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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
4章:魔法学校編
43/64

38話:嫉妬

先週は次話投稿が出来ず、申し訳ありません。

今月は資格試験やテストなど、多忙な状況が続きました。

今週からは一週間の投稿ペースを守っていこうと思います。

 〜人間界〜


 魔法学校本棟二階、全校生徒共用の食堂。


 国立学校であるセインガルド魔法学校は、その莫大な資金を以て生徒達の成長意欲向上に力を込めており、雇われた一流のシェフの腕前によって多種多様な上質の料理が振る舞われるこの食堂も、その一貫であった。


 本来であれば貴族階級の者が嗜む程の料理の品々をお手頃価格で口にする事が可能である為、連日、昼食時になれば多くの生徒達がここに集う事になる。


 まず受付にて希望の食品の食券を購入し、それをカウンターに居るシェフへと手渡す事によって、自身の手元に料理が届く手順だ。


 当然、受付前には生徒達が長蛇の列を作る訳だが、その列から外れようとする生徒は一人もいない。

 何故なら、いつ客が来るか判らない食事処とは違い、昼食時に合わせて予め料理を作られている為、受付さえ通れば直ぐに料理を手に取る事が出来るからだ。


 その為、生徒達は数人のグループを作っておき、その内の一人に席を確保する役目を担って貰い、他の者達で料理を取りに行くという段取りが定石となっている。


 全校生徒の中には、理由(わけ)あってこの食堂を利用しない生徒も居る。


 その生徒の代表例としては、グループを作る友達がいない為、長蛇の列に並んでいる間にどうしても席が取られてしまうという、哀しき天涯孤独の者だ。


 そしてもう一つ、最大の理由としては、この食堂は生徒達だけではなく、教師陣も利用する為である。

 何処と無く教師達から監視されている様な視線を感じる事を嫌う生徒達は少なくない。


 とは言え、そんな生徒は全校生徒の一割にも満たない少数派(マイノリティ)

 結局のところ、大した理由でもない限りはこの食堂を利用しない手はないのである。


 当然今日も例に漏れず、食堂内は現在、大多数の全校生徒で賑わう満員御礼の状況となっている。


 その中には、新参の利用者であるクロトとフィリアを含めた六人のメンバーの姿もあった。

 彼らがこの食堂に訪れた時には既に殆どの席が他の生徒達で埋め尽くされている状況であったが、残り少ない空席をギリギリのところで六人分確保する事が出来たのである。


 彼らのパーティーではユウナとルアナが席を確保する役を買っており、他の四人は料理の注文を担当していた。


 最初はメンバーの中でも一番小柄で華奢な体躯のルアナのみを席に残そうかと考えていたのだが、当の本人から『ユウナと一緒がいい』という申し出があり、その二人分の料理なら四人で配膳できるであろうという考えの元、結局はユウナとルアナの二人を席に残す事に決定したのだ。


 やがて暫く二人が雑談を交わしていると、クロトを除いた三人が料理を持って席に戻って来た。


「お待たせ。結構並んでたから時間かかっちゃったわ」


 フィリアが自分達を待っていた二人に声を掛けながら、二人分の昼食――配膳用トレイの上に置かれている、自分とユウナの分の料理が盛られた食器を机に並べてゆく。


「いつも食堂はこんな感じだよ。私の分持ってきてくれてありがとね!」


 ユウナはニッコリと柔和な笑みを浮かべながら、フィリアに返答する。


「……あれ? クロト君は……?」


 席に戻って来た三人の中にクロトの姿がない事に気づいたルアナが、キョロキョロと周りを見回しながらフィリア達に尋ねる。


「まだ料理が出てくるのを待ってるよ。私達と一緒に並んでたから、すぐに来ると思うけど……」


 アイラはルアナの質問に返答し、食堂のカウンターの方に目を移す。


 カウンターの前では料理の注文を終えたクロトが立って待機しており、注文の料理が出てくるのを待っている状況であった。


「そっか、じゃあクロト君が来るまで待とうか。どの道、彼が来ないとルアナの料理もないからね」


 ユウナの提案に皆が頷き、少しの間クロトが席に戻るのを全員で待つ事になった。



 その頃。


 同じ食堂内にて、そんなやり取りを行う彼女達の様子を遠目に眺める、三人の男子生徒の姿があった。


「何だ……あの理想郷(ユートピア)は……!」

「なんて尊い光景なんだ……!」

「はぁー、癒されるわぁ……」


 彼らはセインガルド魔法学校の中でも勉強や運動は出来る方ではあるが、素行不良の為に不良のレッテルを貼られている、校内ではそこそこ有名な問題児であった。


 五人の女子生徒――それも、全員が高水準の美少女であり、和やかに談笑するその様は、まるで百花繚乱の綺麗な花が美しく咲き乱れる花園と見間違える程に美麗で、高貴な雰囲気を放っていた。


 元々、ミキ、アイラ、ユウナ、ルアナの仲良し四人組はこの食堂をほぼ毎日利用している為に、男子生徒達の中での知名度は高かったが、今日この日は更にフィリアという一人の超絶美少女が加わり、花園の美しさをより一層際立たせる事となった。


 思春期真っ只中の彼らにとって、彼女達の華やかさは蠱惑的な魅力に溢れていたのだ。


 事実、目を奪われていたのは彼らだけでは無い。

 友人と食事を囲んで談笑する男子生徒なども同様であった。


 この食堂内には、他にも魅力的な女子生徒は多いのだが、彼女達はその中でも圧倒的な存在感を放っていたのである。


 美しき花園を前に、周囲の女子生徒という一輪一輪の花は最早、男子生徒達にとってはただの道端に生える雑草……という認識にまで成り下がったのだ。


 彼女達が周囲の目を気にしていないという事もあり、第三者の視点から見れば、ほぼ全ての男子生徒の視線が一点に収束している事は明白であった。


「どうする? 声掛けてみるか?」


 そんな美しい少女達を前に、居ても立っても居られなくなり、三人衆の中で最も体格の良い生徒であるリーダー格のカイが、二人に問い掛けた。


「おう!」

「当然だぜ!」


 問い掛けられた二人――ジェンとアルは異議を唱える様子もなく、カイの意見に賛同する。

 彼らはカイ程ではないが、それでも全校の男子生徒と比べて一回り体格が良く、それなりに度胸もある。


 まずは一緒に食事する様に誘うつもりではあるが、けんもほろろに断られる事は百も承知であった。

 しかし、あれ程までに魅力的な少女達を前にして言葉を交わす事すら出来ないなど、男が廃る……というのが彼らの心情だ。


 そうと決まれば、即行動。


 三人は即座に立ち上がり、彼女達の元へ近づこうとする――その時。


 白髪碧眼の男子生徒――クロトが、迷いもなく理想郷(ユートピア)の領域へと足を踏み入れ、挙句には何の気兼ねもなく彼女達に声を掛けたのである。


 因みに彼らはクロトを顔で男子生徒だと判断した訳ではなく、ズボンを履いている為に見分けがついただけである。


「すまない、遅くなってしまったな」


「良いって! それよりもお腹空いちゃったし、早く食べよ?」


 あれほど気安く声を掛けるなど、どこの自意識過剰な阿呆かと彼らは思ったが……あっさりと和の中に入る事を寛容された様子から、お互いに親密な関係にある事が判り、あの男子生徒の行動にも納得がいった。


 しかし――それと同時に、彼らの中で激しい嫉妬と羨望の念が渦巻き、腸が煮えくり返る様な怒りが生じた。


 特に激しい憤怒に身を焦がしていたのは、彼女達への執着心が最も強いカイであった。


「あ……あの野郎……いとも簡単に俺達の理想郷(ユートピア)に……ッ!」


 今にも血涙を流さんとするばかりの血走る目でクロトを睨みつけ、燃え盛る怒りを歯軋りによって辛うじて抑えながら、怨嗟の言葉を吐き捨てている。


「ゆ、許せん……」

「どうする? あいつ、シメちまおうか?」


 そしてカイに感化された二人もまた、クロトに喧嘩を売る気満々の様子であった。


「そうだな、まずは奴をあの理想郷(ユートピア)から突き放してやるぜ……!」


 こうして――本人の知らないところで、クロトへの粛清が決定したのである。



 ......................................................



 そして、当の本人であるクロトは、彼らの殺意に気づいていた。


 フィリアから複製(コピー)した"生命感知"スキルによって、狭い範囲内の敵意を常に感じ取っていたからだ。

 と言うより、"生命感知"を使わなくても、周囲の視線がこちらに集中している事には何となく気づいていた。


 しかし、敵意には気づいたものの、その発生源が何処にあるかは把握出来ていなかった。


(先程から敵意を感じるな。しかし、度合いは然程強くはない様だ。

 というか……何か恨まれるような事したか? 俺……)


 敵意の元凶と、敵意を向けられる理由が判らない以上、相手側の動きがない限りは対処もできない。


 それに……


「あら、どうしたの? 神妙な顔して」


 わざわざ彼女達の前で、こちらから喧嘩沙汰など起こす訳にはいかない……と、不思議そうに自分に問い掛けてくるフィリアを見ながらクロトは考えた。


「……いや、何でもないよ。それよりも、せっかく出来立ての料理なのだから、早い内に食べてしまおう」


 結局、クロトは常に原因不明の敵意を感じながらも対処できないという不快感を覚えつつ、彼女達との食事を過ごすのであった。



 ......................................................



 それから、クロト達六人はそれぞれの食事を終え、食器を片付けて午後からの授業の準備をしようと教室に向かおうとしていた。


 しかしその瞬間、不意に三人の男子生徒がクロトの周りを取り囲んだ。


「何だ、お前達は? 俺に何か用があるのか?」


 "生命感知"により、先ほどから感じる敵意の正体が彼ら三人である事を瞬時に察知したクロトは、彼らの行動に警戒しつつ、ぶっきらぼうに話しかける。


 それに反応して、笑顔ながらも何処か威圧的な表情でカイは言葉を返す。


「よぉ、アンタが噂の新入生だろ? 俺はカイで、そっちの二人はジェンとアルってんだ。ちょっと俺達と話をしねぇか?」


 言葉の内容こそ友好的なものだが、ただ良好な関係を築く為の会話にしては、わざわざ威圧をかけるように三人で一人を取り囲む行為は明らかに怪しい。

 先程から感じる敵意と併せて、カイの放った言葉の裏には別の真意があるのだろう……とクロトは確信した。


「ちょっと待って。私も同じ新入生よ。その話、私にも聞かせて貰おうじゃない」


 三人がクロトに近づいた瞬間、同じく"生命感知"にて彼らの敵意を感じ取ったフィリアが、彼らの好きにはさせまいと、すかさず話に割って入った。


「あぁ、悪いね。これは男と男の会話だよ。少しの間、彼一人と話をさせてくれないかな?」


 フィリアに返答する途端、カイの表情が一変し、引き攣った不自然な笑顔から、紳士然とした柔和な笑みになった。

 彼は相手によって態度が千変万化する、好き嫌いの激しい性格なのだ。


「そんなのダメに決まって――」

「解った。じゃあ場所を変えよう」


 フィリアが反対するのを阻止しつつ、クロトはカイの要求に応じた。


「解ってくれて有難いぜ。なら俺達に付いてきてくれ」


 クロトの返事に満足したカイが、柔和な笑みを浮かべた口の端を僅かに歪ませる。

 ここまで順調に事が運ぶとは、彼自身も予想外の僥倖であったからだ。


「ちょっ……ダメよ! この人たち怪しいわ!」

「私もそう思います……教室に戻りましょう? クロトさん」

「なんとなく……だけど……私も……そう思う……」


 五人の中でも特に、"生命感知"により人の敵意を感じ取る事に秀でたフィリア、"審判の眼(ジャッジメント・アイ)"により人の嘘を暴く事に秀でたミキ、生まれつきの属性相性により人の闇を見透せるルアナの三人が、それぞれクロトを心配して警告の言葉を掛けた。


「大丈夫、ちょっと話をするだけさ。すぐに教室に戻るよ」


 だが、クロト本人もそのような事は重々承知。

 できる限り自然で柔和な笑みを浮かべて、彼女達の不安を解消する。


 彼が最も危惧しているのは、三人の敵意が彼女達を巻き込んでしまう事であった。

 わざわざ場所を変えるように促したのも、それが理由である。

 どの道、ここで断っても彼らは自分に執着するであろう事は解っていたのだ。


「っ……解ったわ。じゃあ、教室で待ってるから」


 ぐっと不満を抑え、フィリアは三人をクロトに任せる事にした。


「えっ……でも、あの人たちは……」


 ユウナはクロトを放ってはおけない……と主張したいところであったが、強く言葉にする事はできなかった。

 彼女の中で、解決策を見出していないからだ。

 事実、あの三人の事はクロトが上手く対応して物事を平和に収めてくれる事が一番の最善であった。

 しかし、それが出来なかったら……?

 そんな葛藤が、ユウナの……いや、五人の行動を制限し、結果的に彼女達は何も口出しする事は出来ず、止む無く教室に向かい、クロトが戻ってくる事を待つしかないのであった。



 ......................................................



 食堂を離れて、俺は三人に連れられて校舎の外へと移動していた。

 丁度、三人を線で結ぶと正三角形が描ける隊列で俺が囲まれている。

 少なくとも彼らは、俺を逃がす気は微塵も無いようだ。


「よし、ここで良いな」


 先程、カイと名乗っていた三人のリーダー格の男子生徒の足が止まり、身体を翻して俺と正面から対峙する状態となった。


 俺が連れられたこの場所は、昨日訪れた『魔法訓練場』の建物裏だ。

 周りには人の気配は無く、建物の影で陰鬱な雰囲気を醸し出していた。


「こちらから聞こう。なぜ此処に連れてきた? ただの『話』が目的ではないな?」


 俺は真剣な表情で問い質し、強制的に話の本題に移させる。


「ご名答。じゃあ遠慮なく言わせて貰うけど……アンタ、彼女達と別れてくんない?」


 やはり、何処か怪しさを感じさせる笑みで諭す様にカイは俺に懇願する。

 更に、その言葉と同時に後ろの二人も僅かに俺との距離を詰めて威圧を掛けてきた。


 その様子を見て、俺はこの会話は『交渉』ではなく、強制的に首を縦に振らせるための『尋問』なのだと理解する。

 しかし、これ程の理不尽な要求をされて、俺がその要求を呑む道理はない。


「彼女達は俺にとって掛け替えのない仲間だ。なぜ縁を切らなければならない?」


「……俺さぁ、お前の周りにいる彼女達に前々から目ぇつけてたんだよね。

 なのに、新入生のお前が早速、俺の目の前で彼女達と仲良くしててさぁ……そりゃ当然ムカつくよなぁ! あぁ!?」


 カイの口調は段々と荒くなっていき、遂には憤怒の表情で俺を怒鳴りつけた。


 そして唐突に、不意打ちの右ストレートを俺の顔面に向けて全力で放つ。


 やはり、これは正当な理由など無い一方的な要求だったか。

 ならば、俺にはそれを強制的に拒否する権利があるという事だ。


 そんな事を思考する間にも、カイの放った右手の拳は俺の顔面に高速接近する。


 中肉中背よりも僅かに筋肉質なその体格から繰り出される殴打は鋭く、微かに風を切る音と余波が感じ取れる。

 更にその拳は青白い光を纏っており、"魔力操作"による一部のみの身体強化効果が付加(エンチャント)されている事が見てとれた。


 ――が、俺の左手はその拳を難なく顔面数センチ手前で受け止め、殴打の威力を完全に無力化した。

 視認は出来ないが、俺も手に"魔力操作"による強化を施しているのだ。


「なっ……!?」


 カイは驚愕の表示を浮かべ、受け止められた自分の右の拳を見つめる。

 一撃必殺を確信して、即座に次の攻撃を繰り出さないあたりが、喧嘩に於いてまだまだ未熟だな。


 俺はその隙を逃さず、なるべく痛みを与えない方法で無力化を試みる。


「《放電(スパーク)》!」

「――ッ!?」


 簡略的に詠唱を唱えると同時に、カイの拳を掴む俺の左手から、カイの体内へ向けて音もなく電気が流れる。

 流している電流はごく微弱だが、それでも人間一人をゼロ距離で気絶させるには充分であった。

 カイは恐らく痛みを感じることも無く、意識を手放して地に伏せる事となった。


「なっ……!? クソッ、《発射(ショット)》!」


 仲間の一人が無力化された事に一瞬戸惑い、ジェンは咄嗟に右手の人差し指を俺に向け、無属性の下級魔法である"魔法弾(マジック・バレット)"を指先から発射した。


 下級魔法とはいえ、たった一言の詠唱で発動できる辺りは中々賞賛できる。

 この三人は見た目以上には優秀な奴らなのかもしれない。


 殺傷能力どころか、直撃しても『痛い』程度で済むような遊戯銃(モデルガン)並の威力しか無いのだが、それでも目に当たれば大怪我にはなるし、それ以外にも身体に当たれば一瞬は怯む。

 因みに魔法学校の校則では、人に向けて発射してはいけないと定められている。


 それにしても、焦っているとはいえ、目線と指先の向きで狙いが丸わかりだ。

 ジェンは単純に俺の足を狙っていた。

 そして俺は弾丸を無難に反応し、発射された魔法弾を難なく躱しつつ、"高速移動"にてジェンとの彼我の距離を詰める。


「くっ……《魔法(マジック)》――」

「《呪文封殺(サイレント)》!」


 自身に向かって迫り来る俺に対して何らかの魔法を発動させようとしていたが――遅い。


「――ッ!? ――ッ!」


 魔法をかけられた者の口から発せられる言葉を瞬間的に拡散させ、強制的に発音出来なくさせる魔法"呪文封殺(サイレント)"により、ジェンは暫く魔法が使えない状態になった。


 カイが気絶してから、この間僅か二秒未満。


 余りにも速い出来事を前に呆然としていたアルも、俺に向けて人差し指を構え、ようやく魔法を唱えて発動した。


「シ……《発射(ショット)》!」


 詠唱はジェンと同じだが、こちらは魔法弾を高速で連続発射するものだった。

 魔法の意図的な改変など、学生にしてはかなり習得の難しい高等技術を身につけているようだ。


 アルの指先から発射された無数の弾幕が、音もなく俺に高速接近する。


 目線と指先から狙いは判っているものの、この数の弾丸を避けるのは流石に難しいだろう。

 そう判断した俺は、咄嗟に魔法による防御を選択する。


「《反射(リフレクション)》!」


 詠唱を唱えた事により、あらゆる魔法のみを反射する薄い透明な防御膜が全身に纏わりついた。


 自動追尾型の魔法や、自然に存在する空気を熱する炎魔法には効果が薄いが、"魔法弾(マジック・バレット)"の様に直線的に飛来する攻撃を反射する事には極めて有効な防御手段である。


 その気になれば全弾を狂いなく跳ね返す事も出来るのだが、怪我をさせる訳にもいかないので、敢えて四方八方に弾丸を拡散反射させた。

 勿論、反射した弾丸がカイとジェンには当たらない様に考慮はしている。


「なっ……弾丸が弾かれた!?」


 奴の目線から見れば、相手に当たった筈の弾丸が何故か予想外の方向へと弾かれた様に見えたであろう。

 何が起こったのか理解が追いつかないアルは、魔法を詠唱する事さえ忘れてしまった様だ。


 折角なので、お返しのつもりで俺の方も弾丸で方を付ける事にする。


 刹那、俺の右手の人差し指は正確無比にアルの脳天に照準を合わせ、バチッ! という電撃音を響かせつつ、指先から一条の閃光を疾駆させた。


 魔法名は"雷撃弾(ライトニング・バレット)"。

 最大射程距離約五キロメートルの雷属性の弾丸を、指先から高速発射する魔法。

 放たれる弾丸の閃光の如き初速は、例え詠唱を聞いて回避の体勢を取ろうと、発動を許した時点で回避不可能の弾速を生み出す。

 それを無詠唱で、尚且つ"第二知能(セカンドブレイン)"による自動照準補正を加えて放たれたのだから、最早なす術は皆無であろう。


「がっ――!?」


 寸分の狂いも無く脳天に直撃を喰らったアルは、一瞬で意識を奪われ、ゆっくりと地にひれ伏す。


 本来の用途は長距離狙撃用の暗殺手段だが、この場合は威力を調節して気絶程度に抑えている。


 ジェンを無力化してから、この間僅か一秒弱。


「――ッ!」


 おっと。ジェンは魔法ではなく、拳で背後から俺に殴りかかって来た。

 魔法を使用不可能にしたとは言え、完全に動きを封じた訳ではないからな。

 勿論、殺気と気配だけで狙いは丸分かりなのだが。


 俺はその拳を回避し、今度は無詠唱で"放電(スパーク)"を発動させる。


「――ッ!?」


 一瞬だけ身体が痙攣した後、ジェンは地に倒れた――が、カイとアルの二人とは違い、気絶はしていない。

 俺が意図的に、身体の自由を奪うぐらいに放電の威力を弱めたからだ。

 これで完全に全員の無力化が完了。

 さっさとこの面倒事を収束させる事にする。


「……さて、これで解ったと思うが、俺に喧嘩を売っても無駄な事だ。それに、俺は彼女達との付き合いをやめるつもりもない。

 まぁ、次に喧嘩を売ってきたら、その時は全力で諦めて貰うとだけリーダー格の彼に伝えておいてくれ」


「~ッ!」


 ジェンは何か言いたげだったが、"沈黙(サイレント)"のせいで声を発する事は出来ないし、これ以上関わるのも面倒なので、無視して教室に戻る事にした。

 俺の忠告も、一応はしっかり聞いていたであろう。


 ……いや、折角だから彼らのスキルを複製(コピー)させて貰うとしよう。

 周りには誰も居ないし、"龍精眼(ドラゴニア・アイズ)"を使っても目立たないだろう。

 この眼は緑色に発光するので、迂闊に使ってしまうとすぐに目立つからな。


 目の前のジェンに見られても困るので、一応、"放電(スパーク)"にて気絶させておく。


「――ッ!」


 電撃を浴びた事により、ジェンは他の二人と共に意識を手放した。


 よし、これで遠慮なくスキルを複製(コピー)できるな。

 普段はあまり気安く他人のスキルを複製(コピー)するのは控えているが、今の場合は売られた喧嘩の戦利品という事で構わないだろう。



 俺は三人のスキルをそれぞれ複製(コピー)し終わってから踵を返し、教室へと向かうのであった。



 ......................................................



 教室に戻ると、すぐにフィリア達五人が駆け寄ってきた。


「良かった、戻ってきた……一体何があったの?」


 フィリアが不安を露わにして問いかけた。


「少し喧嘩を売られただけだ。すぐに気絶させて済ませたけどな」


 と、俺はありのままを五人に向けて簡単に話した。


「あぁ……確かに喧嘩でアンタに叶う訳ないわね。ちゃんと手加減はしたのかしら?」


「手加減……? 三対一だよね?」


 フィリアの言葉に、アイラが思わず疑問を口にする。

 まぁ、普通は三人いる相手の方が手加減するよな。


「いや、コイツに限っては相手が一人でも三人でも関係無いのよ……」


 半ば呆れた顔で、フィリアはアイラに返答する。


「クロト君……もしかして……喧嘩……強い?」


「強いなんてレベルじゃないわよ……。少なくとも、考え無しにコイツに喧嘩売るなんて余程の馬鹿ね」


 ルアナの質問に、フィリアが迷わず答えた。

 恐らく、先程の三人の顔を思い浮かべて内心で呆れている事だろう。


「とにかく、あの三人にはこれ以上関わらない様に言っておいたから、もう喧嘩を売られる事は無いだろう」


「ホントに、杞憂もいい所ね……」


 終始、フィリアは呆れ顔であった。


 他の四人に関しても、苦笑いで余りにも迅速な俺の問題解決に納得するしか無かった。



 そして今日一日も平和に授業が終わり、俺達にとって二日目の学校生活は何事も無く過ぎ去ったのであった。


三人のスキルについては、今回は書くことができませんでした。

少なくとも後々には必ず登場させるつもりなので、何かしらの役には立つと思います。

それにしても、本当に話の進行速度が遅い気がしますね(汗)。

早い所、リミアとの再開まで話を持っていきたいのですが……。

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