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退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
3章:勇者化編
30/64

26話:勇者決定試合

今回は、ほのぼの回及び戦闘回になります!

ちょっとしたラッキースケベ要素も有りです(笑)。


  〜人間界〜


 グリルとエドワードとの会話を終えた俺達は二人と別れ、フィリアと共に騎士団長に伝えられた自室に入った。


 部屋に入って直ぐ、部屋全体が自動的に光に照明され、目に映った光景からは、部屋は十帖ほどの広さで、内装は他の部屋と変わらず、床、壁、天井は石造りとなっており、カーテン付きの窓も取り付けられている事が確認できた。


 黄昏の光が窓から射し込んでおり、俺達に現在の時刻を知らせている様に感じられる。

 残念ながら窓の向こうには、城壁に隔たれて街の様子を伺う事は出来ず、その無機質な石造りの壁のみが見えている。


 天井には、この部屋を照らす光を放つ魔水晶が、ペンダントライトの様に紐で吊り下げられていた。

 恐らくは騎士団所属の魔道士が開発して製作した、照明用器具の代わりなのであろう。

 部屋に入った瞬間に点灯した辺り、熱源感知式で作動する仕組みだろうか。


 備え付けの設備として、正面に見える壁に隣接し、横に並べて置かれた三つのベッドに、左側の壁に隣接して並べられた大小二つのクローゼットと、その反対側の壁に隣接して置かれた、木造の小さな机と椅子が三つあった。

 ベッドや机、椅子の数が三つなのは、他の部屋の人数と統一させている為だろう。


 入り口の扉を開けて直ぐ右側にある部屋は小さな脱衣所付きのシャワールームとなっており、休息空間としては中々に整っている様に思える。

 これだけ内装が良ければ、窓の外の景色にも文句を言う筋合いは無いだろう。

 ……まぁ、公共の宿泊施設等では無いのだから、その様なサービスまで求めるのは流石に図々しいというものだが。


「へぇ〜、中々良い部屋じゃない。適当な宿よりも綺麗で広いわね」


 フィリアが楽しげな表情で部屋の内装をキョロキョロと見回しながら感想を述べる。

 俺と同様に、相当気に入った様子だ。


「あぁ、そうだな。

 俺が今まで見てきた宿と比べても、中々に住み心地が良さそうだ」


 俺も率直な感想を述べつつ、フィリアの台詞に頷いて賛同した。


 騎士団長から部屋の説明を聞いた時から部屋の内装を楽しみにしていただけに、今日からこの期待通り……いや、期待以上の部屋が自分の居住場所になるのだと考えると、年甲斐も無く心躍るものだ。


「でも、折角のお部屋なのだから、もう少しは装飾(インテリア)が欲しいわね」


「……それは仕方が無いさ。その辺りは自分で揃えるしか無いだろう」


 フィリアの言う通り、無機質な光景の広がる部屋の見た目は、確かに殺風景と言える。

 年頃の少女が生活するには、何かと物寂しいものだ。


 せめて花瓶を置くなり、お洒落な時計でも壁に掛けたい所だろう。

 椅子やベッドの上にクッションを置くだけでも柔らかい雰囲気が出て、多少の違いが出てくるものだ。

 壁や床を傷付けたりしなければ、多少の装飾ぐらいは騎士団も許容してくれるだろうし。


 ……別に俺はこの部屋のままで構わないのだが。

 魔王城に住んでいた頃の俺の自室は、不要な道具や飾りなど一切置いていない、極めて合理的な空間で、とにかく殺風景なものだったしな。

 と言うか、少女らしい装飾(インテリア)の多い空間で過ごすのも落ち着かないしな。


 俺は寧ろ、お洒落な空間よりも、落ち着いた風情のある空間で過ごす方が心地が良いのだ。


「まぁ、部屋の内装は置いておいて……もう疲れちゃったし、早くシャワー浴びて寝ちゃいたいわ」


 フィリアが台詞の途中で欠伸をしながら言った。

 確かに今日の早朝は眠たそうな様子だったからな。


「じゃあ、フィリアが先にシャワー浴びるか? 俺は後からでも良いぞ」


 俺はフィリアに配慮して、シャワーの順番を譲る。

 退屈な待ち時間は、部屋の内装をもう少し詳しく調べて潰す事にしよう。


「本当? じゃあお言葉に甘えて……。

 あ、私の後だからって、変な想像しないでよ?」


 フィリアがニヤニヤと笑みを浮かべつつ言った。

 恐らくは、俺の反応を伺う為の冗談のつもりなのだろう。


「する訳無いだろ……良いから、早く入ってくれ」


 俺は呆れ顔でため息をつきながら返答した。

 大体、実年齢の離れ過ぎた少女に対して、その様な想像をする事自体が、人倫に悖るというものであろう。


「冷静ねぇ。もう少し慌てて返答してくれると面白いのに。

 じゃあ、先に入ってくるわね」


 フィリアはそう言うと、シャワールームに入って扉を閉めた。


 全く……男女共同の部屋となると、時にこういった配慮が必要になるから面倒だな。


 さて、フィリアがシャワーを浴びている間、部屋の内装を見るとするか。

 そう考え、先ずはベッドの寝心地を確かめようと、視線をベッドに移した瞬間。


 ……あれ?


「ベッドの上にバスタオルが置いてある……」


 俺は綺麗に折り畳まれた、触り心地の良さそうな、真っ白なタオルをベッドの上に発見して呟いた。


 ここにバスタオルがある……という事は、フィリアはシャワーを浴びた後、身体を拭く事が出来ない事に気付く事になるであろう。

 そうなると更に、服を着ることも出来ないまま、有りもしないバスタオルを脱衣場の中で探す事になる。


 それではフィリア本人が困るだろうし、風邪を引く可能性もある。

 フィリアもシャワーを浴びてからの事を考えていない訳ではあるまいし、恐らくは今頃、脱衣所でバスタオルを探している所だろう。


 ……渡さなければ。


「フィリア、バスタオルがベッドの上に置いてあったぞ……って」


 そう言いつつバスタオルを手に取ってシャワールームへ向かい、脱衣所の扉を開けた瞬間、俺の目に映ったのは────




「……きゃああああああああっ!!」




 ────上着を完全に脱いで上半身を露わにし、顔を真っ赤にして両手で胸を隠すフィリアの姿であった。


 両手で胸を隠して悲鳴を上げる様子を見て俺は驚愕し、一瞬だけ動きが止まった。


「す……済まない!」


 俺は思考を取り戻すと共に、慌ててフィリアに謝り、バスタオルを脱衣所に投げ捨て、すぐさま扉を閉めた。


 あぁ……今になって、ミキの家での事件を思い出した……。

 いや、あの時は服を脱ぐ手前の出来事だったが、今回は上半身が完全に裸だった為、尚更に罪悪感が凄まじい。


 完全記憶を持っているのに、なぜ同じ失敗をしてしまったんだか……。

 いや、失敗してしまう理由は、過去の失敗を記憶しているかしていないかでは無く、必要な時にそれを思い出せるかどうかが原因だから関係ないか。


 ……って、今は悠長にそんな事考えている場合では無いな。

 後でフィリアに謝らなければ。


 そう俺が苦悩していると、脱衣所の扉が少し開き、フィリアが顔だけを覗かせて話し掛けてきた。


「な、成程……バスタオルを持ってきてくれたのね。

 勘違いして悪かったわ……」


 目を逸らして赤面しつつ、フィリアが小さな声で恥ずかしそうに謝った。


「いや……今のは俺が悪かった。次から気を付けるよ……」


 俺も気まずさを感じて、フィリアから目線を逸らして答えた。


 フィリアは目線を逸らしたまま、何も言わずにゆっくりと脱衣所の扉を閉める。


 今の出来事で何より不味いのは、俺が完全記憶を持っている事だ。

 今の出来事は、忘れたくても忘れられないのである。


 ……しかしそれをフィリアに伝えたら、仮に土下座したとしても許されない気がするから止めておこう。



  ......................................................



 それから約二十分。

 結局、フィリアへの罪悪感で部屋を調べるどころの心境で無かった俺は、ひたすらフィリアへの謝罪の言葉を考えていた。


 やがて、シャワーを終えて着替えを済ませたフィリアが、赤面しながら気まずそうに俺から目線を逸らしつつ、脱衣所から出てきた。


 このままでは、お互いに気まずい状況が続いてしまう。

 それを察知した俺は同じ様に申し訳ないという表情を浮かべながら、改めてフィリアにもう一度謝罪する。


「悪かった……さっきのは俺の不注意だ」


 言葉足らずな所はあるが、結局は不要な言い訳を避け、端的に謝るのが最善(ベスト)だと判断した。


「いえ、気にしてないわよ。

 私も服を脱ぐ前に、ちゃんとタオルの位置を調べておくべきだったから……」


 フィリアは赤面したまま、恥ずかしそうに人差し指で頬を掻きながら答えた。


 許して貰えた様で助かった。

 同居初日で喧嘩などあっては、暫くは生きた心地がしないだろうからな。


「私は疲れたからもう寝るわ。

 クロトも早くシャワー浴びて休んだ方が良いんじゃないかしら?」


 フィリアはベッドの上にボスッ、と腹から飛び込み、足をぶらぶら揺らしながら言った。

 完全に寝る気満々だな。


 まぁ、確かに今日は色々と大変だった。

 フィリアの言う通り、長めに休憩を取っておくとしよう。


「……そうだな。じゃあ、俺もシャワーを浴びてくるよ」


 そう言って俺はシャワールームへと向かい、シャワーを済ませ、脱衣所を出た瞬間に目に映った、いつの間にか幸せそうな顔でぐっすり熟睡しているフィリアの様子を微笑ましく思いながら、自分もベッドに入って眠りにつくのであった。



  ......................................................



 その翌朝。

 日が昇り、窓から晴れ晴れとした日光の射し込む時刻。


「……ト……きて……」


 俺はベッドの上でゆっくりと目を覚ますと、何者かが自分の身体を揺らしながら、何かを呟いている事に気づいた。


「……クロト、起きて。もう朝よ」


 聞き覚えのあるその声を集中して聞くと、呟いていたのは俺の名前である事が判った。


 声のする方を見ると、目覚めたばかりで霞む俺の視界に、俺の顔を覗き込みながら声を掛けるフィリアの不機嫌そうな顔が映り込む。

 更に視線をフィリアの身体に向けると、フィリアもまたベッドの上から話し掛けている事が窺えた。


「ん……もう朝か。おはよう、フィリア」


 意識が朦朧とする中、未だに俺の身体を揺らすフィリアに声を掛けた。


 するとフィリアは、少し怒った様子で口を開く。


「おはよう、じゃ無いわよ!

 さっきから何度も声を掛けているのに……」


 ……? 何故怒っているのだろうか。

 俺の体内時計では、まだ慌てて起きる様な時刻では無いはずだが。


 考えても判らないので、フィリアに尋ねることにした。


「どうした? まだ起きるには早い時間の筈だが……何か怒ってないか?」


「別に怒って無いわよ。

 早めに寝た分、早朝から目が覚めちゃったから話でもしようかと思ったけど、クロトが中々目を覚まさないから焦れったい思いをしていただけよ」


 要するに、俺に早起きした分の暇を潰す為の話し相手になって欲しかっただけという訳か。

 と言うか、結局怒っているんじゃあないか……


「って言うか、アンタ結構可愛い寝顔してるのね。

 女性っぽい顔つきしてるだけあるわね」


 フィリアがニヤニヤと笑みを浮かべて言った。


「……全く、何を言っているんだか」


 自分の寝顔なんて知るか……と思いつつも、特に反論が思い浮かばなかった俺は、それだけ言ってフィリアから顔を背けた。


 たった数日で、俺はどれだけ女性扱いされているんだか……。


 寝顔が可愛いって、そんな事言われる歳でも顔でも無かろうに。

 恐らくは、フィリアも俺をからかっているつもりなのだろう。


「それにしても、今日は騎士団長が昨日言っていた試合があるんでしょ?

 幾らアンタのレベルが高いからと言っても、本当に大丈夫なのかしら……?」


 フィリアが話題を切り替え、深刻な表情を浮かべる。

 大丈夫だ、と言った筈だが……フィリアは心配性だな。


「あぁ、心配無い。

 俺は魔王を倒す為に……勇者にならなければならないからな」


 その台詞をフィリアに言って気づいた事だが、元魔王の俺が勇者になって魔王を倒しに行くというのも、中々に皮肉な運命だな。

 いや、まだ勇者にはなっていないけれど。


 そんな会話を交わしていると、部屋の扉を誰かがコンコン、とノックする音が聞こえた。


 恐らく、昨日の約束通り、ハイネが俺達を呼びに来たのだろう。


「はい、今開けます!」


 そのノックにフィリアが反応すると、慌ててベッドを降りて駆け出し、部屋の扉を開けた。

 因みに鍵は掛けていないので、わざわざノックせずとも入る事は出来るのだが……まぁ、勝手に突然入ってくるのも困るな。


「二人共おはよう。ちゃんと休憩は取れたかしら?」


 フィリアが開けた扉の向こうに、元気そうな笑顔を浮かべて立っている人物は、案の定ハイネであった。


「おはようございます。

 しっかり早めに寝て、休息を取る事が出来ました!」


「うんうん、良い事ね。元気そうで何よりだわ」


 フィリアが元気よく笑顔で返答すると、ハイネは満足そうに、同じく笑顔で言いながら頷いた。


「おはようございます。

 ハイネさんが部屋に訪れたという事は、もう試合の時間ですか?」


 その会話の途中でベッドから降りていた俺は、挨拶しながらハイネに問いかけた。

 まだ慌てて起きるような時刻では無いとは思っていたが、案外そうでも無かったかも知れないな。


「いいえ、試合の時間はまだよ。

 午後一時が予定の時刻だから、それまでに万全の状態で戦えるように心掛ける様にと、伝えに来たのよ」


 午後一時か。

 俺としては、今からでも別に構わないのだが……。


「クロト君を見る限り、特に問題は無さそうだけど……折角時間があるのだから、できる限り今は試合に備えて休むと良いわ」


「判りました。お伝え頂き、有難うございます」


 心配そうに俺の様子を見て言うハイネに、俺は一礼して返答した。


 上官として、班員の一人である俺の健闘を応援したいという気持ちがハイネにはあるのだろう。

 その気持ちに応えるためにも、俺は絶対に負けられないな。


「私はこの後、昨日の活動の報告書を書き上げ無ければならないから、クロト君の試合を見届ける事は出来ないけれど……私との対決に勝ったクロト君なら、今日の試合にも勝てると信じてるわ」


 ハイネは胸に手を当て、微笑みを浮かべて俺を励ました。

 その様子から、ハイネの優しさがひしひしと伝わってくる。


「……はい。頑張ります」


 俺はそれだけ言うと、ハイネは何も言わず、満足したように頷いた。


「それじゃあ……私は仕事に戻るわね。

 頑張って、クロト君」


 最後にハイネはそう言い残し、部屋の扉をゆっくりと閉めた。


「……ハイネさんも、相当に心配みたいね。

 私には応援する事しか出来ないけれど、ハイネさんの言う通り、クロトなら大丈夫よね」


 会話の途中、静かに俺とハイネの会話を聞いていたフィリアは、俺を見て笑顔を浮かべながら言った。


 ハイネが部屋に来る前は不安そうにしていたが、ハイネが俺を信頼している事を知り、フィリアもまた、俺を信頼する気になったのだろう。


「あぁ。任せろ」


 俺は笑顔で即答した。

 俺自身、一番不安を感じていないからだ。


「……それで、一時までの間を、どうやって有効に使おうかしら?」


 そう言って、予想以上に空いてしまった時間の使い道を、フィリアが思考し始める。


 俺もフィリアと同じ様に考えるが、速攻で思いついた案が一つ。


「……寝る」


 俺はその案を一言でフィリアに言い放つと同時に、背面からベッドに身を任せて目を閉じた。


「えっ!? ちょ、ちょっとアンタ……緊張感無さすぎでしょ!?」


 真面目に頭を悩ませつつ考えていた自分に対して、俺の行動が余りにも唐突なものだったからか、フィリアが驚いた様子で言った。


「じゃあ、今から何が出来る?

 時間は予想以上に空いたとは言え、試合までたったの数時間しかない。

 相手は付け焼き刃の技術で叶う相手では無いだろう?

 だったら、今の実力を最大限発揮出来るようにしっかりと身体を休ませる事が最善(ベスト)だ。

 これでも、俺はしっかりと考えているんだぞ?」


「うっ……確かにそうだけど……」


 フィリアは何も反論が思い付かず、納得しつつも困惑した表情を浮かべて顔を項垂れた。


 そう、幾ら時間が空いたからと言っても、無理して有効に使おうとしなくても良いのだ。


 急いては事を仕損じる。

 取り敢えず行動を起こせば、必ずしも良い結果になるとは限らないのだ。

 まだ若いフィリアにとっては、一日を怠惰に過ごす事が、寧ろ怖いものに感じるのかも知れないけれど。


「……でも、流石に二度寝はだらしないとは思うわよ」


 浮かない顔をしながら、フィリアはそれだけ反論する様に呟いた。


「まぁ、それは否定出来ないな……」


 流石に、フィリアのその言葉だけには俺も反論出来ない。

 俺は苦笑いを浮かべてそう返答し、瞼を閉じる。


「あ、本当に寝るのね……いえ、もう何も言わないわ」


 俺は片目を少し見開き、呆れ顔で呟くフィリアの様子を見てから、再び瞼を閉じて深い眠りについた。



  ......................................................



 自身の体内時計が十二時頃を指すと共に、俺は目を覚ました。


 朝は目覚めが悪いが、昼は何故か気持ちよく起床できる。

 完全に朝が苦手な人間の特徴だが……。


 ……ん? ところで、フィリアは何処に?


 ベッドの上で上半身を起こして部屋を見回しても、フィリアの姿は見えなかった。

 部屋の外に出たのだろうか?


 俺がそう考えた瞬間、ベッドの上に乗せたままの俺の右手を誰かが掴んだ。

 その者の正体を確かめるべく右手に視線を移すと、俯せる様に腕と頭だけを俺のベッドの傍らに乗せて、幸せそうな表情ですやすやと寝息を立てて眠るフィリアの姿が目に映った。


 結局、フィリアも眠気が残っていて、ミイラ取りがミイラになるが如く、俺に釣られて眠りについてしまったのだろうか。

 俺は何とも微笑ましいその光景に笑みを浮かべつつ、フィリアの身体を揺らして起こす。


「……フィリア、もう昼だぞ」


「ん……あれ、私、寝ちゃったの!?」


 フィリアが目を覚ますと同時に、自分が二度寝してしまった事実に驚いた様子でフィリアが叫んだ。


「あぁ……ぐっすり寝てたぞ。フィリアも眠かったのか?」


「えっ、これはその……アンタの寝顔を近くで見てたら……えっと……つい釣られちゃって……」


 俺の問いかけにフィリアは答えるが、何故か赤面して目を逸らしたままゴニョゴニョとした口調で話す為、あまり聞き取れなかった。

 眠かったのなら眠かったのだとハッキリ言ってくれれば良いのだが。


 俺に注意しておいて、自らも二度寝してしまった事が恥ずかしいのだろうか。

 まぁ、あまり追求しない方が良さそうだな。


「……ところで、俺の体内時計では今の時刻は十二時頃だが……早めに準備して訓練所に向かうとするか」


「そうね。結局本当に寝ただけになっちゃったのは予想外だったけど……」


 俺が話題を試合の話に切り替えると、俺の言葉にフィリアは頷きながら賛同した。



  ......................................................



 それから準備を済ませた俺達は、昨日の予定通り、試合へと挑むべく、訓練所へと移動した。

 ……戦うのは俺だけなのだが。


 訓練所は昨日と変わらず、騎士団長の指導の元、大勢の兵士が一体一で激しい剣の打ち込みを行っていた――が、俺達が訓練所に入ると共に全員が一斉に動きを止め、騎士団長から俺までの道のりの一直線上を開けると、騎士団長がそこを通って俺達に話し掛けてきた。


「ほう……来るのが早かったな。

 試合をする準備と心掛けは出来たか?」


 騎士団長は冷静な表情のまま、腕を組んで問い掛ける。

 準備と心掛けが出来ていなかろうと、試合を行うつもりではあるのだろうが……敢えて俺の心構えを試しているのだろう。


「はい、万全の状態に整えてきました。

 いつ試合を開始しても問題ありません」


 俺の返答に対し、騎士団長は満足げに薄く笑みを浮かべて大声を上げる。


「フッ、そうか。なら始めよう。

 来い――フレイド=アルムズ!!」


「ハッ!! 此処に!!」


 騎士団長が通った道を境として、二つに別れた大勢の兵士達の最前列に居たフレイド=アルムズはその声に勇ましく返答すると、堂々とした態度でこちらに歩き、俺のすぐ手前で止まった。


「フン、小娘よ……この俺を前に逃げなかった事は評価してやろう。

 しかし、戦況は勇気だけでは覆す事は出来ない。

 直ぐにお前の負けは決定するであろうが――恨むなよ?」


 昨日と違って兜を被っていないので、短髪の赤髪と緑眼を持った端正な容姿である事を窺う事ができ、その表情には不敵な笑みを浮かべているのがハッキリと確認できる。

 やはり、余程負けない自身があるのだろう。


 それに……「戦況は勇気だけでは覆す事は出来ない」か。

 何度も修羅場を経験した、熟練の騎士団の兵士だからこそ言える台詞だ。


 だが、それでも俺は、目の前の相手に負ける展開を思い浮かべる事は出来ない。

 何故なら、俺はこれから先、更なる強敵と戦わなければならないからだ。


 ……ところで、未だに目の前の人物は俺の事を女性だと勘違いしているのか……。

 まぁ、今はそれを気にしている場合ではないだろうな。


「問題ありません。

 それに――勝つのは自分の方です」


 俺は冷徹な表情を崩さぬまま、フレイド=アルムズの顔を見上げて挑戦的に答えた。


「ほう……言うではないか。

 ならば、せめて少しは健闘して見せよ」


 俺の言葉を挑発と捉えたフレイド=アルムズは、腰に携えた剣を抜くと、その剣先を俺に向けてそう言った。


「二人共、やる気は万全の様だな。

 では早速、始めるとしよう」


「「……了解!!」」


 騎士団長は俺達の言い合いを静止する様に言うと、俺達はそれに反応して返答した。



  ......................................................



 それから騎士団長の支持に従い、兵士達は訓練所の隅に寄り、それによって空けられた訓練所の中央にて、俺とフレイド=アルムズは二十メートル程の距離を置き、剣を構えてお互いを睨み合っている。


 と言うよりは、俺はただ単に相手の動きを見逃さぬ様に視線をフレイド=アルムズに集中させているだけだが、そのフレイド=アルムズが、目に明らかな闘士を宿らせてこちらを威圧する様に睨んでいるのだ。


 堂々たる巨大な体躯で、両手にしっかりと握った剣を構えるその様は、見る者に圧倒的な存在感を感じさせる。

 ……俺の存在が、周りの人間の意識から消える程に。


 傍から見れば、どう考えても俺が勝つ見込みは無いであろう。

 しかし、誰がどう決着を予想しようと、現実が覆る事はあるまい。

 俺は周りの視線を気にせず、目の前の相手にのみ集中すれば良いのだ。


 そんな俺達の様子を見て、騎士団長は口を開き、大声を発する。


「ではこれより、勇者候補を決定する上での正式な試合を行う!!

 試合の規則(ルール)は、実技試験と変わらん!!

 両者共、真剣に試合に臨むように!!

 では……」


 騎士団長は説明を終えると共に腕を振り上げ、試合開始の合図の直前である事を表し────



「……開始!!」



 ────そして開始の合図を大声で言い放ち、腕を勢いよく振り下ろした。


 その瞬間、フレイド=アルムズは地を蹴り、その巨体からは想像も出来ない速度により、一瞬にして俺との距離を詰めた。


「フンッ!!」


 と叫びながら、横一文字に放たれたフレイド=アルムズの強烈な斬撃を、俺の鋼の剣が受け止める。


「……ッ!」


 それと同時に、俺の腕に強い衝撃が迸り、その斬撃の威力を俺に証明する様であった。


 巨大な体躯を誇るフレイド=アルムズの全体重を乗せた、圧倒的な力。

 まるで自身を上回る大きさの巨石を持ち上げるかの様な負荷が、俺の腕に掛かっているのだ。


「ほう……我が斬撃を受け止めるとは、やるではないか。

 しかし、何時までも持つ訳ではあるまい。

闘気放出(スピリットブースト)』!!」


 フレイド=アルムズがそう叫んだ瞬間、その巨体から発せられた赤色の光が、フレイド=アルムズの身体を包み込んだ。

 そして俺の腕に掛かる負荷が急激に増大し、互角の力で鍔迫り合いを行っていた筈の俺の剣が徐々に押し込まれてゆく。


 その見た目とスキル名から察するに、使用者の闘気をエネルギーに変換し、一時的に身体能力を爆発的に高める効果があるのだろう。


 スキル発動前と発動後の力を比べると、その効果が絶大なものである事が窺える。

 少なくとも、上位能力(ユニークスキル)並の効果が掛かっている筈だ。


 そしてフレイド=アルムズはその強力な力を更に増加させ、俺の体制を力押しで強引に崩そうとする。



「……!?」



 ────が、それでも俺の体制は一切崩れる事は無く、フレイド=アルムズは驚愕の表情を浮かべる。


「おい、マジかよ!? アイツあの体格で支えてんのか!?」

「いやいや、向こうも何かのスキルだろ?」

「それでも無理だろ!? どんだけスキルLvが必要になると思ってんだ!」


 フレイド=アルムズの重厚な体格で全体重を乗せた力に加えて、「闘気放出(スピリットブースト)」による力増幅効果を乗せた強力な力を、細身の俺が支えているという奇妙な光景に、周りの兵士達は、何やらざわざわと響めき始めた。

 同様にフィリアも目を見開き、「えっ!?」と言いながら驚いている。


「なっ……馬鹿な!? その体格でどうやって私の力に対抗していると言うのだ!?」


 フレイド=アルムズは自慢の巨大な体躯による力押しが通用しない事に、驚愕を顕にして言った。


 俺がフレイド=アルムズの力に対抗している理由は、俺のスキルである「ダメージ軽減」で腕や足への負担を軽減させている事に加えて、フィリアと同じ「身体強化」を使用する事により、身体に加わる負担を大きく軽減しているからだ。


 何故、俺がフィリアのスキルを使えているのか……それは、実技試験で獲得した固有能力(オンリースキル)である「能力複製(スキルコピー)」により、フィリアのスキルを複製(コピー)していたからである。


 この「能力複製(スキルコピー)」は、触れれば無条件で相手のスキルを複製(コピー)できる訳ではなく、事前に相手の所持するスキルについて把握していなければならない様だった。


 そして、相手に触れた瞬間に複製(コピー)

 できるスキルの数は、一回につき一つのみ。

 だから俺は、一昨日と昨日で合わせて、俺が唯一、全てのスキルを把握しているフィリアに「五回」触れた。

 最初の握手と、フィリアの頭を二回軽く叩いた時だ。


 フィリアの持つ通常能力(ノーマルスキル)の数は五つ。

 つまり、フィリアの持つ全スキルを複製(コピー)したのである。


 戦利品……と言うよりは、一度戦いにて勝利した相手から得たものなので、これらのスキルにも「戦利品増加」を反映させることにより、「身体強化」、「跳躍」、「生命感知」のレベルを全て3まで上昇させている。


 ……フィリアのスキルを勝手に複製(コピー)した上に、レベルまで本人を上回ってしまったのは非常に申し訳ない気持ちだ。


 更に「跳躍」スキルは俺のスキルと重複しているので、同じスキル同士で混合した相乗効果により、レベルが一気に「5」まで上昇したのである。

 まぁ、今は跳躍スキルは必要無いのだけれど。


 ともかく、俺が言いたいのは、実技試験で獲得したこの二つのスキルは、条件さえ満たせば途轍もなく反則的な効果を発揮すると言う事だ。


 そして俺は、Lv.3の状態で獲得した「身体強化」にて、フレイド=アルムズの剣を力押しで押し返す。


「くっ……!」


 それによって、フレイド=アルムズは小さく唸りつつ体制を崩した。


 身体強化のレベル3の効果は、「使用者の身体能力を5倍にする」なのだから、俺が力押しで負ける筈が無い。


 そして俺はフレイド=アルムズに一歩近づき、鎧の肩と腕の部分を掴み、俺の右足をフレイド=アルムズの右足に引っ掛けて投げ倒す。

 柔道で言うと、大外刈りに近い投げ技だ。


 体制を崩した事と、身体強化の効果も相まって、フレイド=アルムズの巨体を投げ倒すのは容易であった。


「ぐあっ……!」


 受け身を取れず、背中から投げ倒されたフレイド=アルムズは呻き声を上げる。


 そして俺はフレイド=アルムズが起き上がるのを阻止するべく、背中の上に乗って両腕を抑えた。


「ぐっ、あ……有り得ぬ!!

 この……離れろ、離れろォッ!!」


 悲痛の叫びを上げながら、俺の下でフレイド=アルムズは激しく暴れる――が、五倍の身体能力を得た俺を振り落とすには至らない。


 そして五秒ほど、そのままの状態が続いた時、不意に騎士団長が大声を発する。




「……そこまで!! 勝者、クロト=ルミナ!!」


 騎士団長の大声は、俺の勝利を宣言するものであった。

 その宣言を聞き、俺はフレイド=アルムズから手を離して、その背中から降りた。


「────ッ!!」


 その声により、自身の敗北を確信したフレイド=アルムズは、地に伏せたまま、騎士団長を「私はまだ()れる!!」とでも講義する様に、険しく睨みつける……が、直ぐに何かを考え直した様子でフレイド=アルムズは表情を一変させ、柔和な笑みを浮かべる。


「……フッ、完敗、だな。

 正直、貴様の力を舐めていたよ。

 ……素晴らしい実力だ。小娘よ」


 どうやら、騎士団長に従える、熟練の兵士たる自分の立場を思い出し、騎士団長の判断が正しい事を前提として、自身の戦いを見つめ直した様だ。

 結果、潔く自身の敗北と、俺の実力を認める結果に……、


 ……って、ちょっと待て!!

 まだ女性と勘違いしてたのか!?

 嬉しい台詞が台無しだろ!!


「あの……自分は小娘では無く、男です」


「なん……だと?」


 格好いい台詞を言った相手にこんな事を言うのも何だか申し訳ないので、控えめに俺は誤りを訂正し、それに対してフレイド=アルムズは呆然とした表情で呟いた。

 そこを勘違いされたままでは、有難い言葉も快く受け取れないからな……。


「しかし新兵の私が言うのも恐縮ですが、貴方の実力も確かなものでした。

 手合わせ頂き……有難う御座いました」


 俺は笑顔で、地に伏せたままのフレイド=アルムズにそう言い、手を差し出した。


「……フッ、全く、出来た新兵だな」


 フレイド=アルムズは笑みを浮かべ、俺の手を取って立ち上がった。


 同じ騎士団の上官としてでは無く、単純な実力者として、俺を完全に認める気になったのであろう。



「「「ウ……ウオオオオオオオッ!!」」」




 そして、俺達の様子を見ていた、周りの兵士達が歓声を湧き上げる。


 フレイド=アルムズの敗北を気にかける者など、誰一人としてこの場に居ない。


 何故ならこの出来事は、騎士団の常識……新兵は、熟練の兵士には勝てないという、先程までの考えを覆すものだったからだ。


 誰もが、今まで史上最高の期待の新人が入団したという事実を認め、そして――誰もが震撼する「魔王」という存在を倒す、人類の希望たる「勇者」の誕生を、その場の誰もが確信したのであった。



「鎮まれ!!」


 ────が、一人の男の大声により、その歓声は掻き消される。

 その男とは、騎士団長の事であった。



「「「……え?」」」


 突然発せられた大声に、騎士団長を除く、その場の全員がの動作がピタリと静止する。

 てっきり、騎士団長も賞賛の声を送るかと考えていたからだ。


「先程の戦い、見事だった。

 お前に勇者として相応しい実力が備わっている事を認めよう。

 だが……お前の戦いを見て、お前がどこまでやれるのか知りたくなった」


 騎士団長は淡々とそう告げながら、腰に携えた剣を抜き、剣先を俺へと向けた。

 その剣は、周りの兵士達が持っているモノとは若干異なり、長剣(ロングソード)ではあるものの、一回りサイズが大きく、デザインや装飾が少々多めに施されている。

 騎士団長専用に造られた、特注(オーダーメイド)の剣なのだろう。


「えっ……騎士団長が、新兵と!?」


 驚愕の声をいち早く発したのは、フィリアだった。


「流石にそれは……経験に差があり過ぎます!

 只でさえ、先程の試合でも圧倒的不利な条件だったと言うのに……」


 そしてフィリアは、続けて騎士団長に抗議する。

 元々、熟練の兵士と新兵とを戦わせる、圧倒的に俺に不利なこの試合にも反対していた様子だったので、騎士団長と俺との戦いともなれば尚更だろう。


「フィリア=ランベリーよ、反対する心境も解るが……お前は、この男が私に勝利する事を信じられんか?」


「……っ、それは……」


 騎士団長の問いかけに、フィリアは口を噤む。

 先程の試合では、客観的に見ても俺が苦戦した様子は特に見えなかっただろう。

 騎士団長が知る中で最強の部下に勝利した俺が、騎士団長に負けるという予想を確定づけるものは無い。


 しかしフィリアから見れば、新兵である俺と騎士団長とでは、フレイド=アルムズの場合よりも、更に経験の差がある。

 やはり、平等とは言えないこの試合を、快く観戦するなど納得がいかないのだろう。


 だが実際は、経験の差で言えば、圧倒的に上回っているのは俺の方だ。

 数百万年の知識と経験に追いつける人間は皆無。


 騎士団長が俺に勝利する要素は、その体格差と、未知数の戦闘の才能。

 フィリアが考える不平等な条件など、この試合には無いのである。


「……分かりました。その勝負、受けます」


 少しの間、瞳を閉じながら思案していた俺は、目を開くと共に真剣な表情を作り、騎士団長にそう告げた。


「えっ、ちょっ、クロト!? あんた本当に良いの!?」


 二つ返事で了承した俺に、フィリアが驚いた様子で言う。


「大丈夫だ、俺は必ず勝つ。

 例え……誰が相手だろうとな」


 俺は不敵な笑みを浮かべ、フィリアに返答する。


「……解ったわ。その代わり、必ず勝利しなさいよ」


 自信満々で答えた俺に対して、フィリアはもう何も言うまいと、腕を組んで呆れ顔で言った。

 先程の戦いを思い返し、俺を信用する気になったのだろう。


「……良い返事だ。クロト=ルミナよ。

 では、早速始めるとしよう」


 俺とフィリアの様子を見ていた騎士団長は、やる気満々の俺の様子を見て満足そうに頷いて言った。



  ......................................................



 そして騎士団長の支持で、先程の試合と同様に二十メートル程の距離を置き、騎士団長と俺は剣を構えて両者睨み合っている。


 周りの兵士達は、騎士団長対新兵という、前代未聞の試合の行方を、固唾を飲んで見守っている。

 その中でも、一番心配そうにハラハラした様子で見ているのはフィリアであったが。


 そんな緊張した空気を裂くように、騎士団長は声を発する。


「では、始めるとしよう。

 試合の合図は無しだ。何時でも掛かって来い」


 騎士団長は真剣な表情で剣を構えつつ、俺に告げる。

 自分から攻め込む様子は無く、完全に受けの構えだった。


「解りました。では――」


 騎士団長の言葉に返答しつつ、俺は目を閉じ、息をゆっくりと吸い込んで精神統一を図る。




「――参ります」




 そして目を見開くと共にそう言い、騎士団長に向かって疾走を始めた。

今回で、珍しくダラダラした感じのクロトを書きました。

そして勇者の話が思いのほか長引いてしまい、魔法学校編の話を期待している方には申し訳ないです……。

勇者化の話は、次話かその次の話までに終わらせて、なるべく早く魔法学校編を書けるようにするつもりです!

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