32話:更なる力(ディサスター視点)
前回の予告通り、ディザスター側のストーリーを進めていきます……が、最初はシックル視点で書いております。
〜魔界〜
あらゆる魔族生命体の生息域から遠く離れた地域――見渡す限り広がる、荒廃した広大な平野にて。
僕は魔王との戦闘――いや、死闘とも言うべき闘いを行っていた。
「ハァ……ハァ……ッ」
しかし……その闘いは、魔王側の一方的な殺戮とも言える、凄惨なものだった。
己の全力を以てしても、触れる事すら叶わない程に圧倒的な存在。
百万を超える魔族生命体の頂点近くに存在する死神族である筈の自分が、生まれて初めて、目の前の魔王を相手に戦慄というものを味わっていた。
「……フン、つまらんな。これでは闘いにすらならんではないか」
僕が全身全霊で放った、あらゆる攻撃をその身に受けたにも関わらず、文字通りの『無傷』で平然と目の前に立つ存在――魔王は、もはや戦意すら喪失し、満身創痍で地を這う僕を、まるで虫ケラを見る様な目で見下しながら言い放つ。
勝負は、ほんの数分で決着が着いた。
その結果は……見ての通り、魔王の完膚無きまでの圧勝。
私の全ての攻撃は魔王に通用しなかったにも関わらず、魔王の手に持つ漆黒の剣より放たれる一撃は、軽々と僕の身体の一部を欠損させた。
一つの斬撃を受ける事に、一つ。
手や足が、胴体から切り離されるのだ。
全てで四つの斬撃を受けた僕は現在、四肢欠損の状態で、胴体のみの力で地を這いずる事しか出来ない。
切断箇所から感じる筈の痛みでさえ、身の毛がよだつ程の恐怖によって掻き消されている。
「私の初撃がいとも容易くお前の腕を切り落としたので、手加減として、敢えて全ての攻撃を防御しなかった訳だが……それでも私に傷一つつけられないとは、失望も良いところだ」
目の前で僕を見下したまま、魔王はため息混じりに言い放つ。
「く……っ」
その言葉を聞いて、僕は怒りや悔しさよりも絶望の感情が沸き起こった。
目の前の脅威を排除すべく、体力も魔力も使い果たし、自身の全力を尽くした。
なのに――そんな自分の殺意など、赤子の手を捻るかの如く、呆気なく跳ね除けられたのだ。
「最早、お前如きでは私の相手は務まらん。
これでは"奴"との戦いを想定した試合には程遠いではないか」
魔王の言う、"奴"というのは当然、元魔王であるクロト=ルミナの事だ。
目の前の魔王は、彼の存在を最大の脅威であり、憎むべき相手だと認識している。
しかし、だからこそ――容易に殺せる筈の今の段階で、即座に殺害する事はしない。
自身と対等な実力を以て対峙するに至った彼を、力尽くで捩じ伏せ――至福の快楽と優越感を得ようとしているのだ。
「暫くの間は、お前を相手に実力を高めようと考えていたが……止めだ。
どうやら思っていた以上に、私の身に奴の力が早く定着しつつある様だな。
つまり、わざわざ早急に力を求める必要が無いという事だ」
その言葉を聞いて、僕の恐怖は更に増大し、身体中に悪寒が走るのを感じた。
元魔王から継承した力の定着が早いという事は、現魔王を倒す為に与えられた一年間という期間の間に、元魔王の力の全てを完全に扱える様になる可能性が高いという事だ。
そうなると、如何に人間となった元魔王が実力を身に付けようと、勝利は絶望的となる。
そして、元魔王の死が訪れた時――魔界の平和は終わりを迎え、絶望へと変わるだろう。
そんな容易に想像出来る未来を、僕の力で改変する事は不可能だった。
「さて……では再び魔王城に戻り、奴の動向を探るとしよう。ほら、お前の手足だ。さっさと治せ」
そう言って、魔王は重力魔法によって、辺りに散らばった僕の両手足を無造作にこちらに向かって放り投げた。
非常に雑な扱いだが、この状態のまま自分で取りに行かされるよりはマシだろう。
切断面自体は綺麗なものだから、くっつける事が容易で、無駄な魔力を消費せずに済むという事さえ、あるいは不幸中の幸いと言えるかも知れない。
「くっ……」
僕は僅かながら身体に残った微弱な魔力によって、重力魔法を発動させ、自身の右腕を切断箇所に繋げた。
「ほんっと……魔王って存在は……加減というモノを知らないよね……」
繋げた腕を使いながら次々に切断箇所に繋げつつ、文句を言い放った。
「お前には以前、片腕と片脚を切られた事があるからな。その報復とでも思うがいい」
ああ……そういえば以前戦った時、確かにそんな事あったなぁ。
でも僕が言っている加減というのは、相手に対する慈悲や容赦の事では無く、その理不尽な力と異常なまでの成長速度の事だ。
目の前の魔王も、人間となった元魔王も、同じ魔族生命体、同じ人間の中で常軌を逸した成長を遂げている。
現魔王と元魔王。
一年後の対決の時、果たしてどちらの方が強くなっているのか――僕には皆目見当がつかなかった。
いや……目の前の魔王から感じた恐怖と悪寒からは、最悪ながら前者の方かも知れないという予感さえ感じさせられる。
「さて……治ったのであれば、さっさと魔王城へ向かうぞ」
僕が切断された四肢を繋げた様子を見て、ディザスターは声を掛けた。
「……別に、彼の動向を探るなら此処でも良いんじゃないの? わざわざ魔王城に行かなくても……」
「お前はこの何も無い平野で、ただ呆然と奴の動向を見ながら一年間を過ごせとでも言うのか?」
ふと思いついた僕の疑問に、ディザスターは呆れ顔で返答した。
「確かに……暇だね。いや魔王城に行っても特に面白い事は無いんだけどさ」
「少なくとも、何も無い此処よりは幾分とマシであろう」
確かに……あの魔王城には沢山の本もあるし、暇潰しぐらいは出来そうだ。
「それに……まだ今の私にも、奴の記憶を完全には継承出来ていない可能性がある。
残りの記憶を思い出す手掛かりが、まだ残っているかも知れんからな」
……ん? 何か今、さり気なくとんでもない事を口にした様な……。
えーっと……つまり、元魔王の記憶を完全に継承していないのに、これ程の力ってこと?
つまりは……
「……君、もしかしてこれ以上伸び代を上げるつもりかい?」
「あ? 当然だろう。如何に人間とは言え、相手は元魔王なのだぞ。
まさに、油断も隙も無い存在だ」
……やはり、僅かながらも魔王城に行くのに賛同してしまったのは途轍もない失敗だったと、僕は心の中で確信した。
只でさえ、僅か数日にして著しいまでの成長速度を見せた現魔王が、更にその成長速度を高める事になる事は、僕にとって恐怖そのものでしか無かった。
「では、さっさと魔王城に向かうぞ」
ディザスターはそう言うと、突僕の着ているローブの首元を突然掴んだ。
「えっ……? 何?」
咄嗟の事に理解が追いつかず、僕がディザスターに問い掛けると、ディザスターは僕の顔を見ないまま返答する。
「黙れ、わざわざ私がお前の速度に合わせるのも面倒なんだ。お前の重力魔法は飛行速度が遅すぎる」
「えっ? ちょっと待――う、うわああああ!」
突然離れていく地面に、身体に掛かる重力。
一瞬にして、僕の身体は重力魔法で飛行するディザスターによって持ち上げられたのだと理解した。
「速度を上げるぞ。落とされたくなければ暴れるなよ?」
「うわっ――!?」
そして地面との距離が数百メートル程の地点まで上昇した時、ディザスターは魔王城の方角へと、言葉通りに速度を上げて飛行した。
その速度は僕の重力魔法では到達し得ない域にまで達し、体感では超音速をも遥かに凌ぐ速度となった。
嘗て一度も体験した事の無い光景と、身体に加わる負荷……そして何より、先程の戦闘による疲労によって、僕の意識はそこで途絶えのであった。
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高速飛行によって、わずか数十秒で魔王城の一室――魔王の部屋へと辿り着いた私は、死神を掴んだままゆっくりとその床へ降り立った。
「着いたぞ、早く奴の映像を移せ……って、この程度で気絶してどうする。さっさと起きろ」
目線を変えると、私の手を支えにして力無く項垂れる死神の姿が目に映った。
その様を見て、私は呆れた表情を浮かべつつ、死神の身体を支えていた手を離した。
私の手を支えにしていた死神は当然、そのまま床へと受け身を取る事も出来ずに崩れ落ちる。
「……うっ!? あ、あれ? ここは……?」
死神は寝惚けた表情で、辺りを見回しながら疑問を口にする。
「魔王城だ。目覚めたなら、さっさと人間界を移せ」
現状把握が出来ていない様子の死神に答え、"世界視"の使用を催促する。
「え? ああ……そうだったね。
でも、さっきの戦いで魔力を消費し過ぎたから、暫くは"世界視"を使うのは無理だよ」
「だったら私の魔力をくれてやる。早く映せ」
私はそう言うと、死神の背中に手を置き、一部の魔力を譲渡した。
「――ッ! い、いきなりそんな大量の魔力を送られたら身体に加わる負荷がキツいよ!?」
「は? 何を言っている? 前はこれよりも多く魔力を送っても平然としていたでは無いか」
事実、たった今私が譲渡した魔力量は、以前に転移門を作る為の魔力を貸した時よりも遥かに少なかった。
しかし今、確かにこの死神は僅かながら苦痛に顔を歪め、演技とは思えない苦しさが伝わってくる。
となれば、考えられる理由は一つ。
それは――私の魔力量が、以前よりも明らかに増えているという事だ。
まさか……空気中の魔力量が少ない人間界で過ごした事によって、身体に内包できる魔力量が増加したのだろうか?
人間の持久力(正確には肺活量)を高める方法の一つに、低酸素運動というものがある。
身体に供給される酸素量を意図的に減少させ、その環境下での生活に慣れる事で、普通の呼吸によって取り入れられる酸素を効率よく身体に取り入れられる様にする訓練だ。
それと同じ様に、私の身体は空気中に含まれる魔力量が少ない人間界での生活に順応し、より効率的に魔力を体内に取り入れられる様になったという訳か。
「……どうやら、人間界で生活する内に、私の身体に内包可能な魔力量が増加した様だ」
「えっ……あの短期間でこんなに!?」
私が簡潔に説明すると、死神は思いの外大きく反応した。
私自身では魔力の増加を実感していないが、その魔力を譲渡された死神にとっては、はっきりと判る程に変化しているという事か。
「全く……元魔王も君も、潜在能力は計り知れないね。
僕の魔力量なんて全然増えてないのに……」
「当然だ。お前如き矮小な存在の力など、魔王たる私や奴には到底及ばぬだろう」
「いや、死神族は上位種族だよ!?」
「知るか。いいから早く奴の様子を映せ」
私は逸れた話を咄嗟に元に戻し、再び"世界視"の使用を催促する。
全く、この死神と話していると調子が狂う。
物事が上手く運ばないと、苛立ちを覚えるものだ。
「むぅ……君は毎回、僕の扱いが雑なんだから……」
死神は文句を言いつつ"世界視"を使用し、空中に人間界の様子を映像化して映す画面を顕現させた。
その画面には、人間となった元魔王――クロト=ルミナの様子が移されている。
どうやら、私が人間界の街に出現し、人類に向けての宣戦布告を行った事を騎士団内に報告している様だった。
「あーあ……君の存在が騎士団にバレちゃったけど、良かったのかい?」
死神はため息をつきながら私に問い掛ける。
「構わん。どの道、騎士団がどう動こうと無駄な事だ。
寧ろ、恐らくは国内の混乱を避ける為に、今回の事態は秘匿にするであろう」
かつて人類の脅威として名を馳せていた暗黒竜をも上回る、私という圧倒的存在。
それを世間に公表すれば、国内は間違いなく混乱に陥る事になる。
敢えてその様な選択を取る者が居るのであれば、その者は間違いなく愚者だ。
と言うより、寧ろ騎士団内に私の存在を周知させ、勇者の需要を考慮させる事こそが私の狙いだった。
そう、全ては――クロト=ルミナを勇者とする為に。
「これで私の目論見通り、奴が勇者となってくれれば良いのだが……生憎、私としてもこれ以上の手出しは不可能だ。
果報は寝て待て……奴が勇者になるまでは、その様をゆっくりと傍観させて貰うとしよう」
幾ら奴の実力が高いとは言え、勇者という称号はそう簡単に得られるものでは無い。
私の見立てでは、少なくとも一ヶ月の期間は必要になるだろう。
「えっと……だったら、一つだけ問題があるんだけど……」
私の話を聞いていた死神は、気まずそうな表情で語り掛けた。
「何だ? 私の計画に誤謬でもあるのか?」
「いや……そういう問題じゃなくて」
私の問い掛けを、死神は気まずそうな表情のまま否定する。
一体、この死神は何が言いたいのだろうか?
そう考えていると、その疑問の答えは直ぐに返ってきた。
「実は、死神は定期的な睡眠が必要なんだ。
……と言うよりも、睡眠を必要としない君みたいな存在の方が珍しいんだけどね。
さっきの戦いで、だいぶ疲労が溜まっちゃって……」
「……あ? つまり何が言いたい?」
いや、先ほどの話を聞いていれば、死神の言いたい事は大体察する事は出来る。
わざわざ聞き返しているのは、私の認識が正しいのかという確認の為だ。
「……ちょっとだけ寝ていいかな?」
「ふざけてるのか?」
苦笑いで放たれた死神の言葉に、私は声を低くして返答した。
「いやいや、本当に死活問題だから! 不眠不休でずっと能力使ってたら死んじゃうから!」
本当は無理矢理にでも"世界視"を使わせたい所だが、死活問題とまで言われては、後先の事を考えてもこの死神を過労死させる訳にはいかないだろう。
その為にも、多少の時間を犠牲にしてしまうのは仕方があるまい。
「チッ……どれ程の睡眠時間が必要だ?」
しかし、そんな私の考えは、次に放たれた死神の一言によって、実に浅はかだったと思い知らされるのである。
「……ほんの一ヶ月ぐらいかな?」
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……生理的欲求とは、実に不便なものだ。
「すぅ……すぅ……」
私の身体にもたれ掛かりながら寝息を立てる死神を横目に、ため息混じりにそんな事を考えていた。
どうやら"世界視"の発動自体は、睡眠中にでも可能だった様だ。
ただ……魔力消費の関係上、連続して画面を表示し続けるのは不可能である。
結果として、死神は私に触れながら睡眠を取り、常に魔力の供給を行うという結論に至った。
確かに、奴の動向を探るという目的には合っており、それと同時に目に届く範囲で死神の監視も出来る。
そう考えると、一石二鳥とも言えなくは無い内容だった……が、よく考えると死神と離れられない以上、行動を制限されているのはこちらの方だった。
生憎、元魔王の記憶を思い出す為の手掛かりを探るという目的を果たす事は不可能となったのである。
まぁどの道、暫くは奴の動向を探る事に専念するつもりだったので、私の方で行動の自由が効かなくても問題は無いのだが……。
どうやら奴は、私の予想を遥かに上回る早さで勇者となった様だ。
私に遭遇してからというもの、破竹の勢いで騎士団内に名を馳せ、国家公認の勇者にまで成り上がったのである。
入団して間もなく、騎士団長をも凌ぐ実力を証明したのだから当然といえば当然の事なのだが……。
少なくとも奴の評価については、現在よりも遥か大きく上方修正する必要がありそうだ。
そんな事を考えていると、ようやく死神は一ヶ月間の長き眠りから目覚めた。
「ん……あぁ……よく寝た……」
一ヶ月間眠っていたにも関わらず、まだ眠気が残っているのか、死神は半開きの目を片手で擦っている。
「ようやく目覚めたか。だったら早く私から離れろ」
緊張感が全く伝わらない様子の死神に呆れ顔を浮かべつつ、私はそう言い放った。
「あっ……ごめん。それで、彼は今どうなったの?」
死神は私の身体から離れると、隣から"世界視"の映像を覗き込んだ。
現在の映像には、私を倒す為の新たなる力――"魔法"を習得するべく、魔法学校へと向かう奴の姿が映っている。
魔族生命体の中でも最も魔法を極めていた元魔王が、教える立場ではなく教わる立場に立つというのは、中々に違和感を感じるものだが。
「彼が着ているのは……前に言っていた、魔法学校の制服かな? 彼が学校に通うなんて、普通に考えて有り得ない事なんだけどね……」
さり気なく私と感想が被った事には若干の苛立ちを覚えたが、転生前の奴について知る者としては当然の感想であろう。
完全に転生前の記憶を継承している以上、本来なら奴は教わる立場では無く、確実に教える立場の筈なのだから。
「でも、彼が魔法を習得……か。
多分、一ヶ月もあれば上級魔法まで使えるようになるんじゃないかな?」
この死神も、私と同じく誤った見解をしている。
私は先程、奴に対する評価を上方修正したばかりだと言うのに。
「何を言うか。奴は私の予想を遥かに超えて、たった数日で勇者にまで成り上がったのだぞ。
奴が男性魔道士の称号を得る程の実力を身に付けるまで、恐らく数日あれば事足りるであろう」
「えっ……もう既に勇者になってたの!?
じゃあ、確かに魔法の習得も一ヶ月かからないかも知れないね……」
いや……『かも知れない』では無く、『絶対』と言うべきだろう。
実の所、奴がこれ以上に私の予想を上回るのであれば、こちらも何らかの対処を取らざるを得ないだろうという焦りさえ生じているのだから。
しかし――その予想すら、奴を余りにも侮っていたという事を再認識させられるものであった。
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案の定、私の予想を遥かに超える不測の事態が起こった。
ただ、臨時テストが突然行われたにも関わらず、当たり前の如く満点を取ったという出来事までは予想済みであった。
しかし……その次の授業で行われた、魔法実技にて――奴は目を見張る大事件を勃発させたのである。
初心者が魔法を扱う為に開発された、魔法使用補助用の水晶に奴が手を翳した瞬間――人間の身体からは有り得ない程の魔力が発生した。
そして水晶は、内部へと流動する余りにも膨大な魔力量に耐え切れず崩壊したのである。
恐らく、奴の体内から膨大な魔力が放出された原因は、奴が所持している何らかのスキルの効果にあるのだろう。
それが一体どの様な効果を持つスキルなのかは皆目見当がつかないが――少なくとも、非常に強力な効果を持っている事は間違いない。
「うわぁ……彼はもはや人間辞めちゃってるね……。まぁ、元々人間じゃ無いけど」
奴の仲間である筈の死神さえ、その規格外過ぎる力に畏怖している。
「チッ……忌々しい。どうやら私も、力の向上を図る必要がある様だな」
この調子ではどう計算しても、一年後に私が奴を圧倒しているとは思えない。
元々、私が企画した事である故に、今すぐにでも約束を無視して奴を殺す事も容易なのだが――それでは本末転倒。
奴の力に恐れを成して契約を反故にするなど、私の矜持が認めないのだ。
「いや、君も充分に規格外だけど……。
と言うか、力の向上って……何をするつもり?」
「最も原始的、そして最も効率的な方法――魔族生命体の中でも圧倒的な強者を探して戦う。
竜種であろうと死神族であろうと、強者であれば皆、その対象だ」
そう――最早、手段を選んでいる場合では無い。
奴に圧倒的格差を見せつける為、私は修羅となるのだ。
「っ……! 君は一体、どうしてそこまで彼に拘るんだ……?
元魔王の力の使い方さえ変えれば、平和だって容易に実現出来るのに……!」
同族である死神達が犠牲になる事を阻止したいのか、目の前の死神は懇願する様に必死に訴えた。
「……フン、何を今更。
良いか? 私はこの世に絶望を撒く『厄災』たる存在だ。
お前はただ、私に利用されるだけの存在に過ぎない」
何よりも、私を常に正しく導く『声』が、この世界に破滅と絶望を撒く事を望んでいるのだ。
他の者が何を言おうと、私の確固たる意思に干渉する事は不可能。
「私にとって、今は奴に絶望を与える事こそが最大の目標――いや、天命とも呼ぶべき決定事項だ。
憎むのであれば……それを止められない無力な己を憎むのだな」
私はそう言い放つと、重量魔法にて自身の身体を浮遊させる。
「あっ……お願い、待って――」
最後の抵抗として、私を引き留めようとする死神の言葉を聞き流し、私は魔王城を後にした。
そして……より強力な相手を求め、死神の住処――『深淵の大地』へと向かい、暗澹たる魔界の空を飛翔するのであった。
完全シリアス回にしようかと思いましたが、死神のせいでギャグが入ってしまう……(汗)。
クロト視点のストーリーを少し進めたら、リミア視点でのお話も進めていきたいと思います。




