47話:初遠征
遂に始まった遠征です。
あまりクロト視点で本格的な戦闘を書けていないので、今回の遠征は戦闘系の内容にしました。
新しい騎士団の魔道具や初登場の魔物など、できる限り遠征編で沢山登場させたいと思います!
〜人間界~
翌日、優しい旭光が世界を仄かに照らす黎明にて、俺は目を覚ました。
……と同時に自身を左右から圧迫する二人の存在を認識し、僅かな辟易と共に嘆息する。
「んっ……嗚呼、クロト様、もっと……」
「ふふ……」
安らかな寝顔で、幸せな夢でも見ているのか満足そうに寝言を呟く二人。
というか、リミアは一体どんな夢を見ているんだか。
そして何が厄介かと言えば、リミアは俺の胸部に顔を埋め、フィリアは頰擦りをしているという無遠慮さだ。
……二人して俺を抱き枕にしながら。
無意識でやっていると言うには、些か大胆でわざとらしいスキンシップでないだろうか。
しかも俺が起き上がろうとすると、二人して俺の腕や胴体を強く掴み、無理やりベッドの上に引き戻そうとするのだ。
つまり、この二人が目覚めるまでは、このままの体制でいる事を余儀なくされてしまったのである。
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それから約一時間が経過した頃、二人はほぼ同時に目を覚ました。
「んっ……おはよ、クロト」
「おはようございます、クロト様」
それと同時に、二人して目覚めの挨拶をするが……何故か俺の体から腕を離して起き上がろうとする様子がなかった。
「起きたのなら、そろそろ離してくれないか? 二人に挟まれては俺が起き上がれないんだが……」
「はっ!? 言われてみれば!」
「あ……すみません」
俺の言葉でようやくこの状況を理解したのか、二人はハッとした表情を見せて素直に俺の体を離し、ベッドから起き上がった。
昨夜は積極的に俺に引っ付こうとしていたのも、恐らく一時的な興奮のせいだったのだろう。
「そうだ……私、昨日はあんな事を……」
まさに昨夜の事を思い出したフィリアが、羞恥心から顔を赤くする。
「昨日はとても濃密な夜でしたね!」
そんなフィリアの空気も読まずに、リミアが羞恥心の欠片も見せずに発言する。
「うぅ、夢じゃなかった……」
どうやらフィリアは昨夜の出来事を夢かもしれないと自分に言い聞かせて現実逃避を図っていた様だが、リミアの一言がそれを無惨にも台無しにしてしまった。
それによって羞恥心に拍車がかかったのか、フィリアが更に赤面する顔を手で覆い隠す。
そして更に、空気を読まないタイミングで唐突に玄関の扉が開かれ、ハイネが部屋に入ってきた。
「おはよう! 今日は遠征よ! よく眠れたかし……ら……?」
最初はハイテンションで挨拶をするハイネだったが、俺達の様子を視界に捉えると同時に段々と顔に疑問の色を浮かべ、遂にはその光景に首を傾げてしまった。
上機嫌に満面の笑みを浮かべるリミアと、対照的にあまりの羞恥心から意気消沈して顔を覆い隠すフィリア。
そして、その二人を辟易した表情で眺める俺。
第三者であるハイネがこの光景を見れば、少なからず俺達の間に何か重大な事件でもあったかの様に捉えるのも当然だろう。
「えっと、今日の遠征の旨を伝えに来たんだけど……お邪魔だったかしら?」
ハイネは気まずいという胸中を惜しげも無く顔に浮かべて苦笑する。
彼女の台詞もこの状況を読んで、気を使ってくれているという事が明らかだ。
「いえ、大丈夫です。続けて下さい」
誤解されたまま引き返されても困るので、俺は取り敢えずハイネを呼び止めた。
「そ、そう? じゃあ今回の遠征について伝えるわね。フィリアちゃんも大丈夫かしら?」
上機嫌のリミアはともかく、話を聞くどころじゃあなさそうなフィリアを気遣って声を掛ける。
「は、はい……大丈夫です」
フィリアは未だに顔が紅潮しているが、ハイネの話を聞ける程度には落ち着いた様だ。
「分かったわ。今回の遠征の内容は……」
フィリアの返事を聞いて、ハイネが遠征の話を始め……重要なところで焦らすように話を止めた。
まさか重大な内容なのだろうかと思い、俺達三人は喉をゴクリと鳴らし、ハイネの次の台詞に耳を傾ける。
「……【長耳族の森】に大量発生した、屍食植物の討伐よ」
俺達の予想に応えるように、ハイネの口から告げられた遠征の内容は如何にも危険性の高そうなものだった。
長耳族とは、以前に図書館へ訪れた時に読んだ本にも書いてあったが、若い肉体のまま永い年月を生きる種族だ。
また、先天的な感覚によって魔力の扱いにも長けており、ほぼ全ての長耳族は魔法を使用できるという。
そして屍食植物は、名前の通りに生物の肉を主食とする植物だ。
外見は種類によって多種多様だが、その殆どは花の形をしており、更に花弁には無数の鋭い牙が生えているという、悍ましい容貌を持っている。
因みに人間界では、正式に魔物として分類されている様だ。
「うえぇ……屍食植物……正直、あれは苦手だわ」
外見を想像したのか、フィリアが苦い顔を見せる。
まさにフィリアにとっては、強い嫌悪感を感じる存在だったらしい。
「長耳族……あの娘は元気でしょうか」
何故かリミアは思案顔で、長耳族という単語に反応して小声で呟いた。
「どうした? 何か気になる事でもあるのか?」
「あ、いえ。何でも無いです!」
俺の質問に、リミアはビクっと驚いて反応する。
何でもないという様子ではなさそうだが、特に不安がある様には見えないので、あまり深くは聞かない方がいいだろうか。
「今は屍食植物の繁殖期で、今年は過去史上最高に環境の条件が揃ったらしく、それが大量発生の原因になったみたい。
長耳族は長命な分、繁殖力も弱いからどうしても人手不足で困っていて、私達に協力を要請したとの事よ」
なるほど。全体的に頭数の少ない長耳族に対して、屍食植物の数が多過ぎるせいで討伐が追いつかないのか。
屍食植物は生命力が高いため、繁殖期の場合は迅速に数を減らさなければ逆に増殖するばかりなのだ。
「しかし、この班の人数だけで足りるのですか? リミアは戦闘要員ではありませんから、実質的にはたったの三人ですよ」
そう、幾ら長耳族の繁殖力が弱いとはいえ、全体的な頭数は十や百どころの話ではないだろう。
魔法に長けた種族である長耳族がそれほどの数で屍食植物の討伐に当たっても人手不足だと判断できる状況だと言うのに、たった三人の加勢など焼け石に水ではないか?
「大丈夫よ。屍食植物の強さはD〜Bランク程度だから。
既に私達は個人でもAランクの魔物に余裕で対処できる程の実力を備えているし、最近は魔法だって習得したじゃない。
と言うか、騎士団長はクロト君を『千の一般兵よりも戦力になる』って評価してたわよ」
俺達がAランク相当の魔物に対処出来るという話は分かるが、騎士団長が俺にそのような評価を下しているとは初耳だな。
「流石はクロト様です! 屍食植物なんてすぐに殲滅できますよ!」
ハイネの話を聞いて、リミアが嬉しそうに俺を鼓舞する。
「でも、油断は禁物よ。どんな状況でも周囲の状況を把握しなきゃ失敗を招くわ」
流石に修羅場を幾つか潜り抜けているのか、真面目に注意するハイネの表情や台詞には強い説得力があった。
もちろん俺も、戦闘の厳しさは充分に心得ているつもりだが。
「あ、そうそう。屍食植物の他に魔物が出現した場合、無闇に殺生するのは禁止よ」
俺とフィリアはこくりと頷き、了解を示した。
一概に魔物と言っても、全ての種族が獰猛であり、人間に害を加えるという訳では無い。
中には殆ど攻撃性が無く、愛玩動物として飼養されている魔物だって存在するのだ。
自然環境に恩恵を齎す種族も存在しており、下手に怪我を追わせたりすれば罪に問われる場合もある。
勿論、危険種に該当したり、こちらを好戦的に襲ってくる魔物を討伐するのは正当防衛として認められるのだが。
と言うか、そうでなければ屍食植物の討伐依頼なんて受諾できないだろう。
「……さて、一通りの連絡や注意もしたから、そろそろ朝ご飯食べて早速向かいましょう。きっと長耳族の皆も私達の協力を待ってるわ」
「「了解!」」
俺とフィリアはハイネの言葉に元気よく返答し、出発の準備を始める。
当然、俺は収納スキルによって着替えは一瞬で終わるし、必要なモノも全て用意してある為、フィリアの着替えや準備を待つだけなのだが。
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それから暫く経ってフィリアが準備を終えてから、俺達は食堂にて食事を摂った。
リミアは悪魔であり、毎日三食摂る必要は無いので、昨日のような牛飲馬食ぶりを見せる事は無かった。
とは言え、俺達の倍の量は食べたのだが。
「皆さん、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
食事が終わった後、俺達の凱旋を願ってか、背後からリミアが元気に激励する。
リミアは王城内にて魔導師達の研究の手伝いがあるので、これから俺達とは別行動になるのだ。
「あぁ、待っていてくれ」
俺は短く返事を返し、二人と共に食堂を後にし、遠征に臨むのであった。
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その後、俺達はハイネの案内で遠征用の魔導駆動車に乗り、【長耳族の森】へと向かっていた。
この車の存在は騎士団に入って暫く経ってから知ったのだが、俺とフィリアが実際に乗るのは初めてとなる。
これは魔導師達の発明品なのだが、この車は膨大な魔力が含まれる魔水晶を動力や制御に用いる事によって、無人での走行が可能なのだ。
元は試験用として作られた一番小型となるこの車種でも、最大乗車人数は四人、最大積載量は二トン、最高時速は百キロ越えという驚きの高性能だ。
遠距離の移動手段として馬車が主流となるこの時代に於いては、かなり先進的な発明と言えるだろう。
わざわざ馬を育てたり買ったりする必要も、御者を雇う必要も無いからな。
ただ、この車に使われる魔水晶の原材料となる魔石が希少な存在である事などの問題点から、まだ一般的に普及するには程遠い代物らしい。
制作費も高く、平民が購入できる額では無いという理由もある。
「凄い……こんな便利なモノが開発されていたなんて……」
順調に高速走行する車に揺られつつ、窓から外の景色を眺めるフィリアが感想を呟いた。
因みに現在は王国を囲む外壁から遠く離れた草原を走っており、窓の外には大した変化もない長閑で平和的な閑散とした光景が広がっている。
「あぁ、流石にこの発明には俺も驚いたよ」
俺は同様に窓の外を眺めつつ、素直にフィリアの感想に賛同する。
まさか魔力を利用して移動手段となる魔道具を開発する発想など、俺の常識には無かったからな。
「ふふ、これぞ騎士団の誇る魔道工学の粋というものよ」
開発した本人という訳でもないのに、ハイネが胸を張って自慢する。
俺達よりも先んじて新時代の存在に触れていた事に優越感を感じているのだろうか。
「これは楽でいいですね。馬を狙う魔物に襲われる心配もありませんし」
しかし素直にこの発明に感動した様子で、フィリアが賞賛する。
魔物の中には、人間ではなく馬を本能的に嫌って襲う習性のある種類も存在する。
何故に馬を嫌うのかは解明されていないが、とにかく馬車に乗っていると人間一人で歩いているよりも魔物に襲われる可能性も高くなる場合があるのだ。
「そうね。確かに、そういう魔物に襲われないのは良いことだわ。でも……」
「……え?」
何故か言葉を濁すハイネに、フィリアが疑問を呟く。
「……あ! 丁度良いところに来たわね。二人とも窓の外を見て頂戴」
そう言いつつハイネは自席の窓の外を指差し、俺とフィリアはその指の先を眺める。
すると、遥か遠方から破竹の勢いでこちらに向かって接近して来る、謎の集団が目に映った。
目を凝らしてよく観察すると、その集団の正体が判明した。
血色の悪い細身の矮軀に薄い布切れの様な衣服を身に纏い、木の枝を雑に加工しただけの棍棒を持った魔物――ゴブリンだった。
『ウガアアアアッ!』
鬼気迫る表情で、敵意剥き出しに吼えるゴブリン達の声はここからでは小さく聞こえるが、俺は『聴力強化』によってハッキリと聞き取っていた。
「ええっ! ゴブリンの群れ!?」
「凄い勢いで近づいてくるな……頭数は十数といったところか?」
目を見開いて吃驚するフィリアに対して、俺は冷静に集団の情報を分析していた。
「えぇ。馬が狙われる可能性は無いけれど、代わりに珍しい最新鋭の物体に興味を示したり興奮したりする魔物がいるのよ」
ハイネは辟易した様子で溜息をつきながら、簡潔に説明した。
おそらく、彼女はこの状況をすっかり見慣れているのだろう。
「はぁ、面倒ですね。どうしますか?」
「うーん、適当に追い払っちゃいましょう」
ハイネの返事を聞いて、俺とフィリアは迎撃体制を取る。
フィリアは双剣を抜いて近接戦闘の準備をしているが、その必要はない。
なぜなら、俺一人でゴブリン全てに対処するつもりだったからだ。
「《魔力よ――爆ぜて颶風となれ》」
俺が呪文を唱えると同時に、全身の魔力が指先へと収束してゆく。
拳大になった魔力の塊は自動的にゴブリンの群れへと射出され、集団の前方の地面に着弾。
それと同時に、魔力が着弾した地面は盛大な爆発音と共に発生した颶風が砂塵を撒き散らし、コブリンの群れを遥か遠方へと吹き飛ばした。
見た目は派手だが、温度や燃焼速度も高くはなく、爆風のみを強く調節してあるので、爆発自体の殺傷力は皆無だ。
『ギャアアアアッ!』
爆風の奔流に抗えずに掃討されつつ、ゴブリン達は悪声の叫び声を上げた。
小物らしく、呆気ない敗けっぷりである。
「……もう、ゴブリンぐらい私が相手したかったのに。美味しいところだけ持っていくんだから……」
あっという間にゴブリンの群れを蹴散らした俺に、フィリアが頬を膨らませて不満を訴えた。
効率的にも今の方法が手っ取り早いかと思ったんだが、どうやら空気は読めていなかったみたいだ。
「悪い悪い。次に魔物が来たらフィリアに任せるよ」
「えぇ。私の活躍を見てなさいよね」
適当な平謝りだったのだが、フィリアは納得してくれた様子だった。
この遠征中に強力な魔物と遭遇する可能性は極めて低いので、大抵の魔物は二人に任せて問題ないだろう。
「クロト君……もう魔法をそんなレベルまで……いや、もう突っ込まなくてもいいかしらね」
唖然とした表情で、ハイネが何かを物申したい様子で口を開いたが、結局は諦めたようだった。
それから、草原では特に魔物に遭遇する事もなく、ただただ退屈で平和な時間が過ぎてゆき、やがて目的地の【長耳族の森】へと辿り着いた。
長耳族は領域内に人間の文明が介入する事を嫌うので、魔道駆動車は森の入口前に停めて、そこからは自分達の足で歩いてゆく。
一切開拓されていない森の中を歩く事になるのだが、ところどころの木には長耳族によって矢印が書かれており、それを辿っていけば集落の位置が分かる様になっていた。
森の中には、草本層から高木層まで多種多様な植物が群生している自然豊かな光景が広がっており、周囲からは鳥のさえずりや川のせせらぎが聴こえる。
更に、目に映るそれらの光景は全て木漏れ日によって照らされている為、文明による自然の景観が一切損なわれていない原始的な空間がそこに広がっていた。
これ程の光景を以てしても、言ってしまえばただの森なのだ。
しかし、文明の中で生きる人間だからこそ――この世界に残る自然の残滓に、心奪われるものがあるのだろう。
「わぁ……素敵ね。自然に囲まれているのが、こんなに心地いいなんて……」
そんな森の景色を、フィリアはうっとりとした表情で一望している。
「凄いでしょう? こんな風に自分の中で新しい世界が広がっていくのも遠征の醍醐味なのよ!」
フィリアの反応が期待通りだったのか、満足した表情でハイネが力説する。
「ええ、流石に驚かされましたよ。……ところで、あの生物は『敵』と見なして良いのですか?」
俺はハイネの言葉に賛同してから、自分の視線の先を指差した。
二人は首を傾げつつも、俺が指差した先を見て、納得した様子で頷いた。
指の先には、木の枝に絡み付きながら睨みをきかせて俺達を観察している、全長およそ百センチ程の蛇が居た。
「あれは紫鱗蛇よ。Cランクの魔物で、噛まれると牙から神経毒を注入してくる危険種よ」
その蛇を観察して、ハイネが解説する。
流石に遠征を何度も経験しているからか、魔物の事には博識な様だ。
しかし、神経毒か……嫌な響きだな。
必ずしも即死系とは限らないが、それはそれで苦痛が長時間続くという意味でもあるのだ。
どの道、噛まれたら良い結果にならない事は確実だ。
「あの魔物は長耳族も嫌って討伐しているみたいだし、出来ればやっつけておきたいわね」
先程の俺の質問に、ようやくハイネが回答する。
まぁ、あの様な体躯の毒蛇なんて放置しても害にしかならないだろうからな。
「分かりました。今度は私がやるから、クロトは手を出しちゃダメよ?」
「あぁ、そのつもりだ」
釘を刺すようにフィリアは言うが、次に魔物と遭遇したら彼女に任せる気だったので、俺は戦闘態勢を取っていない。
「折角だから魔法を使おうかしら。《紫電よ――彼の者を打ち倒せ》!」
呪文に反応して、蛇に向けられたフィリアの人差し指から一条の電気力線が放たれ――命中。
最初の魔法実技で習った"魔法弾"だが、フィリアの雷属性が付与されていた様だ。
『シャアアアッ!』
電流を浴びた紫鱗蛇が、けたたましい奇声をあげながら木の枝から落下し、地面の上で痙攣する。
「ごめんなさいね。貴方に恨みはないけれど、とどめを刺させて貰うわ」
その蛇に歩み寄ったフィリアは軽く謝ってから剣を振り下ろし、頭部を両断した。
頭と胴体を乖離された紫鱗蛇は数秒間ピクピクと身体を痙攣させてから絶命し、その肉体を魔力の残滓へと変えて消滅する。
「ふぅ、上手くいったわね」
魔法からとどめを刺すまで、特に問題も無くこなした事に安堵したのか、フィリアはほっとして胸を撫で下ろした。
「素晴らしい手際だったわ。このまま長耳族の集落まで向かいましょう!」
魔物に二度遭遇したが、いずれも問題なく対処した幸先の良さに満足してか、ハイネは張り切った様子で遠征の続きを催促した。
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時折襲い掛かる魔物を順調に討伐しながら、更に森の中を突き進むこと数十分。
遂に俺達は、木々の開けた場所に広々と存在する空間――長耳族の集落に辿り着いた。
しかし、その集落は格子状の木の柵によって囲まれており、唯一の出入口と思われる門の前には一人の長耳族が屹立していた。
俺達は集落の門番と思われる、その長耳族の元へと近づいてゆく。
しかし先に話し掛けたのは、こちらではなく長耳族の方であった。
「お前達は……人間か。何用で参った?」
古風な喋り方をする、若々しい長身痩躯の外見を持つ長耳族の青年には違和感を覚えたが、それに突っ込むのは無粋だと思った。
「私達は騎士団の者よ。貴方達から屍食植物の討伐依頼を受けて来たわ」
そう返答したハイネが騎士団の徽章を見せたので、それに倣って俺とフィリアも同じ様に徽章を提示する。
「お前達が……? 随分と若いな。それで、他の増援は何処に居る?」
騎士団の人間としては明らかに若輩である俺達がたった三人で来ている事を訝しみ、周りを見回す長耳族。
「他に騎士団の人間は居ないわ。来たのはこの三人だけよ」
「は……? 巫山戯ているのか? 事の重大さを理解していないようだな!」
「……っ!」
長耳族総勢で殲滅に取り掛かっても解決しない問題に対して、騎士団から送られた人員はたったの三人。
その事実を聞いて、憤慨してハイネの胸倉を乱暴に掴む門番の長耳族。
しかしハイネもその気迫に負けてはおらず、毅然とした態度で視線を相手の目に合わせている。
その時、
「ディト! 何をしておる!」
集落の奥から、ディトと呼ばれた門番に叱責しながら一人の長耳族が近づく。
「ぞ……族長様。申し訳ありません。しかし、この人間が戯言を抜かすものですから……」
「言い訳は要らん!」
族長と呼ばれた長耳族に再度叱責され、ばつが悪そうにハイネの胸倉を話す門番。
しかし族長の長耳族も見た目は若々しく、一目見ただけでは上下関係が全く把握出来なかった。
「人間よ、非礼を詫びよう。我々の依頼を受けて加勢に来てくれたのだな?」
族長が丁寧に頭を下げ、それと共に俺達に向けて質問する。
「えぇ。ごめんなさいね。頼りない見た目で」
少し皮肉を込めてハイネが返答した。
「いや……其方らの身体からは、強力な魔力を感じる。只の若輩で無いことはひと目で分かるわ。特に……そこの白髪の娘だ」
「娘じゃなくて、男です」
族長の間違いを、俺は即座に訂正させる。
せめてこういう重要な場面ぐらいは、男女の区別ぐらいつけて欲しかったのだが。
相変わらずだな、と思っているのか、ハイネとフィリアは苦笑いで同情を示した。
「む……すまぬ。二度も非礼な言動をしてしまった」
族長は苦い顔をして、再び頭をさげて陳謝する。
間違えたのはわざとでは無かった様だが、それ故に俺の内心のダメージは大きい。
「いえ……慣れてますので。どうぞ続けて下さい」
俺は平然を装って、族長に話の続きを催促する。
「うむ。しかし、立ち話よりも腰を落ち着ける場所の方が良かろう。大したものでは無いが、一応は客へのもてなしも用意しておるから、建物の中へ案内しよう」
「そうね。森の中を歩いたから足も疲れたし、お言葉に甘えるわ」
俺達に気を使った族長の提案に、ハイネはふたつ返事で賛同した。
まぁ、確かに森の中を長時間歩くのは予想以上に体力を消耗する。
これから屍食植物の討伐もあるし、それに備えて少し休憩するとしよう。
そうして俺達三人は今回の依頼についての打ち合わせをするべく、族長の案内で集落の中へと歩を進めてゆくのであった。
魔導駆動者の存在は秘匿事項などではないので、国民の間でも普通に知れ渡っています。
壁外に出るまでには普通に街中を走っていますが、人々の反応はそこまで過剰なものではありません。
あと、途中で出てきたゴブリンの群れと、物語の序盤で出てきた三匹のゴブリンの関係性はありません。




