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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
4章:魔法学校編
35/64

30話:属性

前回、制服の色とエンブレムで属性が一目で判るという設定を書いた事をすっかり忘れていました。

マーリンがクロトとフィリアに属性を聞くシーンがあったのですが、設定に矛盾してしまう為、マーリンが二人の属性を確認する内容に変更しました。

  〜人間界〜


「あれ? 教室に入ってから気づかなかったんですか……? うう……ちょっとショックです……」


「す、すまない……。最後列の席だったから判りにくかったんだ」


 俯いて落ち込みながら嘆息するその少女に早速、俺は謝った。


「あら? 二人は顔見知りなのかしら?」


 そしてその会話を見ていたフィリアが不思議そうに、俺の隣で問い掛ける。


「はい! ちょうど一ヵ月ほど前に出会って勉強を教えて貰い、その際に騎士団の入団試験を受けるという話を伺っていました!

 でも……本当に受かっちゃうなんて、クロトさんは凄いですね!」


 キラキラと目を輝かせて興奮気味にフィリアに返答しつつ、ミキは顔をズイッと俺に近づける。


「へ、へえ……そうだったのね」


 フィリアは納得して頷きつつも、ミキの興奮ぶりを見て苦笑いを浮べた。


「ああ。でもその前に……少し落ち着いてくれ」


 俺は興奮するミキに、そう声を掛けて宥めた。


「ハッ! す、すみません……本当にクロトさんが約束を守ってくれたのが嬉しくて……」


 俺の言葉で落ち着いたミキは、元の位置まで顔を遠ざけ、紅潮して恥ずかしがる。


 約束? ああ……『いつか必ず会う』という事を、確かにあの時、俺は告げたな。

 まさか、ミキはその言葉をずっと覚えていて、俺の入学を待っていたのか……?

 いや、そもそもその言葉を覚えていたからこそ、俺の事を覚えているのだろうか?


 ……まぁ、どちらでも良いか。ミキが俺の事を覚えてくれているのなら。

 一ヵ月前に何の関わりもなく出会い、たった数日の関係であった自分の事を覚えてくれている。

 当たり前の事かも知れないが、俺はその事実に安堵し、微笑みを浮かべた。


「ああ。約束を果たすのに、大分時間が経ってしまったが……また宜しくな、ミキ」


 俺は微笑みのまま、ミキに握手を求めた。

 そう言えば、名前を呼んだのはこれが初めてだな。


「は……はい! 宜しくお願いします!」


 俺に返答しつつ、何故かミキは紅潮して俺の手を握った。

 フィリアと言い、この少女と言い、何故か少女に握手を求めると、よく紅潮される様な気がするな……。


 「じーっ……」


 フィリアは俺とミキのやり取りを見て頬杖をつきながら、何故か不服そうな表情を浮かべているが……気のせいだろうか?


「ところで、あの担任教師は随分と幼い見た目をしているが……何であの様な少女が、魔法学校の教師をやっているんだ?」


 挨拶が済んだところで、俺はあの担任教師に対して思った疑問を、ミキに問い掛けた。


「あぁ……それは気になりますよね。

 まず、あの先生はマーリン=アストラルという名前です。

 幼い頃から魔法使いの才能があって、僅か十歳にして女性魔道士(ウイッチ)称号(ライセンス)を取得した凄い人なんです。 魔法学校の教師として勤め始めたのも、僅か十一歳の頃だそうです!」


 担任教師の名前と経歴……重要な情報だ。頭に留めておくとしよう。

 とは言え、完全記憶があるのだから忘れる事はまず無いのだけれど。


 因みに、女性魔道士(ウイッチ)の反対の称号は、男性魔道士(ウィザード)という名称だ。


 そして――その称号、女性魔道士(ウィッチ)男性魔道士(ウィザード)の称号を得る事こそが、俺達が魔法を習得する上での最終目標なのである。


「なるほど、それは凄いな。

 しかし女性の年齢を聞くというのは些か気が引けるが、十一歳の頃に教師として就任したという事は……現在は何歳になるんだ?」


「それは……何と驚くべき事に、このクラスの誰よりも若い、十三歳だそうです!」


「成程、確かにそれは驚きだな……」


 ミキから聞いた歳は、大体見た目通りではあったが……十三歳という若さで、この『特別学習クラス』を率いるというのは、普通の新任教師にはまず出来まい。

 つまり、あの担任教師が、この魔法学校の教師の中でも相当に優秀な人材である事を示唆しているという訳だ。


 ……ん? 待てよ? それ以前に……。


「そう言えば、話は変わるが、何でミキがこの特別学習クラスに入った……いや、入れたんだ?」


 と、突然思い浮かんだ疑問を問い掛ける。


「ええっ!? その言い方だと、私が馬鹿みたいじゃ無いですか!」


 俺の質問の言い方が悪かった様で、ミキは立腹して抗議する。


「悪い悪い。しかし、確か前に勉強を教えた時の成績は中の下だと聞いたはずだが……」


「まあ、確かにそうでしたけど……あれから頑張って学年一位の成績にまで登りつめたんです! だからこのクラスに入ったのも、始業式だった昨日の事です!」


 成程、そういう事か……。

 あの時は大分勉強に苦悩していた様だが、俺に教えられた事で勉強のコツを掴んだのだろう。


「そうか……本当に頑張ったんだな。凄いじゃないか」


 俺は先程の失礼を取り返すように、笑顔で褒めて頭を撫でる。


「え……あ、有難うございます……」


 ミキは何故か再び紅潮し、俺から目線を逸らしつつ礼を言った。


「むー……」


 何故かフィリアはそのやり取りを見て頬を膨らませ、先程よりもより一層不服そうな表情を浮かべる。


「どうした? フィリア」


「……別に?」


 フィリアはそう言い放ち、気にしていない様に振る舞うも、機嫌が悪いのは明白であった。

 まぁ下手に刺激しても悪いし、これ以上は放っておくのが無難だろう。


 そんなやり取りをしていると、今度はフィリアの前の席に座る、ピンクの髪と碧眼の女子生徒が声を掛けてきた。


「へぇ、三人とも既に知り合い……いや、それ以上の関係だったのね!」


 明るい雰囲気とその口調は、ハイネのそれを彷彿とさせるものだった。


「君は?」


「ああ、ごめんごめん。自己紹介が先だったわね。私の名前はアイラ=ファルトっていうの!

 歳はあなた達と同じ十七歳だよ!」


 自己紹介を求める俺の問い掛けに、アイラという少女は明るい振る舞いで自己紹介を行った。


 俺とフィリアは、「あなた達と同じ十七歳」という台詞に違和感を共感し、一瞬だけ顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


「アイラちゃんと私は親友関係ですから、気軽に付き合って下さいね!」


 席が隣同士という事もあってか、二人の仲は良いようだな。

 二人の言うとおり、友達の友達は、また友達……という感覚で親しく付き合う事にしよう。


「ああ、宜しくな。アイラ」


「うん、宜しくね! クロト君」


 微笑みを浮かべて握手を求めた俺に対し、アイラはさぞ嬉しそうに明るく満面の笑みを浮かべて俺の手を握った。


「フィリアちゃんも宜しくねっ!」


「ええ。こちらこそ」


 アイラは、今度は同じ様に満面の笑みを浮かべてフィリアに握手を求め、フィリアはそれに応じて微笑みを浮かべてその手を握った。


「なになに? ミキちゃん、クロト君と知り合いだったの?」

「……いいな……羨ましい……」


 と、今度は自分達の席をを立って近づいてきた二人組の女子生徒が俺達の会話に入り込む。


 先に話しかけてきた少女はポニーテールの金髪と碧眼で、明るい雰囲気を醸し出している。


 もう片方の少女はセミロングの青髪と緑眼の小柄な外見だが……何故か俺達を警戒している様子で金髪の少女の裏から顔だけひょっこりと見せている。


「……君たちは?」


 俺はミキが答えるよりも先に、二人に自己紹介を求めた。


「私はユウナ=ルベール! 歳は十八だから、君たちより一つ上だよ! ……あ、でも、気軽に話し掛けてくれて良いからね!」


 清々しい笑顔でユウナと名乗ったのは、明るい雰囲気の方の少女だった。


 年上と言われても、先ほど担任教師がクラス全体に伝えた年齢とハイネに伝えた年齢とは異なっているし、実年齢では俺の方が遥かに年上なので、かなりの違和感を感じるのだが……。


「……私は……ルアナ=フェルト……歳は十五……宜しくね……」


 訂正。大人しいと言うよりは、意識が常に朦朧としているかの様な雰囲気の少女だった。


 二人組で話し掛けてきたので、同い年で親しい関係なのかと思ったが、意外と二人の歳は開いていたのか。

 まぁ、そんな事は気にしなくて言いだろう。


「この二人も私とは親しい関係なので、アイラちゃん同様に親しく付き合って下さいね!」


 またも、ミキが紹介を挟む。

 このクラスにはミキと親しい関係の人間が多いのだろうか。

 だとすれば俺とフィリアも、彼女を仲介人として、多くの人間と親しい関係を結べそうなので好都合だ。


「ああ、二人とも宜しくな」


 俺は二人に微笑みを浮かべてそう言った。


「うん! よろしくね!」

「……よろしく……ね?」


 ユウナが明るく答えたのは解るとして、ルアナが何故首を傾げて疑問形で答えたのかは不思議なところだ。

 まぁ、恐らくは恥ずかしがり屋か、内気な性格なのだろう。


「ふーん……クロトはモテモテで良いわねー」


 そうフィリアが感想を述べるも、その表情はつまらないものを見るような仏頂面だった。

 確かに、気づけば女子生徒に囲まれた状況になっているな。

 俺も、別に好きでこんな状況を作った訳では無いのだが……。



「ねーねー、フィリアちゃんとクロト君って付き合ってるの?」


 そんなフィリアに、一人の男子生徒が席を立って陽気に話し掛けた。

 青髪と黄色の瞳を持つ、フィリアと同い年ぐらいの外見だ。


「そうそう! 僕もそれ気になってた!」


 そこに、フィリアの斜め前――アイラの左隣の席に座る男子生徒が話に参加する。

 黄色の髪と黒い眼を持ち、見た目は先ほどの男子生徒と同じぐらいの若さだ。


「えっ? えーと……そんな関係じゃなくて、同期に入団した、ただの新兵同士っていう程度の関係よ」


 唐突に投げ掛けられた質問に、フィリアは戸惑いつつも笑顔でそう答えた。


 実は魔法学校に向かう途中で既に、俺達がどういう関係かを聞かれた場合の回答を打ち合わせていたのだ。


 俺達が同居している事を伝えると、人間関係に首を突っ込みたがる者が面白がって、更に追求して来るだろうからな。

 この二人は恐らく、それに該当するタイプの人間だろう。


「ふーん、じゃあ好きな人とかいるの?」


 しかし今度は、青色の髪の男子生徒が別の趣向へと質問を変更してフィリアに問い掛けた。


「えっ……い、いないわよ?」


 何故か一瞬、チラッと俺の方に視線を移してから答えた。


「へえ、やっぱりねぇ」


 すると、フィリアの表情を伺っていた黄色の髪の男子生徒は、何故かニヤニヤと怪しい笑みを浮かべ、興味深そうに何かを納得した。


「……わかりやすっ」


 何故かアイラが苦笑いを浮かべてそう呟くと、俺とフィリア以外の生徒達は無言で頷いて納得した。


 何の事だか、人一倍……いや、何倍も知識の多い筈の俺にはさっぱり解らないというのに。

 元魔族生命体の俺には無い、人間特有の感性というものだろうか?


 ハイネの言う『青春』の意味も解らなかったし、俺もまだ人間界の事についてよく知らない知識があるのかも知れないな。


「ち、違うわよ! ホントにそんな関係じゃ無いから!」


 更に頬を紅く染めて、フィリアは慌てふためきながら否定する。


「「「ふ〜ん……?」」」


 その様子を見る全員が、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう呟く。


 結局、同居人という事を教えなくても、こういう事態になってしまうんだな……。

 しかも、俺もどうやって解決したら良いのか全く分からないという点が非常に厄介だ。


 ……ん? いや、一つだけ解決策があった。


「……ところで皆、もうすぐ放課の時間が終わるだろ? 席に着いた方が良いんじゃないか?」


 教室の時計……では無く、自身の体内時計で現在時刻を確認した俺は、フィリアに質問を投げ掛ける生徒達に向かってそう告げた。


「あ、ホントだ! 確かにもう戻った方が良いね」

「うん……また後でね……」

「ちぇっ、面白い所だったのになぁ」


 と、席を立っていた二人組の女子生徒と、一人の男子生徒は放課を名残惜しむようにして自席に戻っていった。


 そう、現在の放課の残り時間は、もう一分を切っていた。

 ハイネからは、『放課が終わってチャイムがなる前に席に着いて静かにしているのは常識よ』と聞いている。


 中にはそういった常識を守らない生徒も存在するのだが、特別学習クラスの真面目な生徒達なら当然の様に心掛けておくべきだ、とも言っていた。


 予め、放課時間と授業時間を頭に入れておいたのは正解だったな。


「なるほど……そういう切り抜け方があったのね……」


 先ほどの質問責めに対して、精神的に疲れた表情を浮かべるフィリアがそう納得しつつ呟いた。


 そしてチャイムの鐘が鳴り、それと同時に、ガラガラという教室の引き戸が開く音を教室に響かせ、先程と同じ担任教師――マーリンが慌ただしく入室する。


「ハァ……ハァ……間に合いました……。

 では早速、授業の方を始めたいと思います! と言っても、今日の授業は午前中のHR(ホームルーム)だけですけど……」


 マーリンは肩で息をしながら、クラス全員の生徒を仕切る。

 わざわざ授業開始の時間に間に合う様、走って来たのだろうか……?


 職員室は本棟の一階にある。

 あの小柄な身体で職員室から三階の教室(ここ)までの階段を走って登り切るのは、体力的に辛いとは思うのだが……。


「えーと……予めお二人に言っておくのですが、まず授業を行う上で重要な要素が『属性』になるのです!」


 と、マーリンは俺とフィリアに視線を向けて、明るい口調で告げた。


 魔法を習得する上で、自身の持つ属性は非常に重要な要素となってくる。

 それは言われなくても当然、常識として俺の知識の中にある。


 今更という感じもあるのだが、属性の種類は大きく分けて、『無』『光』『炎』『雷』『風』『土』『水』『闇』の八つだ。


 自身の持つ属性によって、扱う魔法の得手不得手が変わってくる為、魔法学校では、生徒一人一人の属性を必ず把握しているのだ。


「クロト君の属性は、制服を見る限り『闇属性』の様ですね」


「「「に、似合わねー……」」」


 ひそひそ話ながらも、俺の耳には数々の辛辣な評価が聞こえている。

 クラス全員、満場一致の感想を聞き、俺は内心で落ち込みつつも平然を装うのであった。


「闇属性は珍しいですね。このクラスでは二人目なのです!」


 マーリンが明るい口調で感想を述べる。

 ……って、二人目? 俺以外に闇属性の制服を着ている生徒は周りに見当たらないが……。


 ルアナがポツリと放った衝撃の一言に、俺とフィリアは驚愕の表情でそう呟いた。


「……同族……珍しい……」


 途切れ途切れに言葉を紡いでいく様な口調で、ルアナの口から感想が漏れる。

 先程はアイラの影に隠れて制服がよく見えなかったのだが、今見てみると確かに彼女の着ている制服は闇属性の生徒用の黒色だ。


「彼女は今までこのクラス唯一の闇属性だったのです。同じ属性の仲間は珍しいので、仲良くして下さいね!」


 呆然とする俺とフィリアに、マーリンが解説を挟む。


「はい……解りました」


 俺の外見に闇属性が似合わないのは認めるが、彼女も闇属性が似合う外見じゃないと俺は思う。


「フィリアちゃんは雷属性ですね。黄色の制服が良く似合っているのです!」


「あ、有難うございます……」


 制服姿を褒められ、フィリアは少し恥ずかしそうに礼を言った。


「イメージ通りだな」

「うんうん、似合う似合う」

「何しろ、金髪だからね!」


 当然、生徒達の反応もマトモなもので、誰もが頷いて納得していた。


 ……なぜ属性紹介だけでこれ程反応の差が出てしまうのだろうか……。

 まぁ、恨んでも仕方あるまい。

 俺自身、闇属性が似合わないのは自覚済みなのだから。


「このクラスには雷属性がフィリアちゃんを除いて七人居るのです!」


 周りを見回すと、確かに黄色の制服を着ている生徒がフィリア以外にも七人見えた。

 七人という事はつまり、このクラスの約二割が雷属性と言うことか。

 中々に高い割合と言えるだろう。

 闇属性の割合はクラスの一割にも満たないからな……。


「では、お二人には魔法学校特有の教科書――"魔導書(グリモワール)"を贈呈するのです!」


 マーリンは満面の笑みを浮かべて言い、人差し指を立てると、俺とフィリアの机の上の空間から突如、何かの辞書の様な厚みのある一冊の本が出現した。


 そしてそのまま重量に従い――俺とフィリアの机の上に自由落下し、ドスッ! と、重みを感じさせる音を教室内に響かせた。


 その本の中心には六芒星魔法陣(ヘキサグラム・マジックサークル)が描かれており、如何にも、という様な外見の魔導書だ。

 俺の魔導書は黒色で、フィリアの魔導書は黄色という違いを見る限り、生徒の属性に合わせて、配る魔導書の種類を変えている事が窺えた。


「凄い……これが魔法学校の教科書ね……」


 ふと隣を見ると、フィリアが初めて見る魔導書の凄みに目を輝かせて感動している姿が目に映った。


 俺はミキに勉強を教える際に一度、魔導書の外見を見ているので、特にこれといった驚きは無かった。


「魔導書の最初の方は全属性共通の内容ですが、途中からは属性ごとに派生していくのですよ。

 後半のページは中々に内容が難しいですから、しっかりと予習復習を行ってくださいね!」


 マーリンの説明を聞き、フィリアは魔導書をパラパラと捲り、その内容を確認する。


「うっ……確かに難しいわね……」


 捲るページが魔導書の後半に差し掛かった瞬間、フィリアは苦い顔をして感想を呟いた。


 その様子を見て俺も魔導書を開き、内容を確認する。


 最初の内容は魔法を扱う上での基礎知識であり、後半のページには幾つもの魔法式が紙一面に書かれていた。

 確かに、魔導書を見慣れない者が初めてこれを見れば混乱もするであろう。


「これは流石に、クロトも解らないんじゃないかしら?」


 魔導書の内容の難易度に不安を感じたのか、フィリアが俺に同意を求めた。

 しかし、生憎――、


「……いや、簡単だが?」


 この魔導書に書かれている魔法の難易度は、せいぜい上級魔法程度(・・・・・・)

 俺が頭を悩ませる要素は、文字通り『皆無』と言える内容であった。


「は……? アンタ本気で言ってるの……?」


 驚愕した様子でフィリアが呟いた。

 確かに、入団試験の筆記の方で出題された魔法理論の点数は俺の次に高かったフィリアでも理解不能な内容を、「そうか?」の一言で一蹴するのは余りにも淡白な返答だったかも知れないな。


「あはは……クロトさんには簡単な内容かも知れませんね。私の魔導書の内容も簡単に理解しちゃっていましたから……」


 ミキは苦笑いを浮かべつつ頬を掻く。

 そう言えば以前ミキに借りて読んでいた魔導書の色は緑色で、内容は風属性の魔法についてだったな。

 まぁ、その時にはミキ自身が風属性である事は聞いていたので、それは思い出さずとも解る当然の事だろう。


 例え異属性の内容だろうと、学校で習う程度の魔法を俺が理解出来ない道理は無い。

 魔王の頃は全く扱えなかった光属性の魔法についても、相手側が使う時の対策として知識だけは身につけてあるのだ。

 つまり、この魔法学校で習う学習に、俺に理解出来ない内容は――無い。


「へぇ? じゃあ私の魔導書の内容も理解できるって訳? なら、このページの魔法式は何を表しているのか――当然解るわよね?」


 ミキの話を聞いて、フィリアは悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺を試す様に自分の魔導書の後半のページを開き、それを俺に見せた。


 複数の数式と記号式に、説明文が書き加えられたそのページを、俺は二秒ほど見つめて――


「……あぁ、アーク放電に関する魔法か」


 フィリアの問題に対する答えを、無表情のまま簡潔に答えた。


 雷属性の魔法を操る者が、よく好んで使用するアーク放電。


 それは、使用者の両手を電極として、その電極間にプラズマを発生させる事により、切断、放電、発光等を行う多目的万能型魔法の一種であった。

 因みに、応用としてはプラズマ放電の指向性を操作する事により、刃渡りや光束を自由に変更できる光刃(こうじん)を造り出す事も可能であり、戦略の範囲も相応に高い。


 魔界でも、俺を含めてこの魔法を扱う魔族生命体は多く存在している為、実際にそれを扱う様子は何度も見た事がある。


「うっそ……何で一瞬で解るのよ……」


 一切悩む様子無しに即答した俺に対して、フィリアはもはや驚愕を通り越した様子で呆れ顔を浮かべて呟いた。

 試す側がそんな調子では、寧ろこちら側が呆れてしまうものだが……。


「おやおや? クロト君はもう既に魔法の知識は万全な様ですね! これからのクロト君の成績に、先生はちょっぴり期待を抱いちゃうのですよ!」


 俺達の様子を見ていたマーリンは、俺の魔法の知識量に大層嬉しそうにそう言った。


「マジか……すげーな……」

「アイツ、まさかの天才?」

「だったら、勉強教えて貰おうかな?」


 マーリンに釣られて、生徒達も俺の方を見てざわつき始める。

 成績によってある程度の校内での立場が左右される学校という場において、優秀な生徒の存在は無視出来ない者となるのだろう。

 まぁ……自分で優秀な生徒と言うのも傲慢な気がするが、少なくとも俺の知識量に適う生徒は居ない筈だ。


「という訳で、丁度いい機会なのですよ! 実は今から、臨時テストを行う予定なのです!」


「「「……えっ!?」」」


 マーリンが明るい口調で告げた、唐突なテストの開催という報告に、生徒達の注目は俺からマーリンへと一斉集中し、俺以外のクラス全員が口を揃えて叫んだ。


「う、嘘……テストってこんな唐突に開始するものなの!?」


「マーリン先生は唐突に物事を始めちゃうタイプの人なんですよ……。今回のは、かなり意地悪な場合ですけど……」


 驚愕するフィリアに、苦笑いでミキが答える。


 一瞬にしてクラス全員を絶望の淵に陥れた『テスト開始』の一言は、もはや一種の魔法だとさえ思えた。


「内容は全属性共通の基礎的な理論なので、そう不安がる必要は無いのですよ〜。では、テストを配布するのです!」


 そう言って、マーリンは先程の様に空間から一枚の用紙を生徒全員の机上に出現させた。


 恐らく、無属性の移動系魔法の一種、座標転移魔法を使用しているのだろう。


 三次元の座標計算が必要となる魔法の筈だが、十三歳の少女がマスターしているという事実には驚いた。


「「「マジかよ……」」」


 と、クラスの数人は唐突に告げられた臨時テストの開始に対し、絶望さえ窺える表情を浮かべつつ、悲愴感漂う呟きを口にしていた。


「もうテストは始まっているのです。テスト中に喋っちゃダメなのですよ?」


 マーリンは明るく、しかし何処か威圧感を感じる笑みを浮かべて注意する。


「「「あ、悪魔だ……」」」


 そして、マーリンには聞こえない小声で数人の生徒が呟いた声を、俺の聴力強化スキルはハッキリと捉えていた。


 かくして、俺とフィリアにとって、入学後最初の臨時テストは唐突に開始を迎えたのであった。

特別学習クラスの生徒の年齢は、十五~十八歳になります。

まだ本格的な魔法を扱う為の授業を受けている生徒は居ないので、生徒全員はこれから実用的な魔法を習う事になっています。

因みにマーリンは教師となる前は、超特例によってこのクラスに十歳未満の在籍をしていました。

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