20話:入団式
期間を間に合わせるどころか、前回よりも更に遅れが悪化してしまい申し訳ありません。
前半の内容にスキルの説明を書いたら、思いの外時間が掛かった上に文章が長くなってしまいました。
次回からは2週間以内の投稿を目指し、執筆していこうと思います。
本来は20話を投稿した後に2章編のキャラクター紹介を投稿したのですが、3章中に2章編のキャラクター紹介を入れるのが不自然だと思った為、編集によって順番を入れ替えました。
〜人間界〜
セインガルド騎士団入団試験を終え、十一人の合格者が決定した翌日、各々の合格者達の入団を祝う入団式が開催される事となった。
当然ながら、合格者の一人である俺も参加者の例外ではない。
騎士団入団試験が終了し、入団試験の参加者全員が解散された後、俺は王都から少し離れた区域にある宿に泊まって休息を取っていた。
広さは十五帖程で、お洒落な装飾が施された木製の机と椅子に、幅の広いシングルベッド等、王都の近くだけあって中々に充実した設備が整っている。
まぁ王都の近くで安い宿を適当に探して見つけたのがこの宿だったので、内装を重視して選んだ訳では無かったのだが。
そして休息を取った……とは言え、実技試験は大した相手もいなかったので、身体の疲れは全くと言っていいほど感じておらず、結局は入団式が行われるまでの時間潰し程度の睡眠を取ったという感覚だ。
……そうだ、実技試験の終了後まで確認していなかったステータスを確認しておくか。
試合をこなしていく内にもステータスは増加していた筈だ。
俺はステータス表を目の前の空中に展開させ、そこに書いてあるステータス表に目を通した。
ついでに各スキルの詳細を調べるため、解説の表示も脳内で設定しておく。
《基本情報》
名前:クロト=ルミナ
種族:人間
武器:剣(二本)
属性:闇
レベル:260
攻撃力:200
防御力:160
俊敏性:170
魔力:130
《スキル》
「闇属性耐性」
闇属性の攻撃、魔法等による影響や効果を受けない。
「ダメージ軽減LV.3」
物理攻撃や魔法攻撃等によるダメージを半減させる。
「自動回復LV.3」
負傷に要する回復時間を半減させる。
「戦利品増加LV.4」
戦闘によって得られる経験値を十倍に増加、又は戦闘によって得られた戦利品の質や数を増加させる。
「隠密LV.4」
周囲の敵に使用者の足音、影、呼吸音、物音が認識できないようにする。
最大持続時間十五分間、クールタイムはスキルの使用時間と同一。
発動前に既に使用者を視野に入れているものに対しては無効。
「高速移動LV.4」
使用者の移動速度を十倍に増加させる。
最大持続時間は十分間、クールタイムはスキルの使用時間と同一。
「跳躍LV.3」
使用者の跳躍力を百倍に上昇させる。
「収納LV.4」
異空間に物体を転送して収納する。
収納できる重量の上限は使用者の体重と同じ。
収納出来る対象は使用者の所有物のみで、気体や液体の直接の収納は出来ない(容器等に入れる事で収納可能)。
「索敵LV.3」
使用者に対して敵意のある半径五百メートル圏内の敵全てを常時自動感知し、感知した敵の位置を可視化する。
《新獲得スキル・固有能力》
「索敵標識」
体の一部に触れた事がある者の現在地を半径十キロメートル圏内まで把握出来る。
効果を反映出来る者の最大数は二十。
「第二知能」
完全同時並列思考が可能となる。
思考速度を最大百倍まで加速させる。
このスキルに自立思考を命令し実行させる事ができる。
このスキルの性能は使用者の知能指数に比例して増加する。
「万物融合化」
二つ以上の異なるモノを組み合わせ、それぞれの用途を組み合わせたモノを生成する。
効果を反映させられるのは使用者の所有物のみ。
「能力複製」
他人の所持するスキルを複製し、同一のスキルを使用可能にする。
複製出来るスキルは通常能力のみ。
……どうやら、"戦利品増加"スキルの影響によって、俺のステータスは驚異的な上昇を遂げた様だ。
特に現在所持しているスキルの内容を見ると、どれも強力な効果を持つものばかりで驚きである。
更に、いきなり固有能力を四つ同時に獲得したのも衝撃的だ。
しかも、どのスキルも上位能力に匹敵する程の効果……いや、それ以上だろうか。
それを判断するにしても、通常能力、上位能力、固有能力の違いはかなり難しいものだ。
通常能力は唯一、スキルレベルが存在し、初めは人間の持つ能力を少し高める程度のものが大半だが、スキルレベルを上げていくと非常に有用なものとなり、やがて上位能力をも上回る事がある。
但し、上位能力に通常能力が上回るのは、少なくともスキルレベルが四以上にならないと難しいだろう。
上位能力は初めから強力な効果を発揮するものが殆どで、一つの上位能力だけでも複数の通常能力と同様の効果を得られる場合も多いが、前述の通り、スキルレベルが4を超えたあたりの通常能力よりは劣ってしまう事もある。
固有能力は、ピンからキリまで様々な効果があり、通常能力よりも使えないモノもあれば、スキルレベル5の通常能力よりも有用なモノもある。
俺の手に入れた固有能力は、恐らくどれも高レベルの通常能力に匹敵する程の効果を持っている。
俺自身のレベルが60も上がったとはいえ、流石にこの結果は余程の強運だったと言わざるを得ないだろう。
それにしても、こんなに有用な固有能力を既に獲得していたのなら、実技試験の試合終了毎にステータスを確認しておくべきだったな……。
まぁ、スキルを使用しなくてもある程度は対処出来るだろうと思っていたので、新しく獲得したスキルの確認なんてしなかったのだが。
結局、使用したスキルも「高速移動」だけだったしな。
いやしかし、能力複製なんて持っているのなら、せめてそれに気づいて実技試験の合格者のスキルだけでも複製して来れば良かった……。
まぁ、今更後悔した所で意味は無かろう。
能力複製を合格者に使う機会など、この先は幾らでもあるのだ。
ところで……複製したスキルにも戦利品増加スキルは影響するのだろうか?
一応は戦利品と言うか、他人から得られた物だからな。
もし出来ると言うのなら、本当に反則級のスキルだと言わざるを得ないだろうな。
まだ人間界に来たばかりだというのに、既に普通の人間には到達不可能であろうレベルにまで上昇し、とんでもないスキルも獲得してしまった。
高速移動スキルについてだが、今の俺が平常時で五十メートルを七秒で走れるとすれば、発動時は単純にタイムが〇・七秒に縮まるという意味だろうか。
ステータスが上昇した要素も加えて考えると、それよりも速い可能性があるのだが。
そして、嬉しい事に収納スキルの性能もかなり強化された。
自分と同じ体重の重量が上限か……。
俺はそこまで体重は重く無いので、収納出来る容量も限られてしまうのが残念だ。
体重を増やせば、それに比例して容量は増えるのだが、生憎とスピードを重視する俺の戦闘スタイルにおいては出来るだけ無駄な体重は増やしたくない。
収納スキルの利便性を上げるために、生活に不便な程の体重を付けてしまうのも本末転倒だ。
しかし、少なくとも利便性が格段に増したのは確実だろう。
今まで収納できなかった剣やその他の大荷物も楽々と運ぶ事が出来る様になったのは非常に楽なものだ。
そして、一番気になるスキルは"万物融合化"だ。
異なる二つ以上の『モノ』?
敢えて物体やスキルなどと言わないあたり、融合できる物は物体だけとも限らないし、スキルだけとも限らないのだろうか。
と、言う事は……魔法道具と物体等を組み合わせる事も可能か?
……やってみるか。
俺は収納スキルから龍精眼を取り出し、万物融合化で「俺の目」と「龍精眼」を融合させた。
「痛……っ!」
その瞬間、俺は自身の目に燃えるような痛みを感じ、小さく悲鳴をあげた。
自分の身体にスキルの影響を及ぼさせる以上は、何らかの違和感を感じるであろうとは思ったが、これ程の痛みを体験するとは思わなかったからだ。
しかし、すぐにその痛みは治まり、気づくと俺の手から龍精眼は消えていた。
周りを見渡しても、龍精眼は見当たらない。
「成功したのか……?」
融合する前と今とを比べても、体の感覚に変化は無かった。
しかし、万物融合化を発動させる時、俺の目に『龍精眼』を融合させるイメージを浮かべたのだ。
もしその通りに成功したのなら、俺の目に何らかの変化が起こっているはずだ。
俺は机の上に置いてある備え付けの小さな鏡で、自身の目を確認する。
すると、元々は青色だった右目の瞳が、薄らと緑色に発光しているのが確認できた。
まさかと思い、自分の顔全体から胸部が映る位置まで鏡を遠ざけると、鏡に映っている俺の胸の前でステータス表が薄らと表示されていた。
ステータス表が薄らと見えているのは、目の発光も薄らとしたものだからなのだろうか。
俺は試しに右目に全神経を集中させ、鏡の中に映る俺のステータス表を凝視すると、俺の瞳が緑色に強く発光しているのと、ステータス表がハッキリと表示されているのが確認できた。
そして今度は集中を解くと、緑の発光が収まり、元の碧眼の状態へと戻ってゆく。
「これはまた……恐ろしいスキルを手に入れたものだ」
俺はあまりの驚きに、つい感想を言葉に出してしまう。
部屋の中で一人だから他人に聞かれる心配も無いという油断もあったが。
とにかく、この万物融合化は予想以上に効果を反映できる範囲が広い事が分かった。
これから魔法道具を入手したり、新たなスキルが手に入る事があれば是非とも色々と試してみたいものだ。
融合しておいて解除出来るのかを確かめたい気持ちもあったが、今の目の状態を解除するメリットが特に無いのでやめておいた。
また融合する時に、先程同様に目が焼ける様な痛みを再び体験するのも嫌だからな。
その他のステータスを総合して考えても、実技試験中の数々の試合によって得られた戦利品は、極めて多大なものであった。
さて、驚くべき事は多々あったが、ステータスの事についての考察はここまでで良いだろう。
それよりも、今日から俺は騎士団の一員として生活していくのだ。
人間界に転生した当初よりも、行動はかなり制限されるだろうが、それでも全く自由がない訳では無いのだし、人間界最大の王国で王都生活を送る事が出来るのは多くの人間の憧れであろう。
決して人生の悪いスタートでは無い。
俺は退屈な魔界から離れたこの新たなる世界で、満足に生きていくのだ。
……という思考を、途中から「第二知能」による完全同時並列思考によって行いつつ、俺は王城への出発の準備をしていたのだった。
早速便利なスキルだ。
とりあえず第二知能には、『脳が危険を感知したら思考速度百倍を発動しろ』と命令しておいた。
......................................................
そして出発の準備を済ませた俺は宿を離れ、王城へ向かって街を歩いていた。
収納スキルに全ての荷物を入れて歩くのが一番楽だが、騎士団の者が剣すら持っていない素手の状態というのも不自然だろうし、剣だけは腰に携えたままだ。
今の時間からなら、王城まで歩いても入団式の集合時刻には一時間ほどの余裕がある。
王城内に入るための跳ね橋が降ろされるのは集合時刻の三十分ほど前からなので、それまでは王城の門の前で暇をする事になるだろう。
暇な時間が増えるのは好きでは無いが、なるべく時間には余裕を持って行動するのが一番楽だ。
そんな事を考えつつ、俺は王城に向けてゆっくりと歩を進めた。
暫くの間歩くと、だいたい予想通りの時間に王城の城壁前に着いた。
城の跳開橋は引き上げられており、見張りの兵の姿も見当たらないし、俺以外の合格者の姿も見当たらなかった。
……結局、俺が最初に到着したのか。
流石に早く着きすぎたな。
集合時刻まで、俺の体内時計ではあと一時間程。
因みに俺の体内時計は分刻みで正確だ。
まぁ一時間程度なら、俺から見ればごく短い時間だ。
焦らず、ゆっくり待つとしよう。
……と、考えていた瞬間、フィリアがこちらに向かって歩いている姿を遠目に発見する。
こちらに向かってくるフィリアを少しの間見ていると、フィリアもまた俺の姿に気付き、歩く速度を速めた。
やがて俺の近くまで近づいたフィリアが俺に話しかける。
「おはよう。私が一番に到着だと思ったけど……また貴方に一番を取られるとはね」
フィリアは少し残念そうに言った。
よく見ると目は半開きで、まだ少し眠そうな顔をしている。
そこまでして一番乗りになりたかったのだろうか……。
「あぁ、おはよう。一番乗りとはいえ、俺もたった今着いた所だけれどな」
「あら、そうだったの? でも集合の早さぐらいは一番になりたかったわね……」
別に、集合の順番ぐらいで一番になっても自慢できるものでは無いと思うのだが。
俺はただ時間に余裕を持たせたかっただけだからな。
まぁ集合するのには早いに越したことはないし、そこに拘りたいという者がいるのも頷けるか。
「あ、そうだ。それよりも私達、これからは同じ騎士団の一員としてやっていく訳だから、もうお互い名前で呼んだ方が良いんじゃないかしら?」
フィリアが突然良い提案を閃いたような様子で言った。
あぁ……確かに、今まではお互いに『君』とか『貴方』で呼び合っていたからな。
もう初対面だとか知り合ったばかりの仲だという訳でもないし、名前で呼び合う方が色々と都合が良いだろう。
「あぁ、確かにそうだな。改めてこれから宜しく、フィリア」
俺は笑顔でそう言い、手を伸ばして握手を求めた。
「あ、うん……よろしくね、クロト」
フィリアは何故か少し赤面しつつそう言って、俺の手を握った。
少女らしい、白くて小さい手だった。
俺も男性としては手は小さい方だが、フィリアの手は俺の手よりも更に一回り小さかった。
フィリアの言う通り、これからは騎士団の一員として勤めていく事になる。
やはり今のうちに名前で呼び合うことに慣れる利点は多いだろう。
しかし、普通に本名を名乗ってくれている相手に対して、自分だけは偽名を本名であるかのように思わせて呼ばせているというのは、平等では無い様に思えて気が引けるな……。
せっかく名前で呼んで貰えるのなら、相手にも本名で呼ばせたいところだが……今更になって偽名を使っていたなんて言えないし仕方ない。
「それにしても、思いの外早く着きすぎてしまったせいで暇ね……」
フィリアがため息をつきながら言った。
「そうだな、何か暇を潰せる事があれば良いんだが」
「……あ、眠気覚ましにまた実技試験みたいに戦ってみない? あの試合の後、私のステータスは幾つか上がってるのよ」
フィリアはフフン、と胸を張りつつ自慢げに言うが……ステータスが上がったのは俺も同じだし、戦利品増加の影響によって、俺の方がステータスの上昇度は格段に大きいからな。
俺は実技試験中にレベルは60上がったが、戦利品増加を持たない他の合格者のレベル増加は6〜7程度だろう。
「対戦をするのは良いけれど……戦利品増加スキルの効果があるし、俺の方がステータスの上昇度は遥かに大きいぞ?」
「戦利品増加? それってステータスの増加に関係あるのかしら?」
フィリアの知らないスキルだった様だ。
まぁ世界には魔法事典は存在しても、スキル事典何てものは無いからな。
いきなりスキル名を言われても、見た事も聞いた事もないスキルの効果なんて知っている訳も無いだろう。
「まぁ簡単に言うと、戦闘によって得られる経験値が今の段階では十倍になる効果だ。
スキルレベルの上昇速度もかなり増加するぞ」
「じゅ、十倍!? っていう事は、クロトは今のレベルどれぐらいなの!?」
俺は何食わぬ顔で言ったのだが、フィリアにとっては……と言うか、戦利品増加の効果を初めて知った者にとっては驚くべき効果の様だ。
というか、俺自身も人間が所持するスキルとしてはかなり反則級だと思っているのだし当然だろう。
「今のレベルは260だ。
因みに通常能力は九つ、固有能力は四つ持っている」
「なっ……! それはあまりに反則級じゃないの!?」
やはり驚かれた。
大体の人間は戦闘を生業とする者でもレベル250に到達出来るかどうかだというのに、既にそれを超えている上に固有能力は二つ持っているだけでも相当な強運と才能の持ち主なのだから、この反応も当然だ。
「まぁ自覚はしているが……それで、対戦はするのか?」
「えっ……いやいや勝てる訳無いでしょう!? さっきの話は無しよ、無し!」
即刻否定された。
これも当然だと言わざるを得ない。
レベルが100も開いている相手に勝てる見込みは殆ど無いだろうしな。
結局のところ相手は人間なのだし、工夫次第では完全に勝利不可能という訳では無いのだが。
ただ人間は人間でも、俺は『元魔王』の人間なのだが……。
「まぁ、とにかく対戦の話は無しにして……この暇をどうやって潰そうかしら」
フィリアは腰に左手、顎に右手を当てて代替案を思考しているような格好を取りながらそう言いつつ、俺の顔をチラリと見てきた。
俺にも代替案を考えて欲しい、という考えが丸わかりである。
まぁ折角暇を潰せる相手がいるのだし、俺も何とかして暇を潰したい気持ちは同じだ。
仕方ないので、早速"第二知能"の思考加速百倍を発動して代替案を考える。
因みに思考加速百倍を発動すると、目に映る景色も百倍スローモーションに見える。
まさか数百万年生きてきた中で、僅か数十分の暇つぶしの方法を全力で考えさせられる日が来ようとは……。
しかし、こうやって何か新しい事を生み出そうと思考を凝らすのは楽しい事だ。
寧ろ、この思考だけで数十分の暇を潰せるかもしれないな……ん?
「……思い付いた」
「早っ! それで、何を思いついたのかしら?」
俺がそう呟くと、その一言にフィリアは興味津々といった表情で反応した。
因みに思考時間は現実時間で僅か一秒未満である。
「俺の手に銅貨があるだろ? 今からこれに注目して貰おう」
俺はポケットに手を入れて一枚の銅貨を取り出し、それをフィリアに見せつつ言った。
「……マジックでもやるつもりかしら? まぁ良いわ。見せて貰おうじゃない」
まぁ、マジックと言えばマジックだ。
内容は完全に俺のオリジナルだが。
つまらない余興を見せられる前であるかの様な口ぶりでフィリアは言うが、やはり表情は興味津々という様子であった。
目線は俺に言われた通りに銅貨に集中しているしな。
「じゃあ始めるぞ。よく注目しておけよ?」
俺は銅貨を指で上方に一メートルほど高く弾き、曲線を描いて落下してきた銅貨をどちらの手で取ったか判らないように、両手を上下に重ねつつ掴み取った。
「じゃあ、どっちの手に入っているかを当ててくれ」
思考加速百倍を発動し、落下する銅貨をスローモーションで見ながら掴み取ったので、どちらの手に入っているかは全くもってフィリアには分からないだろう。
ん? 「それは反則だ」って?
こういうゲームは難易度を上げるほど面白いではないか。
流石に大人気なく難易度を上げすぎたとは思うが……。
「うーん……分からないわね。勘だけれど、たぶん右手かしら?」
フィリアは割と長く悩んで答えた。
因みに今のフィリアの目は俺の両手に釘付けである。
しかし、どちらに回答しようと、結局はその思考は全く意味を為さないのだ。
「残念だな。正解は『どちらの手にも入っていない』だ」
そう言いつつ、俺は両の手を広げてフィリアに見せる。
どちらの手にも、銅貨は乗せられていない。
「えっ!? 地面に落としたという訳でも無いわよね……どういうトリックなの?」
くだらない余興を見せられる前の様な態度は何処へやら、フィリアは驚きを顕にしながら今のマジックの仕組みについて興味津々に聞いてくる。
「そのトリックを考えてもらうという暇つぶしだ」
そう、俺が思い付いた暇つぶしはただの「思考」。
何かの物事を考えるのに集中している内に時間の概念を忘れさせるというものだ。
「うっ……確かに暇つぶしにはなりそうだけれど、分からないわね……」
うーん……という唸り声を漏らしつつ、全力で思考するフィリアを傍観していると、かなりの長考を経て返答される。
「……もう駄目、わからないわ。悔しいけれど、種明かしして頂戴」
結局答えに辿り着けなかったフィリアは、再びため息をつきながらそう言った。
まぁ、いきなり見せられてもこのトリックは答えられないだろうな。
これ以上考えさせても無駄であろうと思い、俺は種明かしをする。
「収納スキルに銅貨を転移させただけだ。簡単なトリックだろ?」
そう、答えは実に単純明快。
収納スキルを発動させて異空間に転移させただけである。
ポケットから銅貨を取り出す時にも使用していたのだが……。
しかし、その種明かしを聞いてもフィリアは納得しない様子で、ポカンと口を開けて少しの間静止した。
「そ、そんなのマジックじゃ無いわよ! つい真面目に考えちゃったじゃない!」
やがて静止状態が解除されると同時に、赤面しながらキッ、と俺を睨みつけて抗議する。
あれ……? これはマジックではないのか?
確かコインを消したり、相手の引いたトランプのカードのマークと数字を言い当てたりするのがマジックでは無いのか?
マジックにスキルを使ってはいけないなんてルール聞いたこと無いぞ?
まぁ細かいルールは知らないのだし、俺の勘違いなら仕方ない。
期待させておいて、その期待を裏切るというのも大人気なかっただろうか。
「すまない、ただ……良い暇つぶしにはなっただろう?」
取り敢えず笑って誤魔化してみる。
「うーん……まぁ、確かにそうね。トリックの種を考えるのも楽しかったし、今のはノーカンにしてあげるわ」
フィリアは眉を顰めてため息をつきながらも、怒りを抑えた様だ。
意外にも笑顔で何とか解決する事が出来たな。
しかし、これからは使用前に念入りに考えてスキルを使用するとしよう。
どれ程便利な道具や能力でも、使わない方が良い場面もあるのだし。
しかし、こんな簡単な事で暇を潰せるのなら幾らでも新しいアイデアが生み出せそうだ。
次の代替案は何にしようか……。
そんな事を考えていると、俺とフィリアの背後から突然低く野太い、頭に響く程の大声が聞こえた。
「よう、二人とも楽しそうな話してるな!」
「きゃっ!」
声の聞こえた背後を振り返ると、合格者の一人であるグリル=アルマーニが、この早朝から爽やかな笑顔をこちらに向けていた。
しかし、フィリアの方はその笑顔を確認する前に、突然掛けられた声に驚きの表情を浮かべつつ叫び声を上げた。
知り合いとはいえ、筋骨隆々の巨漢に突然背後から大声を出されれば、普通の少女なら恐怖するだろう。
俺は事前に足音に気づいていたので、特に驚きはしなかった。
流石に突然大声を出されるとは思わなかったが。
「あ……グリルさんね。いきなり背後から大声出すからびっくりしちゃったわ……」
フィリアは情けなくも驚き、大きな声を出してしまった事を恥ずかしがり、赤面しながらグリルを見て言った。
「はっはっは! 悪い悪い。しかしこれ如きで驚くたぁ、実技試験で俺を負かしたお嬢ちゃんには見えねぇな!」
またも大声でグリルは笑いながら言った。
早朝から騒がしい奴だ。
見ているだけでこちらが疲れてくるので、俺は無意識にため息をついた。
「しっかし、二人とも来るの早いな! 何時から来てたんだ?」
「もう……五月蝿い人ね。私達が来たのは……あれ? そういえば、どれぐらい前だったかしら?」
グリルの問いかけにフィリアは答えようとするが、余りにトリックの思考に集中し過ぎて時間の感覚を忘れてしまった様だ。
仕方ない、俺が代わりに答えよう。
「俺達が来たのは十五分前だ。
到着は俺の方がほんの少し早かったが、フィリアはその後すぐに来たからあまり差は無かったな」
「よく分刻みで判るわね……それもスキルの効果なのかしら?」
真顔で平然と言った俺に、感心した様子でフィリアは言った。
「いや、体内時計だ。分刻みまでなら正確な時間は何時でも把握できる」
「えっ……凄いわね。地味に欲しい能力じゃない」
凄い……というのは褒めているのだろうか。
普通に生活していて身についた能力なので、あまり自分では誇れる能力でも何でもない下らないものだと思っているのだが。
まぁ、それでも下手なスキルよりは便利な能力だろう。
身につけておいて損はしないからな。
「へぇ、凄えな。因みに今の時間は正確に分かるのか?」
グリルは半信半疑なのか、俺を試すように言った。
「六時四十五時分だな。集合時間は七時半だからあと四十五分後だ」
「まじで判るのかよ……」
文字通り、俺は正確に時間を答えた。
即行で迷いなく回答を返された事に、グリルは驚愕して口を開けている。
今は確認する術は無いが、今の回答に間違いは無いという自信はある。
「まぁそれが正確だってんなら、まだまだ時間はあるって事だな」
グリルが何かを思い付いたと言わんばかりにニヤリ、と薄い笑みを浮かべて俺の方を見た。
「実技試験の終了後から、お前とは一回戦ってみたかったんだよ、クロト=ルミナ!」
グリルは笑顔を絶やさずそう言い、俺を勢いよく人差し指で指差して試合を挑んで来た。
しかし……
「それは止めた方が良いんじゃないかしら?」
俺が断ろうとする前に、フィリアが代わって答えた。
「あぁ? 何でだよ。まさか調子が悪いとかか……?」
グリルは笑顔を止め、今度は不満そうにしかめっ面を見せながら言った。
「いや、寧ろ絶好調なぐらいよ。今のクロトはステータスが反則級なのよ」
「あぁ? ステータスなら俺だってあの試合で結構上昇して……」
淡々と答えたフィリアに対して、対戦の中断に納得出来ないグリルはフィリアの回答に反論すべく、自らのステータスを明かそうとする。
しかし、フィリアが即行で放った台詞が、グリルの台詞を抑止した。
「レベルは260、通常能力が九つ、固有能力が四つの相手に勝てるのかしら?」
「なっ……」
フィリアがそう言うと、グリルは顔面蒼白になってまたも口を大きく開いたまま静止した。
あまりステータスを勝手に公表されるのは困るが……まぁ、この場合はそれが一番手っ取り早いか。
「嘘だろ!? そりゃSランクの冒険者並のステータスじゃねぇか!!」
数秒間経ち、静止状態が解除されたグリルは先程までと変わらぬ大声でそう言った。
「嘘じゃない。事実だ」
取り敢えずこれ以上追求されて、その度に大声を出されるのも迷惑なので適当に素っ気なく返事を返して質問の隙を与えない様にした。
「お、おぅ……平然と言ってくれるなよ。他にもツッコミたい所はあったけど、なんかもうどうでも良くなったぜ……」
先程までのテンションは何処へやら、急に熱が冷めた様にグリルはため息をついて言った。
「対戦は無理だな、ステータスを聞いただけでも勝てる気がしねぇ。ってか、何時から嬢ちゃんはコイツをクロトって呼ぶようになったんだ?」
グリルは俺を指差し、しかし目線はフィリアに合わせて疑問の表情で言った。
「つ……ついさっきよ。お互い名前で呼び合う方が色々と楽じゃないの」
無意識で俺を名前で呼んでいたのに気付いていなかったのか、それを指摘されたフィリアはまたも恥ずかしそうに赤面して答えた。
「まぁ確かにそうだな、じゃあ二人とも俺の事はグリルって呼んでくれ。俺も二のことは呼び捨てで良いか?」
グリルは笑顔で言いつつ、胸を張って親指で自分の顔を指差した。
テンションが高いだけでなく、自己主張も激しい奴だな。
「あぁ、俺の事はクロトで構わない。宜しくな、グリル」
俺は薄く笑顔を作って言った。
高すぎるテンションを抑えて貰うようにも言おうと思ったが、これがグリルのキャラなのだろうと思い諦める事にした。
「おう! 宜しくな、クロト!」
グリルは此処に来て俺達に話しかけた時と同じように爽やかな笑顔を見せながら右手を差し出して握手を求めた。
まぁ騒がしいのは迷惑だが、性格は良い奴なのだろう。
俺は差し出された手を握り、握手を交わした。
「……手が小せぇな、お前」
俺がグリルの手を握った瞬間、グリルはフッ、と鼻で笑うように小馬鹿にするような笑みを浮かべて言った。
確かにグリルの手は普通の成人男性の手よりも一回り大きく、対して俺の手は普通の成人男性の手よりも一回り小さいから余計に小さく見えてしまうのも一理あるが……。
「いや、お前の手が大きいだけだろう」
俺は真顔で返そうとしたが、少し不愉快な表情が表れてしまったのが自覚出来た。
……良い奴、というのは訂正すべきだろうか。
「はっはっは、悪い悪い。で、お嬢ちゃんの方はどうだい?」
「私もフィリアで良いわ。でも、歳も離れているからやっぱり私はグリルさんって呼ばせて貰うわ」
グリルは然程気にしていない様子で適当に謝り、そのままフィリアの方に問い掛け、フィリアはその問い掛けに笑顔で答えた。
その態度は少し腹立たしいものだったが、俺もそれほど気にしていないので突っ込まない様にした。
グリルの歳は見た目は三十代前半という程で、確かに歳は離れている様に見えるが……実年齢は圧倒的に俺の方が上だというのは突っ込まなくて良いだろうな。
精神的な判断なのだし、見た目が若ければ良いのだ。
「そうかい、まぁ呼び方は自由で良いけどな。
じゃあ俺もやっぱりフィリア嬢ちゃんって呼ばせて貰おうかねぇ」
グリルは少し残念そうな笑顔で言った。
「うーん……できれば『嬢ちゃん』って言うのもやめて欲しいんだけど……まぁこっちが好きに呼ばせて貰っている以上は文句は言えないし、それで良いわ。宜しくね、グリルさん」
フィリアは最初は少し不快そうな顔で言っていたが、後半はため息をつきつつも笑顔で言った。
「おう、宜しくな!」
グリルはまた爽やかな笑顔を浮かべてフィリアに握手を求める。
「えぇ、宜しく」
フィリアは笑顔を崩さぬままその手を握り、握手を交わした。
しかし、華奢な少女と筋骨隆々の男が握手をする光景は、第三者の目線から見ると中々に奇怪なものだ。
「フィリア嬢ちゃんも手が小せぇけど、クロトも大差無いんじゃあねえか?」
先程謝ったばかりだと言うのに、フィリアの手と俺の手の大きさを比較して、またも小馬鹿にするように鼻で笑った。
「……放っておけ」
ため息をつきながら俺が答えると、グリルは俺の冷たい態度に参った様子で、後頭部を掻きながら申し訳なさそうに気まずい笑顔で謝った。
「悪い悪い、そう拗ねるなって。ところで、さっきからどれぐらい経ってるんだ?」
グリルはまた軽く謝ると、話題を変えて俺に時間を尋ねた。
「……ふむ、そろそろ橋が降ろされる頃だな」
と、俺がグリルの軽率な態度に対するため息をつきながら答えて城壁の跳ね橋を見た瞬間、その跳ね橋はジャラジャラという鎖の音が聞こえると共に降ろされた。
「凄ぇ、まるで見計らったかの様なタイミングだな……」
グリルは奇跡的なタイミングにポカンと口を開けている。
やがて跳ね橋が完全に降ろされると、城壁の向こうから鎧を着て腰に剣を携えた、体格のいい二人の門番兵らしき人物が横に並んで現れた。
頭には兜を被っているため、二の顔は見えない。
その門番兵らは直ぐにこちらに気づき、俺達から見て左側の兵士が声を掛ける。
「む? 貴様らは昨日の試験の合格者達か。こんな早朝から集合とは関心だな。王城内にある、騎士団用の作戦会議室に行って待っていろ」
「承知しました。ご説明ありがとうございます」
他の二人よりも早く、俺は真面目な表情を作り一礼して答えた。
自分で言うのもなんだが……魔界の最高権力者たる魔王であった俺でも、今の自分の立場を理解して頭を下げる事ぐらいはする。
当然ながら、普通の人間として転生した今、この世界で転生前の権力を振りかざす事は出来ないのだ。
と言うか魔王だった頃でも、俺に非があった時は部下に対しても普通に謝っていたからな。
そして俺が二人の兵士に一礼するのを見て、グリルとフィリアは急いで同時に礼を言いつつ頭を下げる。
「「あ、ありがとうございます!」」
「うむ、まだ集合時間まで時間はあるから作戦室でゆっくり待機していると良いだろう」
左側の兵士は礼を言う俺達に頷き、快く城壁の門を通してくれた。
俺達は橋を渡り、門番兵に言われた通りに兵士訓練所の作戦会議室に向かった。
途中、グリルとフィリアは訓練所の場所までは分かったが、訓練所内部の作戦会議室の場所までは分からなかったらしく、結局は訓練所の内部構造を覚えていた俺が二人を案内する形になっていた。
「着いたぞ、ここが作戦会議室だ」
俺達が到着したのは、主塔の二階にある作戦会議室の前だった。
建物内部は中々に複雑な構造となっており、初見で望みの部屋に素早く辿り着くのは困難だろう。
最も、俺達は入団試験の際に休憩室から筆記試験の会場へと向かう途中で、この作戦会議室の前は通ったはずなのだが……
「いやぁ、面目無い。クロトのお陰で助かったぜ」
「そうね……申し訳ないわ」
作戦会議室まで辿り着いて早々に、後頭部を掻きながらグリルは言い、フィリアも申し訳なさそうにグリルに同調する。
「全く、昨日来たばかりだろうに。
今の内にしっかりと内部構造を把握しておかないと、後々になって困るぞ?」
俺は呆れた様に二人に言った。
作戦会議室までの案内を頼まれたのは別に気にしていないが、今のように先を読んで物事を確認しておくといった事を心掛けて行かなければいけないという事を二人に注意しておく必要性は感じているからだ。
……かく言う俺も、数日前はミキの家で失態を演じてしまったのだが。
まぁ、時には自分の事は棚に上げてまで発言しなければならない場合もあるのだ。
「まぁ、俺も運良く内部構造を把握していただけだから二人が覚えていないのも仕方ないだろう。
それよりも、まだ集合時間まで余裕はあるのだし、ゆっくり待つとしよう」
俺は二人にそう言うと、作戦会議室の扉を開けて室内を見渡した。
石造りの殺風景な部屋の壁には騎士団の旗が掛けられており、中央には燭台を乗せた巨大な木造の机が二つ隣接して置かれ、その周りには十一の椅子が置かれている。
……丁度、合格者の人数と同じだな。
入団式と言うからには、兵士等の騎士団の関係者が来るのだろうが、その者達は座らないのだろうか。
「予想以上にシンプルな部屋だ」
俺が一言感想を述べると、他の二人も部屋の内部を伺うべく、俺を部屋に押し入れつつ部屋の中に入った。
「本当だな、机と椅子以外には特に大したもん無ぇな」
「……殺風景ね、本当に最低限度の物しか置かれて無いみたい」
二人はシンプル過ぎる部屋の内部に、先ほどの興味が失せてしまった様子だ。
だが、俺は王城内にある殺風景でシンプルな部屋という共通点から、魔王城にある俺の部屋を思い出していた。
……まぁ、どうでも良い事か。
「折角だから、立ちっぱなしなのも疲れるし椅子に座って待ちましょう」
フィリアはそう言うと、机の周りに置かれた椅子の中でも、旗が掛けられた壁から一番遠い反対側に置かれた席に座って腰掛けた。
疲れる、と言うか既に疲れているのでは無いのか……? 朝に出会った時も眠たそうだったからな。
まぁ、確かに折角椅子が置かれているのだし、立っているよりは座った方が楽だろう。
「そうだな、俺も座るとするか」
俺はそう言いつつ、フィリアの斜め右隣の席に座った。
「ここは俺も空気を読むとしますかねぇ」
グリルは冗談混じりに言いつつ、俺たち同様、椅子に座って腰掛けた。
......................................................
そして俺達は雑談を交わしつつ、集合時間を待つ間にも次々と他の合格者が集合した。
集合時間の十分前には合格者の全員が集合し、現在は用意された椅子全てに人が座って合格者同士が雑談を交わしている状態となっている。
「……ん? そういえば、そろそろ時間になるのではないか?」
雑談を中断し、唐突にその台詞を言ったのは俺達三人の次に集合が早かった、エドワード=クラウスだった。
他の皆よりもいち早く敏感に時間の経過に反応し、現在時刻が気になった様だ。
しかし、この部屋には時計は無く、この場に居る者の体内時計に時間の把握を任せるしか無かった。
「……現在は七時二十五分だ。集合時間の七時半まで時間が無いな」
皆が自らの体内時計の正確さに自身が無く、首を傾げてエドワードの質問に対して「判らない」というジェスチャーを送る中、俺は皆に聞こえる様にハッキリと現在時刻を断言した。
そんな俺の迷いない回答に対して、皆一様に驚いた表情となる。
時計も見ずに自信満々に言い切ったのだから、当然の反応だろう。
「……とにかく、もうそんな時刻になるのなら、そろそろ雑談を止めて緊張感を持った方が良いだろうな」
質問をした本人であり、突っ込みを入れなかった数人の冷静な者の内の一人、エドワードは一度咳をして全員の注目を集めた後、その場の全員に緊張感を持たせる為の注意を喚起した。
エドワードは団体のまとめ役に向いている気質なのだろうか。
注意を促された合格者達は、雑談を中断して姿勢を正し、入団式の開始に備えて緊張感を抱いた様子だ。
俺達三人はエドワードが喚起する前から既に緊張感を持った姿勢を取っていたのだが。
そして全員が姿勢を正した瞬間、門番兵と同じ様に鎧を着た四人の兵士が、作戦会議室の扉を開けて入室した。
その兵士のうち一人だけはデザインが他の三人と異なる鎧を着ており、胸部が膨らんだ作りとなっている。
どう見ても女性用のものであった。
更にその四人の兵士の入室とは少し遅れて、一人の人物――騎士団長が、その猛々しい姿を見せる。
騎士団長は部屋に集合した合格者達を一見すると、声は大きいが落ち着いた口調で話し始めた。
「……全員集合した様だな。では、これより入団式を開始する!」
騎士団長の呼び掛けに、皆の視線が騎士団長に集まり、より一層緊張感が増した表情となった。
「まず、貴様らが入団試験に合格した事を心から祝おう。その実力を、騎士団の一員として遺憾無く発揮して貰いたい」
騎士団長の言葉に、俺を含めた合格者全員が覇気のある「はい!」という答えを返す。
「うむ、良い返事だ。しかし、この騎士団での返事は『了解』が基本となる。最初は違和感があるかも知れないが、直ぐに慣れるだろう」
騎士団長は満足気に頷きながら言い、話を続ける。
「では次に、貴様らの任務について話そう。貴様ら新兵には今日から暫くの期間、この四名の兵士の指導の下で訓練を行う。その為に、今から貴様らがこれから居住する部屋のメンバーを分ける!」
主塔の最上階を除いた二階より上のフロアは兵士達の居住空間であり、細かく分けられた部屋毎に数人の兵士が居住する形となっている。
騎士団長の言う、居住する部屋というのはその部屋の事だろう。
「基本的には、一部屋に三名で分かれてもらう所だが……」
騎士団長は一部屋の人数を告げると、台詞の途中で何やら深刻な表情を浮かべ、言葉を詰まらせた。
何か問題でもあるのだろうか。
一部屋で三人とは言うが、合格者の人数は十一人。
と言う事は、一部屋だけは二名で居住する事になる。
騎士団長が深刻な表情をしているのは、その事についてだろうか。
「……人数の都合上、一部屋のみ二名で居住して貰うことになった。クロト=ルミナ、そしてフィリア=ランベリーの二名だ」
騎士団長は俺とフィリアの方を見て、気まずそうな表情で告げた。
「「……えっ!?」」
そして騎士団長が告げたその言葉に、俺とフィリアは声を揃えて言った。
……騎士団の一員として勤めていくこれからの長い期間を、男女一名ずつの組み合わせで一部屋に住まわせる気か?
数日前まではミキという少女の家に泊めて貰っていたが、あれは数日間の話で、一つの部屋に限定して生活するものでは無かった。
しかし今回はたった一部屋という閉鎖的な空間を数日間どころか、何ヶ月、何年もの期間を共同で生活する事になるのだ。
俺も流石に声を出して驚かずにはいられなかった。
「ん? 二人とも何を驚いている? 女性二人で住まわせるこの組み合わせが一番合理的であろう」
エドワードは俺とフィリアが驚愕している理由を理解出来ていない様子で言った。
と言うか、今の台詞……まさかエドワードは俺を女性と勘違いしているのか?
しかしフィリアを除く他の合格者もエドワード同様、俺とフィリアが何故驚愕しているのかを理解出来ていない様子で首を傾げていた。
……どうやら、俺を女性と勘違いしているのはエドワードだけでは無いようだ。
確かに俺は転生前から中性的な顔つきをしており、他の悪魔達から女性だと勘違いされる事が時々あったが……。
俺は歴とした男だ。
「……お二人とも、仲良くやっていけよ」
フィリア以外の合格者の中で唯一、先程まで俺達と会話を交わしていたグリルだけはそれを理解している様子で、哀れみの目線をこちらに送っている。
何とも余計なお世話だ。
「……女性二人とは、どういう事だ?」
俺はグリルを無視してエドワードを笑顔で睨みつつ、怒りを含んだ声音で問いかけた。
「どうした? そんな怖い表情をして……ハッ! まさか……!?」
エドワードは怒った様子を見せる俺に対して戸惑った様な表情で俺の怒りの原因を数秒間考察し、ようやく俺が女性では無いことに気づいた様子で、それに続いて他の合格者達も察した様だ。
「気付いた様だがエドワードさんよ、クロト=ルミナは男性だぜ?」
グリルが他の合格者にもハッキリと聞こえるような声でエドワードに言った。
「わ、悪かった……非礼を詫びよう」
エドワードが俺に頭を下げて謝った。
グリルの軽い謝罪とは大違いで丁寧な謝罪に、俺の怒りは治まった。
まぁ女性と勘違いされるのは既に慣れているので、怒りと言えるほどの感情の起伏は元々無かったが。
「……別にそこまで気負わなくて良い。勘違いしていたのはお前だけでは無い様だからな」
「……え?」
俺がそう言うと、エドワードは驚いた表情で他の合格者達を見渡す。
グリルとフィリアを除く合格者達は、気まずそうにエドワードと俺から視線を逸らしていた。
「と言うことは、一部屋に男女一人ずつ混合で住む、と言うことか。成程、それで二人は驚いていたのか……」
そう言いつつ、エドワードは納得した様子で頷く。
「……すまない、実は俺もこの部屋割りが騎士団上層部の会議で決定するまで、お前が男性だと気づかなかったのだ」
先程まで空気を読んで俺達の会話が終わるまで沈黙していた騎士団長が、眉間に皺を寄せつつ申し訳なさそうに俺に謝罪する。
……騎士団長まで勘違いしていたのか。
「構いません」
俺は内心でため息をつきながらも、特に気にしていないという平然とした様子を見せて答えた。
思えば、入団試験の際にもフィリアとはごく普通に会話をしていたのだし、その様子を見ていた騎士団長や他の受験者達が勘違いするのも仕方ない事か。
「納得いかない様なら、俺が上層部に話をつけて部屋の変更をする事は何とか出来るだろう。二人の意見を聞きたい」
申し訳なさそうに騎士団長は言った。
「……私は問題ありません。最初は驚きましたが、クロトなら信用できます」
俺よりも先にフィリアが答えた。
信用……と言うのは、俺がフィリアに対して性的な意味で如何わしい行動をしないだろうと言う事か。
まぁ実際、人間の少女に手出しをする様な気は毛頭無いし、そんな趣味も無い。
少なくともフィリアがそれを理解して俺を信用してくれている事に、俺は嬉しさを感じた。
人から信頼されると言うのは非常に喜ばしい事だ。
「自分も、特に問題はありません」
俺はフィリアに同意して頷きながら言った。
フィリアが問題ないと言う以上は、俺も断る理由が無いからな。
「そうか、それなら良かった。他の者は実技試験の順位の通りに三人で組んで貰おう。
グリル=アルマーニは、エドワード=クラウス、そしてウィーカー=グローリアと同室だ。貴様ら全員は、四階の隅の部屋から順位の通りに隣に居住する事になる」
つまり、一番隅の部屋に俺とフィリア、隅から2番目の部屋にエドワード達が住まうといった感じか。
部屋の内装を見るのが楽しみだな。
まぁ俺は少なくともベッド、机、椅子があれば部屋が多少狭くても文句は無いが。
「……さて、メンバーが決まった所で早速、各班ごとに行動して貰おう。一つのメンバーにつき、この四人の兵士のうち一人が指導を行う。では各自解散し、自分の班に当てられた兵士の支持に従うように。ただ、クロト=ルミナとフィリア=ランベリーには話がある為、二人はここで残ってくれ。では以上、解散!!」
騎士団長が大声で解散の命令を告げると、俺とフィリア以外の合格者全員が立ち上がり、女性専用の鎧を身につけた兵士を除いた三人の兵士と共に退室した。
グリルは別れ際に「じゃあな」と言いつつも、俺とフィリアが残された事に疑問を抱いた様子で首を傾げていた。
「……よし、他の者は全員退出したな」
そして騎士団長は俺とフィリア以外の全員の合格者が退出するのを見届けてから、俺達に声を掛けた。
「それで、話とは何ですか?」
フィリアが早速、騎士団長に質問をする。
「うむ、お前達二人は筆記試験において、魔法に関する知識が十分にある事が証明された。知っているとは思うが、騎士団は新しい兵力として『魔法剣士』の育成を考えている。そこで、お前達は騎士団の中でも唯一の『魔法剣士』である彼女が指導する事になった」
あぁ、そういう話か。
騎士団が魔法を戦力として取り入れているのは知っていたが、魔法剣士というのが存在するのは初めて知ったな。
「騎士団長の仰る通り、私が『魔法剣士』のハイネ=レイティアよ。二人とも宜しくね」
ハイネ=レイティアと名乗ったその兵士は兜を脱ぎ、俺達に顔を見せて笑顔で挨拶をした。
歳は二十代前半だろうか。赤色の髪に緑色の目を持つ、花顔柳腰の女性だ。
騎士の一人だというのに白く美しい肌を持ち、鎧の上からでも分かる程にバランスのとれた肉体の曲線美。
騎士団の紅一点と言われれば、誰もが納得するであろう容姿である。
「……宜しくお願いします」
「よ、宜しくお願いします!」
あまりにも予想外な人物像だったため、俺もフィリアも腰の引けた挨拶になってしまう。
「うんうん、二人とも若々しくて良いわね。フィリアちゃんに、クロトちゃん……失礼、クロト君だったわね。性格も真面目そうだし、これは教えがいがありそうね」
俺達の挨拶の仕方に関心した様子でハイネは頷く。
「クロトちゃん……フフッ……」
俺が上司となる兵士の人にも性別を間違われた事に、フィリアは赤面して笑いを堪えていた。
いや、もう気にしない方が良いのだろうが……何だか精神的に来るものがあるな。
「ご、ごめんね。本当に女性っぽい顔つきだったから……」
「……その謝り方は逆効果だろうな」
俺は無意識に不機嫌そうな表情をしていたのか、それに気付いたハイネは申し訳なさそうに謝るが、それがほぼ謝罪になっていない事を呆れた顔で騎士団長が伝える。
「いえ、慣れてますので」
俺が明らかに怒りを堪えている事が判る様な、拗ねた表情と低いトーンの声で言うと、ハイネはその俺の様子を見て「ごめんごめん」と苦笑いで俺の肩を叩きながら機嫌を取るように謝った。
その様子を見ていた騎士団長は、続け様に話を進める。
「それで話の続きだが、お前達には今日から暫くの間、彼女の指導の下で訓練を受けてもらう事になる。
だが他のメンバーと違って、お前達の訓練には『魔法』の扱いもいずれ内容に取り入れられる。
そこで、二人にはこの国唯一の『魔法学校』で魔法の習得に励んで貰いたい」
「……え? 魔法学校に通わなくても、レイティアさんに魔法を教えて頂ければ十分では無いのですか?」
フィリアはまたも騎士団長に疑問を問いかけた。
「実はね、私も魔法学校に通って魔法を習得したとは言えども、私は簡単な『武装強化』とか簡単な魔法ぐらいしか使えないの。
……あ、武器の切れ味を増したり、防具の耐久力を上げたりする魔法の事ね。
理屈とか理論っぽいものはさっぱりだったから、人に教えられる段階じゃあないのよ。
二人とも私が入団試験を受けた時よりも魔法理論の点数が高かったし、その二人にはちゃんとした魔法が使えるようにしっかりと教養を身につけて欲しいの」
……つまり、人に魔法を教える程の実力は無いと言うことか。
武装強化の魔法というのは武器や防具に魔力を纏わせれば良いだけなので、しっかりした理論を理解しなくても使える程度の難易度だからな。
「でも、確か王城内には魔道士の方も居らっしゃるという話を聞いたのですが、その方々に教えて頂ければ……」
ハイネの返答に、フィリアはまたも質問を行った。
「現在、魔道士は人手が足りていない。戦場での戦力として動いて貰う他、魔法道具の研究等を任せているため、これ以上の仕事を任せるのは魔導師達の負担が大き過ぎる」
魔道士が騎士団にいるというのも初耳だったが、騎士団長の説明には容易に納得できた。
そもそも、魔道士達が人に魔法を教えられる余裕を持っているのなら、ハイネは魔導師達にもっとマトモな魔法を使える様に教えて貰っているはずだ。
「……成程、わかりました。ご説明ありがとうございます」
フィリアは質問に返答した二人に一礼しつつ言った。
俺は魔法学校で習うような内容は既にカバーしているので、人間の身体に流れる魔力の理屈さえ理解出来れば大抵の魔法はすぐ使える様になると思うが……ハイネにはそれを教えて貰うことも出来なさそうだな。
まぁ、魔法学校に通うというのは入団前からの予定通りだし、焦らずゆっくりと魔法を身につけていけば良いか。
「お前達が魔法学校に入学してもらうのは、魔法学校が新学期を迎える来月からだ。その方が学校側としても面倒な作業や調整が少なくて済むからな。
二人は筆記試験の結果からの学力推薦で入学させる為、入学試験を受ける必要は無いし、学費等の費用も気にしなくて良いぞ」
なるほど、高難易度である騎士団の筆記試験の合格者という事実だけでも推薦理由になるからな。
寧ろ、騎士団からのお墨付きという特待生ぐらいの優遇があっても可笑しくない程だろう。
「わかりました」
俺は納得した様に頷きながら言った。
「うむ、理解が早くて助かる」
騎士団長は満足した笑顔で、俺を褒めるように言った。
「では説明が終わった所で、他の者達同様に訓練に移って貰おう。お前達の上官ハイネ=レイティアの支持に従って行動する様に。では以上、解散!!」
「「「了解!」」」
騎士団長が大声で解散命令を出し、ハイネを含めた俺達三人も大声で返答した。
「それじゃあ、訓練に移るから部屋を移動しましょう。訓練はこの主塔の外に出て外郭で行うから、私に着いてきてね」
さっそく指示を出すハイネの言葉に頷き、俺とフィリアはその背中を追ってゆく。
ようやく魔法学校への入学を確定させる事が出来ました。
入学理由をあれこれ考えている内に混乱してしまい、おかしな点等があるかも知れません。
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