45話:リミア入団
昨日までに投稿しようと思ったのですが、作者の亀ペースでは達成不可能でした(土下座)。
今回はいつもより短めです。
あまり読み返していないので、誤字脱字などあれば遠慮なく感想にてお知らせ下さい。
~人間界~
初任務を終えた俺たち三人班は、任務にて調査を依頼された元・闇ギルドの『蒼穹の天使』で働いていた看板娘であり、俺が魔王であった頃の側近――リミアを連れて、王城へと帰還した。
その後、俺とフィリアはいつも通り自室に戻り、ハイネは任務の報告とリミアについての説明と騎士団内での処遇を話し合うべく、騎士団長の元へ赴く事になった。
これから騎士団と関係を持つリミアの方も、色々と挨拶をして回らなければならないだろうからな。
上手く話がつけばリミアは俺達と同室に住まう事になるので、その連絡が来るまで俺とフィリアは自室で待機していた。
「それにしても、今日は想定外の事だらけだったわね。ギルドの人達は優しかったし、看板娘はアンタの幼馴染だったし……」
フィリアの言う通り、確かに初任務は俺の懸念や予想とは大幅に外れた出来事ばかりであった。
「とにかく、面倒事が無いのは良い事だ」
「確かに悪い事は起きなかったけど、アンタの幼馴染……リミアさん、だったかしら? と一緒に住むことになるのよね?」
そう言うフィリアの顔は、何か納得いかない事があるかの様な、不満げなものだった。
「そうだな。最も、話が上手くついてリミアが騎士団に入団できればの話だけどな」
「そ、そうよね、良かったじゃない。ずっと疎遠になってた幼馴染と……その、ど……同棲になれて……」
フィリアは頬を赤く染めながら、段々小さくなっていく声で祝福しようとするが……声のボリュームに比例して顔を俯かせる様子が、本心から言っているのではない事を表していた。
「何言ってるんだ? それを言うなら既にフィリアとは同棲してるじゃないか」
何と声を掛ければ良いのか分からなかったので、取り敢えずふと思った事実を答えた。
「え?」
次の瞬間、フィリアはキョトンとした真顔に変わり、三秒ほどその表情を維持したまま俺の言葉を脳内で反芻する。
「えっ……えええ!? いや、それは部屋の振り分けで決まった事だから仕方なくって感じで……! 決して同棲っていう意識じゃないわよ!」
短く事実を言ったつもりなのだが、何故かフィリアは真っ赤に赤面し、慌てて否定する。
だが、その台詞には、どうしても気になる言葉も含まれていた。
「『仕方なく』なのか? そうか……親密な関係だと思っていたのは俺の勝手な勘違いだったのか……。フィリアの気持ちを考えず、同棲なんて言って悪――」
「ち、違うわよ! あくまで『最初はそういう意識だった』っていう前提で言っただけで、今はその……同棲どころか、もはや同居っていう意識っていうか……あぁもう! とにかく、親密な関係って思ってるのは私も同じよ!」
フィリアは先程よりも赤面の度合いを増加させ、トマトの様に真っ赤になった顔で早口に言葉を紡いだ。
「全く……そんな悲しそうな顔されたら、肯定できる訳ないでしょうが」
小声で呟いたフィリアの言葉を、"聴力強化"で拾い上げる。
そんなに悲哀に満ちた表情だっただろうか?
「まぁとにかく、リミアがこの部屋に来ても俺達の関係は変わらないだろう? 彼女も決して悪い性格じゃないから仲良くしてやってくれ」
「え、ええ。当たり前じゃない!」
フィリアがそう答えた瞬間、部屋の扉がノックも無しに勢いよく盛大な音と共に開かれる。
「その話、聞かせて貰ったわ!」
腰に手を当てつつ胸を張り、まるで悪質な犯罪の現場を押さえたかの様な台詞を放ったのはハイネであった。
そしてその隣には、ハイネとは対象に恐縮した様子で苦笑いを浮かべるリミアの姿が見えた。
唐突の派手な登場に吃驚し、俺とフィリアは呆然とした様子で二人を眺める。
そんな俺達の様子を見て、リミアが口を開く。
「えっと……すみません。実は、二人の会話を途中から盗み聞きしていました」
後頭部に手を当てつつ、ペコペコと何度も頭を下げる。
それに対して、ハイネは反省の色もない事から、恐らく盗み聞きを先に提案したのは彼女の方であろう事が窺えた。
「え、盗み聞き……? 因みにどの辺りから?」
呆然とした表情はそのままで、フィリアが二人に質問する。
「えーっと……『良かったじゃない。ずっと疎遠になっていた幼馴染と同棲になれて』の辺りからかしら?」
先に答えたのはハイネの方だった。
「重要なとこ全部!?」
確かに、リミアについての話が出たのはその台詞からだったな。
別に聞かれて困る内容では無かったが。
「ふふっ、三人の間に軋轢が生じないか心配だったけれど、さっきの会話を聞く限りは大丈夫そうね」
懸念が払拭されて安堵した様に、ハイネが笑みを浮かべる。
そして、そんな台詞が出るという事は……
「どうやら、話は上手くついた様ですね」
彼女の台詞から察した事を、俺が口にする。
というより、リミアの入団を断られたのに俺達の関係を気にする理由も無いだろう。
「ええ。『勇者』であるクロト君の幼馴染だと伝えると話は早かったわ」
なるほど。勇者という称号は、騎士団内ではそこまで信頼されるものだったのか。
割と簡単に与えられてしまったが、良いのだろうか……? 実力は証明したけれど。
「あ、そういえばクロトは『勇者』だったわね。すっかり忘れてた……」
「確かに、それらしい活動は一切してないからな……」
確か古い逸話に登場する『勇者』は、一人で世界を東奔西走しつつ魔族を討伐し、力を身に付けて最終的に暗黒竜を封印し、世界を救ったんだったな。
それと比較すると、俺は形式上で『勇者』になってから約一ヶ月間、魔族なんて一匹も討伐どころか遭遇すらしていない。
日々の訓練は行っているが、逸話の勇者の困難はそれの比ではないだろう。
実際、自分でも勇者としての自覚はまだ無いからな。
今はレベルやスキルも着々と増えてはいるが、こんなペースで本当に新たなる魔王に勝てるのだろうか?
「それでも、クロト様は『勇者』として相応しい立派な御方ですよ」
俺の胸中を察したのか、リミアが嘘偽りのない笑顔で意見した。
「あらあら、リミアちゃんはクロト君をかなり信頼しているのね。……もちろん、私もそう思ってるわ」
「そうですね。朴念仁なところもあるけれど……『勇者』として大事な部分は揃ってると思います」
ハイネがリミアの意見を肯定し、フィリアもまた二人の意見に賛同する。
「えぇ。クロト様は強くて、優しくて、格好いい御方ですから」
最後にリミアが三人の意見を纏め上げ、二人がそれに頷く。
しかし、格好いいは余計じゃないか?
俺を見る者にも拠るだろうし。
それにしても……どうやら、俺に自覚が無いだけで、俺を知っている者からの信頼はあるみたいだ。
リミアに至っては、俺が魔王だった頃の人望も加味して言っているのだろう。
よく考えれば、騎士団の上層部も俺の活躍に期待しているらしいからな。
それなら、俺自身が『勇者』としての自覚を無くしては不甲斐ないだろう。
「……ありがとう。俺は『勇者』としての自覚が足りないのかもしれないな」
「そうよ。アンタは仮にも『勇者』なんだから、もうちょっとシャキッとしなさいよね」
フィリアが腕を組みながら軽く説教する。
「ふふ、クロト君が『勇者』という事を忘れてたのはフィリアちゃんだけどね」
「うっ……」
しかし、悪戯な笑みを浮かべてハイネが言った言葉に反論出来ず、今度は苦い顔を浮かべた。
「……話を戻すけれど、今日からリミアちゃんが二人と同室で過ごす事になるわ。ちょっと複雑な関係になるけれど、快く迎え入れて頂戴」
「「了解!」」
笑顔を向けるハイネに、俺とフィリアは揃って返答する。
「えっと……じゃあ、フィリアちゃんには改めて自己紹介させて頂きますね? 今日から宮廷魔導師として入団した、リミアと申します。宜しくお願いします!」
挨拶すると共に、リミアは頭を下げる。
リミアとフィリアの二人は今日知り合ったばかりで、お互いの事はあまり深く知らない。
しかし、これからお互いに同室で住まう関係となるので、軽く会釈ぐらいはした方が良いと考えたのだろう。
「私はフィリアよ。こちらこそ宜しく」
「はい! お願いします!」
互いに笑顔を見せ、柔和な雰囲気で握手を交わした。
重要なのはこれからの付き合いだが、リミアは明るい性格で人当たりも良いので、二人は直ぐに自然な様子で打ち解けられるだろう。
「いやー、廊下に居たグリル君にはリミアちゃんのことを説明したけれど、『なんで奴の周りには美女ばかりなんだよ……畜生』ってクロト君に嫉妬してたわよ」
……確かに言われてみれば二人とも、いや、ハイネを含めて三人とも、容姿端麗な美女だ。
魔法学校でもアイラやミキ等、よく考えれば俺の周りには若年の女性ばかりだ。
自覚は無かったが、意外と俺は男達から恨まれているのだろうか?
別に見せびらかしたり自慢するつもりなど無いのだが。
「男の嫉妬は見苦しいわね。確かにクロトはモテるけれど……」
「当然です。クロト様の魅力は、そこらの男性とは違いますから!」
「別に、褒めても何も出ないぞ?」
「いえいえ、本当の事を言っただけです!」
俺のの否定に対して、リミアはまたしても嘘偽りのない笑顔で答えた。
思っている事を正直に言うタイプなので、たまに聞いてるこちらが照れくさくなってしまうのだ。
「……とにかく、リミアが宮廷魔導師として入団したのなら心強いな」
「とは言っても、魔法工学が中心なので、魔道具の開発等の間接的な支援になりますけどね。勿論、それでも精一杯手助けします!」
リミアの褒め言葉が気恥ずかしかったので、少々強引に話題を変えたのだが、本人はそれに気付かず話に乗ってくれた。
「あ! そういえば、明日からの予定なんだけど……」
何かを思い出した様子で、ハイネが新たな話を切り出した。
重要そうな話だったので、俺達三人は口を噤み、ハイネの言葉に耳を傾ける。
「二人の明日からの騎士団内での予定は、訓練から遠征に変わる事になったの。
近郊調査はもちろん、危険指定された魔物や異常発生した魔物の討伐も内容に入るわ」
「ええっ! もう遠征ですか!?」
突然の報告に、フィリアが衝撃を受けた表情でハイネに叫ぶ。
「ええ。普通は三ヶ月以上の訓練期間が必要なのだけれど、上層部の決定によって二人は……と言うより、クロト君は特別事例という話になったわ」
俺の予想以上に、騎士団の上層部は魔王の存在を危険視している様だ。
特別事例と言うのも、俺が『勇者』として魔王と対峙しなければならないという案件についてだろう。
今の俺のレベルで考えれば、そろそろ人間相手ではレベリングの効率も低下する頃だ。
魔物を相手に経験値を得るには、丁度良いタイミングと言える。
「だからね……その前に、二人に心掛けて欲しい事があるの」
そう言うハイネの表情は、いつもの陽気な様子とは打って変わって真面目なものだった。
「この一ヶ月で、二人は順調に強くなったわ。けれど、これからの相手は人間ではなく獰猛な魔物よ。いざと言う時に情け容赦をかけてくれる余地なんて皆無ということ。常に危険がある事を忘れちゃダメよ。いいかしら?」
「「……了解」」
真面目な表情と声色で語るハイネの言葉の意味を噛み締め、こちらも慎重に頷く。
「二人とも既に一般兵とは比べ物にならない強さだけれど、まだまだ若いわ。命の危険を感じたら迷わず撤退しなさい」
ハイネは、その紅い瞳で強く訴えるように、真っ直ぐに俺達を見つめる。
実際、俺の実年齢は百万を超えているのだが……それでも、本気で心配してくれているハイネの気持ちを無下にする訳にはいかない。
元より、新たなる魔王に打ち勝つまで死ぬ気は毛頭ない。
全ては、俺が自ら背負った業なのだから。
「……ごめんなさい。つい話が重くなっちゃったわね。リミアちゃんの入団を明るく祝うつもりだったのに……」
意気消沈したように、ハイネは力なく項垂れて謝った。
「いえ、重要な話をありがとうございます。決して失念しないよう、今回の言葉はしっかり心に留めます」
俺はそう言い、ハイネをフォローする。
少なくとも、心から俺達の身を案じているのは伝わったからな。
「クロト君……ありがとう。じゃあ、私はこれから仕事があるから。また明日、遠征の内容を伝えるわ」
そう言ってハイネはゆっくりと扉を閉め、部屋の中に居るのは俺とフィリアとリミアの三人となった。
「初任務の後は遠征、ね……どんな内容になるのかしら?」
ハイネが部屋を去ってから数秒の間を開けて、フィリアが口を開いた。
「まぁ、最初から危険な魔物を討伐させる……なんてことは無いだろう。難易度の低い依頼から始めて、段々と難関になっていくというのが妥当じゃないか?」
「仮に難しい任務でも、クロト様なら簡単に達成できると私は思ってますよ!」
俺の言葉に、リミアが純粋な意見を口にする。
確かに、人間界の魔物相手に後れを取るつもりは無いが……任務には、俺だけではなくフィリアやハイネだって参加するのだ。
俺一人だけ問題なく任務を達成できても、二人が怪我でもすれば騎士団にとっては見過ごせない過失となる事を失念してはならないだろう。
「任務は常に危険と隣り合わせだ。安易に考えるのは良くないぞ。……勿論、難易度の高い任務でも責任を持って達成するつもりだけどな」
「当然よ。訓練の成果を見せてやりましょう!」
フィリアの方は、既にやる気満々の様だ。
遠征に対して、緊張よりも期待の割合の方が高いのだろう。
「……それにしてもお腹空いたわね。もうご飯時だし、食堂に行きましょう?」
つい先程の元気とは打って変わって、フィリアは空腹になった腹部を押さえつつ食事を摂る事を提案する。
しかし、俺は食事以前に、リミアに対して少し話したい事があった。
「すまない。その前に、リミアと二人きりで会話させてくれないか? 悪いけれど、フィリアには先に食堂に向かって欲しい」
「えっ? ……ま、まぁ、久々に出会った幼馴染なんだし、ゆっくり話したい事はあるわよね。分かったわ」
少々戸惑いながらも、快く了解してくれた。
特に事前に伝えたりもしなかったのでリミア本人も驚いた表情を見せたが、すぐに俺の胸中を察して頷いた。
「悪いな。俺達もすぐに向かうから、少しだけ待ってくれ」
「別に気にしなくて良いわよ。それじゃ、ごゆっくり」
そう言い残して、フィリアは玄関を出て食堂へと向かった。
そして扉が閉ざされたのを確認し、俺はリミアに話を切り出す。
「……ふぅ、漸く二人になれたな」
「そうですね……人間界に来てからは初めての状況ですね」
リミアは優しく微笑み、俺の言葉に賛同した。
「ああ。……それで、この状況を作った意図は、もう察しているだろう?」
「えぇ、勿論です」
俺の質問に、間髪入れずに頷いて返答する。
流石はリミアだ。長年、俺の側近を務めていただけあって察しが良い。
もうリミアは十二分に理解しているであろうが、確認の為、答え合わせをする。
「そう、俺達にとって最大の問題――新たなる魔王についてだ」
リミアの処遇が決定し、晴れてクロトと同居です。
今まではフィリアがヒロインとして目立っていましたが、これからはリミアのメインヒロインとしての活躍にご期待下さい!
次回も会話の多い回になる事が予想されるため、遠征に行くのはその次の回になる可能性が高いです。




