表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退屈した魔王は勇者になる様です。  作者: ナミ73
3章:勇者化編
26/64

22話:見廻り

久しぶりの一週間投稿(笑)!

GW中に書いたので、早めに投稿することが出来ました。

次話からは投稿に2週間かそれ以上掛かってしまうと思います。

  〜人間界〜


 俺とフィリアは再びハイネの後に続き、主塔内部の食堂に移動した。


 食堂にはまだ調理場に見える数人の料理人と俺達の他に客はいないが、部屋の中はかなり広く、木造りの長机と椅子が多く並べられており、食事時になれば大勢の騎士達がここに集まり賑やかな光景になるのだろうと予想がつく。


 他の部屋と同様に、壁や床、天井は石造りとなっており、天井には部屋の明かりとなる光を放つ魔水晶がぶら下がっていた。


「やっぱりまだ誰もいないわねー。

 ちょっとご飯の時間には早すぎたかしら?

 まぁ人がいない分、直ぐに料理が出てくるっていうのは良い事だけどね」


 キョロキョロと周りを見回してからハイネが言った。


「そうですね。あまり人が多すぎるのも好きじゃありませんから」


 フィリアが頷きハイネに賛同する。


「そうでしょう? 我ながら時間の見計らいが上手いわね」


 そう言いつつ、またもハイネはフフン、と得意気に胸を張った。


 別にそんな事で自慢しなくていいだろ……と思いつつ、俺は呆れ顔でため息をついた。


 ……それにしても、こんなに客足の少ない時間でも営業はしているんだな。

 もしかすると、騎士達が何時でも食事を取れるように食堂内の清掃等の時間以外は常に営業しているのかもしれないな。

 やはり体作りが重要になる騎士は食事が大切だからな。


 そんな事を考えつつ、俺は心の中で頷き納得する。


「そうそう、お金の事なんだけど、定食メニューまでなら無料で食べられるわよ。

 まぁ実際には毎月一定額を賃金から引かれているから、厳密にはお金を消費している訳だけれど。

 他の追加メニューは現金払いで注文出来るわよ」


 成程、つまり普段の食事はこの食堂で済ませる方がお得だという事か。

 損失を覚悟するならば、敢えて街の食堂で他のメニューを頼むのも自由なのだろう。

 別に此処の食堂でしか食事を摂ってはいけないというルールも無いからな。


「それにしてもクロト君は細いわね。

 定食に追加で、肉類を多めに摂った方がいいと思うわよ。

 上官として料金は私が支払うから、沢山お食べなさい!」


 俺の体格を見て、ハイネがお節介を焼く。


「……いえ、自分は筋力が必要な戦い方はしないので、その心配は要りません。

 上官の方にそこまで迷惑をお掛けするのも気が引けますので」


 俺は出来るだけ丁寧にハイネの気遣いを断った。

 と言うか、肉類を多めに摂る事だけが良い体を作る訳では無いし、寧ろ食事バランスを崩しかねないだろうに。


「私もハイネさんに賛成よ。

 どう見たって頼りない体格だし……あら、本当に筋肉足りてないじゃない」


 フィリアが俺の腕を握って筋肉の感触を確かめて言った。


 別に鋼の剣を振るうのに不自由は感じていないのだし、言われるほど筋力が足りないとは思わないのだが……。

 と言うか、筋肉など付けなくても実力は確かだと先程証明した筈だろうに。


「ほらね、やっぱり沢山食べなきゃダメよ。

 あと、訓練に筋力トレーニングを加える必要もあるかしら?」


「えっ……それって私も巻き添えですよね?」


 ハイネの提案にフィリアが突っ込む。

 そもそも、俺達2人には筋力トレーニングなんて必要無いだろ……。


「うふふ、冗談よ。

 それじゃあ私がオススメの定食で2人の分も頼んでくるから、好きな席に座ってて良いわよ」


 などとハイネは笑いつつ、そう言って調理場の方に向かって歩き出した。


「……追加メニューは要りませんよ?」


 俺はハイネに念押しする様に言ったが、当の本人は聞こえているであろうにも関わらず全く気にしない様子でそのまま調理場のカウンターへと歩いていった。


 あぁ……これは確実に追加メニューも頼むだろうな。

 まぁ、ハイネの奢りではあるのだし、量が多少増える分には問題ないか……。


「じゃあ私達は適当に座りましょうか。

 お客さんは他に誰もいないし、こういう時は何となく隅っこの方を選んじゃうのよね」


 そういうものなのか?

 まぁ別に場所に拘る必要も無いのだし、フィリアの意見を尊重するか。


「そうだな、じゃあ調理場に一番近いあの場所だな」


「ええ、丁度私もあそこを選ぼうと思ってたわ」


 意見が一致し、俺とフィリアは言った通りに調理場に一番近い端っこの席に向かい合って座った。

 因みに調理場に近い方の椅子にフィリア、その反対側の椅子に俺が座った。


 調理場のカウンターに向かったハイネの方を見ると、既に注文を済ませて料理が出てくるのをカウンターの前で待っている様だった。




 それから数分待つと、ハイネが3人分の料理が乗せられたトレイを絶妙なバランスを取りながら両手と右腕の上に乗せて、俺とフィリアが座っている席に持ち運んできた。


「はい、お待ちどうさま。

 2人ともしっかりお食べなさい」


 ハイネ本人は全く苦になっていない様子で余裕そうに笑顔を見せながら俺達に言うが……。

 正直、何とリアクションを取れば良いのかがわからん。

 凄いですね、とでも言えばいいのだろうか。


「え〜っと……お手伝い致しましょうか?」


 フィリアが席を立ち、ハイネの持っているトレイを取ろうとする。


「いえいえ大丈夫よ。

 武器強化の応用で、トレイに魔力を流してバランスを保っているの」


「そ、そうなんですか……魔法って凄いんですね」


 違う……断じて魔法にそんな使い道は無いぞフィリア。

 というか、ハイネも何をサラッと魔力の無駄遣いをしているんだか……。

 フィリアが真似したらどうする。


 魔法の理屈も知らないのに、そんな事に機転を利かせる事は出来るのか。

 ある意味、天才と言っていいのかもしれないな。


 いや、それよりも気になるのが……


「……ちゃっかり追加メニューの肉も頼んだんですね」


 俺はため息をつきながらハイネに言った。

 しかも肉の量も大盛りだし、どれだけ俺に筋肉を付けさせたいのだろうか……。


「勿論! 残したら許さないわよ?」


 ハイネが笑顔でさり気なく俺に圧力を掛けながら、トレイを一個ずつ机に並べてゆく。

 そりゃあ出された以上、当然残す気も無いのだが……。


 定食の内容は、ピラフの様な米料理、野菜スープ、豚肉に野菜を加えて炒めた肉料理の3つだった。

 どう考えてもスタミナ料理だな。


 そして俺のトレイに乗せられた追加メニューの予想を超える肉の量に、フィリアの方が驚いた様子だった。

 因みに追加メニューの肉は、鳥のもも肉を味付けして煮たもので、見るだけでも相当なボリュームがある。


「ち、ちょっと流石にこれは多過ぎるんじゃ………」


「何言ってるの。他の男達に取ってはこんな量ただのオヤツよ」


「うえぇ……」


 フィリアの質問にハイネはさも当然であるかのようにサラリと返答し、かなり引き気味にフィリアが呟いた。


 まぁフィリアも身体はかなり細いし、この肉の量はフィリアの一食分の食事よりも多そうだな。


「それじゃあ頂きましょうか。

 2人ともよく味わって食べるように!」


 ハイネはそう言うと、自分の手前に置かれた定食の米料理に箸をつけて口に運んだ。


「う〜ん、やっぱり美味しい!」


 いつも此処の料理を食べて味に慣れている筈のハイネが頬を撫でながら感慨深く感想を口にし、その料理が如何に美味であるかがよく伺える。


「そ……それじゃあ私達も頂きましょうか」


 フィリアが俺の目の前に置かれた肉料理を見ながら気まずそうに言い、自分の料理に箸をつける。


「あぁ……そうだな」


 まぁ、ハイネがあんなに美味しそうに食べているのなら、味は問題無いだろう。

 なら恐らくこの量でも食べ切るのは無理ではない筈だ。

 ……この料理は俺の「所有物」扱いになりそうなので、いざと言う時は収納スキルに隠して誤魔化すという手段もあるだろう。



  ……………………………………………



 それから食事を摂ること十数分。


「ふう、ご馳走様!」


 そう言いつつ、自分の料理を平らげたハイネが満足げに腹部を手で擦る。


「それにしてもクロト君、よくその量を食べ切ったわね」


 全ての料理を食べ切った俺に、ハイネが驚いた様子で言った。

 何故食べ切れないと思った量を食べさせようとしたのだろうか……。


 そう、俺はこの量の料理を、2人よりも早く食べ切ったのである。

 しかもまだ胃に料理が入りそうな感覚があり、正直言って俺自身が自分の胃の許容量に驚いている。


「何で私よりアンタの方が食べるの早いのよ……」


 フィリアもハイネに少し遅れて完食して俺に突っ込む。

 そんなのは俺が一番知りたい事だ。


「さあな。予想以上に料理が美味かったから、胃が普段よりも活発に消化してくれたのかも知れないな」


 俺は適当にフィリアに返事を返して納得させる。


「そういうものなの……?

 でもあの量を食べたという事は、お腹も結構膨らんで……無いわね」


 そう言いつつ、フィリアが俺の腹を触って確かめる。

 いちいち感触を確かめないと気が済まないのか……。


「もしかしてクロト君、沢山食べても太らない体質かしら?」


 ハイネが羨ましそうな目で言った。


 太らない体質というのは、大抵は身体の筋肉のバランスが良く新陳代謝が盛んだから太りにくいだけであって、いくら食べても太らないなんて都合の良い体質の人間は存在しないのだが……。


「羨ましいわね。私なんて太らないように甘い食べ物も控えているのに……」


 俺の体格を見ながらそう言いつつ、フィリアが不服そうな表情を浮かべる。


「……甘い物を控えても、今度はその我慢のストレスで肌が荒れるだけだから止めておけ」


「えっ……そうなの?」


 俺の突っ込みにフィリアが驚く。

 結局、甘い物も肉類もバランス良く食べて適度な運動を取れば綺麗な体型を維持できるものなのだ。

 筋肉が身につく内に太りにくい身体も出来るしな。


 ……あんな量の肉を食べたあとでこんな講釈を垂れても後の祭りというものだが。


「うんうん、ちゃんと乳製品も食べなきゃ胸も大きくならないからね」


 俺の言葉に頷き、フィリアの胸部を見ながらハイネが言った。


「〜ッ! 余計なお世話です!

 っていうかクロトがいるのにそんな話をしないで下さい!」


 フィリアが胸部を片手で隠して赤面しつつ憤慨する。


「……俺は別に気にしないぞ?」


「……少しは気にしなさいよ!」


 俺はフォローのつもりだったが、フィリアはそれが気に入らなかった様子で俺に拳を放った。


「おっと、危ないな」


 しかし俺はその拳を右手で軽く受け止める。

 拳を止めた時の衝撃からして、結構本気の殴打だった様だ。

 何をそんなに怒る必要があるのだろうか。


「くっ、この……あっさり受け止めて……。

 悪かったわよ、胸が小さくて!」


 フィリアが赤面したままヤケ気味に言い放った。

 成程、胸が小さいというのは女性のコンプレックスになるのか。

 それでフィリアがそれ程怒っているという訳だな。


「まぁ胸の発育は女性ホルモンの分泌の他に遺伝子の差もあるから仕方ないさ。

 やはり甘い物を我慢せずにストレスを減らせば多少は────」


「そんな情報要らないわよ!」


 フィリアが怒鳴りつつつ、強く両手で机を叩いて大きな音を出す。

 客は俺達の他には誰もいないから良いものの、調理場にいる調理師達はフィリアの出した音に驚いた様子で仕事を中断して一斉にこちらを振り向き、気まずそうに視線を戻して仕事を再開した。


 今度はフォロー代わりにアドバイスをしたつもりだったんだが、これも気に入らなかった様だ。

 これ以上俺からは下手に口出ししない方が良さそうだな……。

 俺もかなり口下手なのだろうか。


 淫魔族(サキュバス)なんかは寧ろ胸など性に関する話題に積極的だったのだが、やはり人間の感覚とは違う様だな。


「まぁまぁ、昼食は済ませたのだし、そろそろ休憩も終えて見廻りに行きましょう。

 とは言っても街の治安も悪くないし、大抵は街を適当に歩き回るだけの仕事なのだけれど。

 フィリアちゃんの新しい剣も買わなきゃいけないからね」


 ハイネがフィリアを宥めるように言いつつ話題を切り替える。

 と言うか、最初に胸の話題を持ち出したのもハイネだろうに。

 まぁ、話題を切り替えるタイミングも良かったので突っ込む気は無いが。


「……そうですね。行きましょう」


 フィリアが不服そうな表情をするも、これ以上怒るのを諦めた様子でハイネに賛同する。


 俺はフィリアに気づかれないようにハイネに「ナイスタイミング」とグッドサインを出しておいた。

 ハイネもそれに気づき、片目のウインクで返した。


 悪いなフィリア。

 いつか甘い食べ物でも奢るから許せ……。

 と、俺は心の中で謝った。

 おそらくハイネも同じ心境なのだろう。


「あっ、そうそう。

 騎士の身分証として、2人には騎士団の紋章が表に刻まれたバッジを身につけて貰うわね。

 私の場合は鎧のデザインを見れば一目でわかるけどね」


 ハイネが急に思い出した様に言うと、腰につけた小袋から2つの小さいバッジを取り出して俺とフィリアに渡した。


「はい、これは今日から君達の物になるから、常に肌身離さず持っているように!

 私とのお約束よ」


 ハイネは俺達に注意しつつ、最後は優しい笑顔で言いつつ俺とフィリアの肩をポンポンと叩いた。


「「了解!」」


 俺とフィリアはハイネに返答し、服の胸元の辺りにバッジを付けてた後は、再びハイネの後に続いて王城周辺の街の方へと向かった。



  ......................................................

 


 王城を離れて歩く事数十分。


 俺達3人は王城から少し離れた、様々な店に挟まれた街の通りを歩いていた。

 通りでは老若男女を問わず様々な人々が行き交い、親子同士での楽しげな会話に、青年達の雑談や中年女性同士の世間話等で辺りは騒めき、活気に満ち溢れている様子だった。


「う〜ん、今日も平和ね」


 ハイネが清々しい表情で言いつつ伸びをする。


 確かに言うまでも無く、何処をどう見ても平和だ。

 それだけでなく、視界に入る人の殆どが人生を充実したような笑顔を浮かべており、俺はその光景に言いようのない感動を覚えていた。


 ……誰かが完全な統治をして平和を保たなくても、住民同士が自主的に規則を守り助け合う事で、これ程の人々が充実した生活を送れるというのは素晴らしい事だ。

 魔界では決して不可能だろうな。


 だが、それはあくまで平和を築き上げる方法の一貫であって、俺の様に皆を引率して平和を築く方法が間違っている訳では無い。

 そもそも、魔族生命体の寿命は長く、また力も人間に比べて強大で、俺の様に個体のみで他種族を滅ぼしかねない力を持つ者も存在するからな。

 そういった力を長い期間に渡って抑止し、世界を統治する存在が魔界には必要なのだ。


「どうしたの? そんな神妙な顔しちゃって」


 俺の顔を覗き込む様にしながらフィリアが言った。

 あぁ……考え事をしている内に、つい表情が重苦しいものになってしまっていたのか。


「……いや、何でもない。

 それより、フィリアの剣を購入しなければいけないんだろう?

 あの看板……あの店がそうなんじゃあないか?」


 俺は話題を切り替える為に、剣と盾の絵が描かれた看板が掲げられた、わかり易く武器屋だと思われる店を俺達の立っている地点から十数メートル離れた場所に発見し、その看板を指さしながらハイネにも聞こえる声でフィリアに言った。


「その通りよクロト君。

 しかも、よく丁度私が目指していた武器屋を発見したわね」


 ハイネが「ご名答!」とでも言いたげに親指を立てながら俺を褒める。

 ハイネの目指していた武器屋だったというのは偶然だったのだが。


「あそこの武器屋は私が騎士団に入団する前に剣を買うために訪れたお店よ。

 結構品揃えも良いし、それでいて値段もリーズナブルなの」


 続けざまにハイネが店の簡単な紹介をする。


 とは言っても、俺は騎士達が使う様な剣で間に合っているし、別に武器が変わった所で扱えない訳では無い。

 転生前にあらゆる種類の剣の扱いは会得済みで、一部の種類のみなら槍や斧、鎌なども扱えるように練習したのだ。

 結局はロングソードが一番扱いに慣れている得意武器ではあるのだが。


 ……え? 鎌は武器じゃなくて農具だって?

 戦争では刃物の付いたものは何でも武器として扱えるから大差ないだろう?


 とにかく、俺がこの店を利用する機会は殆ど無さそうだな。



 俺はそんな事を考えつつ、フィリアと共にハイネの後を追って武器屋の店内へと入店した。


「へぇ、中は結構広いんですね。

 本当に品揃えも良いですし」


「でしょう? 私も中々に良いお店を知ってるわねー」


 フィリアの反応を喜びつつ、フフンと胸を張ってハイネが自慢する。


 フィリアが褒めているのはこの店なだけであって、ハイネが得意気になる理由は無いと思うのだが。


「そうですね、私も結構気に入りました。

 それにしても、品揃えが多くて逆にどれにしようか迷ってしまいますね」


 フィリアがハイネに賛同しつつ、多くの種類の剣が並べられた棚から、自分に合いそうな細剣を探していた。


「そんなの適当に選んじゃって良いじゃない。

 私も騎士団の所持する剣から適当に選んで使っているわよ?」


 自分に合った剣を探すのに悩んでいるフィリアにアドバイスをするつもりだったのかも知れないが、俺はそのハイネの言葉にあまり良い印象を持たなかった。


「いいえ、剣というものは握りの部分の感覚や剣身の長さ、重量等で使い心地に差が生じます。

 ここは適当な判断で購入を決めるのではなく慎重な────」

「えーっと、つまり自分の使い慣れた剣に近いモノを選びたいんです」


 俺の説明が長いと感じたのか、フィリアが気まずそうに俺の台詞を遮って代わりに端的に説明をする。


「な、成程そういう事ね。

 なら、結構早めに王城を出て時間もあるからゆっくり選んで良いわよ」


 ハイネも俺の説明を長いと感じていたのか、俺の話の途中から頷く事しかしなかった所をフィリアの端的な説明で理解した様子で納得して言った。


 時には事の全てを説明するのではなく、端的に要点を伝える事も必要だな……。

 そういえば、若者は長話を聞くのが苦手だという事を忘れていたな。

 俺も得意だったり好きだという訳では無いが……。

 やはり俺は話し下手だったか。


「あっ、丁度この剣が良さそうです。

 刃渡りも重量も前に使っていた物とほぼ同じですから」


 そう考えていると、フィリアがお気に入りの剣を見つけた様で、それを手に取ってハイネに言った。

 棚に書いてある値段を見ても、他の剣に比べて少し安価だった。

 まぁ双剣使いのフィリアはもう1本購入する事になるので結果的にはそれほど値段は変わらないのだが。


「決まりね。じゃあ早速支払いを済ませてくるわね」


 ハイネはそう言うと、フィリアの選んだ剣を2本手に取って会計へと向かった。




 それから少し待つと、ハイネが会計を済ませて戻って来た。


「はい、フィリアちゃん。

 ごめんなさいね、これからの訓練では剣を壊さないように気をつけるわ」


「いえいえ、とんでもない!

 私があの時不用心に攻撃なんてしなければ壊れませんでしたし、寧ろ剣を買って頂けた事に感謝致します!」


 申し訳無さそうにハイネがフィリアに謝る。

 しかしフィリアはそれを否定し、逆にハイネに謝ると同時に礼を言う。


 最も、俺から言わせれば誤って剣を壊す方も壊される方も未熟だという所だが。


 ただ、この件は今後はハイネも武器強化魔法の繊細な操作を、フィリアはより確実な戦術や相手の行動の分析等を改善して実力を身につけていこうとする切っ掛けとなるだろう。

 最初はただの失敗だと思ったが、以外にも怪我の功名となりそうだ。


「さて、じゃあ見廻りに戻りましょう。

 とは言っても、この国の治安は悪くないのだし、たまにひったくりやスリ、無銭飲食とかの大した事ない犯罪ぐらいしか起こらないのだけどね」


 ハイネの言う通り、下らない犯罪ばかりだな。

 何が下らないかと言えば、ひったくりやスリ等、「捕まらずに成功出来ればいいな」程度の認識で実行しそうな半端な覚悟で犯罪に手を出して捕えられ、それに対する厳格な処罰を前に「自分達の認識が甘かった」と後悔させられるまで、自分達の行動の罪の重さが分からない者が居るという現状を知る事が馬鹿らしくて嫌になるのだ。

 寧ろ、投獄覚悟で殺人や強盗等の重罪を行う者の方がそういった馬鹿らしさを感じずに捕らえる事が出来るので気が楽だ、という事なのだろう。


 精神的な負担は肉体的な負担よりも重く辛い。

 単純に捕まえるのが簡単であれば捕まえる側の負担が少なくて済むという話では無いのだ。


「そうですか。確かにそれは中々に億劫な仕事ですね」


 それを知った上で、俺はハイネに同調するように薄く笑みを浮かべてハイネの言葉に賛同する。


「どの様な犯罪でも、素早い対応が最適です。

 犯罪者が表れても、私が直ぐに捕まえてみせます!」


 フィリアが意気揚々とした態度で告げる。

 下賎な奴らを捕まえるのが馬鹿馬鹿しいという考えは無さそうだ。

 悪い奴は悪い、だから問答無用で捕らえるという考えは実に子供らしい考えだが、稚拙という訳ではなく、結局はそういった勧善懲悪な考え方が一番気が楽で素早く断罪を実行出来る。

 余計な事を考えるのは、時に足枷となるのだ。

 俊敏性が売りである俺やフィリアは、そのような足枷は仕事の支障にしかならないだろう。


 相手が法律を破る以上、こちらも余計な感情移入はせずに捕らえるべきなのだ。

 ……まぁ、そういった犯罪が起これば、という前提での話なのだけれど。

 結局は犯罪の無い平和が一番なのだから。




 そんな事を考えつつ、俺達は先程の人で賑わう場所とは違い、犯罪の起こりやすそうな人通りの少ない通りへと移動した。


「いいかしら? さっき説明した通りに動くのよ?」


「「了解!」」


 ここまで移動する際にハイネが説明した作戦を俺とフィリアがしっかりと把握しているかをハイネが俺達に問いかけ、俺達2人はそれに返答して作戦の了解の意思を示す。

 そして俺達3人は作戦通りの配置へと移動するために解散する。


 まず俺達は一番被害件数が多いという「ひったくり」の犯罪に目を付けた。


 基本的には一本道となっている通りの物陰に別々に姿を潜めつつ通行人を見張り、そこに表れたひったくり犯を現行犯逮捕する、というものだった。

 つまりはまぁ、単純な待ち伏せである。


 一本道の出入口付近の物件の陰にはフィリアとハイネ、真ん中辺りの物件の陰には俺が身を潜めている。

 会話をせずともハンドサインやアイコンタクトの取れる距離だ。


 大体の場合は一本道の真ん中辺りが一番「ひったくり」し易いだろうから、まず俺が動いて、身柄の確保に失敗した場合にハイネとフィリアの内、犯人が逃げた先にいる方が動いて捕らえるという挟み撃ち方式だ。


 俺が真ん中に配置された……というか、自分から立候補してこの位置になった訳だが、その理由は俺のスキル「索敵標識(エネミーマーカー)」を活かす為だ。

 このスキルを発動させるには対象に触れる必要がある為、一番犯人が「ひったくり」を実行し易そうな場所……つまり、一番犯人に触れやすそうな場所を選択したからである。


 まぁ、索敵標識(エネミーマーカー)を使うのは俺達3人が挟み撃ちでも捕えられなかった際に犯人を追跡する場合だが。


 2時間ほど見張りを続けて何事も起こらなければ場所を移動し、同じ様に犯罪の起こり易そうな場所を探して見張るつもりだ。


 俺の心情としては、出来れば犯罪は起こって欲しくは無いが、ここで犯罪者を捕らえて犯罪の被害を減らしたいという両方の気持ちがあった。




 そして見張りを30分程続けていると、右肩に小さいショルダーバッグを抱えた30代程の女性がこの通りを歩いて来た。

 入ってきた方向はハイネが待ち伏せしている方だ。


 物陰からハイネの方を見ると、ハイネがこちらを見て「あの人を注意深く見張って」というハンドサインを送った。


 俺は「了解」というハンドサインをハイネに送り返し、再び視線を女性の方へと戻した。


 すると今度は直ぐに、女性の背後から足音を消して女性に近づく、パーカーを着て顔が見えないほど深くフードを被った、顔は見えないが少し大きめの体格からして男性だと思われる怪しい者の姿が見えた。


 怪しい、と思った俺はハイネの方を見ると、今度は「要注意」のハンドサインをハイネが俺に送った。


 俺も再び「了解」とハンドサインを送ると、次の瞬間、案の定女性近くの背後まで近寄った男性は女性のバッグをひったくり、通りに入ってきた方向とは反対方向の出入口に向かって走り出した。


「キャッ! ……ひ、ひったくりよ! 誰か捕まえて!!」


 突然の出来事にその女性は驚き叫び声を上げる。


「二人共! 捕らえて!!」


 その様子を見ていたハイネが俺とフィリアに向かって叫んだ。


 俺はハイネが叫ぶ前に既に動いており、男性のすぐ隣の物陰から飛び出し、身柄確保の為に男性へと手を伸ばした。

 不意を突いて捕らえるには完璧な位置とタイミングであった。


 しかし、自身を捕らえようとする俺の姿に気付いたその男性は、突然急激な速度で走り出し、俺の手は男性を捕らえること無く、指が男性の腕を掠めただけだった。


 明らかにただ足が速いという速度では無く、恐らく何らかのスキルを使ったのだろう。


「……ッ! フィリア!」


 男性を捕らえ損なった俺は悔しい気持ちに苛まれるが、直ぐにそんな場合ではないと判断し、男性が逃げた先に待ち伏せしていたフィリアに向かって叫んだ。


「任せて!」


 フィリアが返答し、物陰から姿を表して男性の道を塞ぐ。

 一見して非力で華奢な少女に見えるだろうが、「身体強化」スキルの効果で成人男性とは比べものにならない力を発揮できるので、全く持って俺達に不安は無い。


「へっ、甘いんだよ!」


 男性はフードで表情が見えないまま不敵に笑うと、疾走の速度を落とさぬまま建物の壁に向かって跳躍し、壁を3回蹴って天井へと登り、去り際に「あばよ!」と叫び姿を消した。


「……っ、しまった……」


 俺と同じく犯人を捕らえ損ねたフィリアがすっかり意気消沈した様子で顔を項垂れる。

 相手の不意を突いて逃げる事が出来るとは、奴の逃走技術はかなりのものだ。


「……やられたわ。天井なんて移動されたら追跡のしようが無いわ」


 直ぐに俺とフィリアの元へ駆け付けたハイネが残念そうな表情を浮かべながら言った。

 ハイネの言う通り、例えあの男と同じ様に天井を自由自在に移動できるスキルや身体能力を持つ者でも、建物が複雑に入り組んだこの地形で人間一人を見つけ出し追跡するのは困難だろう。

 あれ程の多彩な移動手段となるスキルを持っているひったくり犯……相当に厄介だな。


 しかし……捕えられないとも言っていない。


「俺は犯人の腕に触れました。追跡手段と移動手段となるスキルを持っているので犯人を追います。

 確保した時の為に、2人は此処で待機する様にお願いします」


 俺はそう言うと、先程の男性が登った建物の天井の上へと、跳躍スキルを使って跳躍する。


「えっ!? ちょ、ちょっとクロト君!?

 単独行動は危険よ────」


 俺はハイネの忠告を無視し、建物の天井を「高速移動」スキルと「跳躍」スキルを使用して移動し、「索敵標識(エネミーマーカー)」で犯人の位置を確認しながら後を追う。


 犯人の男性は現在も天井の上を伝って移動し、逃走していた。


 一刻を争う事態だ。

 ハイネと言い合いになって犯人確保の機会を失うのは避けるべきだろう。


  ......................................................



 それから1分ほど犯人の後を追うと、俺は先程の男性の姿が肉眼で目視出来るまで距離を詰めていた。

 犯人は現在も天井の上を移動しており、俺の姿には気付いていない様子だった。


 俺は右眼の「龍精眼(ドラゴニア・アイズ)」で男性のステータスを確認する。

 レベルは140でステータスは俺を上回るものは無く、スキルは「高速移動Lv3」と「三角飛びLv2」だった。


 高速移動スキルのLvは俺より低いし、三角飛びは道を挟むようにして建てられた壁にしか使えないので、俺の跳躍スキルよりも多様性は低い。

 恐らくはこれからこの男性を捕まえるのに苦労はしないだろう。


「ハァ……ハァ……ッ!

 チッ、もう追ってきやがったか!」


 俺と犯人との距離が50メートル以内にまで縮まった時、犯人が俺の気配を感じたのか背後を振り向いて俺の姿に気付き、建物の天井で急停止した。


「へっ……華奢な女1人で何が出来るってんだ。

 俺は毎日欠かさず、空手の練習で鍛えてんだぜ。

 おら! かかって来いや!」


 そう言ってひったくり犯の男性が深く被っていたフードを抜ぐと、茶色の短髪に緑色の眼を持った30第半ばの男性の顔が見えた。


 男性は体全体を俺の方に向けて空手の構えを取り、中指を立てて第2関節を2回曲げて挑発する。


 その挑発自体は実に幼稚で馬鹿らしく、特に憤りを感じるものでは無かったが、唯一憤りを感じたのは……


 ……俺を女性と勘違いした事だ。


「それは良い覚悟だな。だが直ぐにお前の身柄は拘束される事になる」


 俺は怒りを抑えて冷静を装いながら言いつつ、男性の立っている建物の天井へと降り立ち、こちらはボクシングに近い構えを取る。

 ボクシングに比べて少し腕の位置を低くしている為、ボクシングの構えとは少し違うが。

そもそも魔界で自己流で身に付けた喧嘩術の様なものなので、格闘技に当てはまる様なものでは無いのだが。


「おっ? なんだ、嬢ちゃんも多少は格闘技の経験があるんだな?

 まぁそりゃあ騎士の一員みてぇだし当たり前か。

 いいぜ、ボコボコにしてやるよ!」


 男性は饒舌にそう話すと、高速移動スキルで俺との距離を一気に詰めて右手の拳を放った。

 しかしその拳は俺の左手によってあっさり受け止められ、男性は驚愕の表情を浮かべる。


「何っ……!?」


 男性が驚きを言葉にする前に、俺は素早く男性の腕を掴んで懐へ潜り込み、男性を天井の床に投げ倒した。


「ぐあっ!」


 男性が苦痛の叫びを上げて地に伏せ、俺は男性が起き上がらないようにしっかりと抑え込む。


 思った以上に呆気なかったな。

 まぁこちらには思考加速100倍もあるのだし、何にせよ近接格闘で負ける事はほぼ有り得ないだろうが……。


 さて、縄も無いしどうやって拘束しようか。

 まぁ適当な衣服で良いか。


「ちくしょう! このクソ女、離しやがれ!」


 俺は収納スキルから無地の白いTシャツを取り出し、俺の下で暴言を吐きながら暴れる男性の腕を拘束した。

 2度も女性と間違われた事に苛立ちを覚えた為、少しきつく縛っておいた。

 ただ問題は、この男性をどうやってハイネ達の居る場所に移動させるかだ。


「クロト!」


 そう考えていると少し離れた場所からフィリアの叫び声が聞こえ、声のする方向を見るとハイネとフィリアが俺と同様に天井を伝ってこちらに向かって来るのが見えた。


 フィリアが索敵スキルで俺の位置を確認していたのだろう。

 というか、ハイネも移動手段となるスキルを持っていたのか。

 また機会があればこっそり龍精種(ドラゴニア・アイズ)で見ておこう。


「あら、心配だったから後を追って来たのだけれど……本当にもう捕まえちゃったのね」


「まぁ……クロトに追われて逃走を成し遂げられる人間なんて居なさそうですから」


「その通りね……杞憂だったわ」


 ハイネとフィリアが呆れた様に会話をする。

 会話なんてする暇があるなら手伝って欲しいのだが……。


「それで、この男はどうしますか?」


 俺は男性を抑えつつ、2人の話題をこちらに切り替えさせるようにハイネに問いかけた。


「そうね……一先ずこの街の留置所に送るわ。

 後は裁判所の方で裁いてくれるでしょうし」


「了解」


 俺はハイネの返答に返事を返すと、男性を肩に乗せて抱え込む様に持ち上げ、天井から地上へと降りた。

 ダンッ、という大きな着地音と共に強い衝撃を足に感じたが、俺の足は特に怪我を負っていない。

 跳躍スキルは使用者の跳躍力を100倍にし、その着地の衝撃を和らげる効果があるのだ。

 今地上に降り立つ際にもほんの少し跳躍スキルを使用して飛び降りた為、着地の衝撃を和らげてくれたのである。


 フィリアが身体強化スキルを使用しても、特に肉体に負担が掛かっている様子が無いのも同じ理由だ。


「へっ……美人な女性3人に囲まれて捕まるなら悔いは無いねぇ」


 3人の騎士に囲まれて流石に観念した様子の男性が開き直った様にそう呟く。


「……一応言っておくが、俺は男だ」


「はぁ? 冗談キツイぜ?

 そんな体格と顔付きで男な訳無えだろ?」


「……」


 俺の弁解を全く持って聞き入れない男性に対して俺は更なる苛立ちを覚え、そこらの壁に投げ飛ばしたくなる気持ちを抑える。


 そのすぐ後からハイネとフィリアも俺の近くに飛び降り、留置所まで男性を同行させた。



  ......................................................



 留置所までひったくり犯を連行した俺達3人は散々に事情聴取等をされ、かなりの時間をそこで潰してしまった。


「ふぅ……2人ともお疲れ様。

 疲れちゃったし、さっきの街に戻って見廻りを再開する前に15分ぐらい休憩を挟みましょうか。

 その間、適当な店を見て回りましょう!」


 精神的な疲労を養うべくハイネは楽しそうにそう提案する。

 休憩は当然俺達の苦労を労っての提案なのだろうが、店を見て回るのはハイネの趣味ではないだろうか。

 俺は別に構わないのだけれど。


「良いですね。どの店に行きましょうか?」


 フィリアがハイネの意見に賛同し、早速行き先を決定しようとハイネに意見を求める。


「そうね、まぁそれは街に着いてから決めるとしましょう。

 クロト君もそれで良いかしら?」


「ええ、構いません」


 ハイネの問いかけに俺が返答する。

 満場一致で店の見回りが決定した俺達は、先程の街を目指して歩いた。




 数十分ほど歩いてやってきた場所は最初に訪れた商店街で、フィリアとハイネはどの店にしようか迷っている様子で辺りをキョロキョロと見回していた。


「あの衣服屋さんとかが良いんじゃ無いかしら。

 最も、仕事中だから服を見て回るだけになるけどね」


 ハイネが衣服の書かれた看板が掲げられた店を指差し、俺とフィリアに問いかける。


「私も丁度同じ意見です。

 最初にここを訪れた時にも興味がありましたから」


 ハイネの提案に、フィリアが照れくさそうに笑顔で賛同した。


 確かに大抵の女性はファッションに気を使うので、数ある店の種類の中から衣服屋を選ぶのは自然な考えであろうし、そこは容易に納得出来る。


 ただ、その提案には一つだけ決定的な問題がある。


「……俺は男ですから、当然別の場所を見回る事になりますよね?」


 俺が問題点をハイネに指摘すると、ハイネとフィリアがまるで考えていなかったように「あっ……」と気まずそうな表情を浮かべた。


「確かに……クロト君が余りに女性っぽくて忘れてたわ。ごめんごめん」


 ハイネが申し訳無さそうに謝るが、その台詞は寧ろ俺の機嫌を逆撫でする様な内容だった。

 全く、さり気なく失礼な事を言う上官だな。

 別に慣れているのだし、怒るつもりも無いのだが。


「でもクロトの見た目なら一緒に見回っても大丈夫そうじゃない?」


 フィリアが割と真剣な表情で言う。

 冗談で言っているのだと信じたいものだったが、その表情からして真面目に言っている様であった。


「いや、それは無理だろ……。

 俺は衣服に興味はありませんし、店の前で2人を待っていますよ」


 俺はフィリアの提案を断り、そう2人に告げた。


「うーん、じゃあ仕方ないわね。

 クロトはいつもラフな格好だからファッションに興味無さそうだし……」


 フィリアが残念そうな表情で言うが……余計なお世話だ。


「放っておけ」


俺はため息をついて返した。


 そもそもファッションというのは衣服の一つの役割であるアイデンティティの確立を果たすだけであって、無理にファッションに気を使う必要は無い。

 敢えて言えば、ラフな格好と言うのが俺のアイデンティティなのだ。


「ごめんねクロト君。なるべく待たせないように早く済ませるから」


 ハイネが申し訳無さそうに断りを入れてから、フィリアと一緒に衣服屋へと入店した。


「……全く、もう少し気を使って欲しいものだ……」


 ハイネ達が入店し、衣服屋の入口の扉が閉まって2人の姿が見えなくなると、俺はため息をついて愚痴を呟いた。




 ────その直後、俺は数歩離れた距離にいる1人の通行人に違和感を覚えた。

 手は届かないが、会話ぐらいなら出来る距離である。


 マントを身に纏い、フードを深く被り顔を隠している魔道士の様な格好をした、俺とほぼ同じ身長や体格をした者が、俺の方を向いてまま微動だにせず直立していたのだ。


 俺に何か用があるのか……?

 そう思っていると、向こうの方から近寄って声を掛けてきた。


「……お前が、クロト=ルミナか」


「な……っ!?」


 その驚愕の一言に、俺は声を上げて驚かずにはいられなかった。

前回はクロトの女性扱いが酷でしたが、今回はフィリアの貧○扱いも酷でした(笑)。

無駄知識っぽい下りは、ネット上でたまたま見かけた知識ばかりなので、間違いもあるかと思います。

そこは暖かい目でスルーして頂けると幸いです。

次話はまた急展開となる予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ