31話:魔法実践
今回は急ぎで書いたので、文章が何時もより少しだけ短めです。
〜人間界〜
唐突にマーリンが開催した臨時テストを受ける事、約十五分程度。
周りを見回すと、頭を悩ませて小さく唸り声を上げる生徒、ただ黙って問題に集中する生徒……と、問題に対する態度は幾つかのタイプに分かれている様だった。
騎士団入団試験での、筆記試験の様子を俺に思い出させる光景である。
臨時テストを開催した当の本人であるマーリンは、教卓の上で白色の魔導書を開き、高めの椅子に座ってそれを黙々と読んでいた。
白色――何色にも染まっておらず、あらゆるものに属さない独立した色。
そう考えると、イメージとして白という色が合う属性は――無属性だろうか?
それはともかく、何故テスト中にも関わらず俺が周りの様子を見ているのかは、もう言わなくても解るだろう。
既に全ての解答を終えて暇だからである。
テストの内容としては、使用する魔法の規模に対する魔力消費量の値や、身体や物体に魔力を纏う際に強化される耐久力の値の計算など、全属性共通の魔法を扱う上での基本的な計算ばかりであった。
本格的な授業を受ける前の、実力判定テストの様な内容なので、マーリンの言う通り、決して高いと言える難易度では無かった。
俺は"第二知能"を使用するまでも無く、このクラスの誰よりも早く問題を解き終えていたのだ。
そんな訳で現在、俺はただ頬杖をつき、周りの生徒達の様子を観察して暇を潰している。
「むむっ? クロト君、真面目にテストを受けないと先生は拗ねてしまうのですよ?」
解答用紙から視線を外し、自分と目線が合った俺の様子が不真面目なものであったと勘違いしたのか、マーリンは頬を膨らませて注意を喚起した。
と言うか、注意の仕方が緩いな……。
「あぁ、すいません。既に問題を解き終えていたので……気を付けます」
俺はマーリンに軽く謝罪し、既に全ての式と答えが書かれた自分の解答用紙に目を移した。
ごく自然な謝罪と動作。
事はそれで済み、後はテスト終了までの暇な時間をただ待つのみだと俺は思っていたが――
「えっ……まだ15分程度しか経っていないのですよ!?」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべ、マーリンが驚きの言葉を口にする。
ん? 自分で『基礎的な理論』と言っておいて、俺がこの時間内に解けた事に驚くというのも矛盾しているのでは……?
それとも、十五分以内という解答の早さが余りにも規格外だったか?
まぁ、実際の解答時間は十分程度だったのだが。
「じ、じゃあ確認の為に、一旦解答用紙を見せて貰うのです!」
マーリンは怪訝な表情で俺を見てそう言うと、またも転移魔法により、俺の机上から自分の手元へと解答用紙を瞬間移動させた。
先程からこれ程簡単に転移魔法を使用しているが、魔力消費は問題無いのだろうか?
転移魔法系は、転移させる物体の合計の重量と移動距離に比例して消費魔力が増加する。
転移させているのは、魔導書とただの紙に過ぎないが……それでも生徒全員分の配布を全て転移魔法で行うというのは、十三歳の少女にとっては魔力消費量が大きい筈だ。
いや……少し考えてみれば、彼女は十歳にして女性魔道士の称号を得た才女なのだ。
普通の人間とは、身体に内包する魔力量が違うのだろう。
俺がそんな事を考えている内に、マーリンは俺の解答用紙に大体目を通した様子で口を開いた。
「……す……全て、完璧な解答なのです……」
呆然とした表情を浮かべるマーリンの呟きに、周りの生徒達は反応し、一斉に俺に視線を集中させた。
「マジかよ……」
「んな馬鹿な……」
「手計算で十五分以内に解ける内容じゃねーぞ……」
そして全員が驚愕の表情を浮かべて騒めき始める。
もしかすると、余りにも早く終了したので、密かに不正を疑われているのかも知れないな。
まぁ実際、俺は不正など一切行っていないので、何の気兼ねも無くただ頬杖をついて生徒達の蛙鳴蝉噪を聞き流しているのだが。
誰に何と言われようと、正真正銘、俺自身の実力なので気にする必要は無いのだ。
「……やっぱり、アンタに適う要素無いわね……」
と、フィリアは呆れた様子で苦笑いを浮かべて呟いた。
そりゃあ、数千……いや、数万冊の魔導書を読み漁った俺と、たった一冊の魔導書の読解に苦労する生徒達とでは、魔法に関する知識に雲泥の差が付くのも当然の話だろう。
「あっ、テスト中にお話しちゃダメなのですよ! 皆、きちんとテストに集中するのです!」
暫くの間、俺の解答用紙を放心状態で見つめていたマーリンは、クラス全体が騒めいている事に気付くと、頬を膨らませてそれを指摘する。
「「「…………」」」
そしてマーリンの指摘により、クラス全員は不服そうな表情を浮かべるも、口を噤んで沈黙し、自身の解答用紙に視線を戻した。
......................................................
テスト開始からおよそ三十分が経過し、数分前から黒板の上に掛けてあるアンティーク調の時計をチラチラと確認していたマーリンが口を開く。
「はい。では終了なのです!」
そしてテスト終了の合図を送ると、マーリンは再び転移魔法にて、生徒全員の解答用紙を教卓の上に重ねて転移させた。
非常に薄い紙を重ねて一度に転移する、という技術は中々に難易度が高いものだが……少なくとも、マーリンは転移魔法に関しては手練れの魔道士であるという事だろうか?
「ふむふむ……意外と皆さん、出来が良いようで感心なのですよ。
クロト君の成績は、皆さんとは一線を画すものでしたが……」
マーリンはクラス全員のテスト用紙を見て、その出来栄えに頷き賞賛する……が、先程の俺の解答用紙を見たせいで、その感心は若干にも薄れてしまっている様だ。
「ほんっとに……アンタは他人の自信を容赦無くへし折っていくわね……」
俺の隣で、フィリアが呆れ顔で呟いた。
「えぇ……流石、というよりも、常に私の予想の遥か斜め上をいく天才ぶりですね……」
フィリアに続いて、ミキですら驚愕を通り越し、呆れを含む苦笑いで賛同した。
「そう言われてもな……ただ問題を早く解いただけだろう?」
「その解答速度が異常なのよ!」
平然と真顔で答える俺に、フィリアが怒りと驚きの表情で突っ込む。
当然も何も、俺にとってはただの作業の様なものだったのだが。
「そう言うフィリアちゃんも、中々の出来栄えなのですよ。
点数は九十点で、このクラスでは三番目の成績なのです!」
いつの間にか全員の採点が終わったのか、今度はマーリンはフィリアの成績を褒め讃えた。
「おお……! フィリアちゃんも頭良いんですね!」
と、ミキがこちらに振り向き、笑顔で感想を述べる。
それに続く様に、クラス全員もフィリアの方を向いて『おぉ……』と、驚嘆の声を洩らした。
好敵手が増えたと思っているのか、優秀なクラスメイトが増えたと思っているのかは判らないが、フィリアの成績を褒めているのは確かだ。
クラス三番目……か。確かに優秀な成績だ。
しかし一つ、気になる点が生じる。
「……三番目? じゃあ誰が二番目なのかしら?」
と、フィリアが首を傾げつつ、俺の疑問を代弁する様に口にした。
「クラス二番目は、九十二点のアイラちゃんなのです!」
マーリンが挙げた生徒の名前を聞き、フィリアは驚きの表情でアイラを見る。
「なっ……! まさか、目の前に思わぬ伏兵が居たとはね……」
確かに偏見かも知れないが、先程は明るいお調子者といったアイラの雰囲気からは、勉強で他より秀でている様なイメージは無かったな。
俺としては、もっと寡黙な性格の生徒の方が勉強できるイメージがあったのだが……。
「へっへーん、この優等生アイラちゃんは、何事に於いても他の追随を許さないのだ!」
驚きを口にするフィリアに、満面の笑みを浮かべた得意顔で大きく胸を張って自信満々に返答する。
成程……どうやら彼女は自信家の優等生タイプだった様だ。
「……俺は?」
と、俺はアイラの台詞の中で自身の存在を忘れ去られている事に気づき、端的に突っ込みを入れる。
「え? いやいや、流石に君は例外でしょ……」
……どうやら既に、俺は先程のテストで、マーリンを含むこの場の全員から、他の生徒と同格の扱いは受けていない様だ。
まぁ、流石に自分でも他の生徒との差は自覚しているのだが……。
世の中には慇懃無礼という言葉がある。
他より優秀である自身の実力を自覚せず、遠慮がちに他者からの賞賛を否定するばかりでは、寧ろ反感を買ってしまう事もあるのだ。
だから俺は自身の実力を自覚し、俺に対するマーリンやフィリア達からの評価を否定しないのだ。
「それにしても、ホントにさっきのクロト君の解答速度と答えの正確さには驚きね。
フィリアちゃんに聞くけど、クロト君って何者かしら?」
アイラは先程のテスト中の出来事を思い出し、フィリアに質問する。
その質問に対し、フィリアはほんの一瞬のみ悩んだ素振りを見せて――
「……化け物よ。頭脳も強さも……ね」
と、呆れた様に溜息をつきながら返答した。
「えぇ……ホントに何者……?」
予想外の答えだったのか、アイラは驚き戸惑った様子だった。
「ふむふむ……全員、最低でも七割は取れている様ですね。素晴らしい出来なのです!
最初の内は基礎から学んだ方が良いかと思いましたが……この様子なら、もう魔法の実践に入っても大丈夫そうですね!」
全員のテストの出来栄えに、マーリンは大層ご満悦といった様子で頷きながら満面の笑みで言った。
やはり、今回のテストの内容は他の生徒から見ても簡単な内容だった様だ。
フィリアとアイラ以外の成績も知りたいものだが、堂々と満点を取ってしまった以上、下手に他人の成績を聞くのも申し訳無いだろう。
「実践……!?」
「もう魔法を扱える様になるのか……?」
「ワクワクしてきたぜ……!」
魔法の実践と聞いて、クラス全体が期待の声で騒めく。
当然、魔法学校に在籍している以上は、誰もが魔法を扱う事に憧れるのであろう。
「では、次の授業では実際に魔法を扱う内容に移るのです。まだ応用には入らないので、少しずつ覚えていきましょう!
もう今の授業が終わるので、先生は、一旦職員室に戻るのです!」
クラス全体にそう告げて、マーリンは慌ただしく足早に教室を出て行った。
ガラガラ……ピシャン! という、マーリンが立てた扉の慌ただしい開閉の音が教室内に響くと同時に、チャイムの鐘の音が鳴った。
「……もう実践に入るのね。これから魔法を使うんだって思うと……ワクワクしてくるわね」
魔法の実践に移ると聞いて、フィリアは期待が高まっている様だ。
魔法学校に来る前から、魔法への興味は高かったからな。
「そうですね……一体どんな魔法が使えるようになるんでしょうか?」
ミキもフィリアに賛同しつつ、ワクワクと期待を顕にする。
二人の属性は知っているし、それぞれどの様な魔法が使えるのかも当然知っているが、二人の楽しみを取っておく為にも、教えるのは敢えて止めておこう。
「炎とか水とか、私と同じ雷とかなら想像しやすいけれど、闇属性ってどんな魔法なのかしら?」
確かに、炎属性、水属性、雷属性、風属性あたりはそのまま具現化して操るものが殆どだから想像するのは容易だろう。
闇属性は……相手に呪いを掛けたり、死者に悪霊を憑依させて屍人化させたりと、あまりイメージの良くないものが多い。
だから転生前の俺の場合は、暗黒物質による物体の創造を主に使用していた。
闇属性の魔法に詳しくない者にとっては、一番イメージしづらい属性と言える。
俺と同じ闇属性であり、まだ十五歳の少女であるルアナにとっては難易度の高い内容であろう。
「まぁ、それは魔法を習得してから判る事だな」
魔法を使う前から闇属性のイメージを悪くするのも避けたいので、俺は二人にそう言って誤魔化した。
「……確かにその通りね。早く魔法を使える様になりたいわ。
出来るだけ派手で強い魔法を……ね」
フィリアが俺の言葉に賛同しつつ、自身が扱いたい魔法を想像する。
派手で強力な雷属性の魔法……単純に考えて、巨大な雷を落とす様子でも想像しているのだろうか。
しかし強力な魔法を扱うにも、それ相応の魔力量が必要となる。
フィリア自身の魔力量が多ければ、そう難しい話では無いだろうが……魔法は場合に合わせて臨機応変に使いこなしてこそ真価を発揮するものなので、ただ強力な魔法のみを使用するばかりでは無駄が増えるだけだ。
誤った魔法の身に付け方を覚えない内に、多彩な魔力を身につける需要を教えておいた方が良いだろうな。
「……解っているとは思うが、強力な攻撃ばかりで無く、出力を抑えて手数で攻める様な攻撃も大事だぞ」
「も、勿論解ってるわよ」
そう答えるフィリアの目線が、俺の目から外れているのは気のせいだろうか。
やはり魔力量の無駄遣いを習慣づけてしまいそうで不安だな。
華奢な体格のフィリアでは不足してしまう一撃の攻撃力を補おうとする考え方自体は、あながち間違っていないのだが……。
そんな会話を交わしていると、放課の時間は終了し、チャイムの鐘が鳴った。
それとほぼ同時に、慌ただしくマーリンが荒い息遣いで入室する。
「ぜぇ……はぁ……では、早速魔法の実践に移るのです!」
「うおおおおおお!」
「キタキタアアア!」
「よっしゃあああ!」
息切れして肩で息をしているマーリンに対して、男子生徒達は大幅にテンションを上げて歓喜する。
当然、女子生徒達にも笑顔が見られ、この場の誰しもが魔法の実践を心待ちにしている様だった。
「皆さん、既にやる気充分のようですね。
では、まずはこの水晶に触れて貰うのです!」
マーリンはそう告げると、自身の胸の前の空間から人間の頭サイズの透明な水晶を出現させ、それを両手で受け止めた。
「……何かしら、あれ?」
その水晶を見て、フィリアは首を傾げて呟く。
他の生徒達も同様に、その水晶の用途を考えている様だった。
それに答えるように、マーリンは水晶の用途について説明する。
「これは皆さんの魔法の発現を補助する為の水晶なのです。
これに両手を翳して、自分の属性を……例えば炎属性の人なら、そのまま炎をイメージすれば、その人の魔力量の百分の一の出力でイメージを具現化できるのです!
そして、その際に起こる魔力の流動を感じ取ることが出来れば、魔法の習得にグンと近づけるのですよ!」
そんな便利な魔法道具があるのか……。
詠唱や魔力操作に慣れていなくても魔法を扱える様になる道具があるとは驚きだ。
とは言え、自身の百分の一の魔力量で出力される魔法は、実戦では役に立たないだろうけど。
やはり無詠唱かつ自動的に魔法を完璧に発現させるというのは現段階の技術では無理な話か。
だが、魔法の習得に近づける可能性があるという点は重要だな。
まぁ、よほど才能のある者で無ければ難しい話だろうが……。
「では、まずは先生からお手本を見せるのです!」
マーリンは教卓の上に水晶を置き、先程の説明通りに両手を水晶に翳した。
「因みに先生の属性は無属性なのです。
一番わかりやすいのは念動力だと思うのです。では皆さん、先生の髪に注目して下さいね!」
そうクラス全員に告げると、精神統一をするが如く、目を閉じ、深くゆっくりと息を吸いこみ始めた。
「……皆さん、恐らく先生の髪が動いていると思うのですが解りますか?」
ふとマーリンの髪に目を移すと、頭頂部の髪が重力に逆らい、天井に向かって逆立っているのが見て取れた。
言うまでもなく、非常に微弱な念動力が発動しているという事だ。
「おぉ……あんなのでも、実際に魔法を使っている様子を見るのはワクワクするわね」
フィリアは早く自身も魔法を使ってみたいと思っているのか、マーリンが魔法を使う様子を興味津々に見ながら小さく笑みを浮かべていた。
まぁ、興味津々なのは周りの生徒全員に同じ事が言えるのだが。
誰しもがフィリアと同様、マーリンの身に起きた小さな出来事に釘付けになり、全員の視線が逆立ったマーリンの髪に釘付けになっていた。
ほんの些細な出来事なのだが、それが『魔法』による現象なのだと判っていれば、その出来事の重要性が窺い知れる。
何しろ、今起きた現象は、本来の魔法のほんの一部――それも、百分の一という小規模なもの。
それはつまり、本来であれば、他にもあらゆる現象を、今よりも遥か大きな規模で起こせる事を示唆しているという事だ。
「えー、今ので皆さん、大体の要領は解ったと思うのです。
という訳で、次は誰かに実践して貰うのです!」
「じゃあ俺が!」
「いやいや俺が!」
「わ、私が……!」
マーリンの言葉に、全生徒が勢い良く反応し、我先にと一斉に聳え立つ様に挙手をする。
俺の隣では、フィリアも自身の存在を主張するが如く、天高く手を挙げていた。
俺も空気を読んで、一応は手を挙げているのだが……まぁ、俺にとっては魔法という存在は別段珍しいものでも無いので、ここで選ばれなくても特に問題は無い。
魔法の習得に近づけるという事は重要だが、そんな機会は後で幾らでもあるだろう。
「あわわ……一斉には無理なのです!
えっと……では、先程から目立ってるクロト君にお願いするのです!」
……え? 俺?
まさかこの場で、一番自身の存在を主張していない者を指名するとは思わなかったな。
いや、確かに先程から不本意にも目立ってはいたけれど。
「……おお……闇属性の魔法……楽しみ……」
俺が指名された事で、同じ闇属性であるルアナが反応する。
ルアナの席は丁度最前列なので、一番見やすい場所だ。
「へぇ……羨ましいわね。
確かに、闇属性の魔法は私も気になるわ」
「……そう期待されても困るけどな」
俺はフィリアに返答しながら席を立ち、教卓へと歩いて近づいた。
「では、先程の先生同様に、この水晶に手を翳して、自身の属性で使ってみたい魔法をイメージして下さいね!」
マーリンの説明を聞いて、俺は水晶に手を翳す。
魔法のイメージ……か。
呪術や死霊術は当然使えない。
そうなれば、一番安全に扱えるのは、やはり暗黒物質だろう。
そう考えて、俺は自身の全身から黒い霧を放つ様子を、第三者視点で想像する。
ゆっくりと着実に想像できる様、"第二知能"による思考加速を発動させながら。
ディザスターが街を暗黒に染めた様に、ゆっくりと黒い霧を放出し、周りの空間――この教室内――を、暗黒に染め上げるという想像。
その瞬間、俺の身体の中で、血液の様に魔力が身体中を循環する感覚を感じる。
一つ一つの細胞から生み出される、粒子状となったエネルギーの塊。
それらが血液に混じって身体中を駆け巡り、心臓へと循環する流れ――その感覚を、ハッキリと感知出来るのだ。
それと同時に、俺の眼前でステータス表が展開され、一つの通知が表示された。
《魔力の循環を感知可能となった事を確認しました。
現段階で会得可能な、魔法使用に関するスキルを作成します》
ん? スキルの作成……?
ああ……本来、魔法が使えていれば、現在のレベルで習得していたスキルを獲得できるのか。
しかし待てよ……。
今まで獲得してきたスキルは、どれも反則級のスキルばかりだったから、魔法を発動させる寸前の今の状況に於いて、急に得体の知れないスキルの作成は不味いのでは――
――と思った瞬間、案の定、俺の不安は現実となった。
《スキルの作成が完了しました。
獲得したスキルは、合計で四つです》
俺はその通知を確認すると、所持スキルの欄を展開し、百倍に加速された思考速度にて、新たに追加された四つのスキルの効果を読み上げる。
《通常能力》
『魔力操作:LV5』
体内の魔力を感知して自在に操る。
また、自身に触れている魔力の操作を行う事も可能。
『詠唱時間短縮:LV5』
上級魔法までの全ての魔法を、無詠唱で魔法名の発言のみで扱う事が可能。
『一致属性強化:LV4』
自身の持つ属性と同じ属性の魔法の威力を強化させる。
《固有能力》
『虚心坦懐』
自身の持つ属性と同じ属性の魔法を扱う場合、魔力消費が発生しない。
予想通り、獲得した全てのスキルの効果が反則級であった。
そして何より不味いのは、ステータス表の通知を確認する前に、既に魔法を想像してしまった事だ。
この水晶の効果は、手を翳した者の身体に内包されている魔力の百分の一を吸い取り、その者の想像した通りの魔法へと変換させるものである。
だから現在、この水晶は俺の魔力を吸い取り、闇属性の魔法を発動させようとしているのだが――
――新たに獲得したスキル、"虚心坦懐"により、闇属性の魔法を扱う以上、俺の魔力が減ることは無い。
つまり、この水晶は無限の魔力を吸い取る事になり……透明だった水晶は、段々と黒く、漆黒に染まってゆく。
「あ、あれれ? 何だか様子がおかしいのですよ!?」
その予想外で異様な光景を見て、マーリンはいち早く嫌な予感を感じ取り、焦りが生じていた。
というか、これは非常に不味い。
この水晶が何らかの物質で造られている以上は、必然的に吸収できる魔力量に限界がある。
つまり、その許容量を超えた時は――
と、俺が考えた瞬間、水晶に小さくヒビが入り、そのヒビはピキピキと音を立てながら、段々と水晶全体に広がっていく。
「ちょっ……クロト君!? ヒビが! ヒビが入ってるのですよ!?」
マーリンの戸惑いに事態の重大さを察したのか、生徒達の表情にも焦りが生じる。
だか、時既に遅し。
水晶のヒビは更に大きくなり、その亀裂が全体的に広がってゆく。
「あっ――」
もう手遅れだと察したマーリンは、悲壮感さえ漂う小さな呟きを口にする。
そして――全員の不安を実現させるが如く、水晶はガシャン! と盛大な音を立てて粉々に砕け散った。
入学早々、思わぬハプニング。
初っ端から前途多難ですが、ともかく魔法習得寸前には至りましたね。
クロトのチート化はまだまだ発展途上。
誠に急な話ですが、次回はディザスター視点で話を進めていきたいと思います。
リミア視点でのお話も、そのうち書きたいと考えています。




