37話:授業
先週は次話投稿ができず、申し訳ありません。
今回からクロト視点のストーリーに戻ります。
急いで書いたので、文字数はかなり少なめです。
〜人間界〜
自室のベッドの上で目覚めた俺は、いつも通りの朝を迎え、倦怠感の残る身体を起こす。
辺りを見回すと、ベッドや机、椅子など、必要最低限の家具のみが置かれた合理的で無機質な部屋の中を、窓から燦々と降り注ぐ陽光が照らす光景が目に映る。
ふと隣のベッドを見ると、まだ朝の訪れに気づいていないのか、幸せそうな表情で穏やかに眠るフィリアの姿があった。
この一ヶ月間ですっかり見慣れた、いつもの光景である。
昨日と同様に、俺達は今日も魔法学校での授業に参加する予定だ。
まだ早朝の為、登校時間まではかなり余裕があるが……俺もフィリアも時間には余裕を持って行動する主義なので、起こすならなるべく早くに起こすべきだろう。
「……フィリア、朝だぞ」
俺はフィリアの身体を揺さぶりつつ、声を掛けて起こそうと試みた。
「ふふ……私は……最強の……魔法使いよ……」
どうやら、自分が高名な魔導師となって世界に名を馳せる夢でも見ているらしい。
昨日の魔法学校の授業で、魔法への興味関心がより一層高まったのだろう。
……とはいえ、このまま放っておく訳にはいかない。
俺は再びフィリアの身体を揺さぶって目覚めさせようと試みる。
「フィリア、朝だぞ。そろそろ魔法学校の支度をしよう」
「ん……あれ……ここは……?」
フィリアはまだ眠気が窺える表情と口調で、周りを見回しながら呟いた。
目覚め直後で寝惚けている様だ。
「俺達の部屋だよ。今日も学校だろう?」
「ふぇ……? ……あ! そ、そうだったわね……」
俺の呼び掛けに、フィリアはようやく意識が現実に戻ってきた様子で、ハッと驚いた表情を見せた。
「ん……じゃあ、早く準備を済ませちゃいましょう」
フィリアはベッドの上で伸びをして、登校の準備を促した。
とは言っても、今日の授業で必要な教材は魔導書や筆記用具ぐらいのものなので、昨日の時点で既に持ち物の準備は完了しているのだが。
まぁ、敢えて言うなら必要な準備は制服に着替える程度のものだろう。
その『着替え』もまた、スキルによって簡略化可能なのだ。
「持ち物は用意してあるし、まずは着替えなきゃ……って、アンタいつの間に着替えてたの!?」
起こされた時には寝巻きを着ていた俺が、着替える素振りも見せずに制服に着替えていたことに気づき、フィリアが驚愕する。
「まぁ、簡単に言うと収納スキルの使い方を変えただけだ」
と、端的に説明はしたが……恐らくフィリアは理解出来ないだろう。
日常生活に於いて非常に便利な効果を持つ収納スキルは、あらゆる物体を異空間に収納し、全く荷物の重量を感じないまま持ち運べるという点ばかりに注目されがちだ。
だが俺は、寧ろ収納した後――収納した物体を『取り出す』という点に注目した。
この『取り出す』という効果は非常に自由度が高いのである。
収納した物体を手に持った状態で取り出すという使用方法が最も多いのだが、更に自由度の高い使用方法があるのだ。
例えば、自分が持っているバッグの中に小物を取り出す事もできる。
その工夫を変えて、先ほどは収納した制服を『自身に着用した』状態で取り出したのである。
「ホントに便利なスキルね……私にもアンタの"能力複製"があればいいのに」
フィリアがため息混じりに羨望の言葉を呟いた。
確かに、"収納"は使い方の工夫無しでも充分に便利だし、条件さえ満たせば"能力複製"の効果は絶大だ。
スキルは幾ら持っていても困らないからな。
まぁ、レベル上昇や先天的潜在能力の開花によって獲得できるスキルの種類や効果は運次第なので、フィリアも努力を重ねてレベルが上がれば俺が持っている固有能力よりも便利で強力なスキルが手に入るかも知れないが……。
「確かにスキルは便利な物が多いが……だからこそ、使い所には気をつけなければならないぞ」
そう、スキルは便利だが……便利だからこそ、それだけ悪用の方法があるのだ。
実際、今までにも突然獲得した"虚心坦懐"の効果によって、魔法実践で使用した水晶を壊すなどという不祥事を招いたのだから。
「それは解ってるわよ。でも……やっぱりスキルが多いのは正直羨ましいわね」
「確かに便利には変わりないからな……」
特に"第二知能"はどう使っても非常に便利だからな。
スキルというものは数よりも質が重視されるべきなのだ。
「ま、そのうち私にも便利なスキルが手に入るかも知れないし、気長に努力するしか無いわね。
それよりも、早く出発の準備を済ませちゃいましょう」
「あぁ、そうだな」
とは言っても、この部屋でやる事と言えば、フィリアが制服に着替えるのを待つだけだが。
それから数分ほど待っていると、フィリアが着替えを済ませて俺に声を掛けた。
因みに今はいつもの如く、フィリアの着替えが目に入らない様に考慮して背中を向けている状態だ。
「お待たせ。じゃあ朝食にしましょう!」
「あぁ、そうだな」
毎朝の朝食は、騎士団の食堂で済ませている。
と言うか、朝食の食堂利用代は給料から引かれているので、朝は食堂で食べないと損になるのだ。
まぁ、朝食代ぐらい損しても痛くはないのだが、毎日の朝食を自炊する気も、他の店で食べに行く気もないから結局は食堂で済ませるのが一番楽ということになる。
そんな訳で、俺達はいつも通りに食堂へと向かうのであった。
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そしてフィリアと共に食堂まで移動した。
現在は俺とフィリア、そしてハイネが机を囲んで席に座り、既に注文して完成された料理を頂いていた。
「二人は今日も魔法学校ね。頑張ってらっしゃい! ……って言っても、クロト君がこれ以上成長するのは正直恐ろしいわね」
ハイネが料理を口に運びながら、苦笑いで言った。
「いえ、最終的には魔王と対峙しなければならないのですから、まだまだ満足してはいられません」
俺もハイネ同様、料理に箸をつけながら質問に返答する。
魔法を扱えるようになった程度で勝利を確信できる程、現魔王は甘くないだろう。
「今のアンタでも力不足とか……ホントに魔王って存在は恐ろしいわね」
フィリアがため息混じりに呟く。
今は人間とはいえ、目の前にいる俺も元魔王なのだが。
まぁ、それは言わぬが花であろう。
「まぁ、俺が魔法学校で習うべきことはまだまだ沢山あるという事だな」
そう話を纏めて、俺は再び料理に箸をつける。
食事の場で気の沈むような話を長々と続けるべきではないと考えたからだ。
その後はいつも通り雑談を交わしつつ、目の前の料理を胃に収めるのであった。
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食事を終えた俺達は王城を離れ、昨日と同じ通学路を通って魔法学校学校に到着した。
「あっ、クロト君、フィリアちゃん! おはよ!」
俺達が教室に入るや否や、早速アイラが元気の良い挨拶で迎えてくれた。
まだ早い時間なので、俺とフィリア以外にはアイラと数名の生徒しか集まっていない。
恐らくは家が近いのか、俺達同様に早めの登校を心掛けている者なのだろう。
「あぁ、おはよう」
「おはよう。貴方も来るのが早いのね」
俺とフィリアの返事はほぼ同時だった。
いつもハイネとの挨拶をしているので、自然と息が合うようになったのだ。
「今日から本格的に授業が始まるね! まぁ、私は座学は好きじゃないけど……」
自身の机に向かって歩く俺達に、アイラが苦笑いで言った。
魔法は実際に扱ってこそ役に立つ存在なので、生徒からすれば座学よりも実践の方が楽しいという考えの者は多いのだろう。
だが、魔法は知識が無ければ上達しない。
転生前の俺だって、生まれ持った才能――膨大な魔力のみで魔法を習得した訳ではなく、先ずは魔導書を読み漁る事から始めたのだから。
「幾ら才能があるからと言っても、勉強を疎かにしては宝の持ち腐れだぞ。
まぁ、アイラが座学も優秀な事は判っているが……」
座席に腰掛けながら、俺は軽くアイラに注意する。
「ふっふーん、当然!」
いや、褒めてるのではなく注意しているんだが……まぁいいか。
現状、俺を除いてはアイラが勉強も実践も一番優秀だからな。
面倒だの何だの言いつつも、陰での努力を欠かせていないのだろう。
そんな会話を交わしていると、教室の扉を開く音が聞こえると同時、一人の女子生徒が入室した。
その女子生徒の正体は――ミキだった。
そういえば彼女も、割と時間に余裕を持って登校するタイプだったな。
こちらの存在に気づいた彼女は、自身の机へと向かって歩きながら、笑顔を浮かべて挨拶する。
「おはよう! 皆早いね……。
あとクロトさん、昨日はありがとうございました!」
「おはよう。別に、礼には及ばないさ」
俺も笑顔を浮かべて彼女に挨拶する。
未だ感謝の気持ちが残ってるなんて、少女ながら律儀な性格だな。
将来は立派な淑女になっている事だろう。
それから暫く四人で雑談を交わしている間に、次々と生徒達が教室に集まっていき、やがてユウナとルアナの二人も教室にやって来た。
「四人とも、おっはよー!」
「……おはよ」
相変わらずユウナは元気に、ルアナは眠たそうな様子で半眼を開けながら挨拶する。
この二人はよく一緒に行動しているが、登下校も一緒なのだろうか。
そんな事を考えながら、俺達は二人に挨拶を返す。
それから六人で雑談を交わしつつ、朝のHRの開始をマーリンの入室と共に向かえたのであった。
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それから朝のHRを終えて訪れた、一時限目の授業。
俺とフィリアにとって初の座学となる授業の内容は、『魔法理論基礎・応用』の科目であった。
昨日行われた臨時テストとほぼ同じ様な内容だったので、この授業に着いてこれない生徒達はいない様子だ。
「――次は、この詠唱によって発動される魔法名を答えてもらいます!
では、この解答はアイラちゃんにお願いするのです!」
と、壇上で教鞭を執るマーリンが黒板に書いた文章を指差し、アイラを指名する。
「はい! 先生の得意な"念力"です!」
指名されたアイラは得意顔で危なげなく、余裕綽々とした態度で答える。
「正解なのです。しっかりと予習を行っているようですね!」
昨日、マーリンは"念力"を使用していた為、この魔法を知らない生徒はいないだろうが……無詠唱で扱っていたので、詠唱を予習していない者であれば答えられなかったであろう。
昨日行ったテストの全員の成績から分析して、程よい難易度の授業内容を考えてきたのだろう。
実際、生徒全員がこの授業に真摯な態度で臨んでいる事が何よりの証拠だ。
この授業の質からでも、マーリンが齢十三にして特別学習クラスの担任を請け負っている事に納得できる。
恐らくは、他の生徒達も薄々は気づいているだろう。
彼女――マーリン=アストラルは間違いなく天才である、と。
その後も淡々と授業は続き、午前中の授業はあっという間に過ぎ去ってゆく――
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午前中の日程――四時限目の授業を終えて、昼食の時間が訪れる。
ハイネから聞いた話、この魔法学校には食堂が設けられており、全校生徒は基本的にそれを利用して昼食を摂るとの事だった。
必ずしも食堂を利用しなければならないという規則は無く、少数派だが自分で昼食を用意する生徒も居るらしい。
当然、俺とフィリアは食堂を利用するつもりだ。
正直言って、昼食を毎日用意するのも面倒だからな。
四時限目の授業が終わると同時に、周りの生徒達は一斉に教室の外へと向かった。
彼らの目指す先は、言わずもがな食堂であろう。
「ようやくお昼ご飯だね! 二人は食堂で食べるのかな?」
と、アイラは俺とフィリアに向かって声を掛けた。
彼女の周りには、ミキとユウナ、そしてルアナがいる。
「あぁ。そのつもりだ」
「じゃあ、私達と一緒に食べよ! 人数は多い方がいいからね!」
俺の返答を聞いて、アイラは食事への誘いを提案した。
断る理由も無いので、賛同する事にする。
「そうだな。付き合わせてもらうよ」
「えぇ。じゃあ早速向かいましょうか」
フィリアも異論ない様だった。
折角だから、彼女達には食堂のオススメの料理でも教えて貰おう。
「くっそ……モテモテだな、あいつ……」
「俺もあの理想郷に混ざりてぇ……!」
「いやいや……お前じゃ無理だろ」
まだ教室内に残っている数名の男子生徒から、何故か殺気の眼差しを感じると共に怨嗟の声が聞こえる。
よく解らないが、さっさと教室から退散した方が良さそうだ。
フィリアの言葉に便乗して、食堂へと向かうとしよう。
そして面倒事の予感を察知した俺は、フィリア達に食堂への移動を促し、逃げる様にして彼女達と共に教室を後にするのであった。
しかし、この時の俺は知る由もなかった。
教室から逃げた先――食堂こそが、最大の面倒事を引き起こす要因の場になるという事を。
今回はあまり進展はありませんでしたね……。
クロト視点でのストーリーを数話ほど進めたら、ディザスター視点の話も書いていきたいと考えています。




