28話:約束
今回は少し短めです。
魔法学校編を書くために話を進ませたので、大分適当な感じが出てしまっているかも知れません。
〜人間界〜
王との面会を終えた、翌日の早朝。
窓からは清々しいまでの陽の光が差し込み、部屋の中を照らしていた。
最も、朝の陽光が苦手な俺にとっては清々しいどころか、寧ろ忌々しく感じるので、敢えて陽の光が当たらない位置にある、隅のベッドで寝ているのだが。
俺は自室のベッドの上で目を覚まし、現在の時刻が体内時計で午前六時半頃である事を把握すると、隣のベッドで幸せそうな顔で安眠するフィリアの身体を揺らしつつ声を掛ける。
「フィリア、朝だぞ」
「ん……おはよ、クロト」
フィリアは未だ眠気が伺える口調で返答すると、身体に掛けられた毛布をもぞもぞと退けて、ゆっくりと起き上がった。
昨日は昼まで眠っていたのだが、だからと言って、夜中に眠れなかった訳ではない。
俺は騎士団の中でも猛者である二人との連戦による身体的疲労があり、フィリアも王との面会の緊張による精神的疲労があった為、思いの外、しっかりとした睡眠を取ることが出来たのだ。
「ふあぁ……それで、今日からは魔法学校に入学する来月まで、再びハイネさんの指導の元で訓練になるのよね?」
未だ眠気が残っている様子のフィリアは、伸びと同時に欠伸をしながら、俺に問い掛けた。
「あぁ、そうだな」
その問いに対して、俺は簡潔に答える。
昨日、王との面会を済ませた後、騎士団長に命じられ、直ぐに自室に戻る事になった。
てっきりあの後、俺達は訓練に移るように言われるのかと考えていたが、ハイネは街で起こった事態の報告や、上層部との検討会議に出席しなければならない様で、俺達の訓練に付き合う余裕は無いとの事だった。
何しろハイネはあの若さで、騎士団の中ではかなり高い地位に就いている為、普段はそれ相応に忙しいのだと騎士団長は言っていた。
その為、ハイネは訓練の狭間に、ある程度の休憩時間を設けるようにしている様だ。
見廻りの時に休憩時間を設けたのも、そういった理由があるからなのだろう。
「それにしても、魔法学校ってどんな雰囲気なのかしら?
早く魔法が使える様になって、ハイネさんの武器強化みたいな技をやってみたいわね」
フィリアは腕を組み、魔法学校についての思案をする。
俺もまだ、魔法学校についての詳細は分からない。
だが……少なくとも、その生徒の一人との関わりはある。
魔法学校の少女、ミキには色々と世話になった。
今度あった時こそ、何か恩返しをしたいと思っていたのである。
魔法学校への入学が決定したのも、千載一遇の好機であろう。
それに……最大の目的である、魔王の討伐の為にも、魔法の習得は必須なのだ。
「まぁ……どんな環境であれ、俺は必ず魔法を習得しなければならない。
ハイネさんの期待の為にも……人間界を魔王の手から救う為にもな」
俺はベッドの隅に座ったまま言い、自身の拳を握りしめて決意を固める。
そんな俺の様子を見て、フィリアは何かを思案する様に俯き、少し間を置いてから口を開く。
「そうね……ねぇ、ところで、逸話によると『勇者』は一人で人間最大の脅威と言われる暗黒竜に挑んだって言うけど……クロトはどうなの?」
先程までは笑顔でいたフィリアが、話題を切り替えると同時に、深刻な表情で俺に問い掛けてきた。
「どうって……俺が一人で魔王を倒しに行くつもりなのか、という質問か?」
「えぇ。だって……相手は魔族の王だもの。
幾ら強いとはいえ、クロト一人で戦うのは流石に厳しいでしょう?
出来れば私も、何か力になりたいのよ」
フィリアは不安げな表情を浮かべつつ言った。
恐らくは、俺の身を心配しての言葉なのだろう。
確かに、相手が如何に強大な存在であるかは、元魔王である俺が最も判っている事だ。
人間の身である俺一人では、相当に厳しい戦いとなるのは明白だった。
時には魔王討伐に必要なステータスを上げるために、強力な魔族生命体との戦闘も余儀無くされ、命に関わる自体に陥る事もあるだろう。
そう考えると、少しでも戦力となる仲間の存在は必要不可欠なのかもしれない。
しかし……元々は俺が引き起こした事態だ。
全く関係の無い少女であるフィリアを、この抗争に巻き込む訳にはいかない。
「すまない……これは俺に託された使命だ。
フィリアが戦力として充分な実力を持っている事は解っているが……だからと言って、魔王という危険な存在と関わらせる訳にはいかない」
俺はフィリアの両肩を掴み、真剣な表情で言い放った。
「……っ、確かに、魔王が如何に強力な存在なのかは判っているわ。
私じゃあ、どれ程鍛錬を積んでも、魔王どころか竜種にすら勝てないかもしれない。
でも……だからこそ、そんな存在と一人で戦おうとするアンタを放っておくなんて出来ないわよ!」
俺の言葉に、フィリアは納得がいかない様で、ベッドの隅に座る俺の正面まで移動すると、そう怒鳴りながら権幕した表情で抗議する。
「……違う。大切な事は勝敗という結果では無く、戦いの中でどれ程フィリアが傷つくのかという過程だ。
例え戦闘に勝ったとしても、フィリアが少しでも傷ついたのなら……俺にとってその勝利は嬉しいものでは決して無い」
俺は怒鳴るのでも無く、冷淡な態度で突き放すのでも無く、哀しみの表情を浮かべて言った。
フィリアにも考えがある以上、俺の方からもはっきりと考えを伝えて同意させなければ、お互いの関係に軋轢を生ずる可能性すらある。
「私だって同じよ!! アンタ一人で化け物と立ち向かって、一人で傷ついて、世界を救ったって……何も嬉しく無いのよ!!」
「っ……」
必死の表情で叫ぶフィリアに、俺は何も言い返せなかった。
俺は、護るべきものを護る為に、自身が傷つく事には何の躊躇いも無い。
だから俺は他人が受ける傷までその身に受け、仲間に仇なす者を退ける為に強さを求めた。
そして――それこそが、護られる者にとっての望みだと思っていた。
しかし……護られる者もまた、ただ護られたまま黙って過ごせる訳では無いようだ。
俺にフィリアを護りたい気持ちがある様に、フィリアにもまた、俺が傷つくのを極力避けたいという気持ちがあるのだと、たった今気付かされたのである。
俺は護るべき者の身を案じてはいたが、その心情までは案じていなかったのかもしれない。
現に、俺が一人で傷つく事を、フィリアはここまで本気になって否定しているのだから。
「ねぇ、せめて……アンタが魔王と戦うまでは、一緒に居させて。
絶対に役に立って見せるし、無茶だってしないから……」
そう言いながら、今度は先程とは打って変わって、今にも泣きそうな顔で縋るように俺の服にしがみつくフィリアを見て、俺は目を閉じて思案する。
フィリアの言う事にも一理ある。
何しろ、入団試験の前から出会い、騎士団の中では最も関係の深い相手なのだ。
当然、フィリアも同じ認識だろう。
そんな相手が、無謀とも言える戦闘に挑む様を見て、それを放っておける道理など無い。
そんな事を考慮せず、俺が無理矢理にフィリアを突き放そうとするのも、余りに酷というものだ。
それに、「魔王と関わらせる訳にはいかない」という俺の言葉に対して、自身の身を案じられていると言う事を理解したフィリアは「無茶はしない」と返答した。
これはつまり、魔王とは戦わないが、それまでの道程では、自分に出来る限りの協力をする気でいるという事だ。
無理を言われている様にも感じるが、確かに矛盾はしていない。
フィリアの身に危険が近づいたら俺が全力で守れば良いのだ。
何より……フィリアの言葉で、俺は今まで忘れていた事を思い出した気がした。
自分が誰かに心配されるという事……それは、長年の間を魔界最強の存在である魔王として生きていた俺にとっては、有り得ない事だった。
何故なら、自分よりも強い敵が存在しない故に、己の身は勿論の事、弱き者を護る余裕すらあったからだ。
しかし今、こうして自分よりも強力な存在が敵となり、その無謀とも言える挑戦に挑む自分を心配してくれる……「仲間」という存在がある。
フィリアが俺を放っておけない様に、俺もまた、フィリアという大切な仲間を突き放す訳にはいかないと、先程のフィリアの言葉で考えを改めたのだ。
「……分かった。無茶だけはするなよ?」
「……うん! わかった!」
フィリアは満面の笑みを浮かべて返答しながら頷くと、勢いよく俺に抱きついて来た。
「お、おい!? 少し落ち着け!!」
余りにも唐突な出来事に戸惑いながらも、俺はフィリアを落ち着かせるべくそう言い、身体からフィリアを引き剥がそうとする。
「あらあら二人共、朝からお熱いわねー」
「「……えっ!?」」
その時、聞き覚えのある声が、玄関の方向から唐突に聞こえた。
その方向に振り向くと、ハイネがいつの間にか玄関の扉を開けて、室内に一歩踏み入れた位置に立ち、微笑ましくて堪らないと言うように口を手で抑えながら笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ハ……ハイネさん、いつの間に?」
フィリアが慌てて俺から手を離し、苦笑いを浮かべながらも焦りの窺える表情で、ハイネに問い掛ける。
「え? たった今、入室したばかりよ?
ノックもしたのに気づかなかったの?」
あぁ……ついさっき、俺がフィリアを宥めようとしていた時か。
確かに、微かにノック音が聞こえた気はしていたが……フィリアを引き剥がすのに精一杯だったから、そちらに気が向かなかったな。
しかも、たった今入室したばかりという事は、まさか……。
「いや〜、いつの間にか二人がそんな関係になっていたとはね。
これからも末永くお幸せに……」
「「誤解です!!」」
案の定、勘違いしていたハイネに、俺とフィリアは声を揃えて叫んだ。
「あら? でも、異性同士で抱き合うなんて、やはりそんな仲じゃないと有り得ないんじゃ無いかしら?」
ぐっ……勘違いしている割には、確かに一理ある台詞だ。
実際ハイネの言う通り、お互いに信頼はある関係だからな……。
「いえいえ! 決してそんな関係では……!」
フィリアが目を泳がせながらも、必死に否定する。
誰の目から見ても、焦りと嘘がバレバレである。
「うふふ、誰かに言いふらしたりはしないから、そんなに必死に否定しなくても大丈夫よ」
ハイネは未だ勘違いをしている様だが……まぁ、噂にならないのなら誤解を解く必要も無いか。
この話をネタに、訓練の間に茶々を入れられる事もありそうだが。
「そうそう、騎士団長から聞いたわよ。
クロト君、あのアルムズ上官と騎士団長との対決で見事に勝利して、勇者になったんでしょう?
最初に聞いた時は本当にびっくりしちゃったわ!」
ハイネは心底嬉しそうに言いながら、満面の笑みを浮かべる。
「えぇ。流石に、かなりの苦戦を強いられましたが……」
「ウフフ、謙遜しなくても良いのよ?
そもそも、新兵があの二人に勝っちゃう事が凄いんだから!」
「そうですね……私も目の前で試合を観て驚きました」
フィリアが頷き、ハイネの言葉に賛同する。
「あ、そういえばフィリアちゃんはその時、訓練所に居たわね。
フフッ、クロト君の試合、格好良かったかしら?」
「えっ!? ま……まぁ、ちょっと格好良かったとは思います……」
フィリアは何故か紅潮し、照れた様に目線を逸らしてハイネに返答する。
正直な感想を述べるだけの筈だが……。
「ウフフ、やっぱりね。
フィリアちゃん、増す増すクロト君に惹かれちゃったからしら?」
「ああもう! やっぱりそういう話ですか!」
フィリアは真っ赤になってハイネに抗議する。
「格好良いなんて、そんな事無いよ。
試合で勝てたのも、フィリアとグリルのスキルがあったからだ」
俺は盛り上がる二人に、そう言い放った。
実際、フィリアの『身体強化』と、グリルの『筋力強化』が無ければ、敗北するまではいかなくとも、更なる苦戦を強いられたであろうから。
「えっ? どういう事?」
ハイネは驚きの表情を浮かべて問い掛ける。
俺が二人のスキルを複製している事を知らないから、当然の疑問だろう。
「まだ伝えていませんでしたが、俺は『能力複製』という固有能力を持っています。
効果としては、名前の通り、誰かに触れた瞬間にその人のスキルを複製して、自分のものとして扱う事が可能です」
「何それ……そんな反則スキル聞いた事無いわよ……?」
俺の説明に、ハイネは呆然とした表情を浮かべて驚く。
「最も、複製できるスキルは通常能力限定で、一回の接触で複製できるスキルは、その人の所持するスキルの中からランダムで一つです」
「その説明は昨日聞いたけれど、それでも充分に反則なのよね……」
フィリアが苦笑いを浮かべながら突っ込む。
確かに、俺自身も反則なスキルであるとは思っている。
特に、戦利品増加スキルとの組み合わせが……。
「私のスキルも、いつの間にかクロトに複製されていた様です。
それも、私のスキルレベルを最初から追い抜いた状態で……」
「ちょっと待って。クロト君、他に幾つ固有能力を持ってるのかしら?」
ハイネが苦笑いを浮かべつつ、恐る恐る俺に問い掛けた。
その様子を見て、俺は気まずい表情を浮かべながら答える。
「……あまり自分のスキルを他人に言うものでは無いと思いますが……俺の所持する固有能力は、あと三つです」
「……因みに、その三つの中に『能力複製』よりも反則なスキルはあるのかしら?」
「あります。寧ろ、『能力複製』が一番使い勝手が悪いぐらいです」
実際、『能力複製』は反則級の効果を発揮するが、それは条件を満たした上で、戦利品増加スキルと合わせた場合の話だ。
一つのスキルの効果のみで考えると、固有能力の中で一番使い勝手が悪いのは間違い無いだろう。
しかし……それでも、その効果は充分に反則ではあるのだが。
何しろ、無限にスキルを取得できる可能性を秘めているのだから。
「……私、とんでもない新兵を部下にしちゃったなーって思うの」
ハイネは苦笑いのまま表情が固まってしまった様に……いや、先程よりも更にその表情は無機質なものへと変わり、もはや驚きを通り越して冷静になった様子で、そう呟いた。
「アンタねぇ……ちょっとは自重してくれないと、私やハイネさんの肩身が狭いじゃない!」
そんなハイネの様子を横目に、フィリアが突っ込みを入れる。
そんな事を言われても、望んで取得したスキルでは無いし、手に入れてしまったものは仕方あるまい。
それから、ハイネが調子を取り戻すまで待つこと数分後。
「やっぱり私、クロト君に魔法を覚えさせるのはダメだと思うの」
苦笑いのまま表情の固まったハイネが徐に口を開いて発言した。
「何故ですか」
「私の存在意義が無くなるからよ」
俺の問いかけに、ハイネが真顔で即答する。
まぁ、何と返答されるかは分かり切っていたが。
「でも、魔王を討伐するには、やっぱり魔法の習得は必須だから、そういう訳にはいかないのよね……。
上層部の人達も、クロト君が騎士団長に勝利したという報告を受けて、『騎士団の新しい強力な戦力だ!』とか、『魔王討伐も夢じゃ無い!』とか期待しちゃってるし……。
まぁ、私もクロト君に期待はしているのだけれど……」
ハイネは憂鬱な表情を浮かべてため息をつきながら自分に言い聞かせる。
まぁ……確かに、唯一の魔法剣士として騎士団に顔を広げているハイネにとって、その実力を上回る魔法剣士の登場は、ハイネの立場の危機ではあるだろう。
しかし当然ながら人類存続の為には払わなければならない犠牲であり、別に俺達がハイネ以上の魔法剣士になった所で、希少価値である魔法剣士のハイネの存在意義が騎士団の中で無くなる訳でもあるまい。
勿論、ハイネにもそういうプライドはあるのだろうが、仕方が無い事だと思って割り切って貰うしか無かろう。
「いえ、俺達が強力な魔法剣士になったとしても、今と変わらずハイネさんは俺達の上官であり、騎士団の重要な戦力です」
「クロトの言う通りです! 誰が何と言おうと、私達の上官はハイネさんだけですよ!」
俺のフォローにフィリアが賛同し、意気消沈したハイネを励ます。
「そ……そうね。そんな事を考えるよりも、今は上官として教えられることを教える事が最優先よね!」
フォローの甲斐あって、ハイネの表情は明るいものとなった。
「じゃあ早速、訓練に移りましょう!
ついでにさっき二人がお熱く抱き合っていた理由についても話して貰おうかしら?」
「「それは誤解です!」」
ハイネの言葉に突っ込みながらも、すっかり調子を取り戻し、笑顔で冗談を言えるまでに元気を取り戻したハイネの様子を見て、俺とフィリアは内心で安心する。
ハイネが部屋を訪れる前の俺達の会話は結局、ハイネには秘密にするという事に、俺とフィリアの間で決定したのは言うまでもないだろう。
そしてハイネの冗談交じりに行われる訓練の日々を続ける事、一ヶ月。
遂に――魔法剣士への入学の時が訪れるのであった。
最後は無理矢理に話を進めた感じはしますが、進めた一ヶ月の間については、これからの内容で書きながら話を進めていこうと考えております。
次回からは魔法学校での学園ストーリーを展開していこうと思います!




