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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
4章:魔法学校編
46/64

41話:鎧袖一触(ディザスターside)

二週間連続で休載してしまい、読者の皆様に非常に申し訳ありません。

前回の投稿では予告していませんでしたが、今回はディザスター側のストーリーで、全て作者視点の文章になります。

 〜魔界〜


 魔王城より遥か遠く離れた、暗黒に包まれ不気味な雰囲気を醸し出す、死神族の巣窟である辺境――通称、『深淵の大地』に、現魔王であるディザスターは再び足を踏み入れていた。


 死神共を殺戮し、己の力の糧とする為に。


「フン……いつ見ても陰鬱だな、此処は」


 彼がこの地に訪れるのは二度目だが、視界が闇に覆われており、体感気温も数度下がる、まるで冥界をさ迷っているかの様な居心地には慣れそうも無かった。

 更に、辺り一面には漆黒の森林が鬱蒼と生い茂って視界を塞いでおり、見る者に不愉快な圧迫感を覚えさせている。

 こんな場所に好んで居住するなど、死神の感覚は実に理解し難いな、と魔王は思考する。


 そんな事を考えつつ、その魔王はとある場所へと向かって歩いてゆく。

 その場所とは、最初に彼がシックルと対峙した、この地で最も巨大な樹が生えているあの地の事だ。


 見上げるほどに大きいその巨木は、死神の間で『生命の樹』と呼ばれている。

 大気や地表に含まれる魔力を栄養として成長し、強靭な生命力を宿しているのだ。

 死亡した魔族生命体の霊魂は、この樹の生命力に釣られて集まってくる。

 彼の情報は元魔王(サタン)がシックルから聞いた話の記憶に拠るものだが、確かに以前あの場所に訪れた時、"生命感知"が強くその樹に反応していた為、信憑性は高いであろうと確信していた。


 自身の身体を媒体として死者の魂を取り込み、それをエネルギーに還元して生命活動を維持している死神にとって、その樹の存在は必要不可欠であり、死神族の間では信仰と崇拝の対象にすらなっているのだ。

 あの能天気な死神、シックルを除いては。



 そんな事を考えつつ歩いていると、やがて魔王は目的の『生命の樹』の元へ辿り着いた。


 彼の目の前で立ち塞がる様に聳え立つこの樹の大きさには、こうして再び見ても圧巻させられる。

 只でさえ大気中や地中に大量に含まれている魔力が植物の成長を促進させているのだが、更にこの樹は千年以上の年月を掛けて成長したのである。

 この樹から感じられる生命力と魔力も、周りの木々のものとは比較にもならない程だ。


 そして樹の全貌を一通り眺め終えた魔王は、意識を本来の目的に切り替える。


「さて……始めるか」


 魔王はそう呟くと、右手の掌を『生命の樹』に向け、爆裂魔法を放った。


 人間一人を丸々呑み込む程の爆発と共に派手な爆発音が辺りに響き、強力な爆風と衝撃で樹が小さく揺れる。

 その余波が空気を伝って魔王の元にも伝わり、その髪や服を僅かに靡かせた。

 これ程の威力であれば並大抵の生物は殺傷可能なのだが、『生命の樹』を対象にする場合、最低限これ程の魔力を込めなければ振動さえしないのだ。


 この爆発の目的――それは前述の通り、死神族の信仰対象となっている『生命の樹』を攻撃する事で、この樹の異常を察知した死神をおびき寄せる事だ。

 死神族には先天的に魂を可視化・感知できる能力が備わっており、特に幾多もの霊魂が集合するこの樹の状態は遥か遠くの地からでも感じ取る事が可能で、今の攻撃で多くの死神が反応した筈であった。


「クク……さて、これで何体の餌が向かってくるのだろうか……」


 わざわざ自ら殺されに来て、自身の力を前に絶望の表情を浮かべる死神共を眺める光景を想像し、魔王は早々に愉悦の表情を浮かべる。


「――ッ!」


 しかし次の瞬間、"生命感知"が十以上の生物反応を脳内で示すと同時に上空から迫る複数の殺意を察知した魔王は、咄嗟に後方へと緊急回避動作を行った。


 その半瞬後、上方より飛来した三つの斬撃が先程まで彼が居た空間と地面を裂き、殺意の主が三人、目の前に出現する。

 シックルと同様に十人十色の人間の見た目をした死神で、ボロボロに朽ちたローブを身に纏った質素な服装に、自身の身長よりも長い鎌を手に持っている。

 それと同時に、周囲の木々の隙間からも続々と死神達が出現し、合計で十以上の頭数となった。


 そして、その内の一体の死神が魔王を指差し、警告の言葉を投げ掛ける。


「我らが神聖なる『生命の樹』を穢す不届き者よ、その命を以て贖うがいい!」


 その言葉を合図に他の死神達が一斉に掌を魔王へと向け、それぞれの魔法を放つ。


「《燃えよ》!」

「《凍えよ》!」

「《痺れよ》!」


 燃え盛る紅蓮の業火が、吹き荒れる極寒の風が、迸る紫電が――慈悲も容赦もなく四方八方から魔王に殺到する。

 それらの魔法一つ一つに殺意が篭っており、躊躇なく彼を葬らんとする死神達の全力攻撃であった。


 だが――


「脆弱、だな」


 魔王はそう呟きつつ口元を僅かに歪め、自らに高速接近する多数の魔法に身動ぎ一つせず、自身に直撃する寸前のところまで悠然と立ち尽くす。


 そして半瞬後、魔王に直撃し、爆発した魔法の余波によって巻き上げられる砂塵で辺り一面の視界が遮られつつも、死神達は集団攻撃の成功と私の死を確信する。


「ふん、我らの領域を踏み躙った時点で貴様の死は確定していたのだ」


 先程の声の主と同じ死神が唾棄する様に言い捨て、砂塵が散開するのを待つ事もなく魔王へ背を向けるその瞬間。


「ほう、誰が死んだと?」

「な……ッ!?」


 背後から聞き覚えの無い声で唐突に言葉を掛けられ、その死神は咄嗟に身を翻し、その声の主を視界に捉える。

 いや、背後など見なくとも、その声が誰の者であるかは明白であった。


 そこには、つい数秒前まで爆発の中心に居た筈の人物が平然と存在し、冷笑を浮かべていた。

 その笑みに隠された殺気を瞬時に読み取った死神は鎌の柄を強く握り、目の前の存在に切りかかろうとする。


 しかしその時、死神は自身の背中から腹部に掛けて、身を貫く様な鋭い痛みを感じた。

 ……否、貫かれているのだ。

 自身の目の前に立つ存在――その右手に握られた漆黒の剣によって。


「ば……馬鹿な!?」


 口から吐血しながら、苦渋に満ちた表情を浮かべて驚愕の言葉を発する。


 有り得ないと言ったのは、あの複数の魔法を受けて尚、自身の眼前に平然と存在している事についてだけではない。

 それ以上の理由――先程までは徒手空拳の状態だった筈の相手が、何故か未知の物質で造られた剣を手にしている事に対してだ。


 物体を分解・変形させて再結合させる事によって、あらゆる武器や道具を創り出す技術に錬金術というものがあるのだが、ほんの数秒の間に一目で剣と判るほどの精度でそれを行うなど有り得ない。

 それに、この周囲には剣の素材になる様な物質など存在しないのだ。


 つまり、錬金術以外の方法で……更に無から有を生み出すが如く、思いのままに武器を創り出す未知の術を目の前の存在が有している事に対して、死神は畏怖の感情を抱かずにはいられなかった。


 そして――


「ぐ……っ、な、なんだ!? 痛みが……」


 刃が身体を貫通している痛みとは別に、鋭利な刃物が血液と共に循環し、身体中を内部から攻撃する様な痛みを覚える。

 更にその痛みは徐々に増していき、それは耐え難い苦痛となった。


 ディザスターの手に握られた漆黒の剣は、"暗黒物質(ダークマター)"によって形成されている。

 当然その性質も普通の剣とは違い、切りつけた相手の切創から"暗黒物質(ダークマター)"が体内へと侵食し、血液と共に循環して身体中の魔力を消滅させてゆき、その際の反応によって耐え難い激痛を与えるのだ。


「ぐ……っ、あぁぁぁぁぁ――ッ!?」


 余りの痛みに、身を貫かれた死神は悲痛の叫び声を上げ、地を転げ回る。

 並大抵の生命体であれば即死級の致死性を発揮するのだが……死神族は生命力の高い上位種族であり、激痛を味わってから死に至るまでの時間が長いというのが災いとなったのだ。


「クク……ッ、そう……その表情、その絶望だ! これこそが戦いというものだ!」


 仲間が地獄の苦しみを味わっている姿を見て、狂気を多分に含んだ笑顔を浮かべる魔王を前に、他の死神達は焦燥感を覚える。


 目の前の存在が歪曲した嗜好を持っている事に対してもそうだが……何より一対大多数で囲まれている、この四面楚歌の状況に於いて身の危険を全く案ずること無く、寧ろ愉悦の表情すら浮かべている事に。


 その足元で踠き苦しんでいた死神の叫び声もやがて弱々しくなっていき、遂に動きも完全に停止し、そして絶命する。

 その様子を見ていた魔王は、すぐに興味が無くなったかの様に笑顔を止めた。


「どうした? 来ないのか?」


 視線を周りの死神達に移行させた魔王の揶揄的な台詞に対して抗議できる者は、最早この場に誰一人として居なかった。


 このまま膠着状態では埒が明かないな、と考えた魔王は、死神達に向かって不意に言葉を投げ掛ける。


「先程の貴様らの魔法、攻撃のつもりなら本当に傑作だな。私は何もしていないのに、傷一つ負っていないぞ?」


 そう、魔王は先程の集団で放たれた魔法を避けてもいなければ、防御してもいない。

 ただ直立不動のまま、真っ向から全ての魔法を喰らったのだ。

 それは死神達の実力を推し量る為でも、自身の防御力を知らしめる示威行為でもない。

 単に、防御する必要すら無かったからである。

 寧ろ防御に費やす魔力が勿体ないとさえ考えた為、主に魔法が直撃した服の左上半身の部分は電撃と火炎によって炭化してしまったが、それは魔法によって修復したので瑣末な事であった。


「私を葬りたいのであれば、全力で掛かってこい。さもなくば……葬られるのは貴様らの方だ」


 その一言で、死神達はより一層気を引き締めた表情となり、数体の死神が鎌を振り翳し、魔王へ向けて跳躍する。


 魔王へ向かって接近した死神は五体。

 その内の二体が、跳躍の勢いを殺さず利用したまま、眼前の魔王を両断すべく、一糸乱れぬ動作で同時に鎌を縦一文字に振り下ろす。


 風を裂く音と共に、目にも留まらぬ早さで自身に迫る二つの銀閃。

 しかし魔王はそれに臆する素振りを一切見せること無く、片方の刃を躱しつつ、もう片方の刃を剣で受け流す。


 それを流れる様な動作で行い、直後に一度後方へ移動し距離を取ろうとする――が、移動した先に居た一体の死神が魔王の行く手を阻み、更に鎌を振り翳して斬撃を放とうとしていた。


「チッ、厄介だな」


 苛立ちを舌打ちで露骨に表現しつつ、移動方向を直角右方向に急変更し斬撃を躱す。


 しかし、その先でも他の死神が同様に先回りしており、またも魔王に斬撃を繰り出そうと鎌を振り上げていた。


「……いい加減、邪魔だ!」


 思い通りに動けない事に魔王は苛立ちを覚え、怒気を含んだ暴言を吐きつつ再び斬撃を躱し、剣で横一文字に風を薙ぎ、反撃に移る。


 だが、突然飛来した魔法によって横槍を入れられ、その反撃は断念させられる事になった。

 目線を周囲に向けると、現在魔王に接近攻撃を仕掛けている五体の死神以外の死神達は、各々の魔法にて後方支援を行っている様であった。


(成程……私を含めた五体の死神ごと、その他の死神共全員で円形状に周囲を取り囲み、私の退路を防いでいるのか。

 更に、それと同時に全方位から私の死角を突いて攻撃する事も出来る。

 単純な作戦だが、五体の接近攻撃だけでなく、周囲の後方支援も警戒しなければならないのは厄介だな)


 既に敵の策略に嵌っているにも関わらず、魔王は至って冷静に戦況を分析する。

 普通なら息をつく暇もない筈の死神達の猛攻撃を捌く片手間に別の思考をする余裕がある、という事だ。


(この陣形を維持している限り、私は自由に動き回る事も、攻撃する事も出来ない。

 先ずはこの陣形を崩す必要があるな。

 私に接近している五体の死神を先に片付けるか、それとも後方支援を行っている大勢の死神共を片付けるか……)


 再び頭上から放たれた死神の一閃を躱しつつ、魔王は熟考する。


 そして思考を終えた魔王が口元を歪め、猛禽類にも似た鋭い眼差しで、尚且つ(たの)しげな笑みを浮かべて、死神の群れへと高速で疾駆し特攻する。


 (先ずは……餌の多い方からだ!)


 魔王の狂気じみた冷笑は、殺戮の光景を想像した故のものだった。


 その表情を見た死神達は、自身に迫る狂気の権化を眼前に危険を察知し、攻撃の手を止めて防御結界を展開する。


 しかし魔王はそれを気に留めることも無く、疾走したまま右手に魔力を集中させ、それを腕を振るうと同時に解放させる。


 その刹那、死神の長蛇の列によって作られた円環を辿る様に、魔王の掌から放たれた巨大な爆裂が連鎖して広がり、耳を(つんざ)く爆音を轟かせつつ、円環上に居た死神達を蹴散らす。


「う……うわぁぁぁぁ!」

「い、嫌だぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃ!」


 防御結界の守りも虚しく、次々に爆裂四散し鮮血を散華させながら肉塊へと変わりゆく仲間と、自身に迫り来る爆発を目の当たりに、死神達は恐怖で悲鳴を上げつつ逃げ惑う。

 だが爆発の連鎖は加速していき、容赦無く魔王の想像通りに屍を築き上げてゆく――


 その光景は正に、阿鼻叫喚の地獄絵図。


「フ……ッ、ハハハハハハハハハハッ!」


 そして狂ったように哄笑する、魔王の姿。


 これが示威行為のつもりであれば、爆発の連鎖を免れ、一命を取り留めた死神達に対する効果は絶大なものだったと言える。


 事実、その強大な力を目の前に、死神達は一体残らず恐慌状態に陥っていた。


「う……あぁ……」

「嘘、だろ……?」

「化け物か……!?」


 これ程の猛威を振るっておきながら、平然と佇む魔王を前に、その場全ての死神は硬直している。


 彼らに戦意が残っている訳ではなく、最早逃げる勇気も失せたのだ。


「ははは……良い、良いぞ! その絶望、その表情!」


 如何にも愉しそうに笑いながら、魔王は詠唱を開始する。


「《有象無象の塵芥(ちりあくた)共よ――踊り狂う(ほむら)に妬かれて灰燼に帰せ》!」


 本来であれば、わざわざこれ程長い詠唱をする必要は無いのだが、死神達に最大限の地獄を与える為、丁寧に魔法を紡いでいく。


 それと同時に発生したのは、魔王自身を含め、この場の全員を取り囲む巨大な火炎の渦であった。

 まるで竜巻の様に燃え盛る炎の高さは天にまで達しており、まるで、この場の誰一人として逃さんとする意思を持つ炎の牢獄の様だ。


「ぎゃあぁぁぁ!」

「あ、熱いぃぃ!」


 渦は中心へと収束しながら縮小されていき、炎の壁によって灼熱の渦中に居る死神達を追い詰め、呑み込んでゆく。

 恐るべきは、その温度。

 炎に触れた瞬間、その部位が焼け焦げるのは当然の事、渦の中心に居るだけで身を灼くような熱さを感じさせるのだ。


 炎に呑まれれば、死。

 そうでなければ、ただただ死ぬまで地獄の熱さに襲われるのである。


 この恐ろしき魔法の名は、"灼熱の牢獄(フレイム・プリズン)"。

 囚われた者を強制的に灼き尽くす、ディザスター独自の惨たらしい広範囲殲滅魔法だ。


 灼熱の奔流が収まった時、魔王の前に生存している死神は、誰一人として居なかった。

 魔王に刃向かった数十の死神は皆、爆死し、焼死する結果となった。

 文字通りの『全滅』である。


「ふっ……ハハハハハハハハハハハハッ!」


 そして魔王は、狂ったように再び哄笑する。

 目的を果たした達成感と、殺戮によって得られた勝利の愉悦が故に。


 更に、悍ましい数の屍を生贄に、魔王の力は更に高まる事になる。

 鎧袖一触の戦いであったが、それでも死神族は上位種族。

 その数十体分の死が、魔王に尋常ならざる量の経験値を与えたのだ。


「ククク……力だ……力が漲る! フハハハハハハッ!」


 その高揚感を得て、更に狂喜乱舞する魔王。

 その高らかな嗤い声は、魔界の何処までも響き渡る様であった――



 ......................................................



 それと同時刻。


 現魔王(ディザスター)が凄絶な殺戮を終えた時、『深淵の大地』の最深部に存在する峡谷の谷底より、とある怪物が目覚めていた。


 体長十メートルを軽々と超える巨躯と、その背中に見える漆黒の双翼。

 その全身は金属光沢を放つ紫色の硬質な鱗に覆われており、魔界に存在するあらゆる魔族生命体の外見と比較しても、その怪物の相貌は異形である。

 まるで――存在そのものが他者とは一線を画す事を体現するかの様に。


 嘗て、その怪物は唯一無二の魔界の支配者として跋扈していた。


 生物の枠を遥かに超越した無尽蔵の魔力に、あらゆる攻撃を跳ね除ける強靭な身体。

 まるで全ての物質を切り裂く為に存在する様な、恐ろしく発達した巨大な爪。


 そう、雄大豪壮な相貌を成すその怪物の正体とは、竜であった。


 その竜にとって、破壊こそが己の全てであった。

 余りに戦闘に特化し過ぎたその身の存在意義を、暴力の中で見出していたのだ。


 しかし、ある日――新たなる魔界の支配者として君臨した魔王との闘いにて、邪竜は敗北を喫する事となり、それと共に優れた五感と膨大な魔力を失う事となった。


 しかし邪竜は、そこで己の限界を悟る事は無かった。

 幾星霜を経て五感を取り戻し、失った分の魔力を蓄え続けた。

 全ては、初めて己に敗北を体験させた忌まわしき魔王をその手で葬り、再びこの世の『頂点』に君臨し続ける為に。


 それから永劫の時を経て、たった今、尋常ならざる強大な魔力を感知した。

 その魔力は、大昔、初めて敗北を喫する事となった元凶――『魔王』から感じ取ったそれと酷似しているものであった。


「グルアアアアアアアアアァァァッ!」


 その口腔より放たれるは、憎悪と憤怒を含めた、耳を劈く程の盛大な雄叫び。

 重低音が峡谷に反響し、大地を震撼させる。


 そして邪竜は魔力の奔流を感じる方角へと飛翔する。

 その全身に感じる、強大な魔力の発生源を探る為に。

 この時を以て訪れた千載一遇の好機を逃さず、再び暴虐の快楽を得る為に。


 遥か昔、全ての魔族生命体の頂点として君臨し、魔界を支配していた最凶の竜。

 その怪物が――今、魔王に牙を剥くのであった。

今回で久々に、一対多数の戦闘を書きました。

クロトと不良生徒との喧嘩(?)以来ですね。

この話で察した方もいらっしゃるかと思いますが、『深淵の大地』の名は、邪竜が潜む渓谷に由来しています。


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