27話:そして勇者へ
前回に引き継ぐ戦闘回。
作者が素人故、白熱した激闘を、臨場感ある文章にするのは難しいです……。
〜人間界〜
疾走により距離を詰めた俺は、鋼の剣で騎士団長が手に持つ剣に斬撃を放つ。
「やはり疾いな……だが甘い!」
騎士団長はそう言うと、手に持った剣を構え、俺の剣を受け止めた。
そして鍔迫り合いの状態になったまま、騎士団長は言葉を続ける。
「お前の疾走……高速移動スキルか?
確かに疾いが、移動中の動作の制御が難しい事が弱点の様だな。
剣の振り方が、まるで『見切ってください』と言っているような大振りだぞ」
先程のフレイド=アルムズとの戦いを観察していた騎士団長は、俺の『高速移動』スキルの弱点を分析していた様だ。
騎士団長の言う、弱点というものは正しい認識だった。
この高速移動スキルは、思考加速100倍を使おうと、攻撃どころか方向転換の制御すらも難しい……と言うより、自身の速度に頭で追いついても、身体が追いつかないのだ。
故に、高速移動スキルでの特攻は、この速度に着いていけない者のみに通用する。
まともに当てる事さえ出来れば、剣を振るう自身の腕力と、高速移動の速度との相乗効果によって強力な斬撃を浴びせる事が出来るが……逆に、この速度を見切れる者――騎士団長にとっては、只の大振りで隙だらけの攻撃へと成り下がってしまう。
ディザスターの時も、その大振りの攻撃を見切られないように、背後から切り掛かったのだ。
まさか、人間である騎士団長に見切られるとは思わなかったが……。
先程から騎士団長が受けの体制でいるのは、俺の攻撃を全て読み、受け止める自信があったからだろう。
「ハアッ!!」
そして俺と鍔迫り合いを続けていた騎士団長が高らかに声を上げ、俺の剣を押し返す。
俺が身体強化スキルで筋力を上げているにも関わらず、だ。
そして剣を押し返された事によって、体制が崩れた俺に騎士団長が掴みかかろうとする――が、俺は咄嗟に高速移動スキルを発動させ、後方へと距離を取った。
「そのスキル……攻撃と回避を両立しているとは厄介だな。
だが、結局はそれだけだ。
そんな単調な攻撃では、何度来ようと私に当てることは不可能だ」
と、騎士団長は冷静な表情を崩さぬまま、強気な口調で言った。
実際、その台詞の通りだろう。
軽々と高速移動スキルでの攻撃を受け止められた以上、同じ手は通用しない。
複雑な攻撃も不可能な上、こちらが移動に使う体力を消費する事に対し、騎士団長はその場を動かずに俺の剣を受け止めるのみ。
同じ攻撃を繰り返すだけ、こちらが体力を無駄に消耗するだけだ。
「……仰る通りです。ですが――これならどうでしょう?」
俺は騎士団長に言うと、高速移動スキルでは無く、身体強化スキルにて移動を行い、騎士団長との距離を一瞬にして詰める。
「同じ手を……いや、寧ろ、先程よりも遅い……?」
違うスキルを使っている事に気づいていないのか、騎士団長は疑問を浮かべつつ、即座に防御の構えを取った。
そして騎士団長の2メートル手前まで接近した瞬間、俺は移動の軌道を変え、騎士団長の周りを円形に囲む様に、速度に緩急を付けながら移動する。
次の瞬間、俺が移動する軌道上に、無数の俺の残像が作られた。
「ほう、これは……」
それを見て、騎士団長は一瞬だけ驚きを表情にて呟き、直ぐに冷静な表情へと戻して、自身の周囲を移動する俺の姿を見回す。
「おいおい、アイツの分身が見えるぞ!?」
「一体、どれ程の速度で移動してんだ!?」
「まさか、幻覚か……!?」
周りの兵士は俺の分身を見て蛙鳴蝉噪しているが、騎士団長はそれを意に介さぬ様子で、俺の出方を冷静に窺っていた。
そして、騎士団長の背後から意表を突くタイミングで俺が斬りかかる。
「甘い!」
しかし、騎士団長が叫ぶと共にこちらを見ないまま剣を背後に構え、俺の剣は受け止められた。
「なっ……!?」
俺は、とても人間業とは思えない騎士団長の防御に驚愕して声を上げるが、直ぐに冷静さを取り戻して騎士団長から距離を取り、再び先程と同じ様にして分身を作った。
「フン、咄嗟に反撃を読んで距離を取ったか……全く、戦りづらい相手だ」
騎士団長は不敵に笑い、再び剣を構えて俺の出方を探る。
そして騎士団長が左を向いた瞬間、俺は背後では無く、右方向から斬り掛かった。
「無駄だ」
騎士団長はそう言うと、またしても反対方向を向いたまま、剣だけを俺の斬撃の軌道に合わせて構えて防御する。
だが、予め防御されるのを予想していた俺は、今度は瞬間的に距離を取って分身を作り、またしても騎士団長の意表を突く方向から攻撃を仕掛ける。
その攻撃もまた受け止められるが、俺はその度にヒット&アウェイを繰り返し、やがてそのやり取りは加速し、他の兵士達の目に留まらぬ速度にまで達した。
その速度に追いついていると言うことは、少なくとも騎士団長も何らかのスキルを使っている事は間違いないだろう。
俺達の動きは既に兵士達には認識出来ず、訓練所に響く、剣と剣とがぶつかり合う金属音のみがハッキリと兵士達の耳に響き、今尚、激しい剣戟が行われている事を証明している。
「ま、マジかよ……二人の動きが全く見えねぇぞ?」
「二人共、バケモンじゃねぇか!!」
「あの新兵、何者だ……?」
周りの兵士達がより一層騒がしくなるが、それでも両者の激しい攻防は止まらない。
だが――やがて俺の攻撃パターンが読まれ、騎士団長は俺の剣を受け止めると、即座に俺の腕を掴み、全力の力を以て地に投げ倒した。
「痛っ……!!」
地面に衝突した背中に伝わる衝撃に、俺は思わず声を上げる。
しかし、俺は咄嗟に手に持った剣を収納スキルで収納すると、自身の腕を掴む騎士団長の腕に両手両足でしがみつき、左足を腰の回転の力を加えつつ騎士団長の首に引っ掛け、逆に騎士団長の身体を地に倒した。
俺の近接戦闘技術に、身体強化スキルでの筋力強化を乗せた組み技。
幾ら身体を鍛えている兵士であろうと、咄嗟に繰り出されたこの技に耐えるのは不可能だ。
「ぐっ――!!」
俺はそのまま腕にしがみつき、規定上、戦闘不能と認められる間まで組み伏せようと、更に力を込める。
「フンッ!!」
しかし騎士団長が叫ぶと共に俺の身体は強靭な腕力にて振りほどかれ、止む無く俺は再び距離を取ることになった。
俺が距離を離した事により、試合開始の状態と同じ様に、両者は20メートル程の距離を取っている。
収納スキルから剣を取り出して構える俺に対して、騎士団長も同じく剣を握り直し、その剣先を俺に向けていた。
……強い。
この数分間の戦いで出た、俺の率直な感想であった。
少なくとも、俺が戦った人間界の生命体の中で、最も苦戦を強いられている。
今の俺が、人間界に来てから最高のステータスを得ているにも関わらず、だ。
騎士団長を名乗るだけあって、やはりその実力は騎士団の中でも群を抜いている様だ。
「フッ、やるな。騎士団の中でもお前以上にこの私と渡り合える者はおらん。
だが、お前の攻撃は見切った。
私には、一度攻略した戦法は通用せんのだ」
そして騎士団長は剣を地面に突き、自信満々に宣言する。
俺に勝機が無い、とでも言いたいのだろうが……生憎、まだ俺の全てを出し切った訳では無い。
「その通りです……しかし、勝ち誇るにはまだ早いですよ」
「何だと……?」
俺は不敵な笑みを浮かべつつ、騎士団長に告げる。
騎士団長は俺の言葉の意図が伝わっておらず、その表情には動揺が窺える。
人間相手に使う事はあるまいとは思っていたが……仕方があるまい。
それ程までに、目の前の相手は強者なのだ。
勿体振る必要も無いだろうし、遠慮なく使わせて貰おう。
二刀流を────!
俺はもう一つの剣である、鉄の剣を抜くと、再び騎士団長に向かって疾走を始めた。
そして先程と同じく、騎士団長の周りを囲む様にして分身を形成する。
「ほう、双剣か。
手数で攻めるつもりなのだろうが……左右の手で別々の剣を操る以上、攻守のバランスが崩れやすくなりがちだ。
私にとっては寧ろ、防御しやすくなるだけだぞ?」
騎士団長は冷静に、かつ自信満々に告げる。
確かに、双剣は手数が増えて攻撃範囲が広くなる利点があるが、一本の剣を片方の手で別々に扱う故に、一撃の斬撃力は半減以下になり、攻撃も雑になりがちという決定的な欠点がある。
しかし俺はそれを気にせず、先程同様に、増えた手数でヒット&アウェイを繰り返す。
それに対して、騎士団長は冷静な表情を崩さぬまま、的確な防御を続けていた。
しかし――
「ぐっ……馬鹿な。
この私が押されている――!?」
予想外の事態に、騎士団長は困惑した表情を浮かべ、完璧かと思われた防御が、徐々に俺の動きに対応出来なくなりつつあった。
それもその筈。
俺の二刀流に、騎士団長の言う弱点は存在しないのだから。
まず、俺は両利きであり、攻守のバランスが崩れることが無い。
また、身体強化スキルのお陰で、分散された力を充分に補っている。
そして、第二知能の自立思考により、俺は片方の剣のみに集中し、もう片方の剣は自立思考が自動で操ってくれる為、完璧な攻守バランスを保っているのだ。
最も、ここまで全力でスキルを駆使せずとも、俺の二刀流に敵う相手は存在しないとは自負しているが……何しろ今の俺は人間の体。
更に相手は、俺の想像を超える実力を持つ強者。
決して過信は出来ないのである。
そして、俺が騎士団長を追い詰める様子を見ていた周りの兵士達は――
「お、おい? まさか団長が負けちまうんじゃねぇか!?」
「馬鹿な……有り得ん!!」
「あの白髪、マジで新兵かよ!?」
俺という新兵が騎士団長との実力差を覆す、未曾有の光景を見逃すまいと、全員の視線が俺達の試合に集中し、会場全体に声が行き渡る程に騒めいている。
「くっ……!!」
騎士団長は今尚、俺の激しい猛攻に対して呻きつつも耐えるが――その防御が崩れるのは最早、時間の問題だった。
そして……不意に放った俺の切り上げにより、遂に騎士団長の剣は手に持ったまま上方向に弾かれ、騎士団長は若干仰け反る様にして体制を崩す。
「ハァッ!!」
そして俺はその隙を見逃さず、騎士団長の剣に向かって、双剣にて挟み込む様に鋭い斬撃を放つ。
「う……おおッ!!」
騎士団長は叫び、咄嗟に体制を立て直しつつ、身体の回転を加えたまま、俺の双剣での同時攻撃を回避すべく、俺の片方の剣を弾こうと剣を振るおうとする――が、その剣が振るわれる前に俺の双剣は騎士団長の剣を捉える。
そして会場全体に鳴り響く高い金属音と共に、騎士団長の剣はその手を離れ、勢いよく回転しながら空高く宙を舞い、放物線を描いて落下し、地面へと突き刺さる。
「「「………………」」」
周りの兵士達は、何が起こったのか理解出来ず……否、目の前の出来事が本物であるか、暫くの間、誰しもが自身の目を疑い――そして、
「「「ウ……ウオオオオオオッ!!」」」
その場の全員が、手に持った剣を掲げて雄叫びを上げる。
今度こそ、改めて勇者の誕生と――歴史上最高峰の実力を持つ兵士の存在を称える為に。
そして、俺に剣を弾かれてから今まで、自らに起こった出来事を未だ飲み込めない様子で静止していた騎士団長が唐突に口を開く。
「……フッ、私の負け、か。
認めよう。お前こそ――真の勇者だ」
そう言いながら俺の方に近づき、俺に手を差し出した。
「……有難う御座います」
俺は笑顔で返答し、その手を握った。
難しい言葉は要らないだろう。
お互いの実力を認め合うには……先程の試合で充分過ぎるほどだったからだ。
「クロトっ!!」
そう俺と騎士団長がやり取りをする中、フィリアは俺の名を呼び駆け付ける。
「凄いわね……本当に騎士団長に勝っちゃうなんて。
改めて、アンタの強さが私とは別次元に存在する事が分かったわよ」
フィリアが驚愕と一種の呆れの様な感情を表情に浮かべつつ、賞賛の言葉を俺に伝える。
「それにしても、さっきから使っているスキルって……私と同じ『身体強化』じゃないの?」
そしてフィリアは首を傾げ、俺の戦う様子を見ている間に浮かんだのであろう疑問を俺に問いかける。
「ああ。その通りだ。
俺は他人のスキルを複製して扱う事の出来るスキルを持っているから、それでフィリアのスキルを複製して使っていたんだ」
「はぁ!? 他人のスキルを複製!?
って事は、アンタ今どれだけ沢山のスキルを持ってるのよ!?」
冷静に返答する俺に対し、フィリアは驚愕を顕にして突っ込む。
「いや、ちゃんと制限はあるぞ。
通常能力しか複製出来ない上に、複製する相手のスキル名とその詳細を知らなければいけないんだ。
相手に直接触れる必要もあるし、一回触れる事にランダムで一つのスキルしか得られないからな。
因みにこのスキルを手に入れたのは、実技試験終了後の事だ」
「じゃあ、まだ私のスキルしか手に入れて無いって事?」
俺が続けて行った説明に、フィリアは再び別の疑問を問いかけ、俺はそれに返答する。
「いや、実はグリルと最初に握手した時に『反逆斬』を手に入れようとしたんだが……獲得したのは『筋力強化』スキルだった」
「なんて言うか……アンタ、ちゃっかりしてるわね。
じゃあ、実はさっきから『身体強化』と『筋力強化』の両方を使っていた訳かしら?」
フィリアは最初の台詞を呆れ顔で言いつつ、次に首を傾げて質問する。
「その通りだ。レベル3とは言え、流石に身体強化スキルだけであの体格差を補うのは厳しいからな」
「ちょっ……!! 今さり気なくレベル3って……!?」
俺の一言に、フィリアは驚愕した表情を浮かべて反応する。
自分のスキルを複製された相手に、レベル差を着けられては当然の反応だろう。
「あぁ、前に説明した通り、俺の戦利品増加スキルは、相手から複製したスキルにも適用される様だ。
だから複製した最初から、スキルLvは高くなるという訳だ」
「はぁ……鬼に金棒というか、元々バケモノ級の人がそんなスキル持っちゃダメでしょ……」
フィリアは苦笑いで、呆れた様子で呟いた。
そしてそのやり取りを横で見ていた騎士団長が、俺達の会話にキリがついた所で口を開く。
「成程……道理で私の『未来予知』スキルと、『不撓不屈』スキルを持ってしても、お前の攻撃に対応し切れなかった訳だ」
俺の所持するスキルの内容を聞いて、騎士団長は納得する。
「その二つのスキルは、どの様な効果なのですか?」
俺は騎士団長に問いかける。
俺が手の内を明かした以上、騎士団長も無意味に断る事はしないだろう。
「あぁ、『未来予知』スキルは戦闘時のみにおいて、相手の動きが数秒間先まで読めるという効果だ。
因みにハイネも同じスキルを所持している。
そして『不撓不屈』スキルは、精神的に相手に屈しない限り、身体能力、回復力、精神力など、あらゆる能力が何倍にも強化される効果を持っている」
「えっ……ハイネさんも『未来予知』を?」
淡々と説明をする騎士団長に、その説明で気になる点を感じたフィリアが質問する。
「あぁ、その通りだ」
騎士団長はさも当然かの様に頷き、一言で返答する。
しかし……成程。
フィリアとハイネが戦った時、ハイネがフィリアの姿を目で捉えていなかったにも関わらず、正確な防御が出来ていたのも、その『未来予知』スキルを駆使したからだろう。
それよりも、『不撓不屈』スキルの効果に対してだが……精神的に相手に屈しないのが発動条件だというのに、発動中は精神力が上がるという事は、つまり、一度そのスキルを発動できた相手に対して、精神的に屈する可能性は限りなく低いと言う事か。
そもそも、騎士団長としての威厳を持つ者が、精神的に屈する相手もいないとは思うのだが……。
「はあ、それは凄いんですけど……周りの人がそんな強力なスキルを持っているのに、私だけ普通のスキルぐらいしか持っていないのは、何だか肩身が狭い気持ちです……」
フィリアは苦笑いを浮かべて言った。
周りの人達が……と言っても、ハイネは魔法剣士として認められている優秀な上官であり、騎士団長ともなれば、その実力の高さは言うまでもなく、先程窺い知る事は出来ただろう。
今は新兵とは言え、俺だって元は長年の間、戦争に身を置いていた魔王だからな。
フィリアが自身と比べているのは、そういった人物達なのだ。
言ってしまえば、まだ十代の少女が目指すべき領域では無いのである。
寧ろ、今のフィリアの実力でも、充分に騎士団の戦力となるのだから、何も落ち込む必要はないだろうに。
「いやいや、フィリアにも固有能力はあるだろ?」
「そうだけど……それでも、アンタみたいな奴には勝てないじゃない」
俺はそう言い、フィリアをフォローする。
しかしフィリアは腕を組んで、浮かない表情で否定する。
「フィリア=ランベリーよ。
強さというものは、一朝一夕で身につくものでは無い。
幾多もの努力を重ね、経験を積むことによってこそ、始めて実力が身についたと言えるのだ。
お前はまだ若く、そして年相応以上の実力を持っている。
お前の実力は、私が責任を持って保証しよう」
「あ……有難うございます!」
フィリアは驚いた表情を見せつつも、直ぐに頭を下げて礼を言う。
何しろ、騎士団長の太鼓判なのだ。
フィリアにとってそれ以上、求める言葉は何もあるまい。
「さて、これで正式にお前がとなるに相応しい実力の持ち主であると認められた訳だ。
という訳で、今からお前には国王陛下に直接ご挨拶をしに同行して貰う。
ただ顔を見せるだけの様なものだから、そう固くならなくて良いぞ」
「えっ!? 今から……ですか?」
「うむ、その通りだ」
唐突に告げられたこの先の予定に対して、フィリアが驚愕しつつ騎士団長に質問し、騎士団長は平然とした様子で答える。
「えぇ……凄いわね、クロト。
国王陛下と直々にご対面なんて、羨ましい限りよ」
「ん? 何を言っている? 先程の試合を見ていたお前も、証人として付き合ってもらうぞ?」
「……えっ!? 私も!?」
「そうだ」
自分は例外だとすっかり思い込んでいたフィリアは、自分も同行するという決定事項に驚愕を隠せない様子だ。
確かに、フィリアの様な若者や庶民は、国王との面会ともなれば、相当に緊張してしまうものだろう。
何しろ、相手は一国の統治を担う最高権力者なのだ。
失礼があっては、自分の身がどうなるか分かるものではない。
下手に礼儀正しく振る舞おうとしても慇懃無礼になりかねないのだから、より一層慎重になり過ぎてしまいがちなのだ。
とは言え、俺は魔界では同じ様な立場だったし、統治する民は数百万種類の魔族生命体なのだから、王としての立ち振る舞いや相手の見方は全て把握している。
だからこそ、自分が逆の立場に立った時、相手にどう対応すれば良いのかが解るのだ。
まぁ、フィリアが王の前でヘマをした時は、出来る限り俺がフォローすれば良いだろう。
そもそも、今回の面会の主体は俺なのだから、フィリアの失敗はあまり問題視されないとは思うが。
「国王陛下には既に話をつけてある。
では、早速向かうとしよう。」
「えっ……まだ心の準備が……」
唐突な出来事に追いつかず、フィリアは焦りが生じている様子だ。
そんなフィリアを横目に、俺は騎士団長に追従して歩き始める。
その様子を見て、フィリアは腹を括ったのか、唾を飲み込んで覚悟を決めると、俺の後に続いて歩き出した。
しかし――俺達の様子を見ていた、周りの兵士達が辺りを取り囲む。
数百人の兵士が行く手を阻むその出来事には何事かと思ったが、次の瞬間、その兵士達は一斉に口を開く。
「すげぇな新兵!!」
「そんなに若いのに勇者だと!?」
「どんな訓練をしたんだ!?」
「王との面会だなんて羨ましいぜ!!」
「騎士団に新しい風が吹いたもんだ!!」
俺を賞賛する声で、訓練場は一気に騒めく。
兵士達は剣を掲げ、その喜びを体現している。
「えぇい、鎮まれ!! 貴様らは訓練に戻れ!!」
「「「はい……………………」」」
その兵士達を鬱陶しく感じた騎士団長は、怒号により周りの兵士達を沈黙させる。
そして冷静になった兵士達は、俺達三人から訓練場の出入口までの一直線上の道を開けた。
「……よし、行くぞ」
兵士達に怒号を浴びせてスッキリした様子の騎士団長は、一息ついて俺達の方を向いてそう言うと、再び出入口に向かって歩き始め、俺達もそれに続いて訓練場を後にした。
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主塔の最上階、王との謁見の間。
部屋の各所には、大理石で造られた、綺麗な装飾が施されているコリント式の柱が並べて建てられており、部屋の出入口から玉座までの一直線上には赤い絨毯が敷かれている。
その部屋の奥にある玉座に座って佇む王の前で、騎士団長を先頭として、俺とフィリアはその後ろに跪いていた。
丁度俺達を点に例えると、騎士団長を頂点とする正三角形が線で結べる並び方だ。
五十代半ばの男性の見た目をしており、頭には白髪の長髪を、口元と顎からは長い無常髭を生やし、静かに俺達を見つめている、目の前の中肉中背の男こそ、セインガルド王国を代表する最高権力者――アンセル=セインガルド国王である。
俺達を見つめるその瞳は美しく、毅然たる態度を一切崩さぬその表情からは、見る者に高貴な印象を与える。
王の傍には、鎧を装備し、槍を手に持った兵士が王を挟む様にして佇んでおり、部屋の隅には執事服を身にまとった男性従者と、メイド服に身を包んだ女性従者が、俺達の方向を向いて、面会を見守る様に静かに佇んでいる。
入室から現在、王の前に跪くまで、フィリアの動作だけはぎこちないものだったが……まぁ仕方の無い事だろう。
そして顔を伏せる俺達の様子を眺めていた王が、徐ろに口を開く。
「……ほう。其の者が、お前の言う『勇者』か? ウェン=ハルバードよ」
王は玉座に頬杖をつきながら、冷静な表情かつ落ち着いた口調で騎士団長へと問い掛ける。
「えぇ、その通りです。国王陛下。
彼は私に想像以上の実力を証明しました」
騎士団長は跪いたまま、顔だけを王に向けて、嘘偽りの無い眼差しで冷静に返答した。
「成程……それで、その者が『勇者』として相応しい実力を持っている、と判断した訳か」
王の言葉を聞き、騎士団長はチラリと俺の目を見て頷く。
ここへ来る途中で決めた、「挨拶しろ」の合図だ。
「……お初にお目に掛かります、国王陛下。
この度は、この様な面会の場を設けて頂き誠に――」
「フッ、堅苦しい礼儀は要らぬ。
仮にも其方は、これから我が国の平和を象徴する、『勇者』たる存在になるのだからな。
騎士団長から其方の話は聞いているぞ、クロト=ルミナよ。
入団試験では見事な成績を残して入団を果たした、期待の新人であるとな」
王は柔和な微笑みを浮かべると、賞賛の言葉を俺に送った。
静かに王座に佇んでいる時は、王としての貫禄を漂わせていたが、こうして敵意のない笑みを浮かべられると非常に安堵する。
「恐れ入ります」
俺は跪いたまま一礼して言った。
敵意が無いとはいえ、流石に相手は王国の最高権力者。
多少の無礼は許されるにしても、相手を敬う気持ちを捨ててはならないのである。
流石に俺が魔王だった頃も、突然生意気な態度を取る奴には、それなりのお灸を据えていた。
最高権力者としては、その威厳を損ねてはならないのだ。
「……それで、ウェン=ハルバードよ。
その者の実力は具体的にはどれ程だ?」
「先程、私自ら手合わせを行い、彼の実力を確認致しましたが……彼の想像以上の実力は、この私を凌駕するものでした」
「何と……!? それは誠か!?」
騎士団長の返答に、王は驚き、思わず王座からガタッ、と音を鳴らして立ち上がり、叫ぶように騎士団長に問い掛ける。
「事実です。フィリア=ランベリーもその一部始終を見届けておりました」
そう言うと、騎士団長はフィリアの方を向いた。
フィリアに返答を求める合図だ。
「き……騎士団長の仰る通りです」
よほど緊張しているのか、唾を飲み込んで返答するも、たった一言である筈の、台詞の最初を噛んでしまっていた。
しかし、王を納得させるには充分な証言だった。
「ふむ……そうか。俄には信じ難いが、二人の瞳に嘘は見えぬ。
では、クロト=ルミナよ。その実力を讃え、其方を正式に、国家認定の『勇者』の称号を受け継ぐものとして認めよう!!」
王は玉座に立て掛けられていた王笏を手に取ると、それを掲げて周りの従者達全員に向けて、高らかに宣言した。
次の瞬間、王の傍に居る兵士を含む、この部屋の従者達は一斉に笑顔を浮かべ、俺に大きな拍手を送った。
「凄い……歓迎されているわね」
「当然だ。何しろ……世界の運命を背負う役割を担う、適任者が現れたのだから」
そんな周りの雰囲気を眺めて、フィリアは驚愕の表情を浮かべて呟き、対して騎士団長は冷静にフィリアの一言に答えた。
「して……クロト=ルミナよ。私は既に魔王に関する報告は、其方の上官であるハイネや、その他複数の班から聞いている。
一年後に、魔王がこの人間界を滅ぼそうと企んでいる事をだ。
そして、その魔王は全ての魔族の頂点に立つ者……。
一個兵団に勝る戦力を以てしても、人間の身体能力では、伝説上の存在とされている竜種にすら勝てぬ。
そこで、其方には個としての実力を高めると共に、武力とはまた別の戦力……『魔法』を身につけて貰う。
騎士団長からは、魔法学校についての話は聞いておるだろう?」
再び椅子に座って頬杖をつく王が徐ろに口を開き、魔王に関する話題を展開する。
その内容は、誰が聞いても驚くべき内容の筈なのに、周りの従者達は誰一人として同様する素振りを見せない。
どうやら、魔王の存在とその目的、そしてその脅威は、ある程度は王城の者に伝わっている様だ。
「はい。仰る通りです」
魔王を倒す為には、ただ単に技術を身に付けたり、ステータスを上げたりするだけでは足りない。
何故なら、それらの最高水準を魔王が兼ね揃えているからだ。
ならば、あらゆる面において戦力となる要素を身に付け、その総合力で戦う他無い。
その要素として、技術やステータスの他に、スキルや魔法が関わってくるのだ。
王はそれを解っているから、俺に魔法の習得を命じているのだろう。
元々、魔法学校への入学は、俺が勇者になる事が決定する前から決められていた事ではあるのだが。
「世界の運命を、其方の様な若者に託すのも、王として申し訳無いが……その代わり、出来る限りの助力は果たそう。
既に魔法学校の費用は全て、我が国が負担する事になっておる。
そこの娘……フィリア=ランベリーを含めてだ」
「……恐れ入ります」
フィリアは自分の名前を言われて、跪いたまま一礼する。
ようやく多少の緊張がほぐれた様で、しっかり王と視線を合わせて受け答えする事が出来ていた。
「うむ。他にも王家の助力が必要な場合は、遠慮なく申し出ると良い。
我が国を……そして、人間界の平和の維持を頼んだぞ」
「ええ、お任せ下さい」
王の言葉に俺が返答すると、騎士団長は俺の方を向いて笑顔を浮かべていた。
おそらく、「世界を救う」という重大な責務を全うせんとする俺の志を見て満足しているのだろう。
「……私からの話は以上だ。三人とも、下がって良いぞ。
これからも訓練に励み、日々精進を目指す様に」
「「「はい! 失礼します!!」」」
王の言葉に、俺達三人は声を揃えて返答し、周りの従者達に見送られながら謁見の間を退室した。
今回で無事勇者になり、ようやくタイトル回収。
次回からは魔法学校入学に向けて、話を展開していこうと思います。
忘れかけている方もいらっしゃるかと思われる、リミアの動向についても、その内リミア視点で書く予定です。




