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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
4章:魔法学校編
47/64

42話:出会いの予兆(リミアside)

長らく投稿できず、非常に申し訳ありません。

今回はリミア視点のお話になります。

前回のお話が殺伐とし過ぎた為、今回のリミア視点では、ほのぼのとした感じの内容にしました!

リミアを気に入っている方は、より一層、愛着が湧くのではないでしょうか。

 〜人間界〜


 私が魔界から人間界に転移し、それから一ヶ月の時が経過した。


 元々は新たなる魔王による厄災の到来を、魔王様に報せる為に転移したのだが……何故か様々な紆余曲折を経て出逢った、廃れた町の一角に存在する闇ギルドを正規の冒険者ギルドへと一新させる事になった。


 その目論みは無事成功。

 日々、裏の社会で手を汚し、廃れた人生を歩んでいた大人達を更生させ――私はそんな人達と楽しく破茶滅茶な日々を送っていた……が。


 ……当初の目的が全く果たされていない事に気づいたのは、それから暫く後の事であった。



 ......................................................



 私が一応、新参のメンバーとして所属している正規ギルド――『蒼穹の天使(エンジェル・ブルースカイ)』の人々は、今日も何時もの如く、朝から騒々しかった。


 因みにこのギルド名は、メンバー内での私のイメージを元に改名したのだという。

 実際、私は悪魔なのに天使と形容されるのは違和感があるし、何より物凄く恥ずかしい。


 現在、依頼(クエスト)達成に向けて出掛けたメンバー以外の人々は飲めや歌えの騒ぎで盛り上がっており、私は次々に注文される酒や料理を慣れた手つきで運んでいる。


 料理を作るのは、ギルド内に新設した調理場で腕を振るう、メンバーの男達であった。


「リミアちゃーん! 酒、もう一杯頼むぜ!」


 そんな騒ぎの中、ギルド随一の酒豪である、無精髭を顎に生やした禿頭(とくとう)の男――バークスさんは、すっかり酒気を帯びて上機嫌な様子で本日八杯目となるジョッキ入りのビールをカウンター越しに注文する。


「もう……これで何杯目ですか!? これ以上は身体壊しますよ!」


 私は叱咤しつつ、その注文を断った。

 この人は先日の夜も酒の飲み過ぎで急性アルコール中毒を引き起こして気絶したのだ。

 幸い症状は軽く、一晩ベッドに横たわらせて安静にしていたら完治したので良かったものの、当の本人は全く懲りた様子が無いというのが厄介だ。


 喉元過ぎれば熱さを忘れる、とはこの事なのだろうとその時の私は実感した。


「へへ……まだ五杯目だよーん。それに、何時も俺は十杯以上は飲んでも大丈夫なんだぜ?」


 バークスさんはふざけて回答するが、カウンターに置かれたジョッキの数は七つ。

 嘘をついていることは一目瞭然だ。


「いえ、八杯目です。大体、まだ昼前だっていうのにお酒を大量に飲むこと自体が可笑しい行為であって――」


 私はこれっぽっちも自身の身を案じないバークスさんに怒りを感じ、ギルド再建前からギルドメンバーの間ですっかり定番となった『説教モード』に突入する。


 だが、酒のせいで頭の回転が鈍っているバークスさんに説教の効果などある筈がなく、私の言葉に対して面倒臭そうに相槌を打ち、「あー、はいはい」を繰り返すだけであった。


「まぁまぁ、あと一杯だけ頼むぜ〜。可愛いリミアちゃんを眺めながら飲まねぇと俺、英気が失われちまうんだわ」


 ご機嫌を取るようにヘラヘラと笑うが、そんな誤魔化しは私には通用しない。

 何より、ここで飲ませたら調子に乗って「もう一杯!」を繰り返すに決まっているのだ。


「今日という今日は駄目です。もっと自分の身を大切にして下さい」


 私はそっぽを向きながら、厳しい態度でバークスさんの要求を拒否する。


「ちぇっ、まぁ仕方ねぇか。へっへっへ……じゃあ、代わりにリミアちゃんのお尻で癒して貰おうかねぇ?」


 そう言って私の臀部に向けて無遠慮に素早く伸ばされたバークスさんの右手を、私は咄嗟に掴み取った。


「いい加減にして下さい! 口で言って解らない様なら……《疾駆せよ雷霆、懲悪するは――》」


 そして軽い懲戒の為に呪文を唱え、雷撃魔法の準備を始める。

 他のギルドメンバーが私に性的悪戯(セクハラ)を行った時も、毎回この魔法で懲らしめているのだ。


「ちょ、ちょっとタンマ! そりゃビリビリするやつだろ!? 悪かった! 俺が悪かった!」


 身の危険を事前に察知したバークスさんは瞬時に右手を引き、酔いが覚めた様に狼狽しつつ、全力で謝罪をする。


「はぁ、全く……ともかく、解ってくれたのなら良しとします。今後お酒は控えて下さいね」


 まだ言いたい事はあるのだが、これ以上言っても彼に効果は無いだろうと思い、嘆息しながらも断念する事にした。


「へーい……」


 心底がっかりした様子で、バツが悪そうにバークスさんが返事をする。

 私はそれを横目に見ながら、再び仕事の方に意識を戻す。


 すると、今度は室内の奥の方で私を呼ぶ声が聞こえた。


「おーい、リミアちゃん! (ラム)肉を二皿追加で頼むぜ!」


 料理の追加注文だ。

 声のする方向を見ると、額に小さな切り傷のある筋肉質の男性、カインさんが私に向かって手を振っているのが目に映った。


「はーい! 少々お待ちください!」


 私は元気に笑顔で返事をし、注文を伝えるべく調理場の方へと向かう。

 この営業スマイルにも、すっかり慣れたものである。


「すいませーん! また(ラム)肉を二皿追加でお願いします!」


 調理場へ足を運ぶと、私は早速、先ほどの注文の内容を料理担当のメンバーに大声で伝えた。


「はいよ! ちょっと待ってな! ……って、ありゃ?」


 一番近くに居た、料理長のフォスターさんが私の方へと振り向き返事を返す……が、何か問題でもあったのか、怪訝そうに顔を顰めた。


「あの、どうしました?」


「あー……しまった。(ラム)肉を切らしちまったな」


 後頭部を掻きながら、苦い顔をしてフォスターさんは呟いた。


「そう言えば、最近は在庫の確認をしてませんでしたね。前回の入荷で大量に仕入れたから、暫くは大丈夫だろうという油断もありましたが……」


 仕入れた時の見込みでは、まだ数日間は在庫に余裕が出来ると思ったが……私の予想以上にギルドの人々が食欲旺盛だった。

 思い返せば、確かに皆の食べっぷりはかなり豪快で、これ程までに早く肉を消費するのが早い事にも頷ける。

 元々、料理はこのギルドに御足労いただいたお客様に提供して僅かにでも利益を得るつもりだったのだが、そんな目的を忘れてしまいそうになる程にメンバーからの注文の割合の方がが多いのだ。


 もう一層の事、ラム肉はメンバー内限定での注文用にして、お客様には他のメニューを用意した方が良いかもしれない。

 お酒の種類は多いのだが、料理の方はまだラム肉しか考えてないので、少しでもメニューを増やした方が良いだろうとは前々から考えていたのだから。

 因みに、新メニューの考案は私が担当している。


「仕方ねぇな……すぐに他の誰かに入荷を頼むから、悪いけど注文した奴に伝えてくれねえか?」


「あっ、お肉の仕入れなら私がやります! 丁度、新しいメニューの追加もお願いしたかったので!」


 この新メニューの追加を提案したタイミングでの品切れは、ある意味では僥倖と言えるかもしれない。

 ラム肉の追加のついでに、何か目に留まる食材でもあれば是非購入して、新メニューを増やしたいものだ。


「そうか? まぁ、こっちは人手も足りてねぇし、リミアちゃんが行ってきてくれるならありがてえけどよ。ただ、リミアちゃん一人だと危険……でもねぇか」


 勿論、怪しい人に対してはしっかり警戒する心構えはあるし、万が一の際にも魔法や体術で身の安全は守れるだろう。

 それは、最初に私がメンバーの一人に回し蹴りを繰り出した時からメンバー全員が分かりきっている事だ。


 しかし、私がこのギルドのメンバーの誰よりも強い事を知ってなお、フォスターさんに限らず、こうして誰もが私を一人の女性として心配してくれる。

 皆、見た目は強面だけど、根はとても優しい人々なのだ。

 ……変態が多いという点が、玉に瑕なのだが。


「注文した奴には代わりに俺から伝えとくぜ。あと、注文の仕方とかは分かるか?」


「大丈夫ですよ。そういう事務的な仕事は得意なんです」


 魔王の側近として多種多様な雑務を長年こなしてきた私にとって、この程度の雑用は御手の物だ。


「そうか。気ぃつけてな」


「はい、行ってきます!」


 手を振りながら笑顔で見送ってくれるフォスターさんに、私も晴れやかな笑顔で返事をし、ギルドを後にした。



 ......................................................



 唐突だが、セインガルド王国内の地域は、主に三種類に分けられている。


 一つ目は、一般市民の住まう住居が集合する居住地域で、冒険者ギルドはこの地域に建てられている。

 王国内にはこの地域が東西南北の四箇所に分かれて設けられており、街の景観や機能性にもそれぞれ違いがあるのだ。


 二つ目は、商会や行商人が各々の多種多様な店を並べて商業を行う商業地域。

 これは国内の至る箇所に散りばめられて設けられており、どの居住地域からでも楽に訪れる事が可能だ。

 一箇所に店を集めると、商会ギルドに加入している店は繁栄するが、それ以外の行商人などは客足が無くなってしまう問題を回避する為でもある。


 三つ目は、王族や貴族達が住まい、国の重要機関が集合する、都心部の中央地域。

 この地域無くして国は機能しない、正に国の要とも言える最も重要な地域と言える。


 私は現在、ギルドから最寄りの商業地域に足を運び、ギルド御用達の店を探して大通りを歩いていた。


 大通りには、年齢層も関係なしに様々な人々が行き交っており、その賑わいぶりは一目瞭然。


 この商業地域は一軒家ほどの大きさの店が建ち並ぶ商店街の様になっており、他の商業地域と比べれば大した規模ではない。

 しかし、その面積は決して小さくはなく、目的の店一つを微かな記憶で探すのは時間が掛かってしまうのだ。


 目的の店には前回の仕入れの際に一度だけ訪れた事があるので、大体の場所と経路は覚えているのだが……ほんの少しだけ記憶に不鮮明な部分もあり、あまり円滑に進めているとは言えない状況であった。


「えーと、確かこっちの方向……じゃなくて、あっち? うーん……」


 いや、この際ハッキリ言っておこう。


 ……私は今、完全に道に迷っている。



 ......................................................



 それから右往左往を続ける事、十分ほど。


「あー……これは、完全に迷子ですね……」


 既に遅すぎるタイミングで、私は自身の方向音痴ぶりを自覚する事になった。

 訳の分からぬまま歩き続け、全く見覚えのない場所へ来てしまったのだ。

 ここまで来たら最早、前に訪れた際の記憶など微塵も役に立たない。


「はぁ……安請け合いするんじゃなかった……」


 自信が置かれている状況を前に、私は嘆息する。

 三十分ほど前にこんな雑用を引き受けてしまった自分を殴りたい。


「はぁ、仕方ないですね。来た道を一旦戻ってみますか……ん?」


 踵を返して数歩進んだ場所の右側にある、裏路地に続く暗い細道で、紅髪の綺麗なお姉さんが三人の巨漢に絡まれている事に気づく。


「あのねぇ……私は今急いでいて、貴方達に構っている暇は無いの。そこを開けて頂戴」


 こんな人気の無い路地で強面の男に囲まれているにも関わらず、そのお姉さんは毅然とした態度で腕を組みながら抗議していた。


「まぁ良いじゃねえか。ちょっと俺達とイイ事して遊ぶだけだぜぇ……?」

「そうそう。痛い事はしねえからさ……」

「ただ、大声を出せば、ちょっと痛い目見る事になるかもなぁ?」


 三人の男達は、如何にも下衆な笑みを浮かべつつ、強引に悪い遊びへと誘い続ける。


(全く、この国の男性は……。どうして皆、こんな変態ばかりなんですか!)


 その様子を見て、私の苛立ちは段々と高まってゆき、三人の悪行を見過ごす気にはなれなくなり――気づけば、無意識に足が動いていた。


「しつこいわね……いい? 私は騎士――」


 紅髪のお姉さんが何かを言いかけたが、既に怒りが頂点に達していた私の耳には入らなかった。


「貴方達! いい加減にして下さい!」


「「「……は?」」」


 両者の間に割って入った私は、三人の男に向かって大声で叱責する。

 しかし、私の怒りは彼らには届かず、何を訴えているのかすら伝わっていない様子で首を傾げられた。


「ぎゃははは! こりゃいい! 可愛いお嬢ちゃんが一人増えたぜ!」


 そして一人の大男が笑い出し、他の二人もそれに合わせて笑い出す。

 何が可笑しいというのだろうか。


「ちょ、ちょっと! 貴方みたいな女の子が巻き込まれちゃ危ないわよ! 私に構わず、早く逃げなさい!」


 心底驚いた様子で、紅髪のお姉さんが心配そうに私に避難を促してくれる。

 しかし今の私には、この三人を懲らしめる事しか頭になかった。


「へへ……アンタみてぇな可愛い嬢ちゃん、俺達が逃がすと思ってんのか?」

「なぁに。大人しくついてくれれば優しくしてあげるって!」

「しかし、二人ともマジで可愛いじゃねぇか……ぐへへ……」


 最早、三人の表情は欲望丸出しであった。

 少なくとも、彼らが救いようの無い変態であることは確定だ。


「へぇ……なかなかデケェ乳じゃねぇの。どれ、柔らかさを確かめてやるよ……」


 私の正面に居る大男が、私の胸へと手を伸ばす。



 バチッ!



 しかしその手は、私の右手によって盛大な音を立てながら強く跳ね除けられた。


「あぁ……? 痛ってぇな。何すん――」


「やあっ!」


 そう言いつつ睨みを利かせる男の鳩尾に、私の後ろ回し蹴りが炸裂する。


「ぐはっ!?」


 その男は腹を抱えて蹲り、地に伏せて気絶した。


「えっ……!?」


 唐突の出来事に紅髪のお姉さんは驚き、声を上げた。

 私はそんな事をお構い無しに、他の二人へと意識を向ける。


「な……テメェ何すんだ!?」

「こ、このクソ(アマ)が!」


 私の抵抗に激昴した二人が、怒りのままに私へと襲いかかる――が、私が早口に紡いだ呪文の方が先であった。


「《疾駆せよ雷霆》!」


 発動させた魔法は、掌から電撃を放つ効果を持つ"放電(スパーク)"。

 全力を出せば、人間を簡単に感電死させる程の電流を流せるのだが、当然、死なない程度に加減はしてある。


「「ぐわあぁ――っ!?」」


 二人の男は苦痛に叫び声をあげ、感電による痙攣が収まると同時に地に倒れた。

 少し出力が強すぎた気もするが、彼らの体格と先程の不遜な行為を鑑みれば丁度良い仕置きだったであろう。


「全く……少しは女性に対する扱い方を学んで欲しいものです」


 変態達を懲らしめてスッキリした私は、三人の男を一瞥して呟く。


「す……凄いわね、貴方。体術といい魔法といい、かなりの熟練度じゃない」


 暫くの間、呆然としていたお姉さんが感嘆した様子で感想を漏らした。


「えぇ。こういう男性のお仕置きには慣れてますから」


「そ……そう? 大変なのね」


 私の台詞に、そのお姉さんは苦笑いで同情する。

 ギルドの人々の変態っぷりには、毎日懊悩させられるばかりです……。


「あ、失礼。名乗り遅れたわね。私は騎士団に所属する兵士のハイネ=レイティアよ。本当は私一人でも大丈夫だったけど……助けてくれてありがとね」


 なるほど、先ほど「騎士」って言いかけていたのは、そういう事だったのか。

 それなら大男達に対して毅然とした態度を取っていたのにも頷ける。


「私はリミアと申します。困っている人を見過ごす訳にはいきませんよ」


 どちらかと言えば、お姉さんを助ける為に動いたというよりは、三人の変態達を懲らしめた結果、お姉さんを助ける事になったのだが。

 まぁ、後ろめたい事は言わぬが花だろう。


「はぁ……私は騎士団の人間なのに、最近は助けられる事が多いわね」


「えっ?」


 嘆息しながら吐かれた台詞が、私は気になった。

 先ほどの私の様に、このお姉さんを助けた人がいるという事だろうか。


「一ヶ月ほど前に、魔お……じゃなくて、さっきの男達よりも怖い人に絡まれた事があってね。もしかしたら殺されていたかもしれない状況だったけれど、その時も別の人が貴方みたいに助けてくれたのよ」


 最初の方で何を言いかけたのかは判らないが、この人はかなり面倒事に巻き込まれやすい体質なのかもしれない。

 大変なのはお互い様の様だ。

 それにしても、レイティアさんを助けたという人の事が気になる。

 この国には、そういう紳士的な人がいるという事なのだろうか。


「へぇ、その人は優しい方なのですね。あの男達よりも怖い人を退けたという事は、かなり体格の良い男性だったのでしょうか?」


 私は同感しつつも、さり気なくその人の情報を得ようと質問する。


「いえ、体格どころか顔つきまで華奢な女の子……みたいな見た目の男の子よ。その子も騎士団の人間で、見た目に似合わず驚く程に強いの!」


 体格も顔つきも女の子っぽい男の子で、それなのに強くて騎士団の人間……?

 世の中には、不思議な方もいるものですね。


 と、そこまで思考して、ふと私の脳裏にとある人物の姿が浮かんだ。


 待てよ。その話の人物像に近い人物を、私は知っているではないか。

 いや、私の推測が正しければ……恐らく本人以外でその人物の事をよく知っている者はいないのではないか?


 レイティアさんのお話の人物は、もしかして……、


「まさか、その人は黒……じゃなくて、白髪で碧眼の方ではないですか?」


 まだ私の中で、髪と瞳が変色した今の魔王様の姿が定着していないのか、つい転生前の髪の色を言ってしまいそうになった。


「あら? 凄いわね、その通りよ。もしかして心当たりがあるの?」


 恐る恐る問いかけた私の言葉を、レイティアさんは少し驚いた表情で肯定した。


(これは……ほぼ確定ですね)


 やはりそうだ。あの方が騎士団に入団した事は初耳だったけれど、体格や顔の特徴、そして女性の危機を救う紳士的な性格から判断して思い浮かぶ人物と言えば、私の中ではあの方しか存在しない。


「ふふっ、まぁ、それなりに関係は深いですよ」


 あの方が、転生した後の現在でも変わらず優しいままで、善行をしている事を知ると、つい嬉しい気持ちになる。

 私が意味深に告げて小さく笑うのを見て、レイティアさんは少しだけ首を傾げた。


「そうなの? あ、ところで気になっていたのだけれど、貴方は何故この地域に訪れたのかしら?」


「え? ……ああっ! そうだ! 買い物の途中で迷ったんだった!」


 いつもの癖で、すっかり忘れていた。

 目の前の問題は解決したけれど、当初の問題は何も解決していないではないか。


 ど、どうすれば……。


「……あの、もしかして此処に来るのは初めてかしら? 私は国内の地理にはそれなりに詳しいから、さっきのお礼に目的地まで案内しても良いわよ」


 レイティアさんが心配そうに、懊悩する私に声を掛けてくれた。

 思わぬ助け舟だ。今ここで頼らぬ訳にはいくまい。


「良いんですか!? 是非とも宜しくお願いします!」


 私は咄嗟に深々と頭を下げて懇願する。

 お世話になる人には、最大限の礼儀を払うというのが私の信条だ。


「ええ、困った時はお互い様だから。それに、道案内も騎士団の仕事の内よ。じゃあ、何処に向かえば良いのかしら?」


「有難うございます! 行き先は――」



 ......................................................



 それから私はレイティアさんに誘導されながら、スムーズに目的の店まで辿り着く事ができ、お肉の注文も無事完了する事ができた。


 情けは人の為ならず、と言うのは本当の事だなとしみじみ思う。


「さっきは大量の肉を注文してたけれど、いったい何に使うのかしら……?」


 どう考えても数人分どころの量ではない肉を私が注文していたので、レイティアさんは、それがかなり気になっている様だ。

 因みに注文した肉は、お店の方でギルドまで届けてくれる。


「実は、とあるギルドで看板娘をやっていまして……、今日はお店で出す料理の材料の買い出しに来ていたんです」


「へぇ……確かにリミアちゃんは可愛いから、看板娘というのは適材適所ね」


 レイティアさんが私の顔を眺めて、感心したように頷いた。


「えへへ。お褒めに預かり光栄です」


「ギルドのお仕事は大変でしょうけど頑張ってね。それじゃ、私はこの地域の巡回に戻るわ。また会えると良いわね」


 店を出たあと、レイティアさんは手を振って別れようとした。


「こちらこそ、有難うございました! また機会があれば何処かで会いましょう!」


 私は満面の笑みで返事をし、それと同時になんだか名残惜しい気持ちにもなった。


 良い人である故に、もう少しお話などをしたいのだが、生憎私はギルドでのお仕事もあるし、彼女のお仕事の邪魔をするのも良くない。


「ふふ、貴方がまたこの辺りで迷子になったら会えるかもね?」


 少し悪戯な笑みを浮かべて、レイティアさんが少し揶揄う様な口調で提案する。


「あはは……迷子になったというのはお恥ずかしい限りです……。でも、またこの地域には訪れる可能性があるので、その時に会えるかもしれません」


「それは楽しみね。それじゃ、また何処かで」


「はい、有難うございました!」


 今度こそ本当に別れを告げて歩き出したレイティアさんの背中に頭を下げ、再び感謝の気持ちを述べた。


「……さて、帰りましょう。かなり時間を費やしてしまったので、ギルドの皆さんに心配を掛けているかもしれませんからね」


 それから私は、良い人に出会えたという今日の幸運に幸福感を覚えつつ、軽い足取りでギルドへと向かい歩いてゆくのであった。



 ......................................................



 それから歩くこと、三十分ほど。

 私はようやく『蒼穹の天使(エンジェル・ブルースカイ)』に辿り着いた。


「……ふう、やっと帰ってこれました。皆、心配してますかね……?」


 再建の際に新調した、ギルドの綺麗な出入口の扉を開くと、建物内に居たメンバーの人達が一斉にこちらに振り向いた。


「リミアちゃん! 遅かったなぁ! 心配してたんだぜ!」

「無事に帰ってきた様で何よりだぜ!」

「あと数分ほど遅れてたら、ギルドメンバー総出で捜索に向かうところだったぜ……」


 やはり、ギルドの皆は強面だけれど、誰もが根は本当に優しい性格だ。

 かなり時間に遅れてしまった私を一切咎める事なく、それどころか私が無事に帰ってきた事を喜んでくれる。


 私はこの光景を見て、再び心から感じる。

 このギルドのメンバー全員が、本当に暖かい人々である事を。


「本当にすみません、ご心配をお掛けしました」


 皆は私を暖かく迎えてくれているが、それでも私が皆に心配と迷惑を掛けている事に変わりはなく、私は深々と頭を下げて謝罪をした。


「なーに。良いって事よ!」

「そうそう。リミアちゃんが無事なら謝罪なんて要らねぇって」

「あぁ、良かった良かった!」


 やはり皆、今回の私の失敗も笑って許してくれる。

 本当に暖かい人達だなぁ……と、私は深く感激しながら考える。


 だが――


「しかし、本当にリミアちゃんに反省の気持ちがあるんなら、ちょっとぐらいお尻を触らせてくれても良いよなぁ……? ぐへへ……」


 皆と一緒になって笑っていた一人のメンバーがそう言い出すと、他の人々も次々に下衆な笑みを浮かべ始める。


「おっ、そりゃ良いな。だが俺は断然胸の方が……」

「へっへっへ、甘いな。俺は胸とお尻両方だ!」

「何いっ!? その発想は無かったぜ!」


 ……もう一度言おう。


 このギルドのメンバーは、全員か本当に優しい人で、私に充実した暖かい毎日を与えてくれる。


 バークスさんも、フォスターさんも、そして他の皆も……今では誰もが明るく、元気に笑顔を振りまいている。


 しかし、唯一残念なのが――


「貴方達……今回は私が迷惑を掛けたとはいえ、その変態っぷりをいい加減にしなさーい!」


 このギルドのメンバー全員が――


「や、やべぇ! 怒らせちまった!」

アレ(・・)が来るぞー!」

「リ、リミアちゃん落ち着いて!」


 ――誰一人例外なく、変態という事であった。


「全員許しません! 《雷霆よ――悪しき者に懲悪を》!」


 私の身体から広範囲へと電気が放電され、床や空中を伝って視界に映る全ての人を捕らえ、感電させる。

 威力は抑えてあるが、当たればそれなりの痛みが身体を襲う。


「ぎゃああぁーっ!」

「ぐわぁああ!」

「痛ってええぇ!」


 電撃を喰らった男達が悶えて、悲痛の叫びを上げる。

 これを可哀想に思う人もいるかもしれないが、私にとっては自業自得である。

 こんな光景も最早、ギルドのメンバーにとっては日常茶飯事だ。

 恐らく、このお仕置きに懲りる人間はこの中におらず、また何時か同じ事を繰り返すのだろう。

 それには些か辟易してしまうが、この平穏な日々が続けば、それもまた良しと言えるのかもしれない。


「全く、いつもいつも……反省が足りてません!」


 電撃を喰らって地に倒れ伏した人達に叱咤し、私は腕を組んで『説教モード』に入ろうとする。


「おーい、リミアちゃん! 悪いけどこっち手伝ってくれねぇか?」


 しかし、調理場から聞こえたフォスターさんの声がそれを静止させる。


「はーい! 今行きます!」


 その声に私は返事をし、調理場へと向かって走ってゆく。


「おぉ……流石フォスターさん、ナイスタイミング!」

「あの説教を喰らわずに済んだな……」

「さて、じゃあ飲むとしようぜ!」


 やはり反省の色も無しに、全員が酒瓶を手にとって酒を飲み、そして騒ぎ始める。


「あ、説教はまた後で続きをしますので、覚悟しておいてくださいね?」


 その男達に向かって、私は柔和な笑顔で優しく言い放った。

 当然、その笑みの裏には、かなりの怒気を含んでいるのだが。


「「「ひいっ!」」」


 顔を引き攣らせて情けなく声を上げる男達を見て満足しつつ、私は調理場へと駆けていった。

 大変な事この上ないが、今日も平穏な時間が流れる事だろう。


 そして、看板娘としての仕事をこなしつつ、私は思考する。

 私には魔界の住人として、果たすべき重要な使命もあるのだが……それでも、あと少しだけ、この人達と楽しい時間を過ごしたい、と。


 しかし、そんな私の想いとは裏腹に、運命の悪戯は動き出す。

 今日のレイティアさんとの出会いが、待ち望んでいた『あの方』との邂逅へと繋がる未来を――今の私が知る由は無いのであった。

前のリミア視点と合わせて、クロトとの再会フラグが立っています。

もう少しで二人の再会を果たすつもりなので、再会を待ち侘びていた人はお楽しみに!

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