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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
4章:魔法学校編
39/64

34話:改善

先週は投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

次回からは再び一週間投稿を継続していこうと考えています。

  〜人間界〜


 全員の魔法実践が終了した。


 最後の最後で戦慄すべき天成の才能を魅せたミキは、自身の机に戻ってからも暫くは放心状態であった。


「いやぁ、びっくりしたわ。あれ程の魔力がミキに宿っているだなんて」


「あはは……私が一番びっくりだよ」


 驚愕を通り越した呆れ顔で発せられたアイラの言葉に、ミキが謙遜して返答する。


「それでもクロトさんには追い付けないんだから、私も余裕ではいられないなぁ」


 ミキは俺を一瞥して言った。


「私達とこいつのレベルを同一視するのは間違いよ……」


 俺を人差し指で指さしながら、呆れ顔でフィリアが呟く。


 それにしても、三人称が『こいつ』という辺り、だんだんと俺に対するフィリアの態度が適当になっている気がするな。

 俺を嫌って『こいつ』呼ばわりしている訳では無さそうだが。

 俺との付き合いに慣れてきた故の扱いだ……と考えるべきだろうか。


「さて、今回の魔法実践では、現時点での大皆さんの才能が大体判ったのですよ。

 特に女子生徒の方は、ミキちゃんを始めとして数人の生徒さんから素晴らしい才能が窺えたのです。

 ……という訳で、次からの魔法実践では早速、皆さんの実力を伸ばす内容に移っていこうと思うのです!」


 マーリンは"座標移動"にて水晶を異空間に転移させてから、生徒達にこれからの予定を伝えた。


「おお……! もう本格的な授業に移るのかぁ……楽しみだね!」


 アイラはこちらに振り向きながら、わくわくと興奮した様子で期待を口にする。


「えぇ。でも私達は先ず、魔法のコントロールから完璧に仕上げなければいけないわね」


 フィリアが頷きながら返答した。

 確かに、先程の実践では魔法のコントロールが効かない者が多かった。


 特にミキの場合、大き過ぎる魔力の制御がまるで出来ていなかった。

 まあ、只でさえ視認不可能な風魔法の制御難易度はかなり高いのだから仕方の無い事ではあるのだが……。


 逆にルアナの場合、大した魔力量では無いが、制御は完璧に出来ていた。

 直接触れる訳でもない"黒球(ブラックボール)"を正確無比の如く一直線の起動で俺に飛ばしたのだから。

 彼女は魔法を自由自在に操る『技量』と、魔法を創り出すための『魔力量』が均衡しているのだ。

 それもまた、ミキとは違った才能と言えるだろう。


 魔力量は生まれつき決まっている訳では無いし、魔法の制御は練習次第でどうにでもなる。

 ミキとルアナの伸び代に、意外と大きな差は無い様だ。


「でも私は、魔法についてはどの先生よりもクロトさんに教わりたいです!」


 二人の会話を聞いて、ミキがそう言いつつこちらに振り向く。


「ん? 何でわざわざ彼に頼むのさ?」


 ミキの言葉に疑問を感じたアイラが質問する。


「クロトさんは教え方が上手で、凄くわかりやすいんです! 実際、このクラスで一番魔法を完璧に扱えていたのもクロトさんですから!」


 完璧? いや、誤って水晶を壊したのは未だに悔恨が残っているのだが……。

 しかし、この生徒達の中では俺が一番難易度の高い魔法を制御出来ていたのは確かだ。


「確かに……じゃあ、私もお願いしちゃおうかな?」


 ミキの言葉に納得し、アイラがこちらを向いて若干申し訳なさそうな表情を浮かべて懇願する。


「いいや、クロトは先ず私に教える事を優先するべきよ!」


 フィリアが不服そうな表情で言いながら、顔を近づける。


「それは構わないが……一人ならともかく、この人数は骨が折れそうだな……」


 何しろ、一人ひとり属性が異なるという問題点が大きい。

 三人とも同じ属性であれば、一度に纏めて教える事が出来るのだが。


「むむ? クロト君の周りの女子生徒達、何やら怪しげな会話を行っている様なのですよ? もしかして、デートの約束なのですか?」


 俺達の会話を聞いて、マーリンはニヤニヤと笑みを浮かべて教壇の上から話しかける。


「えっ……デート!?」

「なになに? 恋バナ?」


 それに続いて、数名の生徒達はこちらに振り向き、まるで面白いものを見るかの様に興味津々な表情で俺達の反応を窺っている。


「「「違います!」」」


 事態が大事になる前に、三人は咄嗟に声を揃えて否定する。


「ふふ、冗談なのですよ。では休憩を少し挟んだ後にHR(ホームルーム)を行うのです!」


 マーリンはそう言い残し、今度は時間に余裕があるのか、慌ただしい様子も無く教室を出ていった。


 新学期早々という事もあり、今日の日程(スケジュール)に本格的な授業や座学は含まれていない。

 そもそも今日は、本格的な授業に移る為の事前準備として生徒達の実力を計る事が目的なのだ。

 そんな訳で、今日の日程が組まれているのは午前中のみであり、次にマーリンが教室に戻ってきた際に行われるHR(ホームルーム)が終われば解散となる。


「今日は午後から暇だねー。クロト君とフィリアちゃんは予定空いてるの?」


 アイラが頭の後ろで手を組みながら、こちらに問い掛けた。


 一応、今日の午後には訓練の予定は無い。

 と言うよりも、学校がある日は基本的に訓練は無い。

 魔法を習得する上で勉強の時間を確保するのと、そもそも俺達が学校に通う日は、ハイネの仕事が目白押しだからだ。

 俺達が勉学に勤しむ間に雑務を片付けて訓練の時に集中出来る様にする為に、敢えてその様な予定を立てているのである。


「まぁ、今日の予定は空いてるわね」


 俺が答える前に、フィリアが頷きながら返答する。


「じゃあ決まり! クロト君よろしくね!」


 満面の笑みを浮かべつつ、元気よくアイラが話を纏める。


「あぁ、俺の方こそ宜しく――」


 と、俺がアイラに返答しようとした時。


「ちょーっと待った! 私達も入れてくれないかな!?」


「……私にも……魔法……教えて欲しい」


 俺達の会話を聞いて、ユウナとルアナが入り込んできた。


「良いよー! 多い方が楽しいからね!」


 その二人に対して、間髪入れずにアイラが親指を立てて返答する。


「……ちょっと待ってくれ。これじゃ人数が多すぎないか?」


 軽々しく人数の追加を受諾するアイラに、俺が歯止めを掛ける。


 流石の俺でも、六人同時に魔法を教えるのは困難だ。

 属性の相性で考えても、同じ闇属性のルアナに教えるのは簡単そうだが、光属性であるユウナに教えるのは難しい。

 それと……魔力の操作(コントロール)に全く慣れていない様子のミキ一人にも、相応の練習時間が必要となる。


「まぁ、アンタなら大丈夫でしょ」


 腕を組みながら、真顔でフィリアが返答する。

 ……信頼してくれるのは嬉しいのだが、過度の期待は困るな。


「そうですね。私もクロトさんなら出来ると思います!」


 フィリアの言葉にミキも賛同して頷く。

 何だか、始まる前から既に成功する事を知っているかの様な期待だな。


 ……まぁいい。この際、四人でも六人でも関係あるまい。

 難易度は高いが、彼女達が完璧に魔力を操作(コントロール)出来る様にしてみせよう。


「……まぁ、できる限りは最善を尽くして教えさせて貰おう。

 それで、何処に集合するんだ?」


 この話の当事者であるアイラを見て問い掛けた。


「えっとね、この学校には魔法専用の室内練習場があるから、そこが一番最適かな」


 なるほど。やはり魔法専門学校だけに、生徒の魔法を扱う才能を伸ばす為の設備は整っている訳か。


「……でも……先生の……許可が……必要」


  アイラとユウナの間から、ルアナが補足を付け加える。


 当然ながら全校生徒の設備である為に、個人の勝手で無断使用するのはご法度と言う事だろう。


「その先生っていうのは、担任の教師も該当するのか?」


「……うん」


 俺の質問に、ルアナが頷きながら端的に答える。


「じゃあ決まりね。HR(ホームルーム)の後で先生に申し出ましょう」


「あー! 私がそれ言いたかったのに!」


 最終的にフィリアが話を締め括った事に対して、アイラは悔しそうに突っ込みを入れる。


「まぁともかく、室内練習所でやるんだよね? 後で皆で先生に聞きにいこう!」


「あぁ、そうだな」


 アイラを宥めつつ提案されたユウナの案に、俺は頷いて賛同する。


「じゃあ……また後でね……」


 ルアナが手を振りながら自席に戻る。

 時計を見ると、もうすぐ放課終了となる時刻を指していた。


「ありゃ、もうこんな時間かぁ。私も席に戻らなきゃ」


 ルアナに続き、ユウナも席に戻る。

 因みに、ルアナの斜め後ろの席がユウナのものだ。


 そして二人が席に着いてからすぐにチャイムが鳴り、マーリンが教室に戻ってきた。


「えー、ではHR(ホームルーム)を始めるのです! まずは連絡事項から……」



  ......................................................



 それから数分後。

 流石に魔法実技の様に波瀾万丈な事件は起こらず、HR(ホームルーム)は円滑に進んだ。


 そしてHR(ホームルーム)が終了して生徒全員が解散した後、俺達六人は本棟一階の職員室にてマーリンと話を行っていた。


 最初にこの職員室に訪れた時は、ボサボサの長髪に無常髭を生やした顔が特徴の中年男性の見た目をした人物から、おっとりした様子のショートヘアの若い女性、更には長い白髪と白髭が特徴の老翁……と、千差万別の教師が集まる異様な空間を前に、俺達六人は一瞬だけ入室を躊躇ったのであった。


「……なるほど、君たち六人で魔法の自主練習なのですか。先程の魔法実践で魔法への興味関心を持ってくれた様で 、先生は感心するのですよ!」


「勿論です! 元々魔法に憧れて入学しましたから! それに、マーリン先生の魔法も凄かったです!」


 満足そうに頷くマーリンに、アイラは調子のいい事を言い出した。

 まぁ、魔法への関心が強まった事は嘘では無いのだろうが……。


「べ、別に大した魔法では無いのですよ?

 先程使った魔法には、座標計算と空間操作と範囲的な時間軸操作を使っただけなのです」


 マーリンは照れた様に紅潮しつつ、目線を逸らして返答する。


「……え? あー、でも何だか凄そうな魔法ですね……あはは……」


 返答された本人であるアイラは、マーリンの話がよく解っていない様だ。

 まぁ、マーリンが使っているのは上級魔法ばかりだから解らなくて当然だろう。


「あっ、話が逸れちゃいましたね!

 えーっと、魔法練習所の使用予定は……空いているみたいですよ!」


 マーリンは机の棚から一枚の紙を取り出して少し眺めた後、明るい笑顔を浮かべて告げた。


「……つまり?」


 どう返答されるのかは判っているが、念のため俺は結論まで問い掛ける。


「他に魔法練習所を使う予定のクラス等は無いみたいです。六人に使って貰って結構なのですよ!」


 マーリンはそう言いつつ、笑顔を浮かべて親指を立てる。


「やったあ! じゃあ早速向かおう!」


「練習……できる……良かった……」


 嬉しそうに明るく元気にはしゃぐユウナに続いて、ルアナも小さく笑顔を見せながら呟いた。


「魔法練習所……気になるわね」


 俺の隣で、薄く笑みを浮かべつつフィリアが呟いた。

 割と魔法学校の事については興味津々だな。


「君たちが一人前の魔法使いになれるのを、先生は応援しているのです。魔法の練習、頑張って下さいね!」


「あ、ありがとうございます!」


 職員室を退室しようとする俺達の後ろからマーリンは明るく声を掛け、ミキは慌てて頭を下げながら礼を言った。


 そうして俺達六人は魔法の練習を行うべく、魔法練習所へと向かうのであった。



  ......................................................



「着いたわ。ここが魔法練習所よ!」


 校内を数分ほど歩き、校舎とは別離されて個別に建てられたドーム型の大きな建造物の前に辿り着くと、アイラはその建物を指を指して嬉しそうに告げた。


 と言うか……これはもしや、普通の学校では『体育館』と呼ばれている施設では無いだろうか?


「えーっと……この建物って、いわゆる『体育館』じゃないかしら?」


 フィリアが苦笑いを浮かべてアイラに問い掛ける。


「まぁ、見た目も中の構造も似てるけどね! でも普通の『体育館』と違って、この建物には『魔法耐性』が施されているんだ! 他にも色々な魔道具なんかが――」


「それは見れば解る話! さあ、入るよ!」


 アイラの説明を遮りながら、ユウナは鉄製の両開扉を開く。


「その役目も私がやりたかったのに〜……」


 皆を統率するつもりだったのか、アイラは口を尖らせながら文句を垂れる。


 しかしユウナを筆頭に次々と他の者が魔法練習所に入っていく様子を見て、アイラは口を噤んで渋々と後続するのであった。




 建物の中に入ると、そこには柱の一つも無い広々とした開放的な空間が広がっていた。


 扉を開けると同時に点灯した天井の照明が建物内を瞬時に明るく照らし、その渺渺たる全貌を顕にしたのである。


「これは……予想以上の広さね」


 フィリアは内装を見るや否や、余りにも壮大過ぎるその光景を前に、目を見開いて驚愕した表情を浮かべ、感想を述べた。


 かく言う俺も、予想以上の規模には一瞬にも驚愕を感じていたのだが。


「まぁ……私達も最初は同じ反応だったよ。ホントに広すぎるよねー」


「……私は……そんなに……驚かなかった」


 苦笑いで同感するアイラの『私達』という台詞をルアナが否定する。

 驚かなかった……と言うか、彼女は変に落ち着いた性格なので、元々あまり感情を表に出す印象は無いのだが。


「でも、これだけ広いって事は思い切り魔法を暴発させても問題無いって事よね?」


「そうだね。 何より、ほぼ全ての素材があらゆる魔法に耐える造りになっているからね!」


 フィリアの質問に、ユウナが笑顔で返答する。


「じゃあ、思いっきり強力な魔法が放てるように練習しましょう! 出来るだけ派手な魔法を……!」


「いや待て。だから強力な魔法ばかりでは――」


「解ってるわよ。その為に細かい魔力の操作(コントロール)はアンタに教えて貰うんじゃない」


 注意を促す俺の言葉を遮り、フィリアはさも冷静に返すが……魔法の習得に性格が出て、基本的な魔法を疎かにしないか不安である。


「私なんて一番魔法の操作(コントロール)が出来ていませんからね。

 ……という訳で、クロトさんは私を優先して教えてくれますよね?」


 ミキが俺の腕を引っ張り、紅潮した顔に笑みを浮かべつつ首を傾げ、懇願するように上目遣いで問い掛けた。


「ちょっ……何言ってんのよ。騎士団の期待を背負っている以上、私は早々に魔法を習得する義務があるわ!」


 フィリアが不服そうな表情で反論しつつ、さり気なくミキ同様に俺の腕を引っ張った。


「お、おい? 二人とも何を言い争って――」


「……私は……同じ闇属性……同族……だから……クロト君は……私を優先……するべき」


 何故かルアナも参戦し、既に二人に掴まれている腕ではなく、背後から抱きついてきた。


「あはは……クロト君モテモテだね」


「くっ、参加するタイミングを逃した……」


 アイラは練習前から既に前途多難な俺の状況に頬を掻きながら苦笑いで同情を示し、ユウナは何故か悔しそうに歯噛みして悔しそうな表情を浮かべている。


「じゃあ私も流れに乗じますか!」


 アイラは満面の笑みで言うと、正面から俺に抱きついてきた。

 変な空気の読み方はやめて欲しいものだ……。


「あっ! ずるい!」


 自分より先駆けしたアイラに続いて、ユウナも俺の斜め前から抱きつく。


「ちょっと……クロトは私を優先するのよ!?」

「いえ、クロトさんは私を……!」

「……一番は……私」

「いやいや、勿論私だよね?」

「私に決まってるじゃん!」


 五人はぐいぐいと俺の身体を引っ張りつつ、言い争いを続ける。

 ダメージ軽減があるとはいえ、普通なら(物理的に)骨が折れてるかもしれないぞ……。


「……とりあえず皆、しっかり全員平等に教えるから落ち着いてくれ」


「「「「「はい……」」」」」


 俺の一言で冷静さを取り戻したのか、五人全員がピタリと動きを止めた。



  ......................................................



 それから落ち着きを取り戻した五人を俺の正面に横一列に並ばせて、俺は練習前の説明を始める。


「……さて、一人ひとり順を追って改善していくぞ? まずは一番わかり易いミキからだ」


「は、はい……!」


「解っているとは思うが、ミキは魔法の操作(コントロール)を改善すべきだろう。

 とは言え、風属性の魔法は扱いが難しい。

 ……因みに、あの時はどんな魔法を想像(イメージ)したんだ?」


 あの時というのは、魔法実践の授業の時の事だ。

 魔法というのは使用者の想像(イメージ)によって発動する条件が変わり、熟練した魔導師にもなれば完全に想像(イメージ)通りの魔法を扱う事が出来るようになる。

 つまりあの授業には、魔法を扱う上で最も基本的で重要な要素が含まれていたのだ。


 俺の質問に対して、ミキは頭を捻って魔法実践の時の事を思い出そうとしている。


「身体の周りから風を放出する想像(イメージ)です。

 そして気づけばあの惨状に……」


 おっと、余計な事まで思い出させてしまった様だ。

 だが、大体の改善点は見えてきた。


「身体の周りからではなく、一部から……例えば(てのひら)から一方向に風を放出する想像(イメージ)ならどうだ?」


「おお! 無理に魔力を制御するのではなく、あらかじめ魔法を発動させる向きを決めるんですね!」


 興味津々に俺の話を聞いていたミキは、興奮した様子で納得を示した。


「ああ、その通りだ。実際に見本をみせるとしよう」


 俺はそう告げると、右手を自分の右方向に突き出し、魔法練習所の真っ白な壁に向かって(てのひら)から"黒球(ブラックボール)"を放った。


 詠唱時間短縮スキルのお陰で、初級魔法なら無詠唱どころか魔法名を呼ばずとも無言で発動可能なのだ。


 放たれた"黒球(ブラックボール)"は等速直線運動でゆっくりと空中を進み、壁に衝突した瞬間に小さい爆発を起こす。

 魔法耐性素材を用いているだけあって、"黒球(ブラックボール)"が当たった魔法練習所の壁は傷一つ見当たらなかった。


 まぁ、この程度で傷が生じる様であれば、俺も下手にこの魔法練習所で魔法を使えないからな……。

 只でさえ、魔力操作スキルで威力を最小限に抑えているのだ。


「あ……今の……私の魔法……」


 俺が使った魔法の正体にルアナはいち早く気づいて呟いた。

 まぁ、大きさも打ち出す速度もルアナが使った"黒球(ブラックボール)"とほぼ同程度にしたので当然といえば当然の事だろう。


「なるほど……私も真似してやってみます!」


 ミキは俺の説明に納得し、張り切った様子で実践しようと、俺が"黒球(ブラックボール)"を当てた壁に向かって手を突き出した。


 しかし――魔法練習所内には何も起こらず、ただ静寂のみが訪れる。


「……あれ? 風が起こらない……?」


 ミキは疑問の表情で(てのひら)を見つめて呟いた。


「当然だろう。あの時は水晶があったから無詠唱で魔法が使えたんだ。

 初心者の内は魔導書や授業で習う呪文(スペル)を詠唱しなければ使えないぞ?」


「え……でもアンタさっき無詠唱で使ってたじゃない」


 説明を行う俺に、フィリアが突っ込みを入れる。

 割と痛い所を突かれた気分だ……。


「……魔力の扱いに慣れたからな。それにルアナが使った魔法を真似していたから想像(イメージ)が簡単だったんだ」


「アンタ本当……とんでもない事をサラッと実現しちゃうわね……」


 俺の返答にフィリアは呆れた表情で言い放つ。

 とにかく一応は誤魔化せた様だ。


「じゃあ早速、呪文を唱えてみます……!」


 そう告げるとミキは深く静かに深呼吸し、詠唱の準備を始めた。


「《穏やかなる風よ――我が導きに従い吹き流せ》!」


 それは魔法語(ルーン)と呼ばれる特殊な言語から成る、風属性の初級魔法"息吹(インスパイア)"の呪文(スペル)であった。


 初心者が初めて扱う初級魔法。

 更に、(てのひら)からの放出という限定的な方向への発動。

 ミキの前方からは穏やかな風が吹き、魔法練習所の壁まで吹き流れる前に空気中にてその風は分散する――筈だった。


 ミキが発動させた"息吹(インスパイア)"は過度の魔力供給によって制御不能(カオス)状態に陥り、周囲の空気の全てを凄まじい勢いで(てのひら)の前方へと一点に収束させ、それによって魔法練習所内には凄まじいまでの暴風の奔流が発生する。


 その時だった。


「きゃっ――!」

「……わっ……」

「……えっ!?」

「うわ!?」


 千変万化の風向きは上昇気流へと変化し、その場全員のスカートを勢いよく捲りあげたのだ。

 そして――その下に隠されていた一枚の『布』が、目をそらす間も無く俺の視界に映りこんだである。


「――っ!」


 もう手遅れだが、俺は四人から目線を逸らしてミキへと視線を向ける。

 殆どの女子生徒が運動性と快適性を求めてスカートを着用しており、ミキも例外ではない。

 良心の呵責はあるが、背に腹は変えられない。

 何しろ、この暴風の発生源はミキという少女なのだから。


 俺は無詠唱で上級風魔法の"風読(エアロリード)"と"風操(エアロコントロール)"の併用によって吹き荒れる暴風を退けつつ、素早くミキへと駆け寄る。


「えっ……クロトさん!?」


 自身に迫る俺に気づき、ミキは驚愕した表情で俺の名を読んだ。


「悪い……!」


 ミキの手前まで距離を詰めた俺は一言で簡潔に謝り、ミキの頭に手を置く。

 魔力の制御を司る頭部に直接触れる事が最善であるからだ。

 そして、魔力操作スキルにてミキの魔力を精密操作し、風の奔流を止めさせる。


「ふう……何とか無事に収まったか。

 周りに物でも落ちていたら危なかっただろうな……」


 ひとまず風を止めた事に安堵した俺は、一息つきながら五人の方を向いた。


「「「「「……見た?」」」」」


 そこに居たのは、嫌疑と軽蔑の目で俺を見る五人の女子の姿である。


 非常に簡略的な聞き方だが、その質問に対して『何を?』なんて質問で返すように野暮な言動はできまい。

 俺も流石に五人の質問の意図は理解しているのだ。


「……すまない」


 しかし結局、見てしまったものは仕方ない。

 実際に見たという事実がある以上、下手に言い訳をするとボロが出る。

 俺は精一杯の謝罪の気持ちを込めて申し訳なさそうな表情を作り、頭を下げた。


「くっ……全くアンタは……!」


 フィリアは拳を握りしめ、怒りを抑えている様子だった。

 先ほど下着を見られた事も原因の一つだろうが、何しろ俺は前に脱衣所での前科もあるのだ。

 しかし先程の事件はどう考えても俺の意図した事では無く、怒りのままに叱咤する事も出来ないのだろう。


「まぁまぁフィリアちゃん、今回は事故だよ! ほら、クロト君も謝ってるんだしさ」


 アイラが笑顔で俺を寛容して、フィリアを宥めてくれている。

 先程の事件で非があったのは俺では無いが、彼女には感謝すべきだろう。


「私達……教えてもらう……立場……クロト君……疑うの……失礼……」


 何故か五人の中でルアナが一番達観した意見を述べている気がするな。

 年齢的には最年少だが、精神的にはそれ以上に成長しているのだろう。

 そもそも、魔力操作に長けたその集中力は、高い精神力の上に成り立っているのだから。


「うう……悪かったわよ。ごめんなさい……」


 ルアナの正当な意見に反論が出来なくなったのか、フィリアはしょんぼりと肩を落として俯きながらも素直に謝罪する。


「いえ……元々の原因は私です。すみませんでした……」


 ミキもまた、頭を下げて反省を示した。


 何度も言うが、俺は正しく自己反省ができる者を厳しく咎めたりはしない。

 必要以上に責める意味など無いのだから。


「俺の方こそ悪かった。ミキの実力を見誤って間違った判断をしてしまったからな」


 そう言って再び頭を下げて、俺の謝罪で事を収束させようと試みる。


「……結局……悪い人はいない……仕方ない事……だった」


 しかし、最終的に事を穏便に済ませたのはルアナであった。

 彼女は必要な時に適切な言葉を与えてくれる。

 これでも彼女はまだ十五歳であり、更なる精神的成長が見込めるのだ。

 将来は必ず素晴らしい魔導師になるに違いないだろう。


 そう考えると、果然やる気が出てきた。

 まるで将来的見込みのある生徒に教授する教師の気持ちになった様だ。

 実際に教師である訳では無いので、将来ルアナが高名になっても俺が高名になる訳では無いのだが。


「じゃあ話が纏まったところで、練習の話に戻そう! いつまでもこの空気は嫌だし」


 ユウナが合掌して注目を集めた(のち)に、練習の再開を促した。


「あぁ、その通りだな」


 この場の全員に、ユウナの意見に対する反対意見は無い。

 俺は真っ先に全員の共通認識を汲み取り、ユウナに同意を示した。


「それでクロトさん、私の魔力操作はどう改善すれば良いのでしょうか……?」


 ミキが少々不安げに改善策を訊ねる。


「……まぁ、詠唱有りの初級魔法であの威力だ。無詠唱で使える様になれば丁度いい威力になるんじゃないか?

 まずは魔法実践の授業の事を思い出して、体内の魔力を完璧に操作(コントロール)出来るようにする事から始めよう。

 初めは微風を操る事さえ出来れば上出来だ」


「……はい!」


 具体的な改善策を述べられて希望を感じたのか、ミキは明るい笑顔で答えた。


「……じゃあ……次は……私」


 ルアナが挙手しつつ立候補した。

 まぁ、彼女は教え易そうなので順番的には丁度いいだろう。


「解った。じゃあまずは魔法実践で使った魔法――"黒球(ブラックボール)"を更に大きく創ってみてくれ。

 当然、初級魔法とは言っても詠唱は必要だぞ?」


「……了解」


 ルアナは一言で返事をすると、ミキ同様に目を瞑り、深くゆっくりと息を吸い始める。


 そして集中力が増した所で目を開き、不慣れな魔法語(ルーン)で言葉を紡いでいく。


「《暗黒の力よ――我が手元へ収束せよ》!」


 ルアナが呪文を唱えた瞬間、魔法は彼女の想像(イメージ)を反映させ、(てのひら)の前方に現れた五芒星魔法陣(ペンタグラム・マジックサークル)からは暗黒物質(ダークマター)が発生し、一点へと収束させる。


 そして形成された"黒球(ブラックボール)"の変化は魔法実践の時よりも二倍の大きさとなった時点で固定され、ルアナの(てのひら)の手前で留まっている。


「さて、じゃあ向こうの壁に向かって、なるべく大きい速度で打ち出してくれ」


 俺はそう言いつつ、先ほど俺が"黒球(ブラックボール)"を打った壁を指さした。

 俺の指示にルアナは頷き、更なる詠唱を始める。


 先ほどの詠唱は"黒球(ブラックボール)"を形成させる為の過程であり、今度の詠唱は"黒球(ブラックボール)"に推進力を与える為の過程だ。


「《黒き力の結晶よ――我が意思に従い突き進め》!」


 詠唱を反映させた"黒球(ブラックボール)"は、魔法実践の時の三倍の速度で壁に飛来する。


 そして――何と驚くべき事に、俺が"黒球(ブラックボール)"を当てた部分へと正確に命中させたのである。


「これは予想以上だな……既に初級魔法は完璧にこなす実力がある様だ」


 俺は若干驚きつつも平常心を装い、ルアナに感想を述べた。


「……ルアナ……才能……有り?」


 ルアナは首を傾げて問い掛ける。

 魔力の大きさとは違った才能に、彼女自身も気づいたのだろう。


「あぁ、勿論だ。これはまだまだ成長の見込みがあるぞ」


 俺は笑顔でルアナを褒めると同時に、彼女の頭を優しく撫でた。


「……はぅ……うん……頑張る」


 ルアナは僅かに頬を紅く染め、嬉しそうに口元を緩ませた。


 正直言って、俺には彼女に教えられる事は特に無かった。

 というのも、彼女には欠点らしき欠点も無いのだ。

 癖のある天才よりも、スペックの高い凡人の方が意外と隙が無いのである。

 ……いや、別にミキを悪く言っているつもりは無いのだが。


「魔力は魔法を使っていく内にある程度は自然に増えていく。

 日頃から魔法の練習を続ければ、女性魔道士(ウィッチ)への道も遠くないよ」


「……うん……ありがと」


 ルアナは薄い笑みを浮かべたまま、小さく礼を言った。


「じゃあ次はアイラの番だな」


「おっと、どんなアドバイスをくれるのかな?」


 俺の指名を受けて、アイラはわくわくと笑顔を浮かべて問い掛ける。


「……悪い、特にアドバイスは無い」


 先ほどの魔法実践を見たところ、この中で一番優秀そうな人物がアイラだったからな。

 魔力量も年相応以上に内包しているし、魔力操作の実力も悪くない。

 どちらも極端に伸びた才能を持っているミキとルアナには数歩劣るけどな。


「……あれ? なんだか拍子抜けだなぁ」


 アイラは面食らった様に苦笑いを浮かべる。


「恐らく今の段階で中級魔法ぐらいなら使えるだろうから、少しずつ扱う魔法の難易度を上げて完璧に仕上げれば上級魔法も使えるようになる筈だ。

 試しに適当な中級魔法を使ってみてくれ。

 詠唱する呪文は分かるか?」


 俺の話はあくまで仮定であり、一応の証明をする為にアイラに中級魔法を発動させる様に促す。


「もちろん! 派手にいくよ!」


 アイラは張り切った様子で頷き、目を閉じて魔法の想像(イメージ)に集中する。

 そしてミキとルアナ同様に、魔法語(ルーン)にて詠唱を行う。


 派手にやる必要は無いのだが……まぁ、魔法耐性素材で造られた魔法練習所ならアイラの炎魔法で床や壁が焼損する事はあるまい。


「《燃え盛る紅蓮の炎よ――其の灼熱を以て、我が弊害を焼き払う業火を顕現せよ》!」


 アイラが唱えた呪文は、炎属性の中級魔法"業火球(フレアボール)"のものだった。


 魔法は詠唱の効果を現実へと反映させ、アイラの前方に彼女の身長と同程度の直径を誇る巨大な六芒星魔法陣(ヘキサグラム・マジックサークル)が顕現する。


「な、何あれ……」

「……大きい」


 深紅の輝きを放つ――巨大な魔法陣。

 そして魔法陣の前で発生し、一点に収束されて形成されてゆく、人間一人を簡単に包み込む程の火球。

 その迫力を前に、フィリアとルアナが目を見開き驚愕のままに呟いた。

 ミキとユウナは言葉も出ずに、口を開いたまま呆然とその様子を眺めている。


「《我が意のままに突き進め》!」


 更なる詠唱によって生み出される推進力。

 巨大な火球は風を切る速さで直進し、魔法練習所の壁へと勢いよく衝突し、炸裂する。


 火球の着弾した壁を中心として、高温の熱風が魔法練習所内に吹き荒れた。


「きゃ――!?」


 余りの熱気と強風にフィリアは吃驚の叫びをあげ、顔の前で両手を組む。

 更に俺を含めたアイラを除く全員が、フィリアと同じ体勢を取って爆裂の余波から身を守っている。



 それから熱風の奔流が数秒間続いた後、ようやく熱風が収まった。


「あはは……ごめん! 張り切り過ぎちゃった!」


 アイラは顔の前で両手を合わせつつ、舌をペロッと出して謝罪する。

 悪気があるのか無いのかよく判らん……。


「これも想像以上だな……全く、才能というのは恐ろしいよ」


「アンタが言うなっ! それで、次こそは私の番よね?」


 俺の感想にフィリアは間髪入れずに突っ込みを入れ、自分の順番を主張する。


「その事についてだが……フィリアとアイラは問題点が共通しているから、二人の説明は同時に行う」


「えぇ……個別指導が良かったのに……」


 フィリアはがっくりと肩を落とし、さも残念そうな表情を浮かべる。

 悪いな、効率的にはこれが最善なんだ……。


「それで、改善点っていうのは?」


 ユウナは早速、首を傾げて改善策を求めた。


「二人とも、魔法を『形成』する過程に問題は無いが……その後に『操作』する能力は低いな」


「うんうん、それは解るけど……」


 ユウナは俺の説明に相槌を打って同感しつつも、まだ結論を急いでいる様だ。


「解ってる。それをどう補えば良いのかだろう? 要は魔法を無理に操作するのではなく、操作しやすい様に工夫すれば良いんだ」


「……どういう事?」


 フィリアが首を傾げて問い掛ける。


「恐らく二人は魔法実践の時、威力を求めてただ強力な雷や光を放出する想像(イメージ)しかしていないだろう?」


「「うっ……」」


 俺の話を聞いて、目線をそらし嗚咽を漏らす二人。

 どうやら図星だった様だ。


「まだ全員が初心者だから、まずはルアナやアイラの様に魔力を一点に集中させて、それから指向性を付けて放つという手順を踏まえるべきだ。

 先ずは初級魔法から試してみてくれ」


「じゃあ、取り敢えずやってみるわ」

「よーし、頑張るぞ!」


 冷静に納得するフィリアに対して、ユウナは張り切った様子でやる気満々だ。


 二人は目を瞑り、各々の魔法の想像(イメージ)を始める。

 やがて魔法の想像(イメージ)を完成させた二人は双眼を開いて詠唱を行う。


「《天地を繋げし(いかずち)よ――我に紫電の力を与え賜え》!」

「《宵闇を照らす陽光よ――我に閃光の力を与え賜え》!」


 二人の詠唱は終始共に同時であり、二つの五芒星魔法陣(ペンタグラム・マジックサークル)が各々の足元に展開される。


 フィリアの頭上には黄色に光り輝く球電が放電を伴いつつ形成され、アイラの頭上には太陽の如き閃光を放つ白い光球が浮かんでいる。


「「《我が意思に従い――其の力を解放せよ》!」」


 今度は詠唱の内容まで揃えて、二人の魔法は完成され――次の瞬間。


 目にも留まらぬ速度でフィリアの放った雷は壁を叩き、魔法練習所内の全体に轟音を響かせる。

 更にアイラの放った閃光は精巧に磨かれた床や壁、天井に反射されて一瞬の内に上下左右を縦横無尽に駆け巡り、辺り一面を真白に照らした。


 予想はしていたが……相変わらず、無駄に規模が大きい。


 特に、強力な光を直視したせいで視界が白く染まっている。

 初級魔法だからといって油断したか……。


「だ……大丈夫? ちょっと張り切り過ぎちゃった……」


 若干ながら取り戻した視界の中で、両目を抑えている俺の顔を心配そうに覗き込むユウナの様子が見えた。


「あぁ、大丈夫だ。それよりも結果はどうなった……?」


 段々と取り戻しつつある視力で、俺は魔法練習所の壁を凝視する。


 すると最初に俺が"黒球(ブラックボール)"を当てた時と同じ壁に、二つの焦げ跡が付着していた。

 アイラが魔法を打った直後までは、あの壁は汚れ一つ無い綺麗な白色だった筈なので、その焦げ跡が二人の魔法によるものだという事は直ぐに判明した。


 つまり――二人の放った魔法の威力は、どちらも魔法耐性素材の許容範囲を上回ったという事になる。


「……いや、これは本当に予想以上だ。

 これ程簡単に成功するとは思わなかったな」


「やった……! 本当に初日で魔法を扱えるようになるとは思わなかったわ……」


 フィリアは嬉しそうに笑顔を浮かべて、初級とは言え魔法の習得に歓喜する。


「でも……あの焦げ跡はどうしよう? 流石にこのままだとマズイよね」


 ユウナは壁の焦げ跡を指さしながら気まずい表情を浮かべた。


「確かにな。じゃあ一応元に戻しておこう」


 俺はそう言いつつ、焦げ跡のついた壁に向かって歩く。


 その様子を見て疑問の表情を浮かべたフィリアが、俺の背後から問い掛ける。


「えっ……元に戻すって、どうやって?」


 だが俺は返答しない。

 どの道わざわざ説明しなくても、すぐに解る事だからだ。


 そして壁の手前まで近づいた俺は、二つの焦げ跡にそれぞれの手を翳して魔法名を唱える。


「――"修復(レストレーション)"」


 詠唱も何もなく、ただその一言で一瞬にして壁の焦げ跡は消滅し、元の綺麗な真っ白の状態へと戻った。


「え……その魔法名、確かマーリン先生の――」


「あぁ、勝手ながら真似させて貰ったよ」


「真似って……あぁもう! 何でそんな簡単に出来るのよ!?」


 的を得ない俺の回答に苛立ちを感じるのか、フィリアは半ば呆れた様に言い放った。


「まぁまぁ、クロト君に常識は通用しなさそうだから、あまり追求しない方がいいんじゃないかな?」


 ユウナがフィリアを宥める様に説得する。

 待て待て。俺にも常識ぐらいはあるぞ……。

 こと戦闘関係においては例外だろうけど。


「……確かにそうね。さっきも無詠唱で魔法使ってたし」


 フィリアはため息混じりに納得した様だ。

 いや、納得と言うよりは諦めと言った方が正しいだろうか。


「じゃあ、全員の改善策が判ったところで……私は一度、クロト君の魔法が見てみたいな!」


 と、唐突にアイラが満面の笑みを浮かべて懇願する様に提案した。


「……確かに……闇属性の本気……見てみたい」


 真っ先にルアナが頷いて賛同した。

 表情には出していないが、同属性の魔法に対して興味津々なのだろう。


「まぁ……事故さえ起こさなければ私も見てみたいわね」


 フィリアも腕を組んで賛同する。

 その台詞と仕草の割には、目線を俺から合わせたり逸らしたり……と、興味が無いようなフリをしているだけの様である。


「とびきり派手で強力なやつお願い!」


 他の賛同を得たアイラは、陽気に笑みを浮かべて更なる要求(リクエスト)を重ねた。


 なるべく威力を抑えた上級魔法程度で済ませようと考えていたのだが、遠まわしに『本気出せ』と言われてしまったな……。


 仕方ない。全力とまではいかないが、少しだけ本気を出すとするか。


「……解った。何が起きても驚くなよ?」


 ため息をつきながら、俺はアイラの要求を了承する。



 こうして――不本意ながらも、何故か五人の女子生徒に俺の魔法を披露する流れへと物事が進行したのであった。

因みに何故フィリアが既に呪文を覚えているのかについては、騎士団の筆記試験を受験する際にある程度の魔法理論を予習しているからです。

実技試験で体内の魔力の流れを体験して、初めて魔法が扱える様になったのです。

次話を投稿した辺りで、リミア視点のストーリーを進行させたいと考えています。

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