聞いて、少女は恥ずかしそうに頬を掻きながら答える。
「は……はい! 料理は得意でして……」
「凄い才能ね……。騎士団の料理人として雇いたいぐらいだわ」
美味しい料理(特に甘いもの)に目がないハイネの賞賛は、決してお世辞で言っている訳ではないだろう。
その時、族長の咳払いが二人の話題を中断させ、同時に俺達の視線を自身に集める。
「さて、食事中に悪いが、今回の依頼……『屍食植物の討伐』についての話をさせて貰おう。料理は食べながら聞いても構わん」
一応の了承を得て、俺達は食事を続けながらも、意識の大半を族長の話に傾ける。
「まず、屍食植物の厄介な点を挙げよう。
奴らは一箇所に纏まって群生し、周りの生物を無差別に喰らう。それだけでも環境破壊に繋がるのだが、何より、地面を経由して他の植物から栄養を吸い取ってしまう事が一番の問題だ。
このまま放置すれば、近いうちに森全体が枯れ果ててしまうだろう」
生物の肉を喰らう事は分かっていたが、周りの自然まで悪影響を及ぼすとは初耳だな。
長耳族にとっては、恐らくそちらの方が重大だろう。
「次に、【長耳族の森】の領域内に生息する屍食植物の分布を見て欲しい」
話と共に、族長は先程まで片手に握っていた紙を広げて、俺達から最も近い壁に貼り付けた。
画鋲などを使っていないので、魔法で静電気でも操っているのだろうか。
壁に貼られた紙には、森の輪郭を表しているのであろう線が描かれており、それが地図である事は容易に理解できた。
しかし輪郭の中には、大小様々な複数の青い丸や赤のバツ印もあり、それが何を表しているのかは謎であった。
「ひと目でわかると思うが、周りの輪郭は【長耳族】の森を表しておる。そして、赤のバツ印が現在確認されている屍食植物の生息地だ。生息する数が多いほど、印も大きくしておる」
なるほど。説明の通りに考えると、屍食植物の数が一番多いのは、地図で表された東南の方だな。
「この青い丸は、長耳族の集落を表しておる。こちらも規模の大きさに比例して印も大きくしておる」
その説明を聞いていたフィリアが、食事の手を止め、何かに気づいたかのようにハッとした表情で口を開く。
「あっ……なるほど。此処がやけに規模の小さい集落だなと思っていたけれど、やっぱり他にも同じような集落が幾つかあるのね」
俺はほぼ確証を得ていたが、フィリアも答えに近いところまで推測していた様だ。
「うむ。私も族長と呼ばれてはいるが、実際には長耳族全員の長ではない。それは地図の中心に存在する、最も大きい集落に居られる総族長様の立場だ」
特に必要な情報でも無かったが、一応は頷いて納得した様子を見せる。
細かい役割の違いは知らないが、身分で言えば、総族長が王で族長が領主といったところだろうか。
「地図の通り、屍食植物の生息地は五ヶ所に別れているが、それに対して長耳族の集落は四つだ。
おまけに、集団ごとの数は屍食植物の方が多い」
「うわぁ……人数不足っていうのも頷けるわね」
予想以上の状況の悪さに、同情か呆れか苦笑いでハイネが呟いた。
「せめて集落の数が五つか、奴らの集団が四つなら処理が追いついたであろうが……」
どうしようもない現状を悔いてか、族長の両の拳に力が籠ってゆく。
しかし、すぐに冷静さを取り戻して説明を再開する。
「特に大きい南東の赤印に、最も近い集落が我々の居るここだ」
族長が地面を指差し、同時に俺達の手が止まる。
屍食植物が最も多い地域という事はつまり、最も自然の危機に晒されている地域がここだという事実を示唆しているのだ。
「今はまだ甚大な被害にはなっておらん。しかし、近いうちにこの集落も機能しなくなるかもしれぬ」
「えっ……この果物も食べられなくなっちゃうの……?」
悲壮感を漂わせる族長の言葉に対して、ハイネも不安げな表情で呟く。
「確かに、それは許せませんね……。そんな植物、根こそぎ伐採してやるわ!」
そしてハイネに同感し、屍食植物に怒りの矛先を向けるフィリア。
いや、問題はそこでは無いだろうと思いつつ、俺も確かに美味しい食べ物がこの世から無くなるのは受け入れ難いな、という考えも脳裏に浮かんだ。
「そ、そうか……やる気が出たようで何よりだ」
その様子を見て、族長は突っ込みを諦めて、曲がりなりにもやる気を出した二人の意気込みを良しとする事を決めたらしい。
そして咳払いの後、説明を再開する。
「本来なら其方ら騎士団に東南の屍食植物の討伐にあたって貰い、他の各箇所へ集落ごとに総攻撃を仕掛けようという話だったのだが……たった三人では難しい話だろうな」
俺達を一瞥し、ため息混じりに告げる。
もともと大人数が加勢に来ることを想定していた身としては、たった三人の加勢に落胆するのも無理はあるまい。
しかし……
「何言ってるのかしら? そんなの、三人で充分よ!」
一遍の曇りもなく、自信に溢れた笑みでハイネが自身の胸を叩いて言い切った。
口の端にはチェリーの茎が見えるが、突っ込むのは無粋だろうか。
「し、しかし……相手の数が多すぎる。幾ら何でも三人では無理だ」
よほど事態を重く見ているのか、族長はその申し出を否定する。
「大丈夫よ。そうでしょう? 二人とも」
笑顔をこちらに向けるハイネの質問に、俺とフィリアは同様に口角を上げて「当然です」と回答する。
「……屍食植物は個体によってはBランクになるのだぞ?」
「たかがBランクじゃない。余裕よ」
俺とフィリアは頷き、ハイネの言葉に同意を示す。
族長はその様子を見て、暫くの長考を経てから口を開く。
「……分かった。眼を見る限り、どうやら嘘は言っていない様だな」
ため息をつきながらも、観念したように申し出が了承された。
「其方らが死のうと、我々に関係はない。代替案を考えるだけだ」
「大丈夫よ。死んだりはしないわ」
冷たく言い放つ族長の言葉にも、全く傷心した様子を見せずにハイネが言い返す。
「……なら案内役として、その娘を連れていけ。彼女は長耳族の中でも優秀で、治癒魔法や遠隔攻撃による補助が可能だ」
そう言って族長が指差したのは、未だに扉の前で立っている、先ほどの料理を運んできた少女だった。
「セーラと申します! 精一杯サポート致しますので、よろしくお願いします!」
少女は蒼穹のように綺麗な青い瞳を輝かせ、慇懃に頭を下げる。
何故かその仕草は、俺にリミアのそれを彷彿とさせるものだった。
「この娘が? 料理だけじゃなくて、魔法の腕も良いのね」
「えへへ……お褒めに預かり光栄です」
フィリアに褒められた少女は、礼を言いつつも恥ずかしそうに照れて後頭部を掻いた。
やはり、その仕草もリミアに似ている。
「ところで、さっきの計画は長耳族全体で一斉に行うのでしょう? いつ始める予定なのかしら?」
「其方らの準備が出来次第、今からでも出撃可能だ」
答えを用意していたかのように、ハイネの問いかけに対して族長は即座に答えた。
大人数を動かすのだから、てっきり時間が決められているのかと俺も思ったのだが。
「長耳族の中でも、限られた者だけが遠隔通信の魔法を使えるのだ。集落ごとに一人は必ずおり、我もその一人だ」
俺の思考を解読でもしたのか、質問する前に族長が説明する。
「なるほど……全体への指示も、それでやり取り出来るという訳か」
まだ使った事はないが、俺の固有能力の"意思疎通"と同じような用途だろう。
そのような魔法がある事は知らなかったが。
「じゃあもう、今すぐに出撃しましょう! あ、でもまだ食べ終わってないから、もう少し待って頂戴」
もともと準備を整えて来ているので、今すぐに出撃は可能だが、今はハイネにとっては眼前の料理を完食する事が優先らしい。
「そ、そうか。こちらも準備は出来ているが、全体で動き始めるには少々時間が必要だから丁度よかろう。
では、我はここの集落の皆を招集してくるとしよう」
そう言って扉の方に向かって歩き出した族長だが、途中で何かを思い出したのように不意に足を止め、こちらを向いて問い掛ける。
「……ひとつ聞くが、何故わざわざ危険を冒してまで其方らは最も多い屍食植物の討伐に臨むのだ?」
その表情は至って真剣であり、興味本位などという軽い気持ちで聞いているものではない事は容易に推測できるものだった。
容易に危険を受け入れた俺達の言動に、なにか裏があるのではないかという懐疑だろう。
「なぜって、そんなの決まってるじゃない」
しかし、その疑問にハイネは笑みを浮かべて答える。
「ただの――美味しい料理を食べさせてもらったお礼よ」
細かい理屈や建前の無い、あまりにも単純な回答。しかしそれは、俺達三人の胸中を嘘偽りなく表現していた。
「む……そうか。無粋な質問だったな」
予想以上に意外な答えだったのか、返す言葉も無いようで、族長は苦い顔をしながら扉を開けてこの場を後にする。
「えへへ……」
ハイネに褒められた事で、少女は再び恥ずかしそうに照れて後頭部を掻いた。
「さてと。じゃあ料理を食べ切って、これからの戦いに備えましょう!」
俺達に提案するようにハイネが告げるが、ただ単に彼女の意識が目の前の果物を平らげる事に向いているだけだという可能性は高いだろう。
しかし俺とフィリアはそれに異を唱えることは無く、今はただ至福のひとときを愉しむ事に賛成し、再び料理へと手を伸ばすのであった。
今回は思いのほか話が進まなかったので、戦闘は次回になります。
この遠征でハイネとフィリアの魅せ場を設けたいので、リミアの出番はもう少しお待ちください。
ディザスター側のストーリーも近々書きたいと思います。




