35話:披露
今回はかなり短めです。
いつもより投稿時間が遅れてしまい、申し訳ありません。
~人間界~
やれやれ……と、俺は心の中でため息をついた。
現在、五人の女子生徒は俺に期待の眼差しを向けて、これから俺が使う魔法に興味津々な様子だ。
アイラから要求された、『派手で強力』という条件と、ルアナが呟いた『闇属性の本気を見たい』という条件。
俺はこの二つの条件を満たす魔法を選択しなければならないのである。
まぁ、魔法練習所は魔法耐性素材が使われている為、ある程度全力で魔法を放っても全壊や全焼という事故は起こらないだろう。
そう考えながら、俺は転生前に扱った数千種類の魔法の中から一つ、恐らくこの条件に合うであろう魔法を選択する。
「……よし、始めるぞ」
俺は一言、女子生徒達に向けて宣言してから詠唱を始める。
「《深淵よりも深き闇よ――灼熱の炎と同化し、森羅万象を灰燼に帰せ》!」
「え……詠唱!?」
俺が詠唱を唱えた事に対して、フィリアが声に出して驚愕する。
何しろ今まで無詠唱で魔法を使ってきたのだから、俺が初めて詠唱を唱える事に違和感を感じているのだろう。
そして気づいている筈だ。
今まで無詠唱で上級魔法を扱ってきた俺が、わざわざ詠唱をする意味を。
そう、俺が今から使う魔法は上級魔法とは比にならない、超高等魔法――『異属性混合魔法』なのである。
魔法名は、闇によって黒く染められた太陽の炎の意――"暗黒火輪"と名付けている。
そして魔法は俺の詠唱を反映させ、俺の前方に人間の身長と同程度の直径をした、黒色の八芳星魔法陣が展開される。
「《我が意のままに焼き尽くせ》!」
更に推進力を得るための詠唱を行うと、魔法陣の面積上全体から漆黒の炎が激しく噴出し、轟々と音を立て揺らめきながら、魔法陣練習場の壁に向かって一直線に突き進んだ。
「熱っ……!?」
その余りの熱気に、炎の噴出する方向とは正反対の位置に居るフィリアでも、両手で面前を覆って身を守っている。
勿論、他の四人も同様に――炎属性に耐性のある筈のアイラですら、俺の魔法を見ながらも熱気から身を守る事に徹していた。
やがて魔法陣に込めた魔力が尽きて噴出していた炎が鎮火すると、魔法練習所の壁には拳大の小さな穴が空き、その周りの壁や炎が上を通過した床は焦げて真っ黒に染め上がっていた。
その様を見て、俺が心の中で思った第一感想は――『しまった』の一言である。
「や……やり過ぎよ!?」
「ちょっとこれは、限度ってものが……」
「……予想外……過ぎて……びっくり……」
「うわぁ……派手にやったねぇ」
「あはは……流石はクロトさん……」
五人の女子生徒は皆一斉に、賞賛の声と同時に非難の声を俺に送っている。
フィリアは驚愕した顔、ルアナは相変わらずの無表情で、他の三人は苦笑いを浮かべており、歓喜よりも唖然としている様子である事が窺えた。
「いや、これ程の被害を起こすつもりは無かったんだが……まさかこれ程に脆い造りだったとは」
「アンタの規模が異常なのよ!」
俺が後ろ髪を掻きながら反省の言葉を口にすると、間髪入れずにフィリアが俺を指さしながら突っ込みを入れた。
「……はぁ、なんて言うか……もう驚くのも馬鹿らしいわ。それで、この状態から完全に修繕出来るの?」
フィリアが腕を組み、ため息をつきながら問い掛けた。
「あぁ、それは簡単な事だ」
勿論、使う魔法はマーリンの"修復"なのだが、この魔法は無機物の修復に対しては非常に適用範囲が広く、応用も効く。
それなりの広範囲に渡って焦げ跡がついている今の魔法練習所の状態を治すには、この魔法の効果範囲を拡大すれば良いだけだ。
そんな考えの元、俺は詠唱を開始する。
「《灼熱に焦がれし灰燼よ――その姿をあるべき姿へと再生せよ》!」
そして展開される、白色の光を放つ五芒星魔法陣。
なぜ魔法陣の中でも一番小規模な五芒星なのかと言うと、今から使う魔法は上級魔法の規模を少々広げるだけのものだからだ。
「《崩壊を忘却し、還るべき姿へと還るがいい》!」
更なる詠唱により、"修復"の拡大版――"広範囲修復"が起動する。
魔法陣の面積の一直線上にある無機物全ては、一瞬にして修復されていき、やがて焦げ跡など無かったかの様に精巧に磨き上げられた元の魔法練習所の姿を取り戻した。
「よし、こんなものだろう。……ん? どうした?」
背後を振り返ると、そこには口を開けて呆然としている五人の姿が目に映った。
「ホントに……悉く、私たちの予想を超えてくるわね」
嘆息しつつ、フィリアは呆れた様子で言い放つ。
俺としては、まだ全力を見せたつもりでは無いのだが……。
「……やっぱり……クロト君……凄い」
「ルアナちゃん、こういうのは『凄い』じゃなくて『異常だ』って言うのよ……」
ルアナの感想に、呆れ顔でフィリアが突っ込みを入れる。
まだこの領域なら人間にも到達可能なのだが……。
「ホントに異常だね……炎属性でも無いのにあの熱量って……」
アイラが苦笑いで呟いた。
「別に炎属性の魔法だけであの熱量を出した訳ではないんだがな……」
先程の温度の熱量が大きいのは、エネルギーを多く含めた暗黒物質を炎の燃料として使っていたからだ。
ついでに言えば、炎の色が黒かったのも同様の理由だ。
「まぁとにかく、後は時間になるまで改善策の通りに練習を行うようにしてくれ」
「そうだね! よーし、頑張ろう!」
俺の指示を聞いて、ユウナが満面の笑みで賛同する。
他の四人も、声には出さずに頷いて同意を示した。
さて、これで事故が起こらなければ良いのだが……まぁ、ある程度の損傷は"修復"で直せるから問題無いだろう。
無属性の魔法だから多少の魔力消費はあるとは言えども、まだ魔力の残量には余裕がある。
......................................................
それから数時間が経過し、マーリンが言っていた閉門の時刻が訪れようとしていた。
魔法の練習は滞りなく進行し、現在は練習前に比べて五人の魔法の完成度がある程度高まっている。
途中でフィリアやアイラが何度か魔法練習所に破損や焼損を来たしてはいたが、その度に俺が"修復"で修復したので問題にはならなかった。
全員の調子が良い具合に仕上がった所で、俺は練習終了の声を掛ける。
「……さて、そろそろ時間だから切り上げるとしよう」
「あら? いつの間にか、こんなに時間が経っていたのね……」
フィリアが壁に掛けられた時計を見て呟いた。
「いやー、クロト君のお陰でかなり魔法に慣れてきたよ! ありがとね!」
満面の笑みを浮かべて、アイラが親指を立てながら礼を言った。
「俺はあくまで助言をしただけさ。上達したのは皆の頑張りだよ」
俺は表情を変えずに返答する。
「でも……クロト君の……助言……無かったら……私達……下手なまま……だった」
無表情のまま、ルアナは俺の言葉を良い方向で否定する。
「やっぱり、流石はクロトさんですね! 私も初級魔法程度ならまともに扱える様になりました!」
ミキは大変嬉しそうな様子で、二人の言葉を肯定する。
「まぁ、とにかく俺の助言が役に立った様で良かったよ。じゃあ今日はこの魔法練習所を閉鎖して解散だな」
「えぇ、そうね。これで明日から皆と差をつけられそうだわ」
フィリアは頷きながら俺の言葉に賛同する。
そして魔法の練習を終えた俺達は、六人全員で職員室へと訪れ、マーリンに報告を済ませた後に校門前で解散した。
当然、俺とフィリアは同じ帰路を辿って王城へと向かって歩いたのであった。
......................................................
王城へと帰り着いた俺とフィリアは、部屋に備え付けられた椅子に腰掛ける。
この後、ハイネが部屋に訪れた時に今日の報告を行う仕事があるのだ。
「期待した通り、魔法学校は楽しいわね。これほど早くから魔法に関わる事ができるなんて思わなかったわ」
フィリアは上機嫌そうに笑みを浮かべながら、今日一日の感想を述べる。
「そうだな。最初から暫くは座学のみを行うのかと思ったが……」
フィリアの感想に、俺は頷きつつ賛同する。
特別学習クラスとは言え、結局は魔法初心者の集いだ。
魔法の扱いに必要な知識を座学で充分に学んでから魔法を習い始めるものだと考えていたが……習うより慣れよ、という考えなのだろうか。
しかし、予想以上に魔法の習得が早かったというのは僥倖と言える。
何しろ、魔王との戦いにおいては魔法の習得は必要不可欠なのだから。
まだ転生前と同等の規模で魔法を放つには程遠いが、奴との決戦までの残りの猶予までに実現させれば良い事だ。
そんな訳で俺も、フィリアとは違った意味で今日の魔法学校での内容に満足していたのである。
少しの間、俺達二人が今日の出来事を思い返していると、不意に玄関扉のノック音が聞こえた。
恐らく、扉の向こうに立っている人物はハイネだろう。
「はい、今開けます」
俺はノック音に対して簡略的に返答し、扉を開ける。
案の定、扉の向こうにはハイネの姿が見えた。
「二人ともお帰りなさい。魔法学校は楽しかったかしら?」
ハイネは笑顔を浮かべながら、今日の魔法学校での感想を問い掛けた。
「はい。非常に有意義でした」
俺は表情を変えず、ハイネの言葉に頷いて肯定する。
「とても楽しかったです! まさか初日から本物の魔法について触れる事ができるなんて思いませんでした!」
フィリアは満面の笑みを浮かべ、意気揚々とハイネの質問に答える。
「それは良かったわ。上層部の方々も貴方達の成長に期待して――って、まさかもう魔法実践に移ったの!?」
笑顔を浮かべて頷くハイネであったが、初日で魔法実践の内容に移ったと気づくや否や、突然に驚愕した表情へと変わった。
「えぇ。もうある程度の魔法は扱える様になりました」
「私も雷属性の中級魔法ならなんとか……」
俺とフィリアは同時に頷きながら返答する。
「ちょっ……二人ともスペック高すぎないかしら? 特にクロト君、ある程度の魔法はって……具体的にはどれぐらい?」
「……黒い炎で魔法練習所の壁や床を焦がして、更にその焦げ跡を一瞬にして魔法で修繕してました」
驚愕したままの表情で質問するハイネに、フィリアは気まずい表情で答えた。
「登校初日にして、大先輩の私が先を越された……」
余りの衝撃に、ハイネは両手と両膝を地面につき、酷く落胆した様子を見せた。
「……まぁ、でも上層部の方々は満足するでしょうね。二人ともお疲れ様。また明日に備えてゆっくり休息をとって頂戴」
数秒の沈黙の後、ハイネはスクッと立ち直って俺達に労いの言葉を掛けた。
「「はい!」」
俺とフィリアは元気よく返答し、ハイネはその返答を聞いて満足そうに頷くと、ゆっくりと扉を閉めた。
「……さて、じゃあハイネさんの言う通り、明日に備えて早めに睡眠を取るようにしましょう」
「あぁ、そうだな」
明日からは早速、本格的な授業に移る事になる。
体調不良程度で俺が授業で遅れをとる事は無いと思うが、やはり体調は万全に整えておくべきだ。
そうして今日という充実した一日は過ぎてゆき、明日という平穏な日が訪れようとしていた。
俺の最終目標――現魔王の討伐を果たす為の実力は、着々と身に付きつつある。
この平穏な日々を守る為にも、まずは魔法の熟練度を伸ばしていかなければならない――と、俺は心の中で魔法学校での目標を密かに定めたのであった。
今回でクロト視点のストーリーは一旦終わり、次回はリミア視点でのストーリーを書こうと思います。
二人の再開についてはもう少し話を進めたら果たそうと考えているので、次の話ではそれについて多少触れる可能性があります。




