10話:セインガルド王城
少し文書が短くなりましたが、キリも良いしこれ以上書くと逆に長くなりそうなので早めの投稿です!
〜人間界〜
ミキの家で眠りにつき、朝を迎えた。
リビングの時計を見ると、現在の時間は午前7時頃を指していた。
昨日は早めに寝た上、部屋のカーテンを締めているので、昨日や一昨日の様な目覚めの悪さとは違って今日は気分の良い目覚めだ。
リビングには俺の他に人の気配は無い。
という事は、ミキはまだ自分の部屋で寝ているのかもしれない。
健康的な人間の生活から考えると、この時間に起きるのが丁度良いぐらいだろう。
あまり長く寝すぎるのも良くないしな。
お節介だが、特にミキの様な若い人間が今の内に生活習慣の乱れが定着するのは良くない。
遅い時間に起床する前に起こすとしよう。
そう考えて、俺は二階にあるミキの部屋へと移動した。
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リビングから移動し、階段を上がってすぐ側の位置にあるミキの部屋の前に俺は立っている。
移動中に歩いた廊下にも人の気配は無かったので、やはりミキはこの部屋で寝ているのだろう。
「おーい、朝になったぞ。まだ少し早いけどそろそろ起き……」
そう言いつつ、ガチャ、という音を立てて俺はミキの部屋へ入る。
だが、ドアを開けて部屋の中の様子を見た瞬間、俺は一瞬だけ硬直した。
ドアを開けて目に映ったミキは、ベッドの上で寝ている……訳では無く、着替えの途中だった。
しかもタイミングが悪く、昨日着ていた服を脱ごうとしている途中だった。
「ええっ!? く、クロトさん!? ノックぐらいして下さいよ!」
突然の出来事に驚いたミキが慌てて脱ごうとしていた服を着なおした。
その瞬間、俺の硬直が解けて再び思考が始まり、咄嗟に事の重大さを理解する。
「す……すまない!また後で!」
俺は慌ててドアを締め、ミキが着替え終わるるのを待つのであった。
何故俺はノックをするのを忘れていたんだ……。
それに、なぜ声をかけるのをドアを開ける前でやらなかったのだろうか。
流石に迂闊だった。後で何と言われるだろうか……。
せめて軽蔑だけはやめて欲しい。まだこの家から追い出される方が幾分とマシだ。
いや、それ以前にまず俺の方から謝らなければな。
それにしても、朝起きてまず着替えをする習慣があるとは思わなかった。
俺は人間界に来てからは朝食の後に着替えを行っているが、流石に誰もが同じ生活を送っているわけが無いよな。
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ミキの着替えが終わり、部屋から出てきてから俺はできる限りの謝罪をした。
あらゆる咎めは覚悟していたのだが、ミキの所持している固有スキルのお陰であらぬ疑いをかけられる事も無く、何とか咎め無しで許して貰えた。
怒られるかと思って覚悟を決めた俺にミキが言った言葉は、
「もう……下着等を見られた訳では無いので今回は許しますが、次から部屋に入る時はノックをして下さいね」
ぐらいのものだった。
あとほんの少し遅いタイミングでドアを開けていたら、現在のミキの態度はどうなっていたか解からなかったな。
ともかく、事が軽く済んで良かったと思う。
今回の様な不注意が二度と無いように、今後の戒めにすべきだろう。
事も済んだところで、昨日と同じ様に雑談を交えつつ魔法理論を教え、一日を過ごした。
朝の出来事もすっかり忘れてくれている様で、俺に対する態度も昨日と変わらなかった。
ミキには悪いが、実はドアを開けた時の光景がまだハッキリと頭の中にある。
彼女の為にも早く忘れてしまおうと思ったのだが、印象が強すぎて中々頭から離れてくれない。
そもそも俺は強い印象を与えられたものは強く記憶してしまうのだ。
人間界に転生してから初めて見た景色も、セインガルド王国の内部を初めて見た時の景色も、魔法学校の見た目も、昨日の夕飯の味や香りも鮮明に思い出せるからな。
多分、今朝の出来事はしばらくは忘れられないと思う。
彼女に対する罪悪感が半端ではない……。
今朝の出来事を反省しつつ、一日が過ぎていくのであった。
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翌朝、昨日と同じくリビングに敷布団を敷いて寝ていた俺が目を覚ます。
時刻は午前七時を少し過ぎていた。
今日は魔法学校の登校日だとミキが言っていたな。
ミキの不在中にずっと家にいるのも悪いし、今日は入団試験の前日なのでミキが登校から帰ってくるまでは、入団試験の会場であるセインガルド王宮の下見に行くことを伝えてある。
下見とは言え、入団試験の日まで王城の関係者以外はは王城の内部に入れないので、王城の周りを見て回るぐらいになると思う。
下見が完了して暇になったら、国内を適当に巡回するつもりだ。
ミキには余裕を持って登校させた方が良いだろうし、ひとまずミキを起こすとするか。
そう考えて俺はミキの部屋に移動する。
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ミキの部屋の前に来て、今度こそは忘れずドアをノックする。
流石に昨日と同じ様に迂闊な真似はしない。
また不用心にドアを開けて同じ事があっても困るしな……。
ノックをしてから数秒間待ったが返事が無い。まだ寝ているのだろう。
「入るぞ」
と言ってから俺はドアを開ける。
今回はミキは着替えの途中では無く、すやすやと寝息を立ててベッドで眠っていた。
良い夢でも見ているのか、幸せそうな表情をしている。
折角の良い夢を見ている途中で起こすのが少し申し訳無い気持ちになりながら、ミキを起こす。
「今日は学校だろう? もう朝だぞ」
「う〜ん……もう少し寝かせて……」
どうやら寝ぼけているのか、俺を親と勘違いしている様だ。
休日は早起きしていた筈だが……基本的に人間の平日は仕事や学校で忙しいので、気が重くなってしまい、寧ろ少しでも身体を休ませたいという欲求が働いてしまうのだろう。
朝起きるのが辛いという気持ちはわかる。
だが、何にせよ今起きれずに遅刻でもすればもっと辛い現実が待っているのだ。
それから何度も声をかけて、数分程時間をかけてようやくミキを起き上がらせるまでに至った。
「す、すみません。お手数をおかけしました……」
「いや、別に構わないさ。……おっと、寝癖がついてるぞ?」
ミキの寝癖の位置を、自分の頭部を指さして指示する。
「えっ!? あっ、本当だ……。あれ? 櫛はどこに置きましたっけ?」
ミキが寝癖の着いた髪を触って恥ずかしがり、慌てて櫛を探す。
俺も部屋の内部を見回し、櫛を探す。
ミキよりも早く、衣服が収納されているのであろう棚の上に櫛が置かれているのを発見した。
「棚の上にあるぞ。ほら」
ミキの身長では、棚の上に櫛があるのを確認しづらいだろうと思い、俺が櫛を取ってミキに渡した。
……何故に棚の上に置いたのだろう?
いつもそれ程までに朝が忙しいのか、寝ぼけて変な位置に置いてしまったのか。
まぁいいか。
「あっ、ありがとうございます。朝からすみません……すぐに朝食の用意をしますね!」
そう言ってミキが壁に掛けてある鏡で自分の寝癖を確認しながら急いで櫛で髪を整える。
「いや、今日は学校で大変だろうし、台所を借りて良ければ俺が朝食を作るよ。今も大分忙しそうだし、その間に登校の用意を済ませてくれ」
と言うか、どうせ暇なので自分の味覚でどれ程の料理が出来るかを試してみたかった。
正直に言うと、料理を作るのは初めてなので、不味い料理になってしまったら流石にミキに食べさせる訳にはいかないが……。
まぁ俺は大抵の事は初めてでもある程度の水準でこなせるから、最悪でも食中毒にはならないだろう。
……食中毒にかからないギリギリの食事をさせる訳にもいかないけれど。
「本当ですか!? じゃあお言葉に甘えますね。台所は好きに使って頂いて構いませんよ」
俺の腕を信用してくれて、快く台所を使わせてくれる様だ。
期待に応えられるよう、腕をかけて料理を作ろう。
まぁ腕をかけるも何も、料理自体は初心者だけど。
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それから十五分程。登校の用意を終わらせたミキが二階から降りて台所にやって来た。
ミキは昨日と同じく、学校の制服に着替えている。
台所では、丁度俺が朝食を作り終えようとしているところだった。
「わぁ……美味しそうな匂いがします! 何の料理ですか?」
台所には俺の作った料理の匂いが立ち込めており、その匂いに惹かれたミキが興味津々に聞いてきた。
「短い時間で軽く食べられて、栄養もしっかり取れるようなメニューを考えた。気に入ってくれると良いんだが……」
そう言いながら俺は調理台の上を指さした。
調理台には、既に完成した料理が載せられたいくつかの皿が置いてあった。
用意した料理の内容は、食パン二枚の間にハムやレタスを挟み込んだもの、塩や黒胡椒で味付けしたスクランブルエッグ、ヨーグルト、牛乳等だ。
リミアが人間界の食事に興味を持ってから、よく好んで食べていたメニューだ。
見よう見まねで作ったのだが、案外上手く作る事が出来たと思う。
「凄い……! 美味しそうです! クロトさんって料理も出来るんですね!」
いや……悪いが料理自体、今回が初めてだ。
何しろ魔王の頃は食事の必要が無い身体だったからな。
出来上がった料理をリビングまで持ち運び、食事の用意をする。
持ち運びはミキも手伝ってくれた。
母の手伝いで習慣が付いているのだろう。
リビングに全ての食器を並べ終わり、席についたミキは料理を口に運ぶと、すぐに驚きの表情を作った。
「美味しいです!お母さんの料理よりも美味しいかも……!?」
「おいおい、流石にそれはオーバーだろ。昨日食べたミキの料理の方がよっぽど美味しいよ」
「いえ、こんなに美味しいパンやスクランブルエッグなんて食べた事ありませんよ!
料理までこのレベルなんてクロトさん、もう完璧人間じゃないですか!」
まぁ……そりゃ何百万年も生きていれば、大抵の事は並の人間よりも上手くできるだろう。
料理は生まれてこの方、全く経験はないけれど。
もし何百万年で無く、人間の寿命の範囲でこの段階に辿りついていれば完璧人間と言えるかも知れないが。
確かに、俺の実年齢を知らない人間から見れば完璧人間にも見えるだろうな。
「そうか? まぁ気に入ってくれて良かった。
機会があればまた作るよ」
「本当ですか!? じゃあ明日の朝食もお願いして宜しいですか!?」
「ああ、今度はもっと上手くなるように工夫しよう」
「ありがとうございます!
でもこれ以上美味しくなるなんて、想像つかないです……」
苦笑いしながらミキが言う。
そういった会話を交わしつつ、料理を平らげた。
「あっ、お話していたらこんな時間に! そろそろ学校行かなきゃいけませんね」
ミキが壁に掛けてある時計を見て、少し慌てて食器を片付けようとする。
料理はもう食べ終わっていたので、俺と話している間に時間が経過していたようだ。
現在の時刻は七時四十五分。
学校からこの家までの距離は近いので登校までにまだ余裕はあるが、ミキはいつも余裕を持って登校する習慣があるらしい。
「確かにもうこんな時間か。じゃあ俺も同時に出掛けるよ」
「わかりました。学校は五時頃に終わるので、すぐに帰ってきますね」
それからミキが部屋から登校用の鞄を持ってきて学校に登校すると同時に、俺もミキの家から出発した。
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現在、俺は数十分かけてセインガルド王城の外壁の門の前まで来ている。
城門の前……正確には跳ね橋の前に二人の門番兵が立っていたが、今は城壁の内部に入るつもりは無いので特に関わるつもりは無い。
怪しい動作を見せなければ、特に向こう側から話しかけられる事も無さそうだ。
十メートル程ある城壁からは主塔らしき建物の上部が見えており、その大きさから、見えている建物はセインガルド国王が住んでいる国内最重要建築物であろう事が予想出来る。
また、見渡す限り城壁が続いており、王城自体が広大な面積である事も推測がつく。
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それから俺は城の周りを城壁沿いに歩き、王城周辺の様子を確認した。
あまりにも広大な面積を誇っているので、城壁の周りを見て回るだけでも一苦労かかる。
城壁には隅塔が八つ設けられており、城壁自体もかなり堅牢な造りになっていた。
世界最大の国なだけあって、相当に厳重な守備体制である。
下見としてある程度の情報を集めたところで、まだ昼前で時間もあるし、王国内の巡回にでも行くか。
そう考えて王城を後にしようと踵を返した瞬間、一人の少女の姿が目に映った。
そして目が合った瞬間、その少女が話しかけてきた。
「ねえ、貴方、明日の入団試験の参加者?」
見た目で言えば歳はミキと同じか、一歳下ぐらいだった。
身長もミキと同じぐらいだ。
少女は長い金髪の髪を二つに縛っており、服装は上着が長袖のブラウスに、下はズボンではなくスカートであり、腰には二本の剣を携えている。
容姿はミキと同じぐらい綺麗だが……口調の方はミキの方がよっぽど丁寧だな。
女性にしては、俺と同じ様に軽い見た目で動きやすそうな服を着ている。
と言うか、どう見ても普段着そのもので、戦闘向きとは言い難い服装であった。
まぁ口調の方はどうでもいい。
それよりも気になるのは、台詞の内容と、この少女の持っている二本の剣が、明日の入団試験にこの少女が参加するのであろう事を表している点だ。
入団試験に少女が参加するのが驚きだが、国内で兵士の格好をしていない者が剣を持つ理由など、入団試験への参加以外にはほぼ考えられないだろう。
「確かにそうだが……剣を持っていると言う事は君も参加者なのか?」
「えぇ。今日は王宮の下見に来たのだけど、もしかして貴方も同じ要件で来たのかしら?」
「あぁ、だがもう俺は下見を終えたところだ。
それにしても君の様な少女が参加なんて驚いたな。
なぜ入団を志願したんだ?」
確かに入団試験の参加には年齢制限は無いのだが……。
それでも目の前の少女の様に華奢な子供が参加する事はあまり例が無いだろう。
「私の一族は、幼い頃から鍛錬を積んで代々この王国を守る護衛兵に勤めているの。家族に強制されている訳じゃないけど、私もその一族として護衛兵として勤めたくて、同じ道を辿っている訳よ」
なるほど……大抵の参加者は生活の安定、騎士団への憧れ、賃金、地位、権力などの目的で志願するものだと思っていたが、目の前の少女の参加は家族の影響によるものなのか。
「家族への憧れ……か。しかし、入団試験は体格も運動神経も優れた者がこれまで何人も落ちているらしいじゃないか。君のような少女がそう簡単には入団出来ないと思うが?」
まぁ人から聞いたことを言っているだけなので、我が物顔で語る知識でも無いのだが。
「見た目で判断されては困るわ。鍛錬で実力はつけてきたから大丈夫よ」
その鍛錬と言うのが、どれ程の内容であるかによるのだが……。
まぁ明らかに兵士とは程遠い体格をしているにも関わらず入団を志願する辺り、相当の自身があるのだろう。
まさか威勢が良いだけで、試験の難易度を全く考慮していない愚者ではあるまい。
「そうか。それよりも、何故俺に声をかけたんだ?」
「いえ、同じ入団志願者という事で、声をかけておきたかったのよ。ただ……貴方みたいに貧弱そうな体格の人にも入団は難しそうだけどね」
体格についてはお互い様だろうに。
嫌味でも言いに来たのか?
まあ俺もさっきこの少女を見た目で判断した様な言葉を言ったが……。
何しろ、実力なんてものは実際の入団試験で証明すればいい話だからな。
「……まぁ本当に無理かどうかは、入団試験で証明するとしよう。代わりに君も同じように、俺に君の実力を証明してくれよ?」
俺は余裕の感情を含めた笑みを浮かべつつ言った。
「ふぅん……結構な自身ね。いいわ、じゃあ私も期待に応えてあげる。それじゃあ、また明日の入団試験を楽しみにしてるわ」
そう言いながら少女が歩いて俺の横を通り過ぎ、俺の方を見ずにバイバイ、と手を振りつつ城の方に向かっていった。
これでまた、入団試験で手を抜けない理由が一つ増えたものだ。
そう思いつつ、俺は王国の街中へと歩いて行くのであった。
……おっと、今更だが少女の名前だけでも聞いておけば良かったな。
次回は国内巡りからです。
入団試験で戦闘シーンが書ける…かな?




