29話:魔法学校入学
遂に魔法学校の話に突入しました!
まだ魔法学校についてあまり細かい設定を考えていませんが、これから話を盛り上げて面白い内容が書ければと思います。
〜人間界〜
俺達が騎士団に入団してから、一ヶ月の月日が流れた。
その期間の中、ハイネの指導の元で訓練を行う中で、俺の『能力複製』の効果を把握したハイネから、勇者となった俺の手助けの為、自身の通常能力を快く複製させてくれる事になった。
レベル200の人間が所持する通常能力の平均数は、4〜5程度。
しかし驚くべき事に、レベル200に達していない筈のハイネは、通常能力を6つも所持していたのだ。
まぁ、レベル200を超えているとは言え、元々のスキルが9つ、フィリアから複製した『跳躍』以外のスキルが4つ、グリルの『筋力強化』が1つ、合わせて14の通常能力を所持する俺が言うのも皮肉っぽいかもしれないが。
以下、俺がハイネより複製したスキルの詳細である。
「熱耐性」
あらゆる高温から身を守る。
燃え盛る炎に身を投じても、その肉体が焼かれる事は無い。
「熱源感知:Lv.3」
半径五百メートル圏内に存在する、熱源の位置と温度が、脳内に数値で表情可能となる。
「肉体再生:Lv.3」
負傷した肉体を身体髪膚に掛けて急速再生させる。
出血を伴う数センチ程度の切り傷や軽い打撲程度であれば、数分で完治可能。
複数の負傷を負った場合、その一部の患部のみに能力を割いて集中治癒させる事が可能。
同じ回復系スキルである『自動回復』の効果により、このスキルによる回復効果は倍増されている。
「ダメージ軽減:Lv.5」
物理攻撃や魔法攻撃等によるダメージを10分の1にする。
「視力強化:Lv.3」
所持者の視力を2倍にする。
「視力強化:Lv.3」
所持者の聴覚を2倍にする。
以上の6つが、ハイネから複製した全ての通常能力である。
五感を強化するスキルの内、フィリアの視覚強化と聴覚強化に加え、ハイネの視力強化と聴力強化が合わさり、現在の俺は目と耳だけなら超人並みの感覚を持つと言っても良いだろう。
ハイネから複製したダメージ軽減スキルのレベルは3だったが、元々同じスキルを所持していた為、跳躍スキル同様に統合した事により、スキルレベルは5へと上昇している。
全てのダメージが10分の1……恐ろしい数値だ。
少なくとも、物理攻撃で俺に致命傷を与えるのは難しい話となるだろうな。
仮に、普通ならば致命傷となる怪我を負ったとしても、『肉体再生』によって、簡単には死にそうに無いのだけれど。
現在の俺は、合計で何と18もの通常能力を所持する事になる。
更に、フレイド=アルムズと騎士団長との試合――つまり、騎士団の中でも最高峰の実力者二人との対決で勝利した経験値により、俺のレベルは何と260から280にまで上昇し、上位能力と固有能力を1つずつ獲得したのである。
それから約一ヶ月間の訓練の中で繰り返した、ハイネとの対決によって得られた経験値により、現在の俺のレベルは285になっていた。
まぁ、レベルが上昇したところで、外見は全く変わっていないのだが。
ん? 一ヶ月間訓練したのに、レベルが5しか上がっていないというのは、かなり成長速度が遅いのでは無いか、だって?
実は、戦闘によって得られる経験値というのは、同じ相手と何度も戦う場合、対戦の回数に比例して少なくなっていくのだ。
寧ろ、戦利品増加スキルが経験値を増加してくれるお陰で、この一ヶ月間、ずっとハイネと相手してきたと言うのに、レベルが5も上昇したと言う方が正しいだろう。
ハイネが俺に負ける度に悔しがり、何度も再挑戦を挑んでくれるお陰で、俺の経験値は少しずつ貯まる一方であった。
戦績は俺の全戦全勝であり、落ち込むハイネに食堂のデザートを幾つか奢って元気づけたのは良い思い出だ。
何故騎士団の食堂にデザートがあるのかは疑問に思ったが、どうやら超甘党のハイネが食堂の料理長に頼んで、メニューに取り入れて貰ったらしい。
実は料理長も女性であり、小さい頃はパティシエになりたかったのだとか。
調味料の種類が増えた事により、デザート以外の料理の幅も広まって、結局は一石二鳥だったという。
話は逸れたが、俺が獲得した上位能力と固有能力は、以下の二つだ。
上位能力……「一刀両断」
刃物を扱う場合のみ発動可能なスキル。
使用者の放つ一閃は、武器の耐久力や斬撃力等に関係無くあらゆる物体を両断する。
固有能力……「思念伝達」
使用者の脳波の周波数を、他者の脳波の周波数と同調させ、思念を伝達させる。
このスキルによって他者の脳波を感知し、その周波数を使用者自身で割り出す必要有り。
自身の脳波操作により、医療効果を齎す等の応用も可能。
……とまあ、非常に強力な上位能力と、非常に便利な固有能力が同時に獲得出来たのである。
人間界に転生してから上位能力を獲得したのはこれが初めてだが、『一刀両断』スキルの効果は、魔王の頃に所持していた複数の上位能力と比較しても、中々に凶悪なスキルだと言えるだろう。
物理的な範囲であれば、殆ど防御無視と言っても過言では無い性能なのだから。
まぁ、使う機会も無かったので、未だ一度も二つのスキルを使った事は無いのだが。
俺はこの一ヶ月間の間、魔王との対決の為、着実に力を身に付けていたのである。
そして現在。
朝の陽光が部屋を照らし、太陽が俺達に日の出を知らせる時刻。
そんな何時も通りの早朝を迎え、俺は自室のベッドの上で目を覚ました。
「ん……朝か……」
俺は自分の身体に掛かった毛布を退かしつつ、体内時計にて現在の時刻が、ちょうど七時頃である事を確認する。
「あら……クロトも今起きたの?」
俺の隣のベッドの上で、横になったままのフィリアが俺の方を向いて話し掛ける。
半開きになった目と、無気力な口調からは、フィリアも俺と同様に、たった今起きたばかりである事が窺えた。
「ああ……おはよう」
フィリアにそう言いながら、俺は寝起きで倦怠感の残る身体をゆっくりと起こし、ベッドから立ち上がった。
「ふあぁ……おはよ。 よいしょ……っと」
フィリアは欠伸をして、俺に返答しながらその身体をゆっくりと起こし、掛け声を掛けつつベッドから立ち上がった。
「……さて、いよいよ、この日が来たわね」
「あぁ……そうだな」
笑みを浮かべて言うフィリアに、俺が軽く相槌を打つ。
フィリアの言う、『この日』とは何の日か?
そう、今日は入団式から丁度一ヶ月後。
つまり今日は――『魔法学校での魔法習得が始まる日』なのである。
魔法学校での学校生活と、騎士団の訓練とを両立させるのは大変だが、それも魔王を討伐する為だ。
基本的な一週間の生活リズムとしては、『三日間学校→三日間訓練→一日休日』というループを繰り返す事になった。
基本的な……と言うのは、新学期初日の集会等の、授業とは関係ない内容の学校行事には参加せず、訓練に励む事になっているという意味だ。
まぁ当然、魔王を倒す為にも、無駄話を聞いたり、息抜きの為の催し物に参加している暇は無いからな。
元々の目的は学校生活に慣れ親しむ事では無く、あくまで魔王討伐の為に魔法を習得する事だ、という事を忘れてはならないのである。
フィリアは一度、ハイネの武器強化を見てからというもの、すっかり魔法に対して興味津々になり、今日という日を毎日楽しみにしている様子だった。
因みに昨日の訓練にて、ハイネからは、
「遂に明日、二人が魔法学校に入学かぁ……。魔法の習得も大事だけれど、二人で青春を謳歌してらっしゃい!」
と、満面の笑みで謎の期待をされたのである。
魔王討伐の為にも、魔法の習得が何よりも大事だと俺は思うのだが……。
しかし長年生きてきた俺も、初めて体験する学校生活というものに興味はある。
魔法を習得するという目的以外にも、学校生活でどの様な出会いを果たし、そこにどの様な物語があるのか――それを知りたいという目的があった。
「憧れの『魔法』を習得できる好機……楽しみね」
フィリアは笑顔で、わくわくと興奮気味に言った。
「ああ、そうだな」
俺は軽く頷き、フィリアに賛同する。
まぁ、フィリアの言う通り、魔法は実に多種多様であり、日常的に便利なものや、戦闘を有利に進める事の出来るもの等、どれも習得して損はするまい。
フィリアも魔法を極めれば、ハイネや騎士団長を上回る戦闘力を得る事が出来ると言うのも虚言では無かろう。
魔法の力というのは、俺が一番解っている事なのだから。
「じゃあもう、早めに支度して学校に向かおうかしら?」
「そうだな。初日は余裕を持って登校した方が良さそうだからな」
俺が言う様に、当然、時間に余裕を持たせる目的もあるのだろうが……フィリアの場合は、学校生活が楽しみだから、早めに魔法学校の様子を見たいという目的の方が大きいだろう。
そして、俺達はベッドの脇に用意された、新品の『制服』に着替え始める。
勿論、お互いの着替え姿を見る訳にはいかないので、両者とも背中を向けて着替える事を、この一ヶ月の間に習慣づけていた。
魔法学校指定の『制服』は世にも珍しい、フードとベルト付きで、胸元に校章のエンブレムが取り付けられた、前が開いた形状のローブである。
魔法学校は通常、生徒の属性に基づいてクラス分けを行っており、火属性なら火属性持ちの生徒を集めたクラスを、風属性なら風属性持ちの生徒を集めたクラスを……という風に、同じ属性を持つ同学年の生徒を一つのクラスに纏めて授業を行っている。
また、生徒それぞれの属性に合わせて、制服全体の色や胸元のエンブレムの色が変わっており、人目でその生徒の持つ属性が判るようになっている。
俺の制服――闇属性の生徒専用の制服は全体的に黒く、エンブレムは紫色で、何処と無く暗い雰囲気を纏わせている。
それに対し、フィリアの制服――雷属性の生徒専用の制服は全体的に黄色く、エンブレムは白色で、遠目からでも目立つ色をしている。
ローブの中に着る服は派手なものでなければ比較的自由であり、俺は上下共に動きやすい上着とズボンを、フィリアは動きやすそうな上着にスカートという、普段とほぼ変わらない服装を着ている。
「へぇ……中々似合うじゃない」
着替え終わった俺の制服姿を見て、フィリアが感心したように頷きながら感想を口にする。
「そんな事無いだろう? フィリアの方が余程、俺よりも良く似合ってるよ」
俺はフィリアの感想を否定しつつ、今度はこちらから感想を笑顔を浮かべながら述べる。
「そ、そうかしら? クロトがそう言うのなら、お世辞でも嬉しいわね」
俺の感想を聞いて、フィリアは照れた様に紅潮し、笑みを浮かべて人差し指で紅潮した頬を掻いた。
そんなやり取りをしていると、不意に玄関からコンコンという、聞き慣れた扉のノック音が聞こえた。
俺が玄関に向かいその扉を開くと、案の定、扉の向こうにはハイネが立っていた。
「お早う、二人とも。今日から魔法学校での学校生活が始まるわね!」
ハイネは何時もの調子で、元気に挨拶する。
「お早うございます! 魔法学校での生活、楽しみです!」
相当浮かれた様子のフィリアが、意気揚々とハイネに挨拶する。
「お早うございます。今日から魔法の習得に向けて気を引き締めて行こうと思います」
俺もフィリアに続いて挨拶する。
するとハイネは、ほんの数秒間、俺とフィリアをじっと見つめると、明るい笑顔を浮かべて口を開く。
「……うんうん、二人とも、制服姿がすっごく似合ってるわよ! 自分の学生時代を思い出しちゃうわ!
魔法の習得、頑張ってきなさい!」
「「はい!」」
笑顔で俺達を励ますハイネに、俺とフィリアは感謝の意を込めて返答する。
「じゃあ、私は仕事に向かうわね。
帰ってきたら、学校の感想宜しくね! あと、しっかり青春を満喫するのよ?」
「「は、はい……」」
そう言って部屋を去っていくハイネに、俺とフィリアは返答しつつ苦笑いを浮かべる。
ハイネの事だ。恐らくは事の詳細まで詳しく質問責めに会うハメになるだろう。
「……さて、じゃあ、後は荷物を纏めて学校に向かいましょ!
学校の雰囲気はどんな感じかしら?」
フィリアは期待していた魔法学校での生活に、ワクワクと興奮が冷めやらぬ様子で言った。
「そうだな。とは言え俺は、既に必要な物は全部収納スキルに入れておいたが……」
「あ、そう言えばアンタ収納スキル持ってたわね。 こういう時にはホントに便利なスキルね……」
フィリアは入団式の前に俺が行ったマジック――という名目のインチキゲーム――で、俺が収納スキルを使っていたのを思い出していた。
「私の荷物も収納スキルに仕舞ってくれないかしら?」
「……悪いが、収納出来るのは使用者の私物だけだ」
「えぇ……ケチなスキルね」
スキルの制約を聞いて、フィリアは不服そうに文句を言う。
スキルへの文句を俺に言われても、どうしようと無いだろうに……。
「まぁしょうが無いわ。 私はもう準備終わったから、クロトも準備が終わったら行きましょう」
「ああ、俺も準備は終わっているぞ」
準備が終わっている……と言うか、正確には必要な場合用具を全て収納スキルに仕舞っただけなのだけれど。
「相変わらず早いわねー。じゃあ、まだ早いけれど、もう学校に向かいましょ!」
楽しげに言うフィリアに俺は頷き、部屋を出て、魔法学校へと向かい足を進めた。
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王城を離れ、フィリアと共に魔法学校を目指してレンガ造りの街並みを歩く事数十分。
慣れない制服を着ている為に、フィリアは街を行き交う周りの人々の視線をキョロキョロと気にしながら歩いていた。
一度、俺が魔法学校に足を運んだ事もあり、魔法学校の位置を探す手間も無く、円滑に最短距離を歩く事が出来ている。
「全く、魔法学校に行った事があるなら、早く言ってくれれば良かったのに」
不服そうな顔で、フィリアは俺に言った。
「悪い悪い。ただ外見を見に行っただけで、詳しい所まで見ていないから、話しても詰まらないかと思ったんだ」
そんなフィリアに対し、俺は笑顔で誤魔化す。
「まぁ、お陰で私一人で行くよりも早く着きそうだから良いけどね」
俺の返答を聞き、フィリアはそう言って納得する。
入団式の時はグリルと共に、王城内部の構造を覚えておらず、一つの部屋を探すのにも戸惑っていたので、仮にフィリア一人で向かわせたとするならば、遅刻していた可能性もあるだろうな……。
そんな会話をしていると、遂に目指していた魔法学校が目の前に見えた。
改めて見ても、山のように聳えるその建造物は王城に比肩する程の大きさを誇っており、魔法学校の規模と威厳を語っているようだった。
「でかっ……思っていたのと、大分スケールが違うわね……」
その外見のみでフィリアは圧倒され、口を開きながらただただ率直な感想を呟くのみであった。
「ああ……それは俺も初めて見た時に思った」
その反応が、初めてこの学校を見た時の俺と似ていたので、俺はフィリアの呟きに頷いて賛同する。
「でも、これだけ学校が大きいのなら、それだけ『普通』とはかけ離れた様な生活を体験できるって事よね?
なんだか私、ワクワクしてきちゃった!」
呆然としていたフィリアは、不意にハッと意識を取り戻し、今度は再び学校生活の様子を思い描いて興奮している様子を表した。
まぁ、確かにそうだろうな。
魔法を扱う学校など、他の街や国などからすれば、正に前代未聞と言えるだろう。
「じゃあ、中に入るぞ。
俺達の教室は、本棟の四階だったな」
「ええ、行きましょう」
俺がフィリアに教室への移動を促し、フィリアはそれに賛同して歩き始める。
騎士団長から事前に聞いた、俺達が在籍するクラスは、通称『特別学習クラス』と呼ばれる、通常は成績上位の生徒……つまりは優等生のみが大勢の生徒の中から選ばれて在籍する事のできる、優秀な人材を育成する為の学級との事だった。
そのクラスは他の学級と異なり、全ての学年から優秀な生徒を一人、或いは二人抜き出して構成された特殊な編成となっている様だった。
つまり、本来は属性分けによって別のクラスに在籍する筈の俺とフィリアは、同じクラスに在籍するという事になる。
何故なら――これも騎士団長から聞いた話だが、俺達は騎士団の筆記試験を合格した優秀な人材であり、何しろ一年間の内に魔法を習得しなければならないから、との事だった。
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魔法学校の内部にて、俺とフィリアは自分のクラスを目指して移動していた。
本来ならば、通学路の時点からすれ違う筈の生徒達は、王城から此処に来るまでの間に誰一人としてその姿は見られなかった。
故に、転校生である俺達の姿を見て噂をする生徒達は、誰一人としていなかったのである。
そう、何故なら――クラス全体で俺達の紹介を行う為に、敢えて他の生徒達が既にクラスに集合する時間に指定の学級へと向かうよう、打ち合わせを行っていたからである。
そして、本棟三階の廊下を渡った先にある教室――『特別学習クラス』と書かれたプレートが扉付近の壁に取り付けられた学級――の前に立ち、『聴力強化』にて教室内の様子を伺う。
「……えー、突然のお知らせですが、何と今日から新しい生徒が二人、このクラスに在籍する事になりました!
何と、騎士団所属の新人兵士さんとの事です!」
どうやらクラス担任の教師という者が、俺達の紹介を行っている様だ。
声を聞く限り女性の様だが、声色がかなり若い……と言うより、かなり幼い様にすら感じた。
まぁ、人間の声帯なんて十人十色なのだから、成人の女性でもその様な声を出す事は有り得るのかもしれないが……。
とにかく今は教室内の会話を聞き取るのに集中したいので、そんな事は気にしなくて良いだろう。
「えっ!? 転校生!?」
「男? それとも女!?」
「騎士団所属……ってマジかよ!!」
転校生と聞いて興奮する生徒達による教師への質問責めにより、教室内には廊下に響くほどの騒めきが起こっていた。
聴力強化を使わなくても、十分に生徒の会話が聞き取れる程だ。
「お、落ち着いて下さい! まだ先生も転校生の顔を窺っていません!
あっ、丁度その二人が来ているみたいですね!」
生徒達の騒めきに対する、担任教師の焦る声が聞こえる。
教室の扉には磨りガラスが取り付けられており、担任教師はその磨りガラス越しに見える俺達のシルエットを見て、俺たち二人の存在を認識した様だ。
「転校生のお二人さん、どうぞ入って下さい!」
「あら、呼ばれたわね。じゃあ入りましょうか」
「あぁ、そうだな」
担任教師の明るい声色に誘導されて、俺が扉を開き、フィリアが俺の後ろに続く形で教室に入室した。
教室内に居る生徒の数は、およそ30名程度で、様々な学年が集まっているという情報通り、生徒の見た目の年齢はバラバラだった。
男女比はバランス良く1:1となっている様だ。
「おおおおおお! 金髪の子可愛いぞ!」
「二人とも女の子か、やったぜ!」
「アホか! 片方は男だろ!」
「いやしかし、顔はどう見ても女――」
「だったら片方スカート、片方ズボンって可笑しいだろ!」
入室した俺達の姿を見て、まずフィリアに対する感想が聞こえてきたが、それからは俺の性別に関する議論が始まっていた――、
が、俺達はその議論よりも、まず教室に入室して真っ先に視界に写った、クラス内の人間の中でも唯一、壇上に立つ人物――つまりは担任教師――の姿を見て、呆然とした表情を浮かべた。
「……子供?」
その担任教師の姿に対する第一印象を、率直にフィリアが口にした。
そう。担任教師の姿は大人の女性……ではなく、どう見てもフィリアより年下の女の子であった。
身長はおよそ140cmで、小さく細い未発達の身体に、頭以外の全身を覆うブカブカのローブを羽織っている――青色の髪に緑の目を持つ幼い少女が、俺達二人を壇上から見上げていたのだ。
「私の事はどうでも良いのです! それよりも、お二人さんには軽く自己紹介を行って貰います! では、白髪の君からどうぞ!」
その担任教師は、フィリアに「子供」と言われて腹が立ったのか、ヤケ気味に話を逸らした。
と言うよりも、話を逸らしたのはフィリアの一言の方だったか。
「……気になるけれど、今は場の空気を読むのが優先ね。ほら、自己紹介アンタからでしょ?」
「ああ……」
フィリアと同じく、何故これ程までに幼い少女が特別学習クラスの担任教師を務めているのかという事情は気になるが、まずは場の空気を乱してはならないだろう。
ここは軽く、普通に自己紹介を行うとしよう。
「……騎士団からの推薦によって入学しました、クロト=ルミナです。宜しくお願いします」
自己紹介と言われても何を言えば良いのかはよくわからないが、恐らく今の自己紹介はマトモなものだっただろう。多分。
「おお……! クールな雰囲気!」
「制服似合うし、格好いい!」
「……それで、男? 女? どっち?」
俺の自己紹介に対する感想と共に、性別に関する疑問が投げ掛けられる。
「……自分の性別は、女ではなく男です」
俺は溜め息をつきながら、その疑問に答えた。
マトモな自己紹介で終わるつもりだったが……やはり、性別を勘違いされたまま覚えられては、この先困るだろう。
「マジ? 男? あの顔で?」
「言われてみれば、そう見えるかも……」
「じゃあ、美少女……じゃなくて美男子だ!」
などという生徒達の声が聞こえ、軽く悪口を言われている様な気もするが……まぁ、あまり突っ込むのも面倒だ。
「アンタ本当、よく性別勘違いされるわね……」
俺の隣から、フィリアが呆れ顔を浮かべて同情する。
魔王だった頃も性別はよく間違えられたものだが、人間界に来てからは、俺に対する性別の誤認が更に悪化している様な気がするな……。
最早、一種の宿命とも言うべきだろう。
「あはは……ウチの生徒がすみません……。
では、次は金髪の君に自己紹介をお願いします!」
担任教師の少女もまた苦笑いを浮かべ、フィリアと同じ様に同情する。
全く、こういう時には自分の中性的過ぎる顔が憎い。
とは言え、この顔のお陰でフィリアの様な少女に警戒される事も無く馴染めたりするので、憎むに憎めないものだが……。
「えーっと……同じく、騎士団からの推薦で入学しました、フィリア=ランベリーです! 宜しくお願いします!」
フィリアは俺と同様に軽く自己紹介を行い、一礼する。
やはりフィリアの感覚からしても、先ほどの俺の自己紹介はマトモな内容だった様で安心した。
「今度こそ、本当に女の子だ!」
「かっわいいー!」
「制服似合うよー!」
女子生徒が増える事を歓喜する男子生徒達と、フィリアのルックスを褒める女子生徒達が盛り上がり、再び教室内に騒めきが起こる。
「あはは……有難うございます……」
歓声を浴びる事に慣れていないのか、フィリアは照れくさそうに苦笑いを浮かべて礼を言った。
「あーもう! 皆さん落ち着いて下さい!
お二人さんは二人とも、年齢は17だと伺っています!
年下の生徒も年上の生徒も、仲良く付き合って下さいね!」
担任教師が明るく生徒達を宥めて、俺達の年齢を紹介する――が、担任教師が紹介したその年齢は、両者とも誤った数値であった。
俺達の年齢は、事前にハイネに訊ねられた。
そこで聞いたフィリアの年齢は、本人曰く16歳との事。
しかし実年齢が百万を超える俺は当然、本当の年齢を教える訳にもいかず、18と答えた所、ハイネとフィリアは同時に驚愕の表情を見せ、『そうは見えない!』と口を合わせて叫んだのである。
そう言われた時は、流石に18は無理があったか……と思ったが、寧ろ二人には俺の見た目がもっと若く見えていたらしい。
フィリアに至っては、『同い年に見えた……』と、呆然とした表情で呟いていた。
何故18と答えたかと言うと、転生前の俺の身体のの成長は18歳の頃から止まり、その後から変化しなくなったからだ。
転生後の現在の姿は、転生前の姿と殆ど変わらなかったので、年齢を聞かれれば18と答えるのが無難だと思っていたのだが……どうやら他人から見ると、もう少し若く見えるらしい。
まぁ、恐らくはこのクラスの生徒の平均年齢に合わせて俺達の年齢を伝えてあるのだろう。
軽く年齢詐称になりそうな気もするが、今更それを訂正するというのは、場の空気を乱しかねないので止めておく。
どの道、フィリアと同い年に見えるのであれば、誰からも疑われる事は無いだろう。
「じゃあお二人さん、一番後ろの列に空いた席が用意されているので、そこに座って下さいね! 隣の席の人も、お二人さんと仲良くして下さい!」
担任教師に指示され、俺とフィリアは指差しで示された席に向かった。
壇上から見て、横に6列、縦に5列……合わせて30人分並べられた席に生徒全員が座っている。
俺達はその後ろ、縦6列目に横に並べられて用意された二つの空いた席へと移動し、その椅子に腰掛けた。
「ふぅ……席に着くと落ち着くわね」
俺の隣の席に座り、一息着いたフィリアが俺に話しかける。
「ああ、そうだな」
まぁ、確かにクラス全員の前に立って自己紹介するというのは、そういう場に慣れていないフィリアに取っては緊張して落ち着かないかもしれないな。
魔界を統治していた俺にとっては、数十人の前に立って短い話をする程度の事、何の緊張も感じないのだが。
そんな事を考えていると、教室の隅に置かれた連絡用魔水晶――王城にある物と同じ――から、不意にチャイムの音が鳴った。
キーンコーンカーンコーン……という、鐘が響くような音。
ハイネからは、この音は授業の開始、終了の時刻等をを知らせる時報の様なものだと聞いている。
つまり、現在の授業……HRの時間が終了し、放課の時間の訪れをチャイムが伝えたという事である。
「あ、もう授業が終了しちゃいましたね!
先生は一旦、職員室に戻りますので、生徒の皆さんは放課中は新入生のお二人さんと仲良くしてあげてください!」
クラスの生徒達にそう告げ、担任教師は忙しく教室を出ていった。
「……何だか、見た目はあんなに幼いのに、苦労人って感じの先生ね」
その様子を見ていたフィリアが呆れ顔で言った。
「……確かにな」
俺はフィリアに賛同して頷いた。
「あの先生は忙しいんですよ。
それよりも、お久しぶりです、クロトさん!」
そんな会話をしていると、不意に俺の手前の席に座る女子生徒が振り返り、俺に声を掛けてきた――が、その言葉の内容と、見覚えのあるその女子生徒の顔を見て、俺は堪らず驚愕する。
「え……君は……!?」
驚くべき事に、その女子生徒の正体は、騎士団入団試験を受ける前に出会った、黒髪紫眼の魔法学校の少女――ミキ=バイオレットであった。
まだ序盤までしか進行していませんが、これから面白い内容になる様に考えていきたいと思います。
リミアやディザスター視点のお話も後々進めていきたいところです。




