21話:訓練
今回はほぼ戦闘回になります。
あまり作者は発想力が無いので、戦闘時の戦略が稚拙だと感じる方もいらっしゃるかと思います。
〜人間界〜
俺とフィリアは、騎士団長から出された任務である訓練を受ける為、俺達の指導係を務めるハイネ=レイティアの後に続いて訓練の場となる外郭へと移動していた。
ハイネの案内で辿り着いた場所は、跳ね橋とは反対側の、外壁と主塔に挟まれた広い庭のような広場だった。
数人程度で軽い運動をするには丁度良さそうだ。
まぁ、王城の敷地内にある筈の、これほど程広い空き地を敢えて放置していると言うことは、実際にこの場所を騎士達の訓練場として使う事もあるのだろう。
「着いたわ。さて、早速訓練を始めましょう!」
外郭の真ん中でピタリ、と足を止めたハイネは爽やかな笑顔のままこちらを振り向き、声高らかに俺達に言った。
「「了か……」」
「……と、言いたいところだけど」
俺達がハイネの言葉に返事を返そうとした瞬間、ハイネは俺達の返事を遮るように、勿体ぶった言い方で何か別の話を切り出そうとする。
元気良く返事を返そうとした途端に、その返事を遮られたものだから、俺とフィリアは面食らった様にガクッ、と拍子抜けした。
「訓練を始める前に、2人のステータスについて聞いて置かなくちゃね。
それぞれレベルと属性を教えて貰おうかしら。
特に、自分の属性は魔法の習得に大きく関わる重要な要素になるのよ。
って言うより、入学に必要な書類にも記載しなければいけないからね。
レベルはただ単に私が気になるだけよ。
まず、フィリアちゃんの方から聞かせて貰おうかしら」
あぁ……そういう話か。
別にわざわざ返答を遮ってまで今言わなくても、ここまで連れてくる前に聞いておいても良かったんじゃあないか……?
まぁハイネ自身に悪気は無さそうなので敢えて言うつもりは無いが。
ステータスと聞いて、フィリアは何かを察した様に気まずい表情で一瞬だけ俺の顔をチラリと見てからハイネの方に視線を戻し、自分のステータスを軽く紹介する。
「私のレベルは157で、属性は『雷』です」
「おぉ〜。その若さで157かぁ……うんうん、実技試験の上位合格者なだけあって、普段から相当に鍛えているみたいね。
因みに私の属性は『炎』で、レベルは何と200よ!」
ハイネはフィリアのレベルに感心しつつ頷いて褒め、その後は自慢するようにフフン、と胸を逸らしつつ自身のステータスを得意顔で言った。
……確かに、僅か20代の女性が200に到達するだけでも自慢したくなるのは判る。
フィリアの歳ではレベル90〜100、ハイネの歳ではレベル105〜120が平均だから、2人とも才能や努力によってそれを大きく上回っているという事実には胸を張っていいと思う。
しかし、フィリアは俺の言いたい事を察して、「あっ……」という気まずい表情で再び俺を見た。
気持ちは俺も同じだ。
ハイネのステータスは、俺のステータスを聞いてから言って欲しかった……。
「次はクロト君のステータスね。
実技試験第1位のステータス……どんなものかしら」
ハイネは先ほど自慢した自身のレベルの高さに満面の笑みで胸を張りつつ、俺のステータスを興味津々に聞いてくる。
俺のレベルを知っているフィリアは、既に俺とハイネから視線を外して何も知らない風を装っている。
「……俺のレベルは260で、属性は『闇』です」
俺は自身のステータスを公開すればハイネの自信が失われるかもしれないという罪悪感を感じつつ、気まずい表情でハイネから目線を逸らしながら言った。
「「えっ!?」」
俺が2人と同様に自身のステータスを紹介すると、その2人は驚愕の表情を見せつつ同時に叫んだ。
いや、ハイネが驚くのは完全に予想通りだったが……
「……フィリアには俺のレベルは教えたばかりだろう?」
「いやいや、『闇』属性だったなんて聞いてないし、その見た目で意外過ぎるわよ……」
フィリアは手を左右に振って否定する。
あぁ、俺のレベルでは無く、属性の方に驚いていたのか。
確かに闇属性の人間は世界中でもごく僅かな人数だから、目の前にその人物がいる事は珍しい事だろう。
しかし驚いたのは人口的な意味合いではなく、俺の見た目とのギャップの違いによるものだった様だな。
まぁ、現在の俺は白髪に碧眼の見た目だから、闇のイメージ色の黒色っぽい印象は感じられないのだろう。
転生前は黒髪に茶色の眼をしていたので、その頃は多少なりとも黒っぽいイメージはあったと思うが。
「別に見た目と属性は関係無いだろ?
黒い髪や肌の人間にも光属性の者はいるじゃないか」
「それはそうだけど……クロトが闇属性だと初めて聞いて驚かない人間はいないと思うわよ……」
俺がフィリアの偏見を指摘する様に言うと、そのやり取りの間、余りの衝撃に口を開いて静止していたハイネがようやく言葉を発する。
「いや、属性も驚いたけれど、その歳でレベルが私を超えてるってどういう事よ……」
ハイネは驚きを通り越して、呆れた様にため息をつきながら言った。
「まぁ……そういうスキルを持っていますので……」
相当な努力を重ねて力を身につけたのであろうハイネに対して、俺が努力でそれを上回ったと言っても自身を失わせるだけだ。
と言うか実際に、今の段階までレベルが上昇したのも殆ど戦利品増加スキルのお陰なのでそう言うしかあるまい。
「えっ、そんなスキルがあるの……?」
俺のレベルを初めて教えた時のフィリアと同じような反応だな。
「ええ。簡単に言うと経験値が10倍になる……つまり、レベルの上昇速度が常人の10倍になるスキルです」
「えっ……?」
俺が平然と答えると、ハイネは驚いた様な表情を見せながら声を漏らした。
「ちょ、ちょっと何よそれ!? 反則スキルじゃないの!?」
「……落ち着いて下さい」
ハイネが急に声を張り上げながら、両手で俺の両肩を掴んでガクガクと俺の体を揺らす。
頭が揺れて気持ち悪いので、俺は取り敢えずハイネを宥めた。
「ご、ごめんごめん。
それにしても、そんなスキルを持っているのなら、直ぐに騎士団でトップの実力を身につけるんじゃ無いかしら……?」
ハイネは急に落ち着くと、俺の肩を離して深刻な顔つきで言った。
「私の上官としての立場と威厳の危機ね……」
ハイネは先程までの自身を一気に失った様で、どこか遠い目で無気力そうに言いながらため息をついた。
「……今改めて聞いても、とんでもない反則スキルね」
フィリアは呆れた様な表情で言った。
まぁ、本当に反則級なスキルは4つの固有能力の方なのだけれど。
「でも、今の内は私よりも強いとは限らないわよ。
私は自分よりもレベルの高い上官よりも強いし、A級の魔物も1体1で倒した経験もあるのよ!」
ハイネは上官としての威厳を保つ為か、今度は自身の実力と功績を胸を張りながら誇示する。
「ええっ!? A級をたった1人で!?」
フィリアが声を張り上げて驚いた。
俺はA級とかいう、恐らく人間が勝手に付けたのであろう魔族生命体の格付けがどれほどの基準で付けられているのかを知らないので、ハイネがどれ程凄いのかが良く分からなかった。
仕方ないので、取り敢えずハイネに尋ねてみる。
「……A級というのは、どの程度の強さなのですか?」
「えっ、魔物のランク付け知らないの?
仕方ないわね、教えてあげる。
ランクは全部でF〜SSS+に別れていて、1番下のFランクは言わずもがなスライムとかの弱小生物で、レベルは1〜20程度しかないわ。
その次のDランクにはゴブリンぐらいね。
レベルは大差あって20〜80ぐらいよ。
で、私が言ったAランクには鋼鉄人形や竜人族なんかが存在するのよ」
俺の質問に、ハイネが事細かに説明した。
あぁ……確かフィリアはAランクの冒険者が3人がかりで倒せる相手が竜人族って言ってたな。
それを考えると、ハイネはAランクの冒険者以上の実力を持っているのだろう。
俺はレベルだけならSランクの冒険者並みだ、とグリルに言われたが、ハイネもまたそれに達する実力を持っているのかもしれないな。
しかし、竜人族なら俺だって相手をした。
それも3体……竜人族の長を含めて、の話だ。
あれから更にレベルが上昇した今、1度に相手出来る竜人族の数は3体どころでは無いだろう。
となると、ハイネがA以上〜Sランク冒険者並みの実力だと仮定すると、俺はそれ以上の実力がある……筈だ。
「なるほど、竜人族と1人で戦ったのですか。それは凄いですね」
「え、もうちょっと驚くべきだと思うわよ……?」
大したリアクションも取らず、真顔で感想を述べる俺にフィリアが言った。
「いや、竜人族とやらを知らないだけだ。
それにしても、SSS+ってどんな魔族が該当するのですか?」
俺はフィリアの突っ込みを誤魔化しつつ、ハイネに疑問を問いかける。
SSS+の魔族生命体がいるにしても、A級の冒険者が数人がかりでようやくAランクの魔族生命体を倒せる程度だと言うのに、どれだけ強力な実力を持った人間でもSSS+ランクの魔族生命体などと出会った時点でタダでは済まない筈なのだ。
果たして、SSS+の魔族生命体に出会ったことのある人間が本当に存在し、他の人間にその魔族生命体の存在を知らせた事が過去にあるという事なのだろうか……?
「実はね、SSランクより上の魔族は『それ程の力を持つ魔族がいるんじゃないか』っていう仮定でランク付けされているだけなのよ。
伝説上のお話では古代竜とか、最強は暗黒竜とかが存在するっていう話だけれど、私も結構信じ難いのよねー」
なんだ、やはり実際に出会ったことのある人間はいない訳か。
まぁ伝説上とはいえ、本当に古代竜や暗黒竜等が存在しないという確証も無さそうだが。
魔界には邪竜なんかが存在しているからな。
「まぁ……とにかく訓練の内容は、私と1体1での対戦になるわ。
私は魔法による武器強化を使うから、2人ともスキルとかは遠慮なく使って良いわよ!」
またもハイネは胸を張りつつ、自信満々に告げた。
「スキル有り……ですか」
フィリアはそう言いつつ、また気まずい表情て俺の方を見る。
スキルの内容までは教えていないが、通常能力を9つ、固有能力を4つ所持しているというだけでも相当なアドバンテージだからな。
まぁ、フィリアは「寧ろアンタの方が手加減すべきじゃないの」とでも言いたげな視線を送ってはいるが……今はマジックとは違ってスキルの使用が許されている訳だ。
そしてハイネは俺達の上官であり、それなりの責任を持っての許可なのだろう。
部下である俺達が上官の命令に逆らう道理はあるまい。
ハイネが許可する以上は、存分に使わせて貰おうではないか。
「もっちろん! 遠慮なく使って良いわよ。
さて、じゃあまず最初はフィリアちゃんから手合わせしよっか!」
ハイネが自身の胸に手を当てながら、張り切った様子で言った。
戦う順番は俺が後か。
まぁ順番的にレベルの低い方から選ぶのは当然だな。
フィリアに負けるという事は、俺に勝つのは相当に困難だろうからな。
「わかりました。全力で相手をさせて頂きます!」
フィリアは真剣な顔つきで言い、腰に携えた2本の剣を抜いた。
「うんうん、そう来なくっちゃ!
さぁ、何処からでも掛かって良いわよ!」
ハイネはこれから部下の実力を知る事に対してわくわくと楽しげな様子で言いつつ、腰に携えた1本の剣を抜いた。
「……了解!」
フィリアはハイネの言葉に返事を返すと、目にも留まらぬ速度で移動し、刹那の間にハイネの眼前まで一直線に距離を詰めた。
その速さは最早、絶速と言っても良いだろう。
昨日戦った時よりも一段と……いや、それ以上に速くなっているな。
レベル上昇に伴い俊敏性のステータスも上昇しているだけでなく、恐らくは「身体強化」のスキルLvも一つ上がっているのだろう。
「ハァッ!」
ハイネの眼前にまで距離を詰めたフィリアは、手に握った2本の剣で正面からハイネに襲い掛かった。
────しかし、ハイネの剣がその2本の剣を弾く。
「甘いわね」
更にハイネは余裕の笑みを浮かべつつ、無駄の無い洗練された動作で反撃に移る。
が、ハイネの剣もまた、フィリアに当たること無く空を切った。
剣をハイネに防がれるのを当然の如く予想していたフィリアは、反撃するハイネの初動作を見た瞬間に高速で距離を取ったのだ。
「やっぱり、馬鹿正直に正面から攻撃するのでは当たりませんか」
フィリアが笑みを浮かべつつハイネに言った。
昨日よりも向上した速度で攻撃したにも関わらず余裕で防がれた事には全く驚いておらず、寧ろ予想通りで清々しいという心情の精神的余裕から来る笑みなのだろう。
「当然よ。速さ自慢の魔族とは何度も相手をしたきたもの。
もっと創意工夫を凝らさなきゃ、私には勝てないわよ!」
ハイネはまたも胸に手を当て、フフン、と自慢する。
「その様ですね。では……これならどうですか!?」
そう言うと、フィリアは再びハイネに向かって一直線に疾走し距離を詰める。
ハイネは「またその攻撃?」と言いたげな疑問の表情を浮かべつつも、フィリアが疾走する瞬間の初動作を見て、瞬時に防御の構えを取った。
だが、フィリアは今回は先程のように攻撃はせず、移動の方向を変更し、城壁に向かって跳躍する。
「えっ……!?」
ハイネは困惑した表情で声を漏らすも、防御の構えを崩さぬまま、フィリアの跳躍した方向へと身体の向きを変えた。
────次の瞬間、たった1回の瞬きの後、俺とハイネは目撃する。
重力や慣性の概念を感じさせない動きで、空中を縦横無尽に移動する無数のフィリアの分身を。
俺はその光景に驚きつつも、第二知能によって思考速度を10倍まで加速し、フィリアの動きを捉えた。
すると俺の目には、驚愕的な光景が映った。
フィリアは地上を閃光の様な速度で縦横無尽に駆け、王城の壁を駆け登るのと跳躍するのを使い分けながら空中を移動していたのだ。
地上という平面の上で戦う2次元的な戦いに依存するのでは無く、空間全てを利用して3次元的な動きを取り入れたのである。
真正面からの攻めが駄目なら、予測不可能な方向からの攻めに切り替えるのは当然だが……これ程の多角方向からの攻撃を可能にするとは、ハイネは予測してはいなかったであろう。
「なっ……! この子、ここまで……!」
予想通り、ハイネは驚愕した様子だった。
自分よりも年下の少女が、これ程までスキルを使いこなしている事に驚くのは当たり前の事だ。
「纏雷剣!」
フィリアが技名(スキル名)を叫びつつ、ハイネの頭上から雷を纏った剣で切りかかる。
ハイネの持つ、鉄で造られた剣で防げば即感電、更にフィリアの疾さに加えて重力による加速。
ハイネの視線もフィリアから大きく外れている。
この一撃で、最早勝負は決まっ────
「────まだ甘いわね」
ハイネが突然表情を変え、薄く笑みを浮かべつつ呟く。
そしてハイネはフィリアの方向を向かず、剣を頭上に構え、フィリアの剣を防ぐ。
その瞬間、激しい閃光と金属同士が衝突する金属音が広場全体に炸裂する。
光と音を避けるため、目と耳を塞いでいた俺がその後の勝負の行方を確認した時。
────構えを解いて平然と立ち尽くすハイネの前で、フィリアは呆然とした表情で膝を着いていた。
フィリアの両手には剣が握られておらず、それはフィリアの明らかな敗北を意味する。
一体、あの一瞬で何が起こった……?
疑問を頭に浮かべた瞬間、俺はハイネの剣に起こった、とある「変化」に気づいた。
ハイネの握っている剣が赤く発光し、更にその剣の周りの空間が歪んで見えるのだ。
あれは、魔法による武器強化……?
……なるほど、そういう事か。
魔法による武器強化……竜人族の長であるグレアが使っていた「魔装」の効果は、武器の切れ味や耐久力を一時的に向上させるもの。
そして、ハイネの属性は「炎」。
前述の魔装の効果に加えて、武器の温度を上昇させる効果がある。
本来は超高温の刃によって、普通は刃物では切断出来ないような物を切断する為に使う、攻撃特化の効果なのだろうが……
……今回は、その効果は防御の方にも生かされた様だ。
ハイネが感電せずに反撃を可能にした理由。
それは、加熱による「抵抗値の増加」。
抵抗は、温度が上昇する程に抵抗値が増加する。
本来は非常に電気を流しやすい鉄で造られたハイネの剣も、超高温に熱することによって絶縁体並みの抵抗値を得たのだ。
そして、重力を利用した攻撃を防御された時、フィリア自身の腕にも相当な負担が掛かる。
雷を無効化したハイネは、重力を利用したフィリアの攻撃を逆利用してフィリアの剣を弾いたのである。
…………ちょっと待て。
フィリアの纏雷剣は、魔力を消費するとは言え、魔装とは違って強力な雷を纏うだけで、一時的な耐久力等の向上はしない。
と言うことは……フィリアの剣は無事では済まないのでは?
「……あ」
俺はまた新たな事実に気づき、つい声を漏らした。
フィリアの剣は、2本とも無事にハイネの足元に落ちていた。
……剣柄の部分だけは。
刃の部分は2本とも8割程が無くなっており、最早まともに使用できる状態では無かった。
ハイネもそれに気づくと、急に焦った様子でフィリアに頭を下げた。
「あっ……ご、ごめんね!
つい力を込めすぎちゃった!」
気まずそうに頭を下げつつ、チラリと目線をフィリアに移して顔色を伺う。
フィリアは変わらず、膝を着いたまま呆然とした顔で地を見つめていた。
「え〜っと……フィリアちゃん?」
返事を返さないフィリアに対して、怒っているのでは無いかと不安な様子で、ハイネはもう1度話しかける。
「……凄い」
フィリアは薄らと笑みを浮かべて呟いた。
「えっ?」
ハイネはその言葉の意味を理解出来ずに不思議そうな表情で聞き返す。
「これが……魔法……!」
更に笑顔を浮かべつつ、独り言の様にフィリアは言った。
あぁ、「魔装」の力に感動していただけか……。
ハイネと同じく、フィリアが怒ったりしてないか不安に感じていた俺は安堵する。
「あの〜、感動しているところ悪いけれど、その……剣は?
騎士達が使う支給品の剣で良ければあげても良いんだけれど……」
ハイネは安堵しつつも、申し訳なさそうな顔でフィリアに問いかける。
「あっ……そうですね。
でも、私はハイネさんの使っている様な剣は扱えないので、新しく買います」
……特に思い入れのある剣だったという訳でも無かった様だな。
かなり扱い慣れていたので、何年もあの剣を使ってきたのだとは思うが……。
確かに、フィリアの使う様な細剣は騎士団の正式装備には無さそうだからな。
下手に武器を変えても扱いづらいだけであろうし、新しく買い直すのが妥当か。
「そ、そう? でも壊しちゃったのは私だから、お金は私が出すわ。
まだ2人には言ってなかったけど、ちょうど午後からは街の見廻りが仕事になるから、ついでに買い物も済ませちゃいましょう」
ハイネとの手合わせは午前中までの予定だったのか。
街の見廻りか……まぁ俺はまだこの王国には来たばかりなので、知らなかった場所に足を運べるいい機会だろう。
「じゃあ、まだちょっと時間が早いけど、次にクロト君と手合わせしたら昼食にして見廻りに行きましょうか。
さて、掛かってらっしゃい、クロト君!」
ハイネは剣先を俺に向けて声高らかに言った。
……また出力調整ミスで剣を壊されたりしないだろうな? まぁ2度目は無いか。
と言うか、切り替えが早いな。
「了解。全力で相手をさせて頂きます」
俺はフィリアと同じ様な返事を返しつつ、鋼の剣を抜いて構える。
鋼は熱に耐性があるので、鉄の剣の様に簡単には破壊されないだろう。
ハイネの魔装の温度がどれ程かは判らないが……。
「おぉ……凄い。とても綺麗な構えね」
綺麗な構え……か。まぁ転生前は幾らでも剣を振るってきたから当たり前であろう。
ハイネは俺の構えに感動しつつも、先程とは違う構え方で剣を構える。
重心を下げた、攻撃に特化した体制。
フィリアと戦った時の構えよりも、更に様になっている構えだ。
恐らく、フィリアに攻めさせたのはワザとだろう。
ハイネの魔装の本命は、防御ではなく攻撃か!
「行くわよ!」
攻撃を宣言した瞬間、ハイネはフィリアにも劣らぬ……いや、それ以上の疾さ────光の如き速度で俺との間合いを詰める。
一つの瞬きも許さぬ刹那の間に、俺の正面まで距離を詰めたハイネは、無駄の無い素早い動作で攻撃に移り、俺の剣を狙って剣を振った。
「ハァッ!」
ハイネの一閃は正確に俺の剣を捉え、その衝撃によって俺の剣が手から離れる────
……と、いう事は無かった。
確かに、剣同士の衝突によって、剣は手から離れて遥か上空へと吹き飛んだ。
吹き飛んだ剣は重力に従い落下し、地面へと深く突き刺さった。
しかし……それは俺の剣ではなく、ハイネの剣である。
前述の通り、ハイネの放った一閃は疾走による加速と魔装による強化によって、強烈な一撃を確かに俺の剣に加えた。
だが、俺の剣はそれによって弾き飛ばされる事は無く、寧ろ弾き飛ばされたのはハイネの剣であった。
ハイネが強烈な一撃を放ったにも関わらず、反撃を喰らった理由。
それは、俺の3つのスキルの効果が原因であった。
1つは、まずハイネの動きを捉えるための第二知能による10倍の思考加速。
更に俺はダメージ軽減と、万物融合化の2つを駆使したのである。
ハイネの攻撃を予測した瞬間、俺は万物融合化によって、ダメージ軽減の効果を「剣」に付加した。
ただ、それではダメージ軽減の効果が剣にのみ反映されてしまい、俺の身体へと掛かる負担を軽減する為の余力が失われると俺は思った。
……しかし、その考えは誤りであった。
龍精眼を俺の目に融合した時、龍精眼は消滅し、効果のみが俺の目に宿った。
だから俺は、スキルを物体へと融合すれば、スキルの効果が剣に宿り、スキルの方は使用不可能になるのでは無いかと考えていた。
しかし、今回は物体同士の融合ではなく、スキル……つまり「能力」と「物体」の融合。
自らの能力を他人に伝授した所で、自身の能力か失われる事は無い。
それと同じで、自身のスキルを剣に宿した所で、自身のスキルが消滅する事は無いのだ。
結果、俺は剣へのダメージ軽減の効果の付加と、自身の身体へのダメージ軽減の効果の付加の両方を可能にした。
腕への負担を軽減しつつ、ハイネの剣によって俺の剣が破壊されることも無く、逆にハイネの剣を弾き返す事になったのだ。
……一瞬。たった一瞬の出来事が、ハイネに大きな驚愕を与えた。
「嘘……でしょう?」
余りの驚きに、俺を攻撃した時の姿勢のまま静止しているハイネが、ただ呆然と呟いた。
「ふ……ふふ……」
「……?」
ハイネは身体を震わせつつ、口元を歪めて小さく笑う。
俺はその意図が分からず首を傾げた。
「あっはっは! 凄いわ、予想以上よ!
全力を出した私をあっさり負かすなんて、とんでもない部下を持ったものだわ!」
ハイネは開き直った様子で、叫ぶように大きく笑った。
「……ふぅ。今の段階で既にこの強さなんてね。
魔法を習得したら、どれ程強くなっちゃうのかしら?」
先程の笑いで気力を失ったのか、ハイネが落ち着いた様子で言った。
「相変わらず、バケモノ級の強さね……。
しかも魔法理論も満点だったし、アンタが魔法なんて習得したら本物のバケモノになっちゃうんじゃ無いかしら……?」
俺とハイネの様子を見ていたフィリアが呆れた様に俺に言った。
化け物級……か。
フィリアの言う「化け物」に「魔族生命体」が該当するならば、転生前の俺は化け物どころの話では無いのだろうな。
最も、フィリアの台詞は俺が化け物みたいに野蛮で凶暴な生物だと言いたいのでは無く、ただ単純に化け物に匹敵する実力を持っているという比喩表現なのだろう。
「……少なくとも、私ぐらい余裕で倒せそうな魔法剣士になってくれそうね」
ハイネもフィリアに同調するように言いつつ頷いた。
魔法学校に入学する前から、既に俺は魔法騎士として騎士団の強大な戦力となる事を期待されている様だな。
まぁ、魔法さえ使える様になればハイネの期待通りに……いや、期待以上の戦力になるのは間違い無いのだが。
「……と言うより、わざわざクロトが魔法騎士になる必要性を最早感じないわね」
「そうでも無いわよ。
確かに今の時点でも充分に強いけれど、魔法が使える様になったらもっと幅広い戦い方も出来るもの!
ちゃんと魔法を習得すれば、もはや魔法だけで戦闘がこなせるわよ!」
フィリアの言葉を否定する様に、ハイネが魔法の実用性について熱く語る。
……そこまで熱く語らなくても、魔法の実用性は俺が一番熟知しているけどな。
まぁ魔法が使えない今の段階では黙っておこう。
「じゃあ、私がクロト以上に魔法を使いこなせる様になれば、いずれはクロトを超える可能性もあると言うことですか!?」
「え、ええ勿論。それ相応の努力は必要になるけどね」
フィリアが突然、わくわくと興奮した様子になって笑顔でハイネに質問し、ハイネは急に上昇したフィリアのテンションに驚きつつも返答する。
「はい、頑張ります!
見てなさいクロト。私は魔法でアンタを超えてみせるわ!」
フィリアは笑顔で俺の方を向き、左手を腰に当て、右手の人差し指で俺をビシッと指差しながら高圧的な態度で宣言した。
……そんなフィリアの様子を見て、まだ俺の実力を超える気でいたのか、と俺は呆れ顔でフィリアに気づかれないように小さくため息をついた。
恐らくはハイネの魔装を見て、魔法にその可能性を見出したという訳なのだろう。
しかしフィリアには悪いが、剣技でも魔法でも、俺を超えることは無謀だと思うけどな……。
まぁ、俺を目標にする事で力を伸ばしていけるのなら良いことだ。
ここは「無理だ」と言わずに、フィリアの心意気を肯定すべきだろうな。
「そうか、ただ俺は魔法でも負ける気は無いぞ?」
俺はわざと不敵な笑みを浮かべ、挑戦的に言った。
フィリアの負けず嫌いな精神を刺激する為だ。
「ふふん。お生憎様、私は相手が手強いほど燃えるのよ!」
フィリアは挑戦的な態度を崩さずに返答する。
相手が手強いほど燃える、というのは先程のハイネとの戦いで分かっているのだがな。
とにかく、フィリアのやる気を充分に引き起こせた様で何よりだ。
「うふふ。これが青春ってやつかしら」
「ち、違います!」
ハイネが微笑ましい様子で頷きながら言ったのを、フィリアが赤面しつつ否定する。
俺はハイネの言った「セイシュン」という聞き慣れない単語に首を傾げる。
初めて聞く単語だが……フィリアが強く否定する以上は深く追求しない方が良さそうだな。
俺も、まだ人間界の言語を勉強不足なのかもしれないな。
「さて、じゃあちょっと早いけれど昼食にして見廻りに行きましょ!
私はかなりお腹空いちゃったからね。
主塔の中に食堂があるから、昼食はそこで摂るわよ」
ハイネは俺達の注意を引きつけるように両手をパン、と合わせて言った。
時刻はまだ午前11時半……か。
人間の感覚では、昼食の時間はまだ早いのか?
魔界の魔族生命体の食事時間は定まっていないし、そもそも食事の必要が無かった俺には関係の無い話だったのだが。
それにしても、空腹……か。
俺はまだ空腹を感じていない……というか、転生前も人間界に来てからも、空腹を感じる事は無かったので、その感覚は全く分からないのだが。
まぁ満腹を感じる事はあったが。
もしかすると、空腹という感覚がわからないままで、実際には空腹だったという事もあったのかもしれない。
人間は食事を取らなければ、やがては栄養失調で死に至る。
これからは、食事にも気を配らなければならないな。
俺はそう考えつつ、フィリアと共にハイネの後を追いながら食堂へと向かうのであった。
クロトのレベルが軽く人間離れしていますが、フィリアとハイネのレベルも2人の年齢的に考えると意外と人間離れしています。
お察しがついた方もいらっしゃるかと思いますが、古代竜辺りの話題は勇者化フラグのつもりです。




